2006年度ベスト

梅本洋一

映画

  • 『サラバンド』イングマール・ベルイマン
  • 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』デヴィッド・クローネンバーグ
  • 『グッドナイト&グッドバイ』ジョージ・クルーニー
  • 『百年恋歌』侯孝賢
  • 『硫黄島からの手紙』クリント・イーストウッド

今年はかなりまじめに新作につきあった。『キングズ&クイーン』や『Loft』を見たのは2005年だったので、除外した。つまり、あくまで個人的なベストなのだが、上記のようなフィルムにめぐり逢えたことは正直嬉しかった。ベルイマンの「遺作」を見たとき、映画を撮るのはこれほど簡単でこれほど難しいものかと嘆息した。ベルイマンの全作を見直したくなった。でもDVDはほとんど廃盤になっていた。
| 『AA』も『叫』も『こおろぎ』も入れたかった。『ゆれる』のような反動的に内向していくフィルムが評価されてしまうのは、ぼくらの住んでいる場所もそのような地点に向かっているからだろう。教育基本法が改定され、憲法改正を参院選のテーマにすると語る首相を持つ場所が、ぼくら住んでいるところだ。『硫黄島からの手紙』の二宮くんのように、crazyと呼ばれながらも単に生き残ることもすでに政治的な行為なのだ。ぼくは渡辺謙のように自決もしないし、「美しい国」をめざそうとも思わない。しぶとく生き残りたいだけだ。

2006年のB級グルメBest5

  • 山田ホームレストランのハンバーグ定食
  • 三幸苑のタンメン
  • バルの穴子の一本揚げ
  • グリルSのオムライス
  • キッチン パンチのエビフライ

二宮くんのように根性のないぼくは、5日間飲まず食わずで生き残ることはできない。日々の食事でとりあえず一回はおいしいものを安く食べたい。A級グルメで愛用していた下馬の「一繁」や中目黒の「Comme d'habitude」が閉店してしまった。どちらも閑散としていた店ではない。多くの客が幸福そうな顔で美味しいものを食べていた。でも何らかの理由で閉店だ。安倍政権なってから本当に良いことがない。上記に挙げたのは、戦後ずっと頑張っている店で、どこも高くない。いつ行っても同じ変わらぬ味がある。戦後民主主義を守り続けている店だ。戦後のレジームから脱却しようなどとはゆめゆめ考えていない。あえて場所は記さないが、ネット時代の利点を活かして場所を確認して欲しい。どこの店も混んでいるのは嬉しい。

小峰健二

映画

  • 1.『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』青山真治
  • 2.『BIG−1物語 王貞治』吉田喜重
  • 3.『キングス&クイーン』アルノー・デプレシャン
  • 4.『LOFT』黒沢清
  • 5.『父親たちの星条旗』&『硫黄島からの手紙』クリント・イーストウッド

「切り返し」を主題においた偉大な映画たち。
1は生者と死者の、あるいは生と死の「切り返し」音響映画。
2は不在であることを拒否するインタビュアーと時代のアイコンの鏡面化する「切り返し」ドキュメンタリー。
3は王と王女の、義父と息子の、父と娘の「切り返し」悲喜劇。
4は生者とミイラあるいは霊の、男と女の荒唐無稽な「切り返し」恋愛映画。
そして、5は二部作で試みられた壮大な「切り返し」戦争映画。
これらの映画には残酷な離反と甘美な邂逅が渦を巻いていて、すべての映画はメロドラマである、とうそぶきたくなりもする。
むろん、これらone+oneは無限に増殖していくのは言うまでもない。
one+one+one+one+one+one+one……。
映画に偏在する「切り返し」の原理に気づかされた一年。

Other

  • 2月「『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』メイキング」阿部和重
  • 7月『アイドリング・ストップ』冨永昌敬
  • 『C.M.C.』大江慎也
  • 11月「北九州ツアー」
  • 12月『ミステリアスセッティング』阿部和重

2006年は、個人的な事情でほとんど吉田喜重のフィルムしか見ていない。だから、ここ数年で最も映画を見ていない年になった。したがって常識的な選考になったが、お許しいただければと思う。それでも『BIG−1物語 王貞治』をやっと見れたことが嬉しかったし、念願の吉田監督のインタビューも実現したので、文句はない。そんな吉田喜重のことばかり考えていた2006年であったが、折りにつけ息抜きもした。7月には仙台に行き、冨永の『アイドリング・ストップ』なるプレゼン用CMとして撮られた傑作を見ることができた。また、キャンプを楽しむために行ったフジロックでは、(僕のような洟垂れ小僧が言うとお叱りをうけるかもしれないが)大江の『C.M.C.』が聴けて、それだけで大金を叩いた甲斐があったとすら思った。映画『SAD VACATION』の取材ために北九州に旅行したし、『ミステリアスセッティング』も読んだし、まあ、充分だろう。それと、『キングス&クイーン』のチラシを高円寺の駅付近で配ったことが思い出される。チラシを樋口邸に取りに行った際、堆く積まれたチラシを見て「これが札束だったらなあ」とごちた樋口氏の言葉が最も印象に残った。

田中竜輔

映画

  • 『あの彼らの出会い』ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
  • 『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』トミー・リー・ジョーンズ
  • 『LOFT ロフト』黒沢清
  • 『ぶどう月』ルイ・フィヤード(1918)
  • 『訪れた女』ジャン=クロード・ギゲ(1983)

イーストウッドが入っていないのは『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』のふたつのフィルムからひとつを選ぶことがどうしてもできなかったため。それゆえに2006年に公開された作品は3本にとどめた。そこにまず、昨年の夏の東京日仏学院、フィルムセンターによる企画の中で見ることができた多くのフランス映画の旧作から、そのなかでも一番驚愕させられたフィヤードのフィルムを加える。個人的に念願叶ったリヴェットの『狂気の愛』をはじめ、オフュルス、ベッケル、ギトリ、グレミヨン、ルノワール、トゥールヌールらの傑作に出会えたことは素直に嬉しいことだった。これらの作品はどれも間違いなく「新しい」のだと思える。そして同じく東京日仏学院で開催されたジャン=クロード・ギゲ特集のなかから『訪れた女』を。10分程度の文字通りの「短編」なのだが、このフィルムに漂う行き着く場所の無い哀しみには圧倒された。そして2006年公開の3本については率直に感動したものを選んだ。そのなかでも、ダニエル・ユイレの死を未だ現実的なものとして受け入れられないままに見た『あの彼らの出会い』には、現在において「映画を見る」こと、それ自体がどのような行為でありうるのかを、あまりに切実に問いただされた気がする。その感覚は、その前後に見たイーストウッドのふたつのフィルムに少なからず共鳴するものであると思っている。

Other

Femi KUTI(Live、at Mt.FUJI CALLING 2006)
90分間も踊り続けさせられたというのに、ライヴ中は疲れを微塵も感じなかった。とはいえ、酒だけは異様に回り、翌朝は筋肉痛にも苦しめられた。
『Alter』sunn O))) & Boris(CD)
ヘヴィであることとポップであることが文字通り表裏一体として結実しているアルバム自体も傑作だが、今年5月に決定したライヴ共演が楽しみでならない。
『EPOCH』RIP SLYME(CD)
彼らの音楽を「ヒップホップ」だと思ったことはない。彼らはあくまで「ポップス」としての真摯な試みを追及しているグループだと思う。それを今作で再確認した。オリジナルアルバムとしては間違いなく最高傑作。
『黒沢清の映画術』黒沢清、大寺眞輔、安井豊(書籍)
あまりにも面白くて購入したその晩に2回も読み通してしまった。夏にアテネフランセで開催された8mm作品上映会のあまりの混雑具合も記憶に新しい。『映像のカリスマ』の復刊も嬉しかった。
京都 嵐山、伏見稲荷大社の山道 四条で食べた天麩羅
昨年の晩夏、何年か振りに京都に行くことができた。いくつかの寺院や街並みを見て回りつつ、嵐山と伏見稲荷では何もない山道を何の目的もなくただただ歩いてみた。これほど歩くことだけに集中したのは久し振りだった。なぜだか元気づけられた。四条で何も考えずに入った天麩羅屋は観光客よりも地元の常連が訪れるお店のようで、最初は少し恐縮したが、お手伝いをしていたその店の子供が元気な声とともにお茶を運んできてくれたおかげですぐにリラックスできた。よく冷えたビールを呑みながら塩で食べた野菜と海老の天麩羅はとても美味しかった。お店の名前は確認し忘れたが、場所は大体覚えている。いつかまた行ってみたいと思う。

結城秀勇

映画

冨永昌敬『パヴィリオン山椒魚』についてきちんと書かなければと思っている。

Other

マハトマ・ガンジーは、食事は楽しむためにしてはならない、生きるためにするべきだ、と言ったらしい。

三宿 「キッチン"B"」のカキフライ 1個250円
普段カキフライはソースでは食べないのだが、ひとくち噛むとジュースがこぼれるここの大粒のカキフライは付け合わせのソースで食べてしまう。ノロだろうがなんだろうが食べてしまう。
新宿 「かめや」の天玉そば 370円
立ち食いそばというジャンクフードだからこそうまいものを食わなければならない。なぎら健壱が選ぶ東京の立ち食いそばbest5の一軒。
祐天寺 「忠弥」のモツ煮込み 400円(?)
3、4年ぶりに行ったが、夕方4時から6時くらいまでしか営業しないこの焼き鳥(豚?)屋へ入ることは、贅沢が必ずしも金では買えるわけではないのだと、真っ当な世の中に中指を立てるような快感がある。
東北沢 「エジプト Deli shop うちむら」のエジプト総菜 300円/100g程度
私たちにとってヴァナキュラーな食物とはなにか。和食か。ジャンクフードか。はたまたエジプト総菜か。
京都祇園 「田舎亭」の朝ご飯+酔い覚ましの水 priceless
泊まった部屋の隣の部屋は、大島渚が定宿とした部屋だったということを仲居さんの話から知る。かつて映画人たちが朝まで騒いだのだろう隠れ家のような宿は、現在では一般客向けの片泊まりの宿となっている。しかしながら、いまも昔も酔い覚ましの一杯の水の美味さはかわらない、はず。坪庭の楓が翌朝には紅葉していた。

渡辺進也

映画

  • 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』デヴィッド・クローネンバーグ
  • 『LOFT』黒沢清
  • 『サラバンド』イングマール・ベルイマン
  • 『ヴィオランタ』ダニエル・シュミット
  • 『天国へ行くにはまず死ぬべし』ジャムシェド・ウスマノフ

見た順番に。去年は多くの映画監督の訃報を聞いた年だった。そんななか、生死とか、感情とかもういろんなものを越えてただただ踊る『ヴィオランタ』のラストシーンは感動した。1本、TOKYO FILMeXのコンペから。ほぼ主観ショットで撮られた若い男の個人的な物語から突然中年の夫婦の話になるその変貌振り、そして若い男が再び自分の方に物語を奪い返すその暴力性が興味深かった。。

Other

えのきどいちろう
共著で一冊本を出したけれど、特に大きな仕事をした年ではなかったと思う。ただドイツからポストキャスティングやってたりとか、WC中一番いい仕事をしていたと思う。去年の後半はこの人の文章ばかり読んでた。
Kent Jones「HOLLYWOOD VOTE A GAUCHE」Les Inrockuptibles no.534
そんなにまじめに確認しているわけではないけど、去年読んだ映画批評の中で一番面白かったもの。乱暴に言えば左翼的な映画が増えているという内容で、それはおそらく「9.11」やイラクのことと無関係ではないわけで、ここ数年のわだかまりが氷解した気がする。
J1第27節 千葉×鹿島4-0@鹿島スタジアム(2006.10.14)
去年自分がスタジアムで見たゲームの中でベストゲーム。アウェーながら、守り方から点の取り方から試合の流れまで完璧だった。阿部がハットトリック。まさかその選手がいなくなるとは思わなかった。
『警視―K』勝新太郎
某レンタルビデオ店で偶然見つける。勝の監督した作品は45分の枠に無理矢理収めようとしているから物凄くいびつで、ほんとにテレビの枠を超えてしまっている。最近言う人が少なくなってしまったけど監督勝新太郎はもっと評価されてもいいと思うので。
@nifty デイリーポータルZ
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