[2003.11.24 決勝戦 イングランド対オーストラリア ]

私事が重なりラストのアップが遅くなった。お詫びしておこう。
周知の通り、結果は、延長の末、この大会を象徴するようにウィルキンソンのDGでイングランドが逃げ切った。20-17。
試合開始早々ラーカムのキックパスをツキリが絶妙のタイミングでキャッチし、ロビンソン(ここだけイングランドBKの身長が低い)を振り切ってトライ。ウィルキンソンのPG。その後ダラーリオの突破からウィルキンソン→ロビンソンでトライ。ウィルキンソンPG2本。14-5。誰もがここで勝負ありと思ったろう。私もそうだ。
後半開始、イングランドがゲインラインをゆっくりと突破し、ボールを支配し続ける。だが仕留めができない。たまたま方向がベン・コーインの側、つまり左サイドに集中し、ロビンソンのような切れ味がない。スピードがないディフェンスならば、ワラビーズは常にドンと受け止めることができる。次第にイーヴンまで持ち直し、フラットリーが3本のPGを返し同点。延長に突入する。
前後半各10分の延長戦は当然キッキング・ゲームになる。ウィルキンソンとラーカム(そしてイングランドはティンドールに代わりキャットがしっかり入っている)が互いに陣地をとるキックを応酬する。ウィルキンソンPG、そしてフラットリーPGで、再び同点になったが、ラスト1分でウィルキンソンのDGが決まり、ゲームが終了。
ワラビーズのねばり強いディフェンスは称賛に値するが、このくらい地域をとり、ボールを支配したイングランドが、わずか3点差で勝利を収めるのは、やはりトライが取れないからだ。このチームはウィルキンソンのキックにおんぶに抱っこのチームだったことがこのラストゲームでもはっきり表れている。もちろん、ここぞというポイントでDGを決めるウィルキンソンはさすがだが、ワラビーズのライン・ブレイクは数えるほどだったのに、3点しか差を付けられないイングランドのアタックには大いに問題が残る。クライブ・ウッドワードのラグビーに批判が集まっても当然だ。
ディフェンスが整備され、なかなか相手を抜けなくなることで、ラグビーの進歩が逆に止まったように見える。ポイントを作り、ボールをリサイクルしながら、数的な優位を作り出すラグビーが極まると、点数はPGかDGでしか入らなくなるのは当然のことだ。そういうラグビーの申し子がウィルキンソンだということになるだろう。しかしイングランドを見ると、確実にボールを支配しているのだから、ポイントからできるだけ早く遠くにボールを移動させれば、もっとトライチャンスは生まれるはずだ。ボールを支配すると必ずショート・サイドに展開すれば、詰まるに決まっているではないか。ロビンソンの内側に入れても同じことだ。突破はFWの方が効果的だ。だからイングランドはボールは支配してもさっぱりライン・ブレイクできないままだ。これではラグビーの面白さは殺がれる。
だからこの決勝戦、緊張感と点数上の興味は大きかったし、伝統的な意味での──つまり身体と身体がぶつかり合う競技としての──ラグビーの醍醐味は十分だったが、ラグビーが脱領域化していく瞬間にはついぞお目にかかれなかった。ボールや地域を支配してもトライが取れないイングランドは、その欠点を露呈させたし、ディフェンスは整備されていたが、ロジャース、ツキリ、セイラー(このゲームではほとんど消えていた)のバック3でライン・ブレイクできないワラビーズはもっと重傷だろう。
これからは、強く重いイングランドのFWをどのようにうち破り、ウィルキンソンをどうやって封じるのかがテーマになる。
その意味で、今回のワールドカップで注目に値したチームは、フランス、ニュージーランドという決勝戦を逃した両チームと、「誠実な愚直さ」のみが特徴だったアイルランド、そして弱いチームがいかに戦うかを身を以て実践したウェールズということになるだろう。
特にニュージーランドとフランスの巻き返しには期待しないではいられない。
まずオールブラックスは、その強化の時間帯──トライ・ネイションズ──では他の追随を許さないほど完成しており、ワラビーズから50点奪った。だが、ワールドカップのようなディフェンス・ゲームになると、スペンサーに有効なボールが回らず苦労することになった。ジョン・ミッチェルがヘッドコーチを続けるなら、まず3列の強化に取り組むだろう。
そして、フランス。対アイルランド戦で理想のゲームをした後、雨のピッチでイングランドに完敗。報道によると、ラポルトの続投が示唆されているが、来年のシックス・ネイションズでどう戦うかが注目される。対イングランド戦での完敗の原因はいくつかあるが、接点に弱く、展開がままならず、ミシャラクが若さを露呈させた。ガルティエのいないSHをどうするのか? 衰えの見えるマーニュ。ベッツェンをどうするのか? スクラムのウェイトの劣勢をどうするのか? トライユ、ジョジオンの力不足をどう補うのか? ルージュリのフィールディングの悪さをどう立て直すのか? そして、忘れられたフレアをどう取り戻すのか? 課題は多いが、対アイルランド戦のような超ワイドの展開はやはり魅力的だ。
ファンとしては、次回のワールドカップの決勝で互いに最低3トライ取れるような展開ラグビーを見たい。北半球ではシーズンが深まるのはこれからだ。魅力あるラグビー──それは常に来るべきラグビーであることは映画と同じだ──を応援していこうと思う。(了)

 

[2003.11.21 決勝戦を予想する ]

昨日の3位決定戦でこのワールドカップへの興味がやや薄れたし、決勝戦のカードが私の予想をまったく逆になった──つまり、昨日のカードが決勝なら、もっと面白いゲームだったと思う──ので、決勝への興味が盛り上がってこない。だから、オブジェクティヴな予想が逆に可能かも知れない。
結論から書こう。僅差でイングランド。15-10。なぜこのスコアか。イングランドの15 点について説明は不要だろう。すべてウィルキンソンのキックによるものだ。それがPGでもDGでもいい。とにかく何回か蹴るゴールを狙うキックが5回はポールの間を通過するだろう。なぜ5回か。ワラビーズのディフェンスが極めて堅いからだ。そして、自陣でのペナルティを取られることの少ない極めて有効なディフェンスをするからだ。
ではワラビーズ10点の内容は? この予想はかなり難しい。ワントライ(ゴール)に1PGかもしれないし、2トライからもしれない。ワラビーズFWがイングランドのFWを粉砕することはないだろう。ワラビーズのボール支配とリサイクルにイングランド・ディフェンスがずるずる下がることもないだろう。ワラビーズがトライを取れるとすれば、両翼のみ。中央にイングランドのディフェンスの穴が開くことは考えられない。とすれば、フラットリーのキックが入るかどうか。タッチラインすれすれのトライしか取れないのではないか。すると2トライ奪ってもコンヴァージョンは難しい。
15-10の理由は以上の通り。ワールドカップの総括は、決勝が終わってからにしよう。ワラビーズは、99年の方がずっと完成度が高かったのはまちがいない。ここへきてようやく99年の80パーセント程度になったのではないか。対オールブラックス戦がそのことを示している。そしてイングランドは力が強いし、ウィルキンソンがいる。準決勝の戦い方をそのまま踏襲するだろう。クライヴ・ウッドワードに策があるわけがない。秘策があるとすればエディ・ジョーンズの方だろうが、今のイングランドの戦い方を見ていると、秘策が当たって、どんなにトライを取れても2つが精一杯なような気がする。もしワラビーズが勝つとすれば(万が一──ホームだし、「死ぬ気」でやって──)、マット・ロジャース、セイラーが快走し、何度もライン・ブレイクに成功する場合しか想像できないが、イングランド対フランスの前に書いたように前半10分で2トライを奪うか、あるいは、双方ノートライで9-6か6-3くらいのロースコアになる場合だけだ。この場合、ワラビーズはイングランドを上回るフィットネスで鉄壁のディフェンスを80分間継続することが最低条件になる。

 

[2003.11.20 3位決定戦 ニュージーランド対フランス ]

今回のワールドカップで一番緊張感のないゲームだった。モティヴェーションが維持できないとゲームは壊れてしまう。3位決定戦の意味合いそのものが問われたゲームだ。両チームともディフェンスがザルだった。ディフェンスに行くか行かないはシステムの問題以上に意志の問題だ。緊張感を高めて、タックルに行くかどうかが相手を倒せるかという問題に繋がる。特にフランスは、ひどい出来だった。40-13(トライ数6-1)も仕方がない。
ゲーム開始前はどちらもオープンに展開し、「勝利への義務」から解放され「ラグビーへの欲望」全開のゲームになると思ったが、両チームとも、ここ数試合、「勝利への義務」ばかり背負ってきたせいか、展開よりも安全策ばかりが見えるゲームになった。特にフランスは、つまらぬキックばかりでマイボールを失い、カウンターでやられた。この日SOに入ったメルスロンは、小技ばかりで、それまでこのチームが培ってきたワイドな展開を自ら封印してしまった。すでにフランスに帰国したガルティエは、「このゲームには2007年のフランス開催を見据えて若手を起用すべきだ」と述べていたが、ガルティエに代わって登場したヤシュヴィリ──このゲームでもプレイに安定感がなかった──はともあれ、イングランド戦の出来が悪かったとは言え、ミシャラクを先発させない理由が分からない。
もちろん緊張感をまったく書いたゲームが大差のゲームになることはよくあることだし、3位決定戦の意義を真面目に討議すべきだと思うが、このゲームを見ていると、フランスが、このワールドカップで良いゲームをしたのは、唯一アイルランド戦だったことが分かる。超ワイドな展開とキックで陣地を取っていく戦術とは本質的に矛盾しているのだ。キックは、キック・パスのような攻撃的なものである必要があり、チップ・キックや小さなパンとはカウンターを招くだけだ。まずチャンネル3に大きく展開、そこから内側をなるべく近くファローし、トライラインを越えるという戦術を前に書いたが、今日のフランスはまったくそういう戦術への志向がなかった。
こんなフランスならオールブラックスは簡単に50点差程度で勝利すると思いきや、Ultimate Clash さえできない。FWで粉砕できない。これがオールブラックスの弱点であることがよく分かった。ワラビーズのようにボールをキープし続ければ、オールブラックスは何もできない。

 

[2003.11.16 準決勝 イングランド対フランス ]

昨日オールブラックスについて書いた文章をそのままフランスに当てはめることができるだろう。つまり、フランスは、自分たちのしたいことを何ひとつできずにイングランドに敗れた。スコアは24-7。イングランドのスコアはウィルキンソンの5PG、3DG。ノートライ。フランスはベッツェンの幸運な1トライのみ。
フランスの敗因──つまりイングランドの勝因──を考えてみる。端的に言ってブレイク・ダウンでの敗北、これにつきる。ボールが出なければフランスに勝利はない。特にアリノルドキの非力さは目を覆うばかり。8−9のタイミングで8の部分で完全に潰されてはフランスのバックスは立っているだけだ。イングランド・ディフェンスと真っ向勝負を挑む以前の問題だ。イングランドが勝ったのは、前3人やフランカー陣といったことではない。FW全体としてイングランドの方がずっと強い。2〜3度ラインブレイクのチャンスはあったが、雨のために不用意なノックオンでチャンスを潰した。フェイズを重ねられ、徐々にラインが後退していくとウィルキンソンのキックが待っている。イングランドの戦術はこれだけだ。これもまた誠実さのひとつだろうが、そして、大方の意見をここでも繰り返すだけだが、これではラグビーの進歩はない。解説の岩淵は「これでは10年前に逆戻りだ」と嘆いていたが、確かにビューモント主将当時の強烈なFWがフランスを粉砕した20数年前もイングランドのラグビーはこういうスタイルだった。
それでは、フランスは、絶対に勝てなかったのか? 何らかの方策はなかったのか? このゲームを見る限り、ミシャラクのキックが不調で、ここぞという時間帯で前半にドミニシ、後半にベッツェンがシンビンを食らえば、勝つチャンスはなかった。ミシャラクのキックが決まり、2人のシンビンがなかったとしても、PGが3本決まり、イングランドのPGが1本なかったくらいで、スコアは21-16。それでもイングランドということになる。ウィルキンソンにせよ3回PGを外しているので、今日のスコアはそのまま力の差だ。ただチャンスがあったとすれば、前半も後半もウィルキンソンやキャットのキックを、ブリュスクやルージュリがそのまま蹴り返していた。ドミニシに代わったポワトルノーが後半に1度見せたように、カウンターを試みればラインブレイクはかならずできたように思う。だが、それも、この荒天では、どこかでハンドリング・エラーが生まれる可能性も強い。とりあえずフランスは、ワイドへの展開をまったく見せられず、マーニュやアリノルドキがタッチライン上を快走する場面もまったくなく、ドミニシ、ルージュリに良いボールが回る機会はまったくなかった。ベルナール・ラポルトの3年は終わった。これはやはり失敗に終わったと言わざるを得ない。これからの課題は多い。それについては後日書くことにしよう。
だが完勝のイングランドがノートライなのは、どう考えても納得が行かない。30 点を巡る攻防がモダン・ラグビーであると私は何度も書いているが、昨日も今日も勝った方の得点が20点台前半。このことは、準決勝の2試合がいかにディフェンスのみのゲームだったかを示しているだろう。
決勝はイングランド対オーストラリアとなったが、私の希望的な観測はニュージーランド対フランスだっただけに、このワールドカップへの興味もやや薄れた。3位決定戦でニュージーランド対フランスがあるが、両チームのモティヴェイションはどうだろうか?

 

[2003.11.15 準決勝 オーストラリア対ニュージーランド ]

ワラビーズが勝った。得点は私の予想通り22点。内容もまた(1T,!G,5PG)予想通りだったが、まったく予想を裏切られたのがオールブラックスのアタックだった。1トライ(コンヴァージョン)、1PGのみの10点。だがゲームの内容はワラビーズの完勝。そしてラーカムはほとんど蹴っていない。先回のワールドカップ優勝そのままに、ワラビーズはフェイズを重ね、ボールをキープし、相手にボールがこぼれるとひたすら誠実なタックルを重ねて勝利を収めた。ワラビーズは欲を出さずに自分たちのできることを真面目に、ひたすら真面目に実行して勝利を手に入れ、オールブラックスは自分たちのしたいこと、得意なことが何ひとつできずにゲームを終えて敗北した。
もちろんワラビーズの勝因を得点に絞れば、前半10分、モートロックがスペンサーのパスをインターセプトして80メートルを独走したトライがすべてだろうが、それよりもディフェンスだ。だがこうしたディフェンスゲームになれば、ワラビーズはもっとも得意なかたちに持ち込んだことになり、ゲーム中も心配はなかったのではないか。何よりも問題はオールブラックスのアタックだ。ハウレット、ロコゾコ、ムリアイナが快走するシーンはほとんどなかった。彼らにボールが渡っても、スピードがなく、ラインブレイクできたことはほとんどなかったように思う。両チームが一列に並び、互いにディフェンスを反復するゲームは99年のワールドカップのデジャヴュだ。こうした展開になれば、先回のワールドカップに優勝したチームに勝利が転がり込むはずだ。オールブラックスは華麗なスペンサーとバック3を持ちながら、その力を発揮する間もなくゲームを終えてしまった。
もちろん僕らの予想を上回ってタイトなゲームをしたワラビーズとワラビーズ──と言うよりはブランビーズ──の伝統に立ち返ることでこのチームを甦らせたエディ・ジョーンズの努力を称賛すべきだ。だが、このスタイルは、繰り返すがデジャヴュだ。デジャヴュに対して新たなスタイルで勝利を収め、次々にスタイルの先端を塗り替えていくのはスポーツではないのか。だからこそジョン・ミッチェルは、スペンサーをSOに起用したはずだ。だが今日のスペンサーは、オールブラックスの敗北には貢献した──スペンサーのパスがインターセプトされた──が、アタックに貢献することはなかった。タイトで前に出るワラビーズのディフェンスにオールブラックスのアタックは最後まで対応することができず、後半の20分過ぎからは、FWのひとりひとりがボールを持ち込み始め、次第に勝利どころか競ったゲームの可能性を自らが遠ざけてしまった。
オールブラックスには何よりもバック3を走らせるスペースが欠けていた。どうすればよかったのか。ひとつはセンターで抜くこと。それにはマクドナルドの力が高くない。あるいはバック3を深い位置に立たせ、抜いて走るスペースを与えてやること。オールブラックスはそのどちらも実行しないまま、単調な攻めを反復しワラビーズのディフェンスの餌食になり続けた。両チーム共にディフェンス・ゲームであり、ゲームとしての面白さに欠けたゲームになった。もともとトライを取る力に乏しいワラビーズはゲーム・プラン通りだったろうが、オールブラックスの適応能力の低さにも大いに疑問が残った。

 

[2003.11.11 準決勝を予想する ]

オールブラックス対ワラビーズ、フランス対イングランドを予想するとき、誰でも行き当たる前提。それはトライネイションズにおける戦績とシックスネイションズと9月のテストマッチ・シリーズの戦績ということになる。
オールブラックス対ワラビーズはその点とても易しい。今のところの力関係──ここまで来ればどちらも手抜きなしのガンチコ勝負だろう──では圧倒的にオールブラックス。トライネイションズで2ゲームを完勝。ワールドカップに入っても対ウェールズ戦以外まったく危なげない。対するワラビーズは対スプリングボクス戦を完勝したが、アイルランド戦をやっとのことで乗り切っている。トライネイションズ以降でもオールブラックスの有利は揺るがない。これも誰でもが考えることだが、ワラビーズがオールブラックスに勝負を挑むためには、まずブレイクダウンで勝利し、マーシャル、スペンサーのハーフ団に活きたボールを与えず、その上、スミスとウォーが徹底してスペンサーをマークし、マーシャルを孤立させることだ。ロコゾコ、ハウレットにボールが渡らなければオールブラックスの得点は半減以下。まずディフェンス。それから僅差の勝負。そこからはフィジカルとメンタルの両面のインテンシティの問題。マット・ロジャーズ、ウェンデル・セイラーらでオールブラックスのディフェンスを破ることはできない。ほとんどバックスを捨てて、FWのディフェンス勝負、そしてアイルランドがやるように、マイボールになったらまず敵陣、つまりラーカムのキックだ。ブランビーズ流の継続を封印して、伝統的なテン=マン・ラグビーに徹する。ムリアイナ、ハウレット、ロコゾコというバック3を背走させる。マーシャル、スペンサーに対して第3列がプレッシャーをかけ、バック3を攻撃に参加させない。オールブラックスの攻撃はマクドナルドの平均的なPGのみになる。創造性のない退屈なラグビーと酷評されようが、ワラビーズが勝つ──あるいは僅差勝負に持ち込むにはそれしか方法はない。問題はエディ・ジョーンズ──彼はブランビーズのコーチだった──がそういう「伝統的」かつ「愚直な」戦術を受け入れるかどうかだし、フェイズを重ねるのに慣れきったワラビーズの選手たちが、そのように戦術を統一できるかということだろう。僕がコーチなら、迷わずラーカムに「全部、蹴れ!」と指示する。もしワラビーズが勝つとすれば、22-20ぐらいのゲームだろう(1T,1C,5PG vs.2T,2C,2PG)。
そしてフランス対イングランド。これはむずかしい。どう見てもフランスは絶好調だ。ワイドに振るライン攻撃とミシャラクのキックパスによる奇襲は、次第にその精度を上げている。「かつてないくらいに練習している」(小林深緑郎)。それに対して、イングランドはシックスネイションズの頃と同程度だ。イングランドのゲーム内容がそのことを示している。対サモア戦。前半にリードされたイングランドは、ウィルキンソンのキックを中心に後半立て直し、最終的には10 点差で勝った。スプリングボクス戦はイーヴンの展開からウィルキンソンのキックで勝った。そしてウェールズ戦は、トライをたったひとつ奪っただけで2トライのウェールズを下した。どのゲームでの前半はイーヴンか負け。後半、ゆっくりとゲームを進めながら調子を出し、最終的には相手チームを振り切っている。特にウェールズ戦でのウィルキンソンは、PGやDGこそ決めたものの、ラインを動かすことはまったくできなかったし、マイク・キャットにその役割を譲っていた。対するフランスは、ここまででいちばん点差が開かず、また点を取られたのは対ジャパン戦の51-29。それでも誰の目にも理解できるだろうが、ジャパンにはまったく勝ち目はなかった。フィジー戦、アメリカ戦、スコットランド戦、そしてアイルランド戦──アイルランド戦は最終的には3トライを献上したがそれも勝敗の趨勢が確定した後のことだ──どのゲームもアルティメイト・クラッシュ! イングランドがサモア、南ア、ウェールズと苦しいゲームをしたのに対し、フランスは圧勝の連続。とすればフランス有利となるが、マルセイユでやっと勝ったゲームとトウィッケナムで完敗したゲームを見たことのある者なら、ことはそう単純ではないことが理解できるだろう。決して創造的でも先端的でもないイングランドのラグビーを評価しないが、特にイングランドFWのねばり強さは立派だと言わざるを得ない。ムーディ、ニール・バックの両フランカーは、ベッツェン、マーニュと遜色ない。フランスは、このイングランドに勝つために練習してきたはずだ。ワイドな展開もキックパスもイングランドの重量FWを走らせ、ポイントをずらすことが目的だった。まずキックオフ直後からフランスは全開でトライを取りに行くこと。前回のワールドカップの準決勝、対オールブラックス戦と同じように、ドミニシ、ルージュリ、あるいはマーニュ、アリノルドキで10分までに2トライあげること。そして反則をしないことだ。前半終了までに20点差付ければ、勝負はフランスのものだろう。理想は2トライ(コンヴァージョン)+2PG。そしてイングランドを完封して前半を終えることだ。後半イングランドはかならずマイペースでボールを支配し、22メートルに迫り、反則を誘い、ウィルキンソンのキックに持ち込もうとするはずだ。だから後半は、徹底したディフェンスとミシャラクのタッチキック。接点で勝ち、ボールを自陣からできるかぎり遠くに運び続けること。フランスが勝つとすれば、32-18(2T,2C,6PG vs.6PG)。

 

[2003.11.9 準々決勝第2日 フランス対アイルランド/イングランド対ウェールズ ]

開始早々からフランスはワイドに展開、ミシャラクのキックパスをアリノルドキがキャッチし、フォローしたマーシュからボールを受けたマーニュがトライ。フランスの猛烈なアタックが開始される。誠実な愚直さを見せるアイルランドに勝つためには、「誠実な愚直さ」がいちばん発揮される接点を避け、ボールを遠くに運ぶことだ。FW周辺でのもみ合いを徹底して回避して、チャンネル3へと、それも常に逆サイドのチャンネル3へとボールを素早く運んでいく。フランスのとった戦術はそれだけ。それが見事にはまり、前半だけで3トライ(3コンヴァージョン)、2PG(計27-0)をあげ、アイルランドを完封してしまった。前半で勝負は決まった。
この日のフランスはボールを獲得すると徹底してワイドに振り、なかなか通らなかったパスが次々に通っていく。つなぎに入ったトニー・マーシュの「燻し銀」のプレーが光る。ガルティエの緩急をつけたボール捌きは、ミシャラクに余裕を与え、ベッツエン、マーニュ、アリノルドキが常に逆サイドに控える。これまでフランスが実現しようとしてつなぎでのミスが起きて、必ず失敗していたプレーがこのゲームではようやく実を結んだ。スクラム、ライン・アウトでも乱れることがない。後半に入って3トライを奪われ、最終的なスコアは43-21になったが、2トライ(コンヴァージョン)はとっくに勝負の趨勢が決まってからのものだ。
そして第2試合。イングランド対ウェールズは、フランス対アイルランドに比べて戦前の興味は薄かった。アイルランドは、予選でワラビーズに1点差の好ゲームをしているし、「誠実な愚直さ」は崩れることがないだろうし、6ネイションズでもフランスを15-12で下しているからだった。それに対して絶好調のイングランドに対してようやく決勝トーナメントに進出したウェールズでは大差が付くだろうというのが僕を含めたおおかたの予想だったろう。
だが、フランス対アイルランドが予想外にフランスの完勝だったのに対して、イングランド対ウェールズは、対オールブラックス戦で好ゲームをしたウェールズが、ワイドに展開し、イングランドFWのスピードのなさをついて、前半2トライを奪い、10-3とリードした。ミスを重ねてもチャンネル3にできるだけボールを早く展開しようとするウェールズに、イングランド・ディフェンスはまったく対応できないまま、前半が終わってしまった。このワールドカップ初めての番狂わせも予感された。イングランドFWは確かにボール支配率では圧倒したが、支配したボールをどのように展開するかを常に考えてしまう傾向があるようだ。その間にターン・オーヴァーを許し、逡巡するだけで前半を終えたようだ。オールブラックス戦で得た自信は大きい。俺たちにも出来るぞ。イングランドが相手でも大丈夫だ。ウェールズはそう確信して前半を終えたろう。惜しむらくは、2トライを奪ったもののコンヴァージョンが決められなかったことで、点差7点で前半が終わってしまったことだ。
イングランドの監督クライヴ・ウッドワードは、インサイド・センターにマイク・キャットを入れ、ウィルキンソンとのダブル・SOという作戦に出る。後半はこれが見事にはまる。まずウェールズの大きなキックをFBのロビンソンがカウンター・アタック。あっという間に6人を抜き去り(この間、ウェールズの選手は誰もロビンソンに詰めなかった)、グリーンウッドにラストパス。トライ。ウィルキンソン、ゴールで瞬く間に同点に追いつく。後は、いつもキングランドのゲームだ。ゆっくりとFWがボールを支配し、敵陣に入っても支配を続け、PKをもらってウィルキンソンが次々に決めていく。ウェールズもラスト5分に反撃し、1トライを奪うが、結局28-17でイングランド。番狂わせは起きなかった。トライ数1-3でもイングランドが11点差で勝利を収めるのは何よりもウィルキンソンの力だ。そしてラインが落ち着いてきたのはキャットのキックによるゲームメイクによるもの。
さて準決勝はフランス対イングランド。明日は、準決勝のもう1試合のオールブラックス対ワラビーズとともに展開を予想してみよう。

 

[2003.11.8 準々決勝第1日 ニュージーランド対南アフリカ/オーストラリア対スコットランド]

ラグビーを3ゲーム続けて見た1日。この3ゲームばかりではなく、どのゲームも似たような展開を見せていることに気づく。おそらく力が違う2チームが繰り広げるのは前半は拮抗したゲーム、そして決まって後半開始早々、より実力のあると思われるチームが点をあげ、差が徐々に開いていき、結局は、実力通りの結果に終わるというもの。早稲田対帝京大(52-26)もニュージーランド対南アフリカ(29-9)もオーストラリア対スコットランド(33-16)もまったく同じ展開が反復する。ひょっとしたらと思わせつつ、結局順当な結果に終わる。
ワールドカップも決勝トーナメントに入り今日から準々決勝が始まった。確かにワールドカップ以前のトライネイションズでの結果や予選リーグでの戦績を見極めれば、ニュージーランドとオーストラリアが勝つことは予想された。南アフリカがニュージーランドに、そしてスコットランドがオーストラリアに勝つためには、僅差の勝負が必要で、遅いゲーム展開が必要だ(このことは早稲田と当たった帝京大にも言える)。スピード勝負ではなくセット・プレイからの展開、ペナルティでは当然ゴールを狙う──そういった展開こそ弱いとされていたチームの戦術だ。確かにスプリングボクスもスコットランドも、そして帝京もそのような戦術を選択し、後半、フィットネスが落ちる時間帯から徐々に点差を開けられ始めた。
オールブラックスのように素晴らしいバック3を持っていれば、FWとして何とかボールを獲れば、“キング”カーロスがうまく展開してくれるだろう。だからスプリングボクスとしては徹底したFW戦を挑むしか道がないのだが、オールブラックスのFWもまたスプリングボクスのそれに劣らないとすれば、前半は耐えられたとしても後半になれば、オールブラックスのバック3が走り始めるのを止められなくなる。
どの点においても優れたチームが、死にものぐるいの相手に勝つ。徐々に差を付けて。これは自然なことなのだ。準々決勝ともなれば、予選リーグのときのような手抜きが見られない。とすれば、もっと番狂わせは減る。単に強い方が勝つ。だが、スプリングボクスとスコットランドは、それぞれウェールズとアイルランドを見なかったのだろうか。ウェールズ対ニュージーランドを見れば、ニュージーランドのラインディフェンスはそれほど強固ではないことが分かるはずだし、ワラビーズに対して徹底したディフェンスを見せたアイルランドに学べば、とりあえずスコットランドはもっと僅差のゲームに持ち込めたはずだ。ノックアウト・システムは1ゲームの結果が天と地ほどに異なる。負ければ終わりだ。だから監督コーチはもっと「秘策」を考えなければならない。どの点においても優れている相手に「善戦」ではなく「勝利」するためにはどうすればよいかを考えるのが監督コーチの仕事なのではないか。

 

[2003.11.4 予選リーグを振り返る(2)──大差のゲームについて ]

南アでの前々回、ジャパンがオールブラックスに145点奪われテストマッチの点差がギネスブックに載ったゲームがあった。30点差以上つくゲームはミスマッチだと言われる。プールAではワラビーズ対ルーマニアが90-8、ワラビーズ対ナミビアが142-0、プールCではスプリングボクス対ウルグアイが72-6、イングランド対グルジアが84-6、イングランド対ウルグアイが111-13、プールDのオールブラックス対イタリアが70-7、オールブラックス対カナダが68-6、オールブラックス対トンガが91-7。幸い今回はジャパンがらみでのミスマッチはなかった。プールAではとりあえずナミビア、プールBでは、ウルグアイとグルジアが弱すぎ。プールDはオールブラックスが強すぎ──これでは最終のウェールズ戦では気が緩むのも無理ないか──。ナミビア、ウルグアイ、グルジア等はインターナショナルマッチの数が限られているだろうから、この成績も致し方ないだろう。しかし、これでは興味がそがれる。参加国は16で十分というのが論理的な結論であることは理解できる。シックスネイションズとトライネイションズの9カ国に、サモア、トンガ、フィジーのアイランダーズ、そしてカナダ、アメリカ、ジャパンの6カ国。シックスネイションズのイタリアやウェールズを敗る可能性があるのは、それら6カ国だろう。計15カ国にアルゼンチンで計16ということになる。かつてなら当然ルーマニアが入ったろうが、今回の戦いぶりを見る限り、そのレヴェルにない。
もちろんワールドカップなのだし、オリンピックにラグビーがない限り、「参加することに意義がある」のかもしれないが、それらは出場する選手やチームについて言えることで、われわれ観客には関係がない。私たちは単に面白いゲームが見たいだけだ。予選リーグ各チーム3ゲーム。そして決勝の2プール制のリーグ戦にするとレヴェルの高いゲームがもっと見られることになる。つまり決勝リーグ各チーム3ゲーム。そして決勝と3位決定戦。当然、そうした形式にすれば、ラグビー先進国とそうでない国々の差がもっとついてしまうという批判もあるだろう。だが、残念ながらラグビーはサッカーのようなスポーツではない。ナイジェリアやカメルーンが旋風を巻き起こすためには、スーパー12やプレミアリーグがより盛況になり、アジアやアフリカの選手も多く参加するようなものになるとき、やっと国々の差が詰まるのではないか。いずれチャンピオンズリーグ構想も生まれるだろうし、現にスーパー12の再編が予定されている。
このように見るとパシフィック・リムはかなり意義のある大会だったように思う。サモア、トンガ、フィジー、アメリカ、カナダ、ジャパンの6カ国にパシフィック・リムを再編し、一刻も早く各協会が話し合いを始めるべきだ。シックスネイションズの下位なら五分以上の戦いができるチームを切磋琢磨して生み出すことだ。(アルゼンチンは地理的にはトライネイションズ──フォースネイションズ──に近いだろう。)
つまりウルグアイやナミビアといったチームをアメリカやトンガレヴェルにすることが問題なのではなく、トライネイションズやシックスネイションズレヴェルのチームを増やし、それらの国が一堂に会する場としてワールドカップを設定すれば、どのゲームも緊張感の高いゲームになり、今大会のレヴェルで言えば、イングランドもオールブラックスもうかうかできなくなるということだ。ミスマッチはなくなるだろうし、番狂わせが生まれる可能性もずっと大きくなるに違いない。

 

[2003.11.3 予選リーグを振り返る(1)──ジャパンの未来 ]

予選リーグが終わり、決勝トーナメントの組み合わせが決まったところで、ワールドカップも土曜日の準々決勝まで一休み。この辺で、予選リーグを振り返っておこう。まず今回はジャパンについて。
Sports Naviの松瀬学やMizunoサイトの永田洋光といった現地取材ライターの文章はジャパン対アメリカ戦で現在のところ停止しているが、それなりの総括も行われている。まず強化の問題。誰の目にも明らかな通り、ディフェンスのかたちはできたが、アタックのかたちを整える時間がなかった。ミラーの復帰の遅れがいちばん大きな原因だ。木曽の「結局、ジャパンは弱いんです」というコメントは選手達の悔しさを良く表している。彼らはそう書く。もちろん選手たちは一生懸命やっているし、向井だって「私は負けず嫌いだ」と言明している。誰だって予選リーグ最下位になりたくてゲームをするわけではない。でも、セレクションも合宿も、そして戦術の検討も、勝つためにやるわけで、結果を目の前にすると、それは完全に失敗していると判断するのが当然だ。
アメリカ戦の翌日、朝日新聞で平尾前監督の総括が掲載された。「これまでは外国チームに勝つのに“ネコだまし”のような戦術を使ってきたが、これからは、基礎的な能力を上げることで勝つべきであり、そのためにはジュニアの強化が必要だ」と平尾は説く。一見、正論に見える。確かに今回の予選リーグを見る限り番狂わせは皆無であり、昨日も書いたが、旧五カ国とトライネイションズが決勝トーナメントに進出している。「ジャパンは良いチームだ」と評価されたというが、スタッツを見る限り、得点はBプールでもっとも少なく、失点は群を抜いて多い。後半のラスト20分のフィットネスを上げることも必要だ。だが、基礎的な能力で決勝トーナメント進出国と互角に渡り合うためには、平均105キロの走れるFWと平均190センチのスピードのあるBKが必要だということだ。ラグビー人口が減少を続ける日本で、短期間に基礎的な能力で互角に渡り合うためには「ドーピング」に頼るか、あるいは信じがたい時間をかけて強化する以外に方法があるだろうか。食生活を変え、文化を変え、外国との交流を何倍かに増やす。その進歩は漸近線を描くだろうが、互角の勝負に至るには天文学的な年月が必要になるだろう。平尾自身が監督時代の末期にしたように、思い切って若返りを図ったところで、今の力でテストマッチを組んでいっても、惨敗を繰り返すだけだ。その間にラグビー人口は減り、人々の関心も遠のくだろう。悪循環。
ジュニアの強化も当然だし、基礎的な能力を上げることお当然だが、ジャパンに関しては“ネコだまし”に磨きをかけなければならない。磨きをかける、と書いたが、大西ジャパン以降、誰が“ネコだまし”を使ったことがあるのだろう。だれも奇襲を思いつかない。徹底したスカウティングのもとに、来るべきゲームを勝利で終えるための戦法を思いつかねばならない。幸い、平尾が考えるより、基礎的な能力の差異はないようだ。FWは健闘している。どうやってディフェンスをするのかという点において、世界の一流チームに方法的な差異はほとんどない。アイルランドのように愚直にディフェンスするだけだ。タックルし、起きあがってすぐタックルにいく。接点では1センチでも前に進む。それしか方法はない。つまりイングランドのようにFWの圧倒的な優勢を望めない──平尾の主張が実現してもジャパンは世界でいちばんFWの強いチームにはならない──なら、どうやってトライを取るかたちを数多く持ち、それをオートマティックに実行できるかに尽きる。平尾ジャパンの惨敗以来、ジャパン・オリジナルの復権が叫ばれたが、朽木英二以降、「伝統工芸」は伝承されていない。すれ違いざまに抜いていくラグビーは、どこのチームにも存在していない。フィジーやフランス流の個人技ではなく、チームとしての約束事の上に成り立つ抜いていくプレー。ミクロな地点でその間合いを計測することから始めるべきだろう。センター・クラッシュでも、ワイド・ラインでもない、別のライン攻撃の可能性を追求すべきだろう。

 

[2003.11.2 ニュージーランド対ウェールズ ]

昨日のスコットランド対フィジー戦で決勝トーナメントの顔ぶれが決まった今回のワールドカップ。結局、番狂わせはまったくなかった。オーストラリア、アイルランド、フランス、スコットランド、イングランド、南アフリカ、ニュージーランド、ウェールズ。旧五カ国対抗とトライネーションズ。イタリア、フィジー、サモア、アルゼンチンといったチームはやはり力不足。特にアルゼンチンは、この大会以前のテストマッチ・シリーズが好調だったから残念な結果に終わったろう。この8カ国の中ではスコットランドの力がだいぶ落ちるようだ。昨日の対フィジー戦に辛勝(22-20)したが、ゲーム・プランがまるでなく、何とか力で勝っただけのゲーム。あまり論評に値しない。
それに対して、予選リーグでイタリアにやっと勝ち、何とか決勝トーナメントに生き残ったウェールズ。その予選リーグの最終戦が対オールブラックス。戦前の予想はもちろんオールブラックスの圧勝。昨年の日本遠征でサントリーに敗れたこともあるウェールズに、かつての「レッド・ドラゴン」の面影はない。予選リーグで辛勝したイタリアにもシックスネーションズで敗れている。だが、戦前の予想はやはり単に予想であり、オールブラックス対ウェールズは、予選リーグではイングランド対南アフリカと並んで素晴らしいゲームになった。ウェールズは、イタリア戦から10人を入れ替え、決勝トーナメントに備える作戦かと誰でもが思ったし、この好カードがその入れ替えによってワンサイドになるではないかとは誰もが予想したことだろう。そして、おそらくその予想はオールブラックスにも感染したのかもしれない。事実、ゲーム開始早々ロコゾコがウェールズのディフェンス・ラインを一気に破ってトライを決め、オールブラックスの楽勝ムード。しかし、ウェールズは、昨日のアイルランド以上に戦術を統一し、その戦術も愚直なアイルランドとは異なるものだった。ラインを広くとり、クラッシュではなく抜いていくラグビーを展開したからだ。もちろん抜けるのはミスマッチになったバックスだが、FWが良くフォローし、継続をキーワードにしている。ワラビーズの全盛時代のようなクラッシュとボールのリテンションの反復ではなく、個人個人が相手をずらして抜こうとするラグビーは魅力的だった。
対するオールブラックスのディフェンスもかなりよいことはよいが、全員が揃って良いわけではない。アーロン・メイジャー、マクドナルドの両センターのディフェンスはさすがに固いが、アタックの起点になる“キング”カーロス(スペンサー)のディフェンス力のなさが際だってしまった。ウェールズのあげたトライの内ふたつはスペンサーのディフェンス力のなさをついたものだった。一時は33-37とリードし、予選リーグ唯一の番狂わせが起こるかと思われたが、後半20分からオールブラックスのFWが目の色を変えて走り、結局8トライを奪う猛攻で54-37とウェールズを逆転した。
このゲームが魅力的だったのは、イングランド対南アフリカがほぼ完全なFWのガチンコ勝負だったのに対し、両チームとも展開に徹したことである。特にウェールズのアタックはフェーズが13を数えることもあり、ボールがめまぐるしく動く面白いゲームになった。最後はオールブラックスの貫禄勝ち。
だがウェールズの健闘によって、準々決勝はかなり面白いゲームが増えそうだ。ワラビーズ対スコットランド──これはワラビーズだろう。フランス対アイルランド──これはアイルランドがシックスネーションズのときのように、あるいはワラビーズ戦のように愚直さに徹してフランスの足を止めればわからない。イングランド対ウェールズ──ウェールズが今日のようなゲームができれば分からない。ニュージーランド対南アフリカ──大差になるか僅差の勝負になるかは南アフリカのFW次第。

 

[2003.11.1 オーストラリア対アイルランド ]

対アルゼンチン戦のときに書いたが、アイルランドの愚直なラグビーを応援する気にはならないのだが、それでも、このゲームのように「誠実な」愚直さを見せられると、その愚直さは感動的なくらいだ。アイルランドの戦術はただひとつ。ときかく敵陣へ。それだけ。今年のシックスネイションズでフランスを敗ったときも同じ戦術だった。別にファンタスティックなプレイがあるわけではない。華麗なライン攻撃があるわけでもない。第3列の徹底した繋ぎがあるわけでもない。マイボールになったら単に「敵陣へ」。その背景にはセットプレイの安定がある。キース・ウッドを中心にしたスクラム、そしてライン・アウト──このゲームでワラビーズ・ボールを獲った回数は5回。後は愚直に攻める。自陣からはオガーラのキック。敵陣にはいるとパス。強い両センターを中心に攻め、FWも誠実にボールを追う。そして諦めない。キース・ウッドとブライアン・オドリスコルを除くと才能ある選手は皆無だが、全員の戦術とメンタリティの統一で、このゲームではワラビーズを1点差まで追いつめた(16-17)。もし判定があれば、アイルランドの勝利だったろう。
それにしてもワラビーズはダメだ。トライ・ネイションズのときにも何度も書いたが、前回のワールドカップ時点から、だいぶ力が落ちている。ボールのリサイクル時点でのミスが多いから、継続できない。次第に押し込まれる。苦し紛れのキックで敵ボールになる。頼りになるのはセイラーの体力とジョージ・スミスの頑張りだけ。アイルランドの誠実さの前に有効なライン・ブレイクがほとんどできない。今日のワラビーズを見ていると、相手がイングランド、ニュージーランド、フランスならば、FW戦でも展開でも問題にならないのではないか。確かにラーカムがラインに入ってくる死ピー度は改善されてはいるが、両センターでも抜けない。セイラーだけが頼りでは、セイラーが徹底マークされれば、ライン・ブレイクはない。対ナミビアのように力量に大きな差があれば、大量得点は可能だろうが、ランキングは上でも、おそらく力がやや落ちるアイルランドにこれだけ苦戦する──ワラビーズは手を抜いていたわけではない──なら、準決勝までやっと進める程度だろう。
さて準々決勝でアイルランドはフランスと当たる。フランスはシックスネイションズのリヴェンジに燃えてくるにちがいない。アイルランドは、今日のように愚直な誠実さで対抗するしかなかろう。フレア対伝統的なラグビーの戦いが、そこで展開されるはずである。フランスが、この愚直さに対抗するには、スピードと展開力以外にないだろう。アイルランドのキックに対してバック3がどれだけ守れるか。そして、マイボールはできるだけワイドに展開し、アイルランドの「誠実さ」が届かない距離で勝負すれば、フランスのリヴェンジはかなうはずだ。

 

[2003.10.31 フランス対アメリカ ]

この予選プールCは、すでにフランスの1位通過が決まっており、興味あるゲームは勝った方が決勝トーナメントに進む、明日のスコットランド対フィジー戦だけだ。だからフランス対アメリカというカードは、今回のワールドカップ全体から見ても選手たちのモティヴェーションを維持できるゲームではない。だが、ことラグビーに関する限り、そして今回のワールドカップにおいてもアメリカというチームは誠実なチームだ。対フィジー戦でもベストをつくし、すでに予選敗退が決まった後でも、対ジャパン戦でも全力の勝利をあげた。だからフランスにも真っ向勝負を挑むはずだ。問題は、フランスにある。こういうゲームでのフランスは概して出来がとても悪く、負ける可能性もある。予選の1位突破は決まったし、後のゲームを考えると怪我がいちばん怖いからタックルにいかない、負けてもよいから適当にやる。それがフランスの「伝統」だ。だが、そうした伝統に抗してベルナール・ラポルトはスタメンを全員入れ替えるという手段に出て、モティヴェーションの維持を図ろうとした。9月の対イングランド戦の2連続テストマッチでも初戦に勝利したトゥウィッケナムの第2戦で、フランスは同じようなことをして、14-45 というスコアで大敗している。
だが、心配は杞憂だったようだ。キックオフ直後からフランスは全開。前半を3トライ、1コンヴァージョン、3PGの26-0で折り返した。アメリカの強力FWを文字通り粉砕してしまった。特にスクラムで完勝。敵ボールのスクラムに2度も押し勝ち、ターン・オーヴァー。この日SOに入ったメルスロンからのワイドな展開とラビを中心にしたFWの力でどの局面においてはほぼアメリカに付け入る隙を与えない。良かったのは3トライでもあるけれども、それよりも力ずくでゴール前に迫るアメリカをノートライに押さえ込んだことだ。FBのポワトルノーは攻守にわたって貢献していた。マーシュの代わりにセンターに入ったリーベンバーグも2トライをあげた。
だが、後半に入るとアメリカが風上に立ったためか、ディフェンス網を破られて2トライ(コンヴァージョン)を献上している。前半にあまりに差がつきすぎたため、接点にアメリカに押し込まれ、展開に持ち込めない。このあたりはゲーム・キャプテンがフッカーのブリュだったため、誰がゲームをリードするのかはっきりしない部分があった。ガルティエの代わりに入ったヤシュヴィリはやはり相当力が落ちるようだ。キックの判断ミスを2度したし、パスアウトも安定していない。ガルバジョザが帰国した代わりにやってきたダヴィッド・ボリがウィングに起用されたし、エロルガも虫干しされたが、彼らに有効なボールが回る以前にトライが生まれ、力を見極めることができなかった。ゲームは、41-14で終了。トライ数差5-2。
フランスは4戦全勝で決勝トーナメントに進むが、対ジャパン戦、対アメリカ戦で手を抜き(51-29、41-14)ながら勝ち、対スコットランド戦、対フィジー戦(51-9、61-18)に本気を出している。このあたりを見ると、フランスも波は少なかったが、フランスを思わせる波は十分に感じられる。次戦はオーストラリアかアイルランド。どちらが来ても難敵だ。オーストラリアには昨年のテストマッチ2連敗。そしてアイルランドにはシックスネイションズに敗れている。だがとりあえずフランスは良い仕上がりで来ている。

 

[2003.10.27 アメリカ対ジャパン ]

東京のスタジオにいる清宮克幸は「紙一重」だが、それをコーチングすべきだと語った。確かに第5回まで連続出場とは言え、ジャパンが出場を「実感」したのは今回が初めてだったろう。「善戦」は「善戦」でも今回のようにどのゲームも「紙一重」を体験したことはなかったはずだ。91年にジンバブエに完勝したものの、そこには力の差があり、「紙一重」は存在せず、「ひょっとしたら勝てるかも知れない」という想いがゲーム中に選手の頭をかすめたのは、今回が初めてだったはずだ。後半残り10分まで1点差というゲームは疲れる。しかし、それを乗り越えなければ勝利はなく、戦いは「善戦」に終わるだけだ。
冷静に分析すべきだ。対アメリカ戦は26-39での敗戦。ラスト10分には26-27だった。そこから10分のコンセントレーションが勝敗を分けたのだろうか? 残念ながら私はそうは思わない。このゲームもまた栗原のキックによって拮抗した勝負になったことは誰でもが覚えているだろう。彼が外したのは1本だけ。4PGと2コンヴァージョンを決め、またトライも1つ記録しているから、ひとりで21点稼いでいることになる。後は大畑の1トライだけ。このゲームでもまたアメリカにトライ数で完敗している。2-5。2トライしか奪えず、5トライを献上すればゲームには敗れるのだ。スコットランドには4トライ、フランスには6トライ、フィジーにも5トライを献上している。フランス戦を前にして私はフランスを4トライ以下に押さえることが「善戦」の条件だと書いた。だが、結局6トライを奪われている。平均して1ゲームに5トライ奪われる──それがジャパンのディフェンスの現実だ、と清宮は言う──。もしコンヴァージョンがすべて決まると35点。つまり、現在の状況で強豪国とゲームをすれば、確実に5トライは奪われるから、もし勝利を収めるためには、5トライ以上取らなければならない。今回の4ゲームを見ていると、それが無理な注文であることは納得できるだろう。イーヴンのウェイトと運動能力があれば、それも夢ではないが、現在の状況を考えれば、ジャパンに5トライを求めるのは酷だ。ならばこれもフランス戦を前に書いたように、4トライまでに押さえるディフェンス力を付けること。そして4トライ奪いゲームの趨勢を不明なものにするしかジャパンの戦い方は想像できない。4トライに押さえるためには、多くの人々が書くようにラスト10分に集中することだ。
だが、それより問題なのは、どうやって強豪国から4トライ以上奪えるのかということだろう。ジャパンは、スコットランド戦1トライ、後のゲームでは2トライずつしか奪っていない。ワールドカップのようにディフェンス主体のゲーム展開の中で4トライ奪うことは本当に難しいことだ。大畑、小野澤への批判はさんざん書いたので繰り返さない。そしてジャパンがFWでトライ奪うことは、想像することが困難だ。FW戦では常に劣勢。とすれば、フロント3の力の向上だろう。コニアがフランス戦で奪った美しいトライが参考になるだろう。コニア、元木共にディフェンスで頑張っていたし、接点で身体を張っていたのは認める。だが、彼らの活躍にとって得たトライは、フランス戦のサイン・プレイだけ。ここがポイントだろう。もっとフロント3の力を使うこと。それにはラックからは素早くチャンネル3──つまり大外──に展開し、両センターがフォローしていくラグビーを常に志向することが必要だ。セットを安定させて、そこから大外、そして、さらにその外側にいるセンターへ。この形こそジャパンがトライを4つ取れる唯一の方法だろう。
とりあえずジャパンのワールドカップは終わった。オーストラリア対アイルランド戦を残して決勝トーナメントに入るが、真のラグビーはまさにこれから始まる。

 

[2003.10.26 アイルランド対アルゼンチン ]

アルゼンチンがここまで2勝1敗、アイルランドが2勝。だがアイルランドは対オーストラリア戦を残している。ここで敗れた方が予選敗退が決定する。
開始早々から両チームとも実にディフェンシヴな選択をする。どちらかと言えばプーマスが有利にボールを支配するが、アイルランドは接点で徹底した絡みを見せて、プーマスに有効なボールはなかなか出ないし、流れに乗ったアタックは見られない。アイルランドにしても──これはこのチームの常だが──、センター・クラッシュ中心のアタックで冒険はしない。前半はアイルランドが1トライ(コンヴァーション)、1PG、プーマスが3PGの10-9。ポゼッションではプーマスが上回っているのだが、この日起用されたSOケサダが有効なボールを展開せず、ほとんどキックという選択をし、アイルランド・ラインアウトから攻撃が再開されるという実に面白くないデジャ・ヴュばかりが続くゲーム。点差の割に互いのディフェンスとアタックがしのぎを削ったゲームではなく、接点とキックだけのゲームになった。
後半プーマスが1DGをあげ、ゲームをリードする。直後にアイルランドがPG。後半入ったSOオガーラのキックとラインのリードが次第に良くなり始めた時間帯だった。13-12。確かにハンフリーズは前半いくつミスを重ねたことだろう。パスもキックもアタックも平均点だが、ミスのないオガーラの起用が結果的にアイルランドを勝利に導いた。その後両チームともラインブレイクが少なく、PGとDGを1つずつ入れ合い、結局、アイルランドが16-15という僅少差で逃げ切った。
プーマスを見たのはこのゲームが2ゲーム目だが、本当に失望した。ワールドカップ前のテストマッチ・シリーズでフランスに2連勝し、スプリングボクスに1点差の好ゲームをしたので、この大会でどんなラグビーを展開するのか秘かに楽しみにしていたが、ワラビーズには完敗、そして、アイルランドには惜敗。今晩のゲームは、1点差だったものの、有利な部分はひとつもなかった。なんらクリエイティヴなラグビーが見られない。これで予選リーグを突破しては失礼だ。昨日のフランス対スコットランドを見る限り、あのフランスがこのアルゼンチンに敗れるのは不思議だが、あの2連敗は言葉の真の意味で「テスト」だったのだろう。
しかしアイルランドがこのプーマスに1点差の辛勝では、世界ランク3位の看板が廃る。今年のシックス・ネイションズでフランスに勝ったゲームを見ると、ゆっくりとした「伝統的」ラグビーを展開し、そのペースにフランスを巻き込んで勝ったという印象だったが、今回もその印象は変わらない。このコラムでは書かなかったが、ニュージーランド対トンガ戦では、SOのスペンサーの「煌めき」が増し、オールブラックスの今後が愉しみになったが、このアイルランド──おくら忠実で誠実なプレイを続けているとはいえ──を応援することはできない。このラグビーはアナクロニズムだ。展開へのクリエイティヴィティがない。こうした接点だけのゲームでは、イングランドやスプリングボクスといった接点の強いチームと当たれば、勝機は見えない。

 

[2003.10.25 フランス対スコットランド ]

先日のイングランド対南アフリカ、明日のアイルランド対アルゼンチンと並んで予選リーグでもっとも注目を集めるゲーム。両チームともすでに対ジャパン戦を済ませており、スコアは32-11、51-29だった。つまりスコアの面ではスコットランドが有利だということになる。だがジャパンが11点しか取れなかったチームから、フランスは51点奪った。5トライ(4コンヴァージョン)、5PG、2DGの猛攻、しかもスコットランドを3PGのみに押さえた。結果は51-9。このゲームに限ってスタッツのある数字がフランスの絶対的な優勢を示している。ライン・ブレイクの数だ。フランス8に対して、スコットランドは何と0。フランスの圧勝だ。フランスがジャパンに29点を献上したのは、気を抜いていたからとしか思えない。だが勝てば良しというのはこのチームの伝統的なメンタリティだ。強いと思われるチームには全力を尽くし、格下に対しては手を抜く。
確かに前半はスコットランドのディフェンスも悪くなかった。真面目に前に出て、なかなかフランスのライン・ブレイクを許さなかったし、ターン・オーヴァーにも何度か成功した。だが、アタックにまるで芸がない。マイボールを確保してから、ひたすらクラッシュを試み、フランスの詰めのディフェンスに対してずるずると下がり、結局、タウンゼント(スタンドオフ)のキックしか選択肢がなくなる。それの繰り返し。スコットランドのタウンゼントのキックにバック3とSO、SHが適切に対応し、最低でも敵陣のライン・アウトからのリスタートになっていた。ジャパンのコニアのトライのようなサイン・プレイによる工夫はスコットランドにはない。ひたすら愚鈍かつ凡庸にクラッシュするだけ。スコットランドにはラグビーの近代はまだ訪れていないようだ。真面目にディフェンスはするが、どうやって点を取るのかという思考の後がまるで見られない。それに体重差で勝るスクラムまで2度もマイボールを失う始末。好ゲームを期待した私たちは、とりあえずこのゲームのスコットランドに失望したが、同時に、こんなチームに敗れるジャパンのレヴェルの低さにも驚かされた。
もちろんフランスにも問題がないわけではない。前半奪った唯一のトライであるマーニュが持ち出し、アリノルドキがフォローし、ベッツェンにオフロード・パスを繋いでトライしたシーンは、フランス第3列の技術の高さと忠実さを窺わせるものだったが、後半に入って、スコットランドのディフェンスの間隔が開いてきたせいもあるが、ミシャラクがすいすいと抜け、ラック・サイドをガルティエが抜けてトライするのを見ると、肝心の超ワイドな展開がこのゲームでも見られなかったことを考えざるを得ない。後の2トライも、モールからアリノルドキが押さえたものと、この日FBに入ったブリュスク(解説の小林深緑郎の取材によるとブリュスクの方がポワトルノーよりも評価が高いとのこと)の個人技による独走トライであり、美しいライン・ブレイクから奪ったトライはひとつもない。超ワイドな展開への試行も何度か見せたが、この日もまたルージュリのポジションが前過ぎて、パスがうまく通らず、アタックはルージュリからのラックになった。マーニュ、ベッツェンがラインを越えてワイドに開き、そこから展開するというベルナール・ラポルトの方法は、このゲームでも日の目を見ていない。予選のラスト・ゲームである対アメリカ戦には主力を温存するだろうが、FW戦にこだわらず、決勝トーナメントに向けてのエクスペリメンタルな方法──つまり、対イングランド、対オールブラックス向けの方法──を実践しつつ、その完成度を高めて欲しいと思う。

 

[2003.10.24 対フィジー戦を振り返る ]

勝てるゲームを落とした。新聞の論調はそうしたコンセプトを中心にしている。だが、昨日のゲームで一度でもジャパンがリードしたことがあったのか? それよりも、今回のワールドカップに入ってジャパンがリードしたのは、フランス戦の開始早々にPGをしめたわずか数分間だけだった。まずディフェンスという合い言葉は当然としても、「高速バック3」というのは大いなる誤解だったことがすでに証明されてしまった。大畑、小野澤、栗原で構成されるこの3人は、イーヴン以上のゲーム展開でなければまったく不要の存在であることがよく分かった。かつてのジャパンに比べてFWはよく頑張っていると思う。マイボールスクラムをめくられることはないし、ライン・アウトをまったくとれないこともない。事実、対フィジー戦ではポゼッションでもテリトリーでも5割以上を支配していたことをスタッツは示してくれている。
かつてのジャパンならば、ボールを3割支配できれば勝てるとか、マイボールだけでも安定したボールが出せれば勝利は近づくといったことがよく言われていた。つまり、体格差と体力差のあるFWが何とかしのげば、バックス勝負に持ち込み、トライを取れるという確信があったのだろう。大西ジャパンのニュージーランド遠征でオールブラックス・ジュニアを敗ったゲームをビデオで見たことがあるが、紙一重のパスが次々に繋がれ、ノックオンなどは皆無に近い。すれ違いざまのパスが通っていた。あるいは83年のウェールズ遠征でウェールズ15を24-29まで追いつめたゲームは、後半に点差を詰め、あわやの期待を抱かせたゲームだったが、そのゲームでも、小林、金谷の両センターは、きわどいタイミングでパスを繋いでいる。
ジャパンのFWの能力は当時に比べて格段に進歩し、その速度は、伝統的なラグビー大国を上回っている。だから、問題はバックスにある。対フィジー戦では、フランスやスコットランドに比べてボール支配率が高まったのにもかかわらず1トライしか取れていない。その虎の子の1トライを決めたのはミラーだが、そのトライは8割くらい伊藤剛臣がお膳立てしたものだ。箕内、大久保、伊藤の第3列は、少なくともスコットランドやフィジーよりも上だった。クラッシュしかできないパーキンソン、ディフェンスやキックされたボールの処理が高校生程度の大畑、キックはよいが、FBとしてハードタックルの皆無な栗原、変幻自在なステップは持っているが、根本的なスピードを欠く小野澤。神戸製鋼やサントリーではほとんどのゲームにおいて、ボール支配率が高いからディフェンスの機会が少なく、また特にブランビーズ流のサントリーでは、ディフェンスよりも、相手より多く点を取ることが美徳とされているようだ。少なくともジャパンのゲームを見る限り、競ったゲームをものにしていく以外、ワールドカップに勝機はない。この形に持ち込めば絶対にトライできる「型」を持ち、それを徹底して反復練習していくこと、そして何より不利なセンタークラッシュをやめること。そしてトップリーグ全体として、目先の勝利ばかりに拘るチーム作りではなく、とりあえずジャパンが来るべきワールドカップでトップ8に残れるためにどうしたらよいのかを全チームが思考し、それを実践していくくらいの心構えがないと、ジャパンはずっとトライがとれないままだろう。

 

[2003.10.24 フィジー対ジャパン ]

41対13という大差のゲームは冷静に受け止めねばならない。トライ数の差は5-1。これでは勝負にならない。前半こそ16-13というイーヴンの展開だったが、後半は25-0。もちろんフィジーがアメリカ戦から中7日、ジャパンがフランス戦から中4日という日程の差を敗戦の原因にすることは理解できないではない。確かに後半の20分から、ジャパンFWの足がばったりと止まり、ラックを支配することがまったくできなくなった。だが、このゲームを見た感想を率直に述べれば、フィジーが後半、SOのリトルから常に大畑サイドにキックがあがり、大畑はノックオンをしたり、背走したりで、まったく対応できなかった。アタックの切り札をディフェンスに貼り付け、攻撃に参加させないだけで、フィジーは、ゆったりと勝負ができるはずだし、さらにディフェンスに貼り付けた大畑のディフェンスがザルだとしたら、差はどんどん開いていく。Fwはひたすら背走し、希に確保できたボールからアタックを組み立てようとしても、パーキンソンの無理なクラッシュでボールを失うばかり。疲れの見えたFWがフィジーのアタックにスペースを与えれば、これまで封印されていた──マイボールが少なかったり、相手のディフェンスが良かったりで──フィジアン・マジックでトライを奪われる。
私は、対フィジーのゲームでは、オーソドックスに戦った方が良いと書いた。事実、モールを中心にした組み立てはかなり功を奏したようにも見えたが、私の言うオーソドックスというのは、モールでゆっくり攻めることではない。ジャパンのバックスの力では、モールで優位に立ったとしても、すでに揃っているディフェンス網を突破することはできないだろう。ジャパンとしてのオーソドクシー──つまり、ボールを獲ったら、ウィング勝負。最近はセンターでディフェンスを引き付けてからウィングへパス、あるいは、そこに囮のセンターが入って……などと手をかけすぎている。もっとオートマティックにウィングまで回し、フォローしていく。それこそフランスがやったようにワイドに展開すればフィジーのFWは体力を消耗するはずだ。走り勝つはずのジャパンが、走り負け、フィジーに忘れていたフィジアン・マジックを思い出させてしまった。スパッスパッとパスが繋がり、スワーブしたウィングが内に返し、すれ違いざまをセンターかFBがトライ。「伝統工芸」と呼ばれるこの種のパターンは、もう滅びてしまったようだ。
ジャパンはこの敗戦で、アメリカ戦へのモティヴェーションを保つことができるだろうか。フットボールのフランス・ワールドカップにおける日本のジャマイカ戦をもう一度見るような気がする。

 

[2003.10.20 フランス対ジャパン/イングランド対南アフリカ ]

51対29という点差による敗北、そして一時は19対20と1点差まで迫ったことで、またこのゲームもまた「善戦」という見出しが新聞に踊った。私も「善戦」が義務だと書いた。だが、大方の「感動」に反して、そしてジャパンのサポーター歴ウン十年の私に期待される言説に反して、私は、このゲームがジャパンの善戦だとは思わない。いくつか理由を示そう。
まずフランスのアタックに対してジャパンのアタックの回数が決定的に少なかったこと。フランス・ゴールに迫る惜しいアタックはその回数が限られ、数少ないマイボールを支配できる時間帯もわずかなものだった。支配率から考えると、フランスが圧勝しており、最終的なトライ数の差(6-2)は、そのままゲームに現れた力の差に映った。トライ数に7を掛ければ(つまりコンヴァージョンがすべて決まったわけだ)42-14ということになる。これは42-14のゲームだった。それほど点差が開かなかったのはひとえに栗原がすべてのPGを成功させたからであり、一方ミシャラクは何度かPGに失敗している。内容的にはフランスの圧勝だった。
ジャパンのディフェンスがよかったのは前半の20分過ぎから前半の終了までのことであり、後半は、開始早々、栗原のPGが決まり、19-20に迫ったのは事実だが、その直後に連続的に2トライ(コンヴァージョン)を奪われている。ファビアン・プルーズに一気に中央を割られ、内に入ってきたドミニシにトライされた。事実上ゲームはここで終わった。サポーターの私は、15点差でも淡い期待を抱いたが、またルージュリにトライされ、ゲームは22 点差になった。大畑のトライが決まったのはその後のことだ。大畑のトライの後にもまたクランカにトライされている。足首に突き刺さるタックルがよい、とされているが、ほとんどのボールをフランスが支配し、後半のジャパンに許されたアタックはゲームが決まってからのこと。特にルージュリに決められたトライは、まず小野澤が抜かれ、それから栗原が抜かれ、心配していたバック3のディフェンス力の乏しさをつかれたことになる。特に栗原(フルバックだろう君は!)のディフェンス力のなさは目を覆うばかり。
大久保を除いて接点に引けを取るジャパンは、もし勝ちたいならマイボールは必ずトライに結びつけるぐらいの決意が必要だった。相変わらずパス・アウトの遅い苑田、そしてせっかく得たボールをチップ・キックに逆襲を浴びることしか知らぬ大畑。軽いプレイが後を絶たない。前半のコニアのトライは伝統的なジャパンのトライで、その「美」を私は否定しないし、大西時代のジャパンと見まがうばかりのクリーンなトライだったが、結局、私の観察する限りジャパンは完敗した。
ではフランスはどうだったのか? フランスにも大いに問題は残る。ジャパンは完敗だがフランスも快勝ではない。開始早々、ルージュリ、ミシャラクはいきなりトライ。これでリズムが悪くなった。彼らにもまた軽いプレイが続き、ジャパンにターン・オーヴァーを許したこともあったくらい。ルージュリもミシャラクも内を抜いたので、内側に比重がかかりすぎ、ワイドな展開をまったく忘れてしまった。ワイドに展開できたので数回だが、もっともうまく行ったときにも、ルージュリへのラストパスの角度が深すぎ、ルージュリに渡らなかった。フラットでワイドな展開を見せられなかったのは、フランスにしても問題が残る。タッチ・ライン際にベッツェン、マーニュが立つシーンは見られなかったし、特にマーニュは不調だ。後半の最後にシャバルが登場したが彼の方が好調なようだ。2トライを簡単に奪ってから全体に個人技に走りすぎ、ライン・ブレイクに成功しても、フォロワーが遅い。予選突破は確実なところだが、絶対に勝てるこうしたゲームは、もっとリスクを負ってでも「自分たちのプレイ」の習熟度を高めていくべきだったろう。
それに対して予選リーグいちばんの注目であるイングランド対南アフリカは、ラグビーの伝統的な意味において、実に見応えのあるものだった。どちらもバックスが目立つのはキック処理からのカウンターのときだけで、私たちの目に映るのは接近戦ばかり。このゲームでの接点での攻防の激しさを見ると、フランスFWが七分の力で戦っていたのが分かる。こうした微視的なゲーム展開が嫌われ、スーパー12の展開ラグビーに人々の目が移っていくのだが、たとえラインにボールが出たとしても、パスが連続的に継続してブレイクすることは想像できないようなディフェンス・ゲームもまた見応え十分なのだ。解説の梶原も言っていたが、「こうしたチームを見ていると、ジャパンのように内側を抜かれることはない」。
そして、こうした類のゲームに番狂わせはない。前半こそウィルキンソンが得るPGとルイ・クーンが得るPGの位置を比較して南アフリカの運のなさを感じたが(ルイ・クーンのそれはいずれも難しい位置である上に遠い位置からのものだった)、それは単にイングランドがゴール前でペナルティを犯したりしないからなのだ。南アフリカの「出足のよい」FWがイングランドのアタックを止めるために、ほとんどオフサイド気味に出ていくの対し、イングランドはゴール前でも、俗に言う「懐の深さ」で乗り切っていく。特にニール・バックが素晴らしい。ウィルキンソンのPGで次第に点差が開き始め、ついにムーディのチャージからグリーンウッドがトライしたところで勝負は決まった。22-6。その時点では、どう見ても南アフリカがイングランドから連続して2トライ奪うのは無理なように感じた。少しずつ少しずつ差が見え始め、イングランドは接点で我慢を続けているだけだろうが、それだけでウィルキンソンのキックが勝利を呼んできてくれる。
イングランドは強い。こうしたイングランドに勝つにはどうしたらよいか? 決してスペキュタキュレールな展開ラグビーを志向しない「つまらない」が強いイングランドをうち破るにはどうすればいいのだろう? 方法はふたつしかない。ひとつは、イングランドFWに接点で勝とうとするこの夜の南アフリカの方法。だが、ワラビーズを一度は敗った南アフリカのFW以上に接点が強いチームがあるのか? そしてその南アフリカが敗れたわけだから、今回の大会に限れば、その方法は想像しにくい。そして次に、接点での攻防を頑張るのは当然だが、たとえそれに敗れているにしても、セット・プレイからイングランドFWが届かない遠くでの勝負に持ち込むこと。オーストラリアとアイルランドには、それは不可能だろう。ウィングに決定力のあるオールブラックス、あるいはフランスだけにその可能性がある。だが、対ジャパン戦のフランスではイングランドに勝てない。ベルナール・ラポルトはその方法を確立するために超ワイドな展開を志向してきたはずだ。対アメリカ、対スコットランドで、ジャパン戦の轍を踏まず、彼らの方法の精度を上げることができれば、決勝トーナメントで面白いゲームが見られるだろう。

 

[2003.10.16 対フランス戦を前に]

イタリア対トンガ、サモア対ウルグアイというゲームを見ていると、どちらも大差がついたが、ゲームとしてまったく面白くない。2ゲームとも前半は競っていたが、後半になると大差がつく。トンガ、ウルグアイというチームはやはり実力が高いチームとあまり対戦していないのがゲーム展開を困難にしていくことを証明してしまった。どんな分野でも同じことだが、常にハイレヴェルの攻防を行っていないと、チーム全体の力が上がってこないのだ。一応イタリアを含めたシックス・ネイションズ所属のチームとトライ・ネイションズの3チームが、その他のチームと当たると例外なく大差のゲームになる。その意味では、スコットランドに対したジャパンは健闘していることになるだろう。競ったゲームとしてはフィジー対アメリカの19-18。
前半をしのいだチームがなぜ後半になって大差をつけられるのか? フィットネス不足もあるけれども、何度も書くが、どの程度競ったゲームを常にしているのか、ということになると思う。その意味で、ジャパンは、台湾で対オールブラックスのリヴェンジをしても、クロスゲームを戦った経験が少なすぎる。フィジーやアメリカには勝つチャンスがあると書いたが、勝つならクロスゲーム、負けるならかなり差がつくだろう。クロスゲームを拾っていくのになによりも必要なのは、集中力と精神的なタフネス。集中力が切れると一気に差が開き、精神的にタフでないと──つまり最後まで諦めない──結果は出ない。スコットランドに健闘したといっても、それは「健闘」であって、決して勝利ではない。
それではフランス戦をどう戦えばよいのか? フランスは先発メンバーを6人入れ替える予定。第1列はクランカに代わりミルー、イバネズに代わりブリュ、ロックはティオンに代わりブルゼ、ナンバー8はアリノルドキからラビ、センターはジョジオンではなくトライユが先発、そしてFBにはポワトルノー。これはメンバーを落としているわけではない。第1列の力は多少落ちるだろうが、ブルゼはかつてのレギュラー、そしてトライユ、マーシュのセンターはフランス最強、FBは、ニコラ・ブリュスクよりもポワトルノーだ。つまりフランスはどん欲に勝つつもりでくる。
対するジャパンは、坂田、山村、田沼、苑田、ミラー、難波、コニア、栗原を先発させるという。向井昭吾のセレクターとしての才能の欠如を感じる。坂田のスローイングの不安定さはスコットランド戦の後半に点差が開いた原因のひとつ。苑田のパスアウトの遅さはもう直らない。スコットランド戦の唯一のトライはミラーと元木のループから生まれた。元木は怪我でもしているのか? イングランド戦の交代を思い出す。山村、田沼でスクラムは大丈夫なのか? ほとんどのボールをフランスが支配することになるだろうが、栗原の守備で大丈夫なのか?
対フランス戦、ジャパンは「善戦」することが使命だ。そうしないとフィジー、アメリカ戦の展望は開けない。それには点差を開けられないこと。つまりタックルだ。ハードタックラーを並べることしか「善戦」への道は開けない。苑田、ミラー、栗原という選手たちで「タックル」は大丈夫なのか? でも、もっと心配なのは、ルージュリを小野澤が、ドミニシを大畑は止められるのかということだ。そしてワイドに展開するベッツェン、マーニュを大久保、箕内がどれだけ止められるのか、ということだ。ジャパンのスコアはどうでもいい。問題はフランスを4トライ以内に押さえられるのかということだ。前半、あるいは後半の開始直後までにジャパンがトライをひとつでも奪えれば「善戦」としよう。
でも、18日でもっとも注目すべきは、イングランド対南アフリカとサッカーのチェルシー対アーセナルということになるよね。忙しい夜になる。

 

[2003.10.13 スコットランド対ジャパン戦を振り返る]

毎日ゲームを見た直後にこの日記を書いているので、何を書くか、どのような構成にするか、など一切決めないまま書き始めている。すべてがインプロヴィゼーション。今日はゲームがない日なので、一度くらいは冷静に前日のゲームを振り返りたい。ジャパンのすべてを賭けた初戦、なのでなおのこと。
朝日新聞の清宮のコメントがさすがだった。フラストレーションが溜まったこと。ミラーはよいが辻を苑田に代えるべきではなかったこと。大久保の交代も不要。肝心なところでのノックオン(これは伊藤剛臣か)やラインアウトからのスローミス(これは網野に代わった坂田──全回のワールドカップでも彼のこのミスでずるずると敗れた)。これでは勝てない。以上が清宮の大意。同感。
なぜフラストレーションが溜まったのか? やりたいことができそうで、その寸前までいって、結局、できないからだ。接点が弱く、余裕のない球出ししかできないからだ、と言われればどれまでだが、接点が弱いなら、接点を少なくし、モールラックを減らし、ワイドに展開するしかない。何度かフェイズを繰り返してトライに結びつけられないなら、一発でゲインし、できればトレイに持ち込むしかない。向井昭吾だって何度もそう言っている。その通りだが、それができない。だから負けた。なぜそれができないのか? タックルはよいがなかなか活きたボールが出ない──予想通り。ターンオーヴァーから展開に結びつけられない──ある程度織り込み済み。活きたボールを正確にそして迅速にトライに結びつけること。これができない。だから清宮が言う、ノックオンやスローイングミスをしていては勝てない。すべてがうまく運んでやっと勝てる相手に勝つこと。10回に1度しか勝てないゲームをワールドカップにすること。
スコットランドは、今回すでに出場しているワラビーズやイングランドやフランスに比べると相当レヴェルが低い。フィジーよりも決定力がないのは確か。今年の6カ国対抗でフランスに3-38で敗れたゲームを見たが、どの局面においても決定力に乏しい特徴のないチームであることは、それから半年経っても変わっていない。このチームにどうやって勝つかについて反復練習したのだろうか? 気迫は感じだが、どうやって勝つのかのというデザインは必要だろう。キックだけでは勝てない。ミラーの個人技だけでも勝てない。ボールを獲ったときの4フェイズ目くらいまで動きを決めておくことがまず必要であり、そこから大畑なり小野澤の個人技に期待する方が勝つ確率が高かったような気がする。
とにかく5回のワールドカップで最高のゲームであるという新聞論調には賛成しない。第1回の対ワラビーズ戦は感動ものだった。それよりも清宮の言うフラストレーションの溜まったゲームだったことは確か。

 

[2003.10.12 スコットランド対ジャパン]

向井昭吾が監督に就任以来2年2ヶ月、その歳月は、この1戦のためにあったはずだ。だが結果は32-11。後半の20分には15-11と4点差まで追いつめたが、それから1PG、2トライ(ゴール)を奪われた。実力の相違と言えばそれで終わりだ。スコットランドの順当勝ちと書けばそれで終わりだ。だが、前半を15-6と9点差で折り返し、後半12分でSHの辻、SO広瀬を苑田、ミラーに入れ替えた。これは向井の作戦だし、その直後にミラーがライン・ブレイクし、明らかに流れが変わった。そして小野澤のトライを引き出し、4点差に迫る。問題はここからだ。
ゲーム開始直後からスコットランドはラッシュし、FWのごり押しから左サイドに展開し、トライ。ジャパンも広瀬のPGで7-3に迫るが、再び左サイドをロックが疾走しトライ。パターソンのキックが絶不調なのに対し、広瀬は普通の出来。スコットランドはFWのピック&ゴーとセンタークラッシュ中心の単調なアタック。体格差という利点を活かす作戦だが、ジャパンもよく止めていた。1度は伊藤の突進から大畑がゴールに迫るが、カヴァーディフェンスが間に合い、トライはならなかった。
そして後半、一進一退の展開から苑田、ミラーを入れ、リズムが明らかに変わった。しかしジャパンに波が来たのは、ここから10分ほどだけで、後半25分からは、自陣22メートル以内でのディフェンスばかり。FWはアラン・パーカーを中心に頑張り、何度かターン・オーヴァーするが、そこから「スピードアタック」へ持ち込むことができない。「自力の差」と書けばそれまでのこと。さすがシックス・ネイションズ出場国と言えばそれで終わり。だが、ここでは冷静に敗因を検討してみよう。
前半に取られた2トライはいずれもスコットランド左サイドからもので、ライン際を破られている。つまりジャパンの右サイド、大畑のポジショニングの悪さ──ほとんど被りすぎ──から生まれている。後半の2トライの内、最初のトライは、自陣10メートル付近の敵ボールスクラムをめずらしくジャパンがプッシュしたところを右サイドに展開され、大久保のタックルが一瞬遅れた結果生まれたもの。小野澤のカヴァーディフェンスも鋭さを欠き、ナンバー8にトライを決められた。最後のトライは、もう勝負の趨勢が決してから奪われたもの。つまり3トライは、いずれも両ウィングのポジショニングの悪さやタックル・ミスからのもの。「バック3によるスピードアタック」が逆に敗因を作っている。大畑と小野澤で敗れているのだ。大畑はノートライ、小野澤は1トライなので、小野澤はプラスマイナス・ゼロだろうが、大畑は2トライ奪われているのだマイナス10 点。
後半25分からミラーの役割はライン・ブレイクではなく、タッチキックとタックルだけ。これでは広瀬の方がよい。また苑田に代わってから配球が遅くなり、マイボールになったとき、すでに敵のディフェンス網は整備されていた。
つまりこういうことだろう。これだけボールを支配されて4トライに押さえればディフェンスは合格点。FWも4割のボール・ポゼッションをキープできたのは立派。最終的なスコアが32-11であることは問題の所在を明瞭にしている。もう一度書くが、実際に4トライ目はノーサイド直前なので問題ではない。3トライに押さえたディフェンスはよい。問題はなぜ1トライしか取れなかったのか、ということだ。だからジャパンとしては3トライ取られるが、4トライ取る方法こそを考えるべきだったのだ。FWは頑張っていたがボールを支配することはできない。わずかしか取れないボールをすべてトライに結びつけることができれなければ、格上にチームに対するジャパンの勝利は絶対にない。ではどうやって4トライ取るのか? 残念ながら私にも分からない。でも最低限言えることは、ジャパンのバック3程度の実力では格上から4トライは無理だ、と言うこと。
「すべてを賭けた初戦」に敗れ、モティヴェーションを保てるだろうか? 私は、スコットランドとフランスに勝つチャンスはないだろうが、フィジーとアメリカになら可能性があると思う。もちろん過去の経緯から考えれば「勝てる」とは思わない。ただ可能性がある、という程度だ。

 

[2003.10.11 フランス対フィジー]

日本で活躍している選手がいるとは言え、フィジーのチームを見るのは久しぶりだ。フィジアン・マジックと呼ばれた脅威の繋ぎがまだ健在なのか?
ゲームはゆっくりとスタートする。フィジーがPGを決めれば、フランスのSOミシャラク(ハーフ団はガルティエ=ミシャラク──私の主張通り)がPGを返し、いかにもワールドカップらしい堅いゲーム展開。その後、敵陣に入ってペナルティをもらうと決まってガルティエの指がゴールを指す。フランスのディフェンスはあまりにシャローなのを感じたフィジーは、ディフェンス・ラインの背後にキックを落とす作戦に出て、左ウィング、ルージュリーのミスにつけ込んで、一時は8-6でリードする。だが、再びミシャラクのPGで1点リードし、ゲームの主導権を奪うと、フランスは一気にスパートした。22メートル付近のスクラムから、バックラインが左に移動し、ドミニシのトライ、そしてゴール前のラインアウトからモールを押し込んでトライ。前半は24-8。
後半開始早々、PGを返したフィジーは、自陣から攻め、ザウザウの個人技でトライ。一時は24-18まで追いすがったがゲームはここまで。それ以後、フランスはほとんどのボールを支配し、ガルティエのリードでオープン攻撃を繰り返す。癌から復帰し久しぶりに登場したトニー・マーシュがいぶし銀のつなぎを見せ、アウトサイドのジョジオン(この選手はヤワで好きになれないが……)が3つの「ごっつあん」トライをあげる。結局61-18。フランスは合計7トライの猛攻で、圧勝した。
大会前のラストゲームでイングランドに惨敗したショックはまったく見られない。とくにディフェンスはシャローに徹し、フィジーのアタックが散発だったことを差し引いても、この1ヶ月で相当進歩している。超ワイドな展開も何度か成功している。フランスにとっては、生タックルつきの良い練習になったゲーム。
フィジアン・マジックはまったく影を潜めてしまった。選手の高齢化と重量化による運動量の少なさとスピードの欠如が原因だが、それ以上にフィジアン・マジックを見せるために何よりも必要なスペースが、フランスのシャローのディフェンスに完全に消されてしまい、キックに頼る単調なアタックが反復するだけ。ひとり平均フランスよりも10キロも重いFWは単なる木偶の坊になっている。
この日のフランスは、ゲーム後のインタヴューでコレクティヴなムーヴが良かったとガルティエが語っていたが、その通りだろう。だが、おそらくフィジーのディフェンスは日本よりも悪い。ディフェンス・ラインはテレビのモニターでも凹凸だらけ。単に練習不足なのではないだろうか?
この両チームは予選リーグでジャパンと当たることになるが、フランスにはまず勝ち目はない。手を抜いてくれてもイーヴンは夢のまた夢。でもボールさえキープできればフィジーには勝てそうだ。こんなフィジーのディフェンスが抜けないようでは、ジャパンのバック3は単に「遅い」ということになる。作戦としては、徹底してフィジーを走らせ、ディフェンス・ラインの穴を見つけることに集中すればよい。
ゲーム中、ミシャラクへの暴力的なタックルからゲームが荒れたが、レフリーはマーニュ(この日はあまり出来が良くなかった)とザウザウの「喧嘩両成敗」でふたりともイエローを出したが、これはまずミシャラクへのタックルをペナライズした後で、マーニュはイエロー、ザウザウはレッドというのがゲームを公平にすることだろう。
トライ・ネイションズや北半球の南半球遠征、そしてイングランド対フランスというテストマッチを連続してみてくると、ワールドカップとは言え、予選リーグのレヴェルは以外に低い。これはラグビーの強豪国が北半球6カ国と、南半球3カ国に偏っていることを証明してしまった。言葉の正しい意味において「予選」なのかもしれない。だが、8カ国が残る決勝トーナメントには、その内のひとつ(6+3=9)は必ず予選で消えることになる。イタリアかウェールズがその候補か?
ジャパンを含む3流国は、タイトなゲームをした経験が圧倒的に不足している。9カ国に含まれるが、力が下位の方であるスコットランドにしても3流国に敗れるわけにはいかない。明日はそのスコットランド対ジャパン。

 

[2003.10.10 オーストラリア対アルゼンチン]

シドニーでの開幕戦はワラビーズ対ロス・プーマス(アルゼンチン)。トライ・ネイションズでのワラビーズの不調とロス・プーマスの最近の好調──何と言っても対フランス2連勝、そしてスプリングボクスに1点差の惜敗──を考えれば、好ゲームになることが期待された。
だが結果は24対8でワラビーズの順当勝ち。プーマスのキックが入っていれば、もっと競ったゲームになったろうが、それは点差だけの問題で、どう考えてもプーマスに勝ち目はなかったようだ。まずワラビーズのディフェンスは、トライ・ネイションズ以前に完全に戻っている。まったく「すきま風」を通さぬディフェンスのカーテン。特に両フランカーのボールへの絡みは完璧だ。ボール・ポゼッションではプーマスが上回っているだろうが、なかなかそのボールがゲイン・ラインを切らない。ワラビーズの2トライというトライ数は誉められたものではないが、プーマスは1トライ(これはセイラーが振り切られたもの)しか取れなかった。つまりトライ数でも上回っているのだ。ラーカムとフラットリーのダブル・スタンドオフは時に見事なパス回しを見せていたが、仕留めまではなかなか至らなかった。プーマスの「詰め」のディフェンスが最後まで衰えなかったからだ。
だが、いかにワラビーズのディフェンスが再整備されたといっても、プーマスは期待はずれだった。もっとクリエイティヴなアタックを見せるのかと思いきや、4年前のゆっくりしたアタックのみではワラビーズに勝てない。モールを中心にゆっくりと攻めるか、ライン攻撃なのだが、ライン攻撃でのフレアはまったく見られない。ワイドでもショートでもない普通のラインで普通にボールを回すだけで、ワラビーズを崩すことなど不可能だ。SHピショットの早いパスワークは一度も見られなかった。
つまり、こういうことだ。プーマスのFWは完敗。スクラム、ラインアウトも完敗。FWが完敗し、マイ・ボールのセットプレイからの展開もほとんどなければ、ゲームに敗れるのは単に当然だ。前に出るディフェンスは時に垣間見せたが、それもカウンター・アタックに結びつけられたことはほとんどなかった。フランスが2連敗した後も、ベルナール・ラポルトは別に慌てたような言葉は吐かなかったが、ベストメンバーを出していないゲームだったためか、あるいは、ワールカップ本番では怖くないと踏んだのか、それは判らないが、確かに今晩のプーマスではアイルランドに勝てないのではないか。このグループでは、ワラビーズが一歩リードし、プーマスとアイルランドが同じくらいの力だろうと思ったが、プーマスのラグビーはどうも眉唾か。
だがワールドカップでのディフェンスは両チームとも実によい。30点を巡る攻防と私はよく書くが、攻防の沸点は30点よりも下がるかも知れない。


 

[11.24] 決勝戦 イングランド対オーストラリア
[11.21] 決勝戦を予想する
[11.20] 3位決定戦 ニュージーランド対フランス
[11.16] 準決勝 イングランド対フランス
[11.15] 準決勝 オーストラリア対ニュージーランド
[11.11] 準決勝を予想する
[11.9] 準々決勝第2日 準々決勝第2日 フランス対アイルランド/ イングランド対ウェールズ
[11.8] 準々決勝第1日 ニュージーランド対南アフリカ/オーストラリア対スコットランド
[11.4] 予選リーグを振り返る(2)──大差のゲームについて
[11.3] 予選リーグを振り返る(1)──ジャパンの未来
[11.2] ニュージーランド対ウェールズ
[11.1] オーストラリア対アイルランド
[10.31] フランス対アメリカ
[10.27] アメリカ対ジャパン
[10.26] アイルランド対アルゼンチン
[10.25] フランス対スコットランド
[10.24] 対フィジー戦を振り返る
[10.24] フィジー対ジャパン
[10.20] フランス対ジャパン/イングランド対南アフリカ
[10.16] 対フランス戦を前に
[10.13] スコットランド対ジャパン戦を振り返る
[10.12] スコットランド対ジャパン
[10.11] フランス対フィジー
[10.10] オーストラリア対アルゼンチン