juillet 12, 2010

祝祭の時間にリアリズムは要らない!

 参議院選の開票速報からW杯決勝になだれ込み、そのまま朝を迎え、月曜の仕事がやっと終えた。1日の間に、いろいろなことがあった気がする。
 ファイナルの結果は周知の通り。イニエスタの1発でスペインが延長を征した。「物語」のフィナーレとしては最高だ。スペインの中盤を徹底して潰しにかかり、オランダは何枚イエローを貰ったのか。ついに最後はハイティンハが退場になった。W杯という祝祭の場で、リアリストが勝利を収めるのはまちがいだ。祝祭という場は、それこそリアリズムが支配する日常からもっとも遠い別の規則が支配する。その祝祭を遠くから見守るぼくらにしても、不断ならとっくに眠りについている時刻に無理矢理目をさまして、祝祭につきあっている。同じフットボールでも長いリーグ戦ならリアリズムへの執着も分からないではない。だが、今日、ファイナルのピッチに立つ2チームでさえ、今日で7ゲーム目。チャンピオンズリーグを含めれば50ゲームを越えるビッグクラブの日常とは正反対の非日常の7ゲーム。しかも4年に1度の7ゲーム。それに多くのチームは、わずか3ゲームしかできない。その4年間の間には、もちろんユーロもあったけれども、真剣勝負はほんの数ゲーム。ここが祝祭の場として、多くの人々の注目を浴びるのなら、その場にリアリズムを持ち込むのは犯罪的だ。
 徹底して中盤を潰し、ロッベンで勝つ、というオランダの戦略は、だからぜったい阻止しなければならない。多くの人々は、ここまで2失点しかしていないスペインのディフェンスを誉めるが、いつだってスペインのディフェンスが優れていたことなどない。ポゼッションが高いので、常にパスが繋がるので、ベタ押されのディフェンスなど、このチームにはあり得ないのだ。ブスケツとシャビ・アロンソのふたりのボランチがしっかりしていれば、プジョルやピケがおたおたすることは少ないはずだ。
 だが、結局、延長。スペインの出来がそんなによくない──なにせ中3日だ──のと、オランダの体を張ったディフェンスのせいで、ボールは支配するが点が入らないという、この種のチームに典型的な膠着状態が続く。デルボスケは、珍しく次々に手を打っていく。まずペドロを外し、ヘスス・ナバス──これは彼の癖だ──、ついで、シャビ・アロンソを代えてセスク。つまり、ブスケツをアンカーに4-1-4-1。最後に、ちょととキレを欠いていたビジャ、アウト、満を持してトーレス、イン。(でも残念ながらトーレスは怪我)。しかし、延長に入って、スペインのボール回しはオランダをますます圧倒した。そしてセスク→イニエスタで勝ちきった。
 緒戦の対スイスに負けてから、ここまでスペインは、少しずつ上昇カーヴを描き、おそらく対ドイツ戦でピークだったろう。
 リアリズムのオランダに苦言。クライフが泣くぜ。もしオランダが決勝でリアリズムを捨てて、真っ向勝負だったら、ぼくらにはもっと楽しい120分だったはずだ。今回のW杯では、両チームがピッチに出てくるのが、正面から捉えられ、選手たちに先立って入場する審判団の中央にいる主審が、通路の中央に置かれたジャブラニを両手で持ってピッチに入る映像が必ず流れる。レフリーの両手がジャブラニを持ち上げる瞬間がとてもよかった。「祭よ、始まれ!」という感じだった。

投稿者 nobodymag : 11:16 PM

juillet 11, 2010

3決は面白いね

 3位決定戦は面白い、という風評は、それほど当たっていない。でも、このゲームは、両チームが勝ちに来たことで面白かった。3-2でドイツという結果とフォルランのFKがポストにはじかれた瞬間、タイムアップの笛が鳴った。
 ゲームが面白くなった原因は、ドイツ・チームに風邪が蔓延していたが、ミュラーが復帰し、ウルグアイにスアレスが復帰したことが大きい。打ち合いになるために面子が整っていたということだ。ドイツは、シュバインシュタイガーの中盤の仕切りからアタックが始まり、エジルがファンタジスタぶりを発揮し、ミュラーが虎視眈々とゴールを狙うというパターン。一方のウルグアイは、いつも通りのカウンター狙い。中盤の展開を省略──そもそもこのチームにそんな発想はない──し、フォルラン、スアレスに預け、カバーニと3人でゴールに迫る。がっちり守ってカウンターというスタイルが、今回のW杯でトレンドになったが、それが一番似合うのはウルグアイだ。このゲームの敗因のひとつはスアレスのシュートが枠に行かなかったことだろう。
 対する、この日のドイツは、リトル・スペインという感じ。パスを丁寧に繋いで、その間に、2列目までがハードワークしてヴァイタルエリアまで上がっていき、ぶ厚いアタックを心がけるというもの。ウルグアイ相手だと、セルヒオ・ラモスにはぜんぜん通じなかったポアテングもけっこう可能性を感じさせた。つまり、スペインよりもワンランク下の相手だと、ドイツは、対アルゼンチン、対イングランドの思い出させるようなゲーム展開ができる。日本代表がアジアのチーム相手だと、スペインのようなボール回しができるが、ワンランク上の相手だとディフェンスのブロックをつくって勝負するしかないというと同じかも知れない。
 すごい雨で、ただでさえピッチ状態が悪いのに、両チームの選手は、そんなことを余り感じさせずにプレーしていた。個人技のレヴェルが高いということだろう。天候やピッチ状態によって戦い方を変える必要などないのだ。こんな状態になると日本人選手の個人技がまだまだであることがよく分かる。
 でも、純粋な観客として見ると、フォルランのFKが入って、延長になってもよかったね。寝不足もあと1日、ぼくらも疲労がピークに来ている。

投稿者 nobodymag : 05:04 PM

juillet 08, 2010

クワトロ・フゴーネス見参!

得点こそ、コーナーからのプジョルのヘッドだけだったが、誰が見てもスペインの圧勝。2年前のユーロの決勝の再現。スペインの勝因は、デルボスケが、彼の2つの欲望を我慢したことだ。もっとも彼は「何もしない」ことで、銀河系レアルの黄金時代を共にしたのだから、「我慢する」こととは「何もしない」ことと同義語であることを知っているはずだ。
 欲望のその一は、フェルナンド・トーレスを諦めたこと。ぼくだってリヴァプールのフェルナンド・トーレスは大好きだ。あの速度! 何食わぬ顔でディフェンスを置き去りにして、ゴールマウスにボールを流し込むのを何度も見た。だが今回のW杯では体調が戻らないことから、ボールタッチにもシュートにも力みが目立つ。彼にはもう少し時間が必要だ。トーレス自身がいちばん良く分かっているはずだ。(結局、最後には試運転させたけどね。)欲望のその2は、サイドアタッカー(ヘスス・ナバス)を使うのをやめたこと。アーセナル・サポーターのぼくなら、セスクだけど、デルボスケの選択はペドロ。チャビを下の頂点にした逆三角形の一方にイニエスタを置くなら、もうひとりもバルサがいい、だからペドロ。そんな感じの選択だと思うけど──だからシルバでもない(彼も最後には出てきた)──この選択は正解だった。デルボスケのしたこと(諦めたこと)はそれだけ。だから彼の意図としては4-2-3-1だったと思うけど、ゲームを見る限り、ブスケツをアンカーにした4-1-4-1になっていた。シャビ・アロンソとチャビが並んでセントラル、両ワイドにイニエスタ、ペドロ、そしてトップにビジャ。チャビからは短距離中距離のパスが供給され、シャビ・アロンソは、大きさサイドチャンジ。イニエスタとペドロが左右から中央に切れ込み、その外側をカプテビラとセルヒオ・ラモスが追い越していく。つまり7人で攻め、3人で守る。
 これじゃドイツはゴールに釘付け。でも、(いつものように)スペインのシュートはなかなか入らない。ほとんどベタ押し状態なので、ほとんど全員が守備に帰っているドイツのゴール前にスペースがない。針の穴を通すようなシュートじゃないと入らない状態。
 ときどきドイツはカウンター。でもピッチが悪いせいか、スムーズさがない。ミュラーが出場停止のせいかもしれない。それにディフェンスにおわれているから、カウンターにもなかなかスピードが出ない。エジルやポドルスキが、プジョルやピケに軽くあしらわれている。「てめえらパス・フットボールするには十年は早いぜ」って言われている感じ。シュバインシュタイガーひとりが死ぬほど頑張っても、チャビは、何食わぬ顔でペドロへ、イニエスタへパスがらくらく通される。ときどきビジャめがけてキラーパスが送られるが、すんでのところでディフェンスがカヴァー。あれが全部通っていたら4-0だったかも。
 何とか前半はスコアレスで押さえたが、後半のコーナーで、攻めてこないはずのプジョルの頭が炸裂!ドイツ、万事休す。
 やっとスペインは調子を出した。もっとも調子が出るのを今まで押さえ込んでいたのはデルボスケその人だったのだが。デルボスケが、自分ぽくするのをやめ、「スペインぽく」することにしたから、全部うまくいった。
 さてファイナルは、スペイン対オランダ。オランダ対ブラジルの前半みたいなゲームが90分続くんじゃないかな。それにしてもカシージャスの彼女は色気あるよね。もう一度見たいよ。

投稿者 nobodymag : 11:28 PM

juillet 07, 2010

つまらぬデジャヴュ

準決勝ファーストゲーム。オランダ対ウルグアイ。なんだがよく分からないけどブラジルに勝ってしまったオランダ。死闘を乗り越えてガーナを退け、ようやく傷だらけで、ここまで残ったウルグアイ。オランダ有利。そして、前半こそジオとフォルランのビューティフルゴールで1-1で終わったが、後半になってスネイデルとロッベンの2枚看板が一発ずつ決め、勝負を付けた。ウルグアイも意地で1点返したが精一杯。
 やっぱりスアレスの不在が大きいね。フォルランとスアレスが揃っているからこそ、恐いウルグアイなのだった!でも、スアレスのハンドがなければウルグアイはここまで残らなかったわけで……。それにしても、オランダのフットボールはつまらない。ファンマルヴァイクは、美しく負けるサッカーをはおさらばし、リアリズムを貫いているのだ、と嘯いている。ベッケンバウワー主義だよね。なんでオランダのフットボールが面白くないのか。それは、このフットボールが、まったく意外性を欠いたものだからだ。4-3-3の前の3人+スネイデルでアタックし、他の6人はディフェンス。役割は完全に別れていて、それが逸脱することは決してない。ゲームの結果は、もちろん最後まで分からないけど、オランダがやるフットボールは、ゲームが始まる前から分かっている。だからつまらないんだ! もちろん結果だって重要だけど、それは90分のディテイルの集積に過ぎないのであって、結果よりも重要なのは、やはり、それぞれのディテイルの方だ。ひとつのディテイルや、ふたつみっつのディテイルの組み合わせが、いかにぼくらの期待を裏切って、否、上回って、次のディテイルに接ぎ木されるのか。それこそフットボールを見ることの快楽なのだ。だから、オランダは、そんなぼくらの欲望をいちいち逆撫でしてくれるわけだ。今のオランダのフットボールは、もちろんスネイデルのヘッドのように見たことのない現象が起こることがあるが、たとえばスネイデルのミドルとかロッベンのドリブルとか、ほとんどの場合、既知のものの再現にすぎない。それをリアリズムというなら、フットボールの進化も深化もない。

投稿者 nobodymag : 11:24 PM

juillet 04, 2010

スペイン対ドイツ、すごく楽しみ!

 セレソンの敗北の後はウルグアイ対ガーナの「物語を越えた」勝負。ウルグアイが残った。もうこういうゲームはフットボールの「ゲームの規則」も越えている。スアレスのバレーボールのブロックのようなレッド覚悟の行為が、結果的に英雄的な行為になる。やっぱりPK戦の論理はフットボールではない。ここまで疲労しているなら、後15分ぐらいやってもいいんじゃない?クォーターファイナル以降は、ウィンブルドン──そういえば今年は1ゲームを見ていない──みたいに決着が付くまでやるのもいいかも。
 そして翌日。ドイツのミュラーとエジルは、ホント、すごいね。レーフ監督はバルサがいちばん好きだと公言しているけれども、彼の織りなすフットボールは、ゲルマン魂だのと呼ばれていた頃のフットボールじゃない。バルサとはちょっと違うけれども、リトマネンがいた時代のアヤックスみたい。一昔前のドイツと言えば、ぜったいに3-5-2でリベロがいたフォーメーションだったけど、隔世の感があるね。ドイツが立派いにチームとして仕上げてきたのに対して、マラドーナのアルゼンチンは、勝つ進んできたがゆえに何の反省もしていないし──だいだいマラドーナに反省なんて言葉は似つかわしくないね──、勝ったことで欠点が覆い隠され、まったくチームになっていないままドイツと対戦。やっぱりフットボールはチームスポーツなので、どうしてもチーム戦術が必要になる。マラドーナにはそんなイロハも関係ないんだろうね。お気に入りの11人を並べればチームさ。でも、それじゃクォーターファイナルは勝てない。チームそのものだったブラジルだって、チームが崩壊すれば無残な結果に陥る。さらば、やる気だけでチームとはどういうものなのかなんか眼中にない。それで惨敗。当然。でもマラドーナはフットボールと関係のないスペクタルとしてとても面白かった。何せ4-0だもんね。オーストラリアからもイングランドからもアルゼンチンからも4点取るのはやっぱりすごい。
 クォーターファイナルのラストは、スペイン対パラグアイ。デルボスケも頑固だね。メンバーいじらないもんね。PKとその失敗の応酬。そして、デルボスケはとうとうフェルナンド・トーレスを見切る。55分。トーレス・アウト、セスク・イン。トーレスは大好きな選手なんだけど、しょうがないよね。ノックアウト・システムで、負ければ終わりだからね。そしたらボールが回るようになった。別にセスクがいっぱいボールに触っているわけじゃない。でもミッドフィールドが広がる感じ。そしてシャビ・アロンソ・アウト、ペドロ・イン。なに!シルバ・インじゃないの?でも結果的にペドロのシュートがポストにあたり、リフレクションをビジャが決めて、スペイン勝利!
 パラグアイも頑張ったけど、こんなとこでしょうね。それに、もしここでスペインが負ければW杯がつまらなくなるじゃないの。でも、パラグアイのディフェンスは良かったね。最後までプレッシングを貫いていた。こういう誠実なチームはいいね。しかし、それでもすごいのはチャビ! 最初はプレスを嫌がっていたけど、後半になったら、プレスを利用して、ワンタッチ、トゥータッチで回し始めた。セスクのフリーランニングが生きていたことにもなる。ドイツとのセミファイナルは、もうトーレスはいらないでしょう。ビジャのワントップの下に4人のチビちゃん。そしてアンカーにシャビ・アロンソ。ブスケツは、次回もあるから。ベッケンバウワーの「勝ったチームこそ強いんだ!」は、もうやめて、「格好いいフットボールこそ強い」にして、ドイツと真っ向勝負で勝って欲しいね。

投稿者 nobodymag : 01:31 PM

juillet 03, 2010

なんてこった!

 ブラジルはヤッパ優勝するね、と確信を持ちながら前半を見た。ロビーニョのゴールは確かにまだ10分のことだったが、このままでいけば3-0もありかな、と思った。ぼくばかりじゃないだろう。それまでのブラジルの戦い方を見てきたし、1点取られても、それはゲームの趨勢が決まってからのことで、ゲームが決まるまでは全員がハードワークをする。それがブラジルだった。ルイスファビアーノの背後にカカ、ロビーニョ、ダニエウ・アウベスがいい距離感でパス交換し、アウベスの外側をマイコンが疾走する。中央にはジウベルトがどっしりと構え、さらにその後ろにルシオとフアンが控えている。トータル・フットボールの「煌めき」を欠いたオランダは、ベスト8止まりが適当。そんな感じだったよね。
 スカパー!のゲストに出ていた鹿島のオリベイラ監督は、前半は天国、後半は地獄だったと言っていたが、スネイデルの緩いクロスが、ジュリオ=セザールとフィリッペ・メロの上を通り過ぎてブラジルのゴールマウスに収まってからは、まるで奈落の底に突き落とされたかのように「悪循環」が始まる。フィリッペ・メロがロッベンに蹴りを入れて退場、プレッシャーからか選手たちは、この日の主審を務めた西村主審にイライラの状態。ルシオが落ち着かせようとするが、ロビーニョはメンタルが押さえきれない。カカもひとりで突破しようと何度もファン・ヴォメルに止められる。ノーマークのスネイデルのヘッドが決まり、オランダはそのまま逃げ切り。
 フットボールってホント、メンタルなスポーツだね。ドゥンガ将軍の下、鉄の結束を誇っていたチームに小さな綻びが生まれ、それがきっかけでチーム全体が一気に崩壊していく過程を、ぼくらはこのゲームの後半45分間で目撃した。ドゥンガ将軍も、一緒に意気消沈してしまい必要な手立てを何も打つことができなかった。百戦錬磨のジウベルト・シウバも、ルシオも、傍観者だった。事件の現場にいるのは、まさに彼らなのに、彼らは目の前の惨劇がまるで夢であり、眠りから覚めると、再び前半のような素晴らしい時間が続いていくのだと信じているように、何もしない。前半を見ていると、この遅さでは、とてもブラジルの勢いを止められないだろうと、誰もが思ったはずのファン・ヴォメルとデヨンクのゆったりしたディフェンスが、真綿で首を絞めるようにブラジル選手たちを呼吸困難に陥れていく。オランダ選手たちは、特別なことなど何もしなくても、ブラジルが勝手に崩壊していった。
 これまで、ブラジルを誉めあげてきたぼくはいったいどうすればいいんだろう? このチームはすごいぜ、相手がかかってくれば、もっと強くなる、と書いた。だが、攻勢を強めたわけでもないオランダを前に自滅。スネイデルは、喜色満面でインタヴューに答えていたが、ウルグアイでもガーナでも、今日のブラジルの後半よりはずっと強いだろう。これで本当はファイナルに期待していたスペイン対ブラジルは消えた。そして、アルゼンチンやスペインにとって、今日のセレッソンの味わった「天国と地獄」は大きな教訓になるだろう。

投稿者 nobodymag : 01:47 AM

juin 30, 2010

もっと速度を!

 眠い目を擦りながらスペイン対ポルトガル。もちろんこっちが真打ち! 日本対パラグアイが、その停滞とPK戦という不条理によって、フットボールの退屈と憂鬱を体現しているとすれば、こちらは、かつて見た素晴らしい何かを少しでも復興して欲しいというフットボールへの純粋な欲望だ。簡単に言えば、スペインどうした?ということ、もっとやれるはずだろ、ということ。
 前のゲームから、この日までの間、いろいろな戦評を読んでみると、スペインでは、セスク待望論(やはり!)が湧き起こっていることや、ヘスス・ナバスに執着するデルボスケの意図と08年ユーロのスペインは、まったく「思想」が異なるのだという至極まっとうな意見を読むことができた。フェルナンド・トーレスがまだ好調時に遠く及ばない事実も、これからのスペインにとって大きな問題になる。
 でゲームは? 結論から書けば、1-0という僅差での勝利だったとはいえスペインに復調の兆しがあるということ。前のゲームと同様にトーレスをワントップに置いたスペインは、左にビジャ、中央にチャビ、右になんとイニエスタを配し、その後ろにシャビ・アロンソとブスケツ。4-2-3-1。かなりトーレスにチャンスが来るが、外しまくる。まだまだ復活途上だ。だが、イニエスタという相方を得たチャビからの配球は極めてスムーズになった。イニエスタ=セルヒオ・ラモスという右サイドからの崩しが功を奏し始めると、空いた左サイドからビジャが侵入する。こぼれ球をシャビ・アロンソが拾い、両サイドに配球する。次第に右のカプテビラのアタックも見られるようになり、ミッドフィールドの広いスペースが創造され始める。
 対するポルトガルは、2年前のユーロよりも弱そう。クリロナという人材を使いあぐねている感じ。点差が開かなかったのは、トーレスの不調とリカルド・カルヴァーリョの頑張りの賜物。トーレスに全盛時のスペードと素早いポジショニングが再生すれば、3-0でスペインの圧勝というゲームだったろう。
 だが、もちろん、トーレスがまだ好調時に戻らないという以外にも問題はある。たとえば、これだけポゼッションできるのに、ボランチふたりはいらない。ブスケツの存在感は稀薄。シャビ・アロンソひとりで「球拾い」は十分だ。クワトロ・フゴーネスがまた見たい!シルバでもセスクでもいい。4-1-4-1の超アタッキング・フットボールでパラグアイをノックアウトする姿を見てみたい。そのために、もうひとつ解決すべき重要な要素がある。パススピード。まだぜんぜん遅いよ。もっと速度を!

投稿者 nobodymag : 06:04 PM

これから先が長いよ

 このゲームはアタマを守備的に入って、おそらくゲームが膠着してくるはずなので、そこからどうやって「仕掛けていくか」が問われるだろう。誰でもパラグアイを知っていれば、そんな予想が成り立つ。サンタクルスがすごいとっても、ロナウドやビジャのようなスーパーな選手ではない。プレッシングをかけてくるわけでもなく、しぶとく粘って勝つというのがパラグアイだ。98年のフランスW杯での対フランス戦で、ジダンを出場停止で欠いたフランスが圧倒的にポゼッションしながら延長まで勝ちを得られず、ようやくブランのゴールで勝ちを拾ったゲームを記憶している。つまり、パラグアイというチームは、圧倒的に勝つこともない代わりに、すごく強いチームにも善戦以上の戦いが出来るチームだ。
 だから、どうやっても膠着するゲームに何とかして穴を穿ち、そこから勝負に持ち込むのかを思考すること。そのとき、もっとも大事なのは、ベンチワークだ。前半から遠藤を前に出したのは、だから正しい。グループステージではないトーナメントを戦うには勝つしかない。守るばかりでは引き分けが精一杯で、勝つことはない。だが、岡田武史の打った手は65分までこれだけ。遠藤を前に出しても、一向にゲームの縺れた糸がほどけるに至らない。だったら後半のアタマからギアを入れ替えるしかないだろう。阿部と大久保を外して、憲剛と俊輔という手を打つ勇気が岡田になかったのだろうか?これじゃオシムさんそのままじゃないか?けれども他に方法があるのか?中盤を走って走ってボールを奪い、本田に集めて、遠藤、俊輔らが「仕留める」以外、ビジャのような圧倒的なストライカーを欠くこのチームには方法はなかったのではないか?
 もちろん裏を取られて失点したかも知れない。90分で敗れたかも知れない。でもPK戦にもつれ込んで悔し涙に暮れるよりも、「今夜は駒野を誘って死ぬまで呑ませますよ」(松井)という左遷されたサラリーマンの新橋での居酒屋の会話みたいなことをいうよりも、すっきり負ける方がよかったんじゃないか。逆にすっきり勝つ可能性だってあったんだから。もちろん、ぼくも含めてグループステージを突破するなんて、フットボールファンなら誰も思っていなかったろうし、デンマーク戦の本田と遠藤のFKも良かった。その意味で岡田武史のチームは頑張った。それは認めよう。でも、ここから先がすごく長いんだろうな。8年前に4位になった韓国も前大会はグループステージで姿を消し、今大会もやっとベスト16。でも韓国はアルゼンチンと真っ向勝負できたからね。そこでフランスやイタリアを見ていると、「たゆまぬ努力」をホントにちょっとでも惜しむと、先に進むどころか一気に滑り落ちていくんだね。だからPK負けを悔しがる前に、ゲーム戦術についてのナイーブさを捨て去ることが重要だ。これ以上は落ちない、そこからちょっとでも上をめざす。それだけ。フットボールだけじゃないけど。

投稿者 nobodymag : 11:28 AM

juin 29, 2010

ホント、ブラジルすごい!

 ブラジル対チリ。ちょっとチリに期待していたんだ。対スペイン戦の前半の戦いぶりが気持ちが入っていてよかったことと、全員がハードワークをするフットボールに好感を持ったことその理由。
 でも、この前にも書いたけど、ブラジルは、相手が本気であればあるだけ、力を出してくる。チリの本気度が、ブラジルの潜在能力を引き出す役割を演じてしまった。だから「懐が深い」だの「引き出しの多いし、そこにはいっぱいものが詰まっている」だのと比喩を連ねることになる。
 このゲームも前半で完全に勝負が付いてしまった。マイコン→フアン、カカ→ルイスファビアーノでおしまい。後半は、調子の出てきたロビーニョが一発決めて3-0。チリも一生懸命にやるんだけど、やっとボールを奪っても、前にはバックラインの4枚とボランチの2枚がしっかりディフェンスに戻っている。スペースがない。1対1の勝負に出ると、数的不利をつくられて、ボールを奪われ、ブラジルの「お家芸」化したカウンターを喰らって右往左往。ビエルサお得意のゲーム戦術や戦略よりも、もっと根本的な1対1で、チリはブラジルに負けている。では、それに勝つために「組織」でどうだ?と考えれば、ドゥンガのブラジルの組織もかなりの堅牢だ。前の3人を除いて、ポジショニングについて約束が明瞭に守られ、さっき書いた6人がディフェンスに回ると常に綺麗に並んでいる(もちろん並んでいるだけじゃなくて1対1でも強い)。
 もうタオル! こんなゲームだった。アルゼンチンもチーム戦術が何もないから、4ゲームを重ねるとだんだんチームになってきたし、ブラジルは前からチームだったので、そのチームの熟成度がどんどん上がっている。best8にヨーロッパのチームで勝ち残っているのは、オランダ、ドイツ、そして今晩のスペイン対ポルトガルの勝者。レ・ブルーが去り、アズーリが去り、スリー・ライオンズが去り、W杯も終盤に差しかかったのを感じる。今までの印象に残っているのは、もちろんブラジルとアルゼンチンという輸出の超大国と、「若きドイツ」。オランダは、監督も言っているとおり、アートよりもヴィクトリー──でもゲームの詳細を見れば、カスカスで勝利をたぐり寄せているに過ぎない──だし、スペインは2年前の興奮をいっさい欠いている。ウルグアイ、パラグアイといった地味な南米(失礼、もうジャパンはパラグアイに敗れることになっている?ブラジルやアルゼンチンじゃなくてパラグアイならチャンスはあるよね)じゃ華がないよね。

投稿者 nobodymag : 10:26 AM

カペッロは頭が固いね

 監督にファビオ・カペッロを擁しながらもbest16で姿を消すことになったイングランド。それもドイツに完敗。1-4だ。各戦評を読んでみると、もちろんランパードのゴールがノー・ゴールにされたことと、リオの怪我による急造センターバック・コンビのアップソンとテリー、特にアップソンが狙われたことに言及されているものが多い。然り。誰が見てもランパードのループはゴールだったし、後でカペッロが吠えるように、「あそこがゲームの分水嶺」だったことも事実。だがこのゲーム、イングランドがドイツを圧倒するような展開ではなかったし、若いドイツのスピードに対応するような策をカペッロが提示した形跡もない。
 いったいカペッロはどんなフットボールを指向したのか? イングランドの4ゲームを見てもさっぱり分からなかった。フォーメーションを見れば、もちろんある程度のことは分かる。常に4-4-2。セントラルにランパードとバリー、左前にジェラード、右前にミルナー(交代はライト=フィリップス)、あとはルーニーとデフォー(ヘスキー)。リオの代役と共に話題になるのがルーニーのパートナー。つまり、4-4-2は固定であること。ルーニーがマンUでワントップであり、ジェラードはリヴァプールで多くの場合トップ下であることを考慮しない。まず自分のフットボールがあって、それに選手たちを当てはめていく方法。それにレノンとライト=フィリップスの2人のウィンガーが右に偏っているのはなぜ? 結論を急ごう。カペッロはナショナルチーム向けの監督ではないということ。時間をかけて自らのチームを熟成していくクラブ・チームの監督には相応しくとも、W杯のように短期間で結果を残すタイプではない。もしイングランドが現有勢力で4-2-3-1にしても、かなりイケたと思う。溌剌としたドイツの若さに比べて、カペッロの頭の中が固定化していたように思えた。

投稿者 nobodymag : 10:07 AM