2020年ベスト
- 赤坂太輔(映画批評家)
- 井戸沼紀美(肌蹴る光線)
- 梅本健司(映画館受付)
- 岡田秀則(映画研究者/フィルムアーキビスト)
- 荻野洋一(番組等映像演出/映画評論家)
- 草野なつか(映画作家)
- 隈元博樹(NOBODY/BOTA)
- 黒川幸則(映画監督/キノコヤやってます)
- 佐藤友則(映画保存/映画祭スタッフ)
- 杉原永純(映画キュレーター)
- 田中竜輔(NOBODY)
- 千浦僚(映画文筆)
- 常川拓也(映画批評)
- 中村修七(映画批評)
- 新谷和輝(映画研究)
- PatchADAMS(DJ)
- 馬場祐輔(鎌倉市川喜多映画記念館)
- 深田隆之(映像作家/海に浮かぶ映画館 館長)
- 二井梓緒(映像制作会社勤務)
- 降矢聡(グッチーズ・フリースクール主宰)
- 村松道代(デザイナー)
- 森本光一郎 (大学院生)
- 山野恵太郎(HOLYWHEELIN’ THEATER &RADIO)
- 結城秀勇(NOBODY)
- 李潤秀(助監督)
- 渡辺進也(NOBODY)
赤坂太輔 (映画批評家)
映画ベスト
- 『Un Monde flottant』ジャン=クロード・ルソー(2020)
- 『ロボットに対抗するフランス』 ジャン=マリー・ストローブ(2020)
- 『Das Licht der Welt』クラウス・ウィボニー(2015)
- 『Notes on an Appearance』リッキー・ダンブローズ(2018)
- 『The World is full of secrets』グラハム・スウォン(2018)
- 『Medium』エドガルド・コザリンスキ(2020)
- 『Jardin de Piedra』グスタボ・フォンタン(2020)
- 『Il Siciliano』ホセ・ルイス・セプルベダ、 カロリーナ・アドリアゾラ(2017)
- 『Longa Noite』エロイ・エンシソ(2019)
- 『Correspondencias』リタ・アゼヴェード・ゴメス(2018)
- 『ヴィタリナ』 ペドロ・コスタ(2019)
- 『デッド・ドント・ダイ』ジム・ジャームッシュ(2019)
- 『Informe General Ⅱ - El nuevo rapto de Europa』ペレ・ポルタベーリャ(2015)
- 『空に住む』青山真治(2020)
- 『スパイの妻』黒沢清(2020)
- 『彼方より』高橋洋(2020)
コロナ世界的大流行に抵抗する各国のオンライン配信の試みのなかで、やはり最も強力かつ刺激的だったのがブルックリン~アルゼンチンのインディペンデント~ショルショ・シロやアルベルト・グラシアの旧作を含めた10周年ガリシア・ニューウェーブのラインだった。そのどれもに関わるキーとなるマティアス・ピニェイロとロイス・パティーニョの新作を未見のまま選ばなければならなかったのは残念。リモートが進み操作目的の映像が過剰となる中で、見る人に思考の契機を与える自己言及性を持つ映像作品を作っている人々こそまず擁護すべきなのは当然である。それを基準とすれば、旧作を一挙配信したマリアーノ・シニャスとアレホ・モギランスキらパンペロ・シネの人々、クラウス・ウィボニーやヴェルナー・シュレーターのレトロを配信したミュンヘンのフィルムミュージアム、ペレ・ポルタベーリャ(のとりわけドキュメンタリー)を配信したカタルーニャのフィルモテーカらも素晴らしく、国内ではようやくのマノエル・ド・オリヴェイラ『繻子の靴』の初上映もあった。個人的にはいつもの年より豊作だったような気がしている。
井戸沼紀美 (肌蹴る光線)
映画ベスト5(順不同)
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグ
- 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ
- 『イサドラの子どもたち』ダミアン・マニヴェル
- 『TONGUES UNTIED』マーロン・リグス
- 『あの優しさへ』小田香
『ストーリー・オブ・マイライフ』は自粛後はじめての映画館、ガラガラのシネコンで観て、びしゃびしゃに泣いてしまいました。序盤からひたすらに押し寄せる生の躍動と、あの一瞬の完全な静寂……くよくよと神経衰弱気味だったその時期の自分に、命のスケールを思い出させてくれた大切な1本です。『燃ゆる女の肖像』では『ストーリー・オブ・マイライフ』と対照的な音楽アプローチに打ち震えました。パチパチと燃えていた薪が突然折れてハッと目覚めるような、まばたき一つで世界が変わっているような、鮮やかで決定的な山場の作り方にも脱帽。磁力に吸い寄せられ、砂鉄が逆立っていくようなざわめきが今も心に貼り付いています。『イサドラの子どもたち』は、作品を観ること自体が「踊り」を観る目をそのまま宿してもらうことのような、とても贅沢な体験……。黒人ゲイ男性たちを映したドキュメンタリー『TONGUES UNTIED』は冒頭から吹っ飛ばされそうにパンチが効いていて、それでいて終始詩的。ノーマルスクリーンさんが配布されていた、全編の採録を含む(!)作品資料で、何度もその力強さを追体験しました。そして最後に『あの優しさへ』。『ノイズが言うには』と併映で鑑賞し、そのあまりの誠実さに、スクリーンに見つめ返されているような気分にすらなりました。映画を撮ることについての監督の思考を通して、それにとどまらない、とても根源的なことを教わった気がします。
その他ベスト(順不同)
- 和田堀公園
服部峻さんが「地図でみると爛れた肌みたい」とおっしゃっていた和田堀公園。今年はひたすらここで遊びました。時には12時間以上居続けたことも。とめどない愛。
- 『Letter to My Son』森栄喜
5月ごろ、まだあまり外に出られなくて、近所をうろついたり、それにも飽きて自転車を買ったものの初日に大ゴケして両膝から出血したりしていた時にこの本が届いて、なんだかとても救われた気分になったのを覚えています。紙ナプキンやレシートの裏に書かれた詩を丁寧に折りたたみ、本棚の隙間に挟んでいくシーンなど、開くたびに好きになってしまう。これからも大切にしたい一冊です。
- 『手をふること、手をふること』鈴木余位
都現美で2月まで行われていた『Echo after Echo:仮の声、新しい影』展の、吉増剛造プロジェクトのスペースに掲示されていた鈴木余位さんの文章。「美学も神性も外して震わせて/服も皮膚も剥いで/積極的に臆病に」なんて、どうやったら書けてしまうのか……その場で感動し尽くしたのですが、4月DOMMUNEに吉増さんと鈴木さんがおふたりで映られて、それを観ていたら「ああ、こうして……」とより一層感慨が深くなりました。
- "さよならブルドッグ"フレディーマーズ
5月にミア・ハンセン=ラヴ監督の『すべてが許される』の上映をさせていただいた時、私が日本で今一番好きなバンド・フレディーマーズ(ex.フレディーマーキュリーズ)が書き下ろしてくださった曲が"さよならブルドッグ"です。いつか歳をとって2020年を思い出すとき、私はまずこの曲を思い出すのだろうなと今から謎にしみじみしてしまうほど聴き倒しました。来年どこかで正式に音源化されたりするのかしないのか、楽しみにしつつ。改めてShut Up Kiss Me Recordsのみなさまと上映を実現させてくださった坂本安美さま、松井宏さまに感謝の意を綴らせてください。
- 「秋の文化芸術週間2020」Gucchi's Free School(グッチーズ・フリースクール)
この特集上映ではじめてケリー・ライカート監督の作品に触れ、大ファンになりました。一寸先の状況も予測できない不安がつきまとっていた中、内容的にも集客的にも素晴らしい上映活動を行われたGucchi's Free Schoolさん、および関係者のみなさまに尊敬の念が止まりません……。
梅本健司 (映画館受付)
映画ベスト(見た順)
- 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド
- 『マザーレス・ブルックリン』エドワード・ノートン
- 『ドミノ 復讐の咆哮』ブライアン・デ・パルマ
- 『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ
- 『空に住む』青山真治
その他ベスト
アイダ・ルピーノ テレビドラマ監督作品ベスト5(年代順)
- 『No.5 Checked Out』1956(Screen Director's Playhouse)
- 『Lady On The Wall』1960(Have Gun Will Travel)
- 『Trio for Terror』1961(Thriller)
- 『Guillotine』1961(Thriller)
- 『The Bride Died Twice』1962(Thriller)
岡田秀則 (映画研究者/フィルムアーキビスト)
映画ベスト
- 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド
- 『鵞鳥湖の夜』ディアオ・イーナン
- 『スパイの妻』黒沢清
- 『スウィング・キッズ』カン・ヒョンチョル
- 『mid90s ミッドナインティーズ』ジョナ・ヒル
- 『国葬』セルゲイ・ロズニツァ
- 『私をくいとめて』大九明子
- 『はちどり』キム・ボラ
- 『れいこいるか』いまおかしんじ
- 『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ
ベストを5本に絞るのが難しく、やむなく10本を選んだ。『フォードvsフェラーリ』の1位だけは明確で、あとは順位をつけていない。だがこうして例年のように選んでしまうと、あれだけ長い間全国の映画館が自粛させられた事実がまるでなかったかのようで、我ながら釈然としない。それでも『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ)、『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ)、『音楽』(岩井澤健治)、『デッド・ドント・ダイ』(ジム・ジャームッシュ)、『凱里ブルース』(ビー・ガン)、『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』(オリヴィア・ワイルド/下品でもいい、たくましく育ってほしい)、『イサドラの子どもたち』(ダミアン・マニヴェル)、『バクラウ 地図から消された村』(クレメンス・メンドンサ・フィリオ&ジュリアノ・ドネルス)、『無頼』(井筒和幸/この圧巻の戦後史絵巻は大スクリーンで観たかった)など、ほかにもベストに入れたかった映画は多数ある。『鵞鳥湖の夜』の、現在の映画に決定的な何かを与えているという不敵な自覚はまっすぐ受け止めるしかないし、アーカイバル・ドキュメンタリーのしたたかな戦略家ロズニツァの日本初紹介も快挙だった。そして年の暮れ、ケリー・ライカート監督特集で観た『ウェンディ&ルーシー』の凛々しいまでの透徹ぶりは、来年もまた映画に向かおうという動機を与えてくれた。
その他ベスト
- See You Tomorrow/The Innocence Mission(音楽)
ここ数作ちょっと息切れかと感じていたイノセンス・ミッションから、澄み切った傑作が届いた。いつものように伸びやかで柔らかいカレン・ペリスの声とピアノ、そしてドン・ペリスと仲間たちのごくミニマルな伴奏。2020年は本当にこればかり聴いていた。この腹立たしい世に、私を正気のままつなぎとめてくれる一枚。しかも最後に名曲"The Lakes of Canada"の最新録音を加えてくるとは、どれだけ人を泣かす気なのだろう。
- Blue Umbrella/Burt Bacharach & Daniel Tashian(音楽)
7曲すべて書き下ろしのアルバムを92歳のバカラックが出した。それだけでも奇跡なのに、ソングライティングがまるで衰えていない。"Bells of St. Augustine"や"Midnight Watch"の明るくも愁いのある調子、転調の巧みさなど、全盛期と変わらないのではないか。
- Chords & Melodies/Ikkubaru(音楽)
今のジャカルタ・シーンの実力を見せつけてくれる決定版。1980年代日本のシティ・ポップに影響を受けたと言われるのも分かるが、アラン・パーソンズ・プロジェクトを思い出させたり、もっともっと素養は広そうだ。それでいて素養に溺れず、自らの根源的なポップの魂に忠実に音を作っているのがうれしい。"Silent"、この一曲で惚れたし、今夏はこの爽快な一枚で乗り切ることができた。
- 「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」東京都現代美術館(展覧会)
ひとつの展覧会が、ここまで鮮烈な印象を与えてくれることは多くない。有名な資生堂やパルコのポスターだけでも、この人には日本は狭かったんだろうと分かる。だからかの強烈な『地獄の黙示録』ポスターは、世界へのパスポートとして機能した。そして石岡には映画という枠組も窮屈だったんだろう。なお映像関連の展覧会では、早稲田大学演劇博物館の「Inside/Out 映像文化とLGBTQ+」も繊細で素晴らしかった。私たちの無自覚を一気にアップデートさせようとするスマートさに溢れていた。
- 水戸市中央図書館 深作欣二記念室 特別公開(イベント)
世を去った映画監督の書棚が、公立施設の中で保存されているのは日本でここだけだろう。とはいえ、日頃は鍵のかかった図書館内の一室であり、このような特別公開イベントでもないとお目にかかれないので駆けつけてみると、深作欣二という人の実践的な知性を垣間見られる素晴らしい本棚だった。大佛次郎の『パリ燃ゆ』を見つけて、深作がパリ・コミューンを映画化したらどうなるだろう!と興奮した。地元で深作の顕彰事業をひとりで背負っているのは谷田部智章さんという方だが、この方の熱意が並々でない。信じられるのは、やはり愛です。
荻野洋一 (番組等映像演出/映画評論家)
映画ベスト
- 『最後の晩餐』マルコ・フェッレーリ
- 『リベルテ』アルベール・セラ
- 『美しき鷹』山本嘉次郎
- 『繻子の靴』マノエル・ド・オリヴェイラ
- 『親愛なる同志たちへ』アンドレイ・コンチャロフスキー
2020年劇場公開作のベストテンについては「リアルサウンド」で既発表、さらに日本映画&外国映画ベストテンおよび監督賞・脚本賞・主演女男優賞・助演女男優賞・新人女男優賞については「キネマ旬報」ベストテン発表号で発表予定なので、「NOBODY」のゆるいレギュレーションに甘えて、荻野にとっての純粋な初見ベスト5本を並べた。『最後の晩餐』はアンスティチュ・フランセにおけるミシェル・ピコリ追悼特集にて。『リベルテ』は同じくアンスティチュの映画批評月間にて。『美しき鷹』は初DVD化。『繻子の靴』はアテネ・フランセにて。『親愛なる同志たちへ』は東京国際映画祭ワールド・フォーカスにて。新宿ケイズシネマの奇想天外映画祭で上映されたピエール・ズュッカ&ピエール・クロソフスキー『ロベルトは今夜』、バーベット・シュローダー『ラ・ヴァレ』、ポール・バーテル『プライベート・パーツ』もきわめて印象深いものだった。2021年にはぜひベルトラン・ボネロ『Zombi Child』を見る機会を得たい。
その他ベスト(本)
- 『生の館』マリオ・プラーツ(みすず書房)
- 『俳優と戦争と活字と』濱田研吾(筑摩書房)
- 『清代の女性詩人たち 袁枚の女弟子点描』蕭燕婉(シャオ・イェンワン)(中国書店)
- 『〈敵〉と呼ばれても』ジョージ・タケイ(作品社)
- 『鈴木清順論 影なき声、声なき影』上島春彦(作品社)
その他の諸ジャンルについてもベストを。
- 美術展ベスト=婁正綱(ロウ・チェンガン)個展(ホワイトストーンギャラリー銀座本館)
- 写真ベスト=渋谷敦志写真集『今日という日を摘み取れ』(サウダージ・ブックス)
- 批評ベスト=『マスクの時代の仮面』今福龍太(新潮9月号)
- 詩ベスト=『ひとつゆび』古屋朋(書肆子午線)
- 音楽ベスト=『McCartney III』ポール・マッカートニー
- 演劇ベスト=『ダークマスターVR』タニノクロウ作・演出(東京芸術劇場シアターイースト)
- スポーツベスト=イマノル・アルグアシル(レアル・ソシエダ監督)
- 外食ベスト=錦福(広東料理/東京・九段下)
- 自炊ベスト=京都「大市」の瓶詰めすっぽんと、伊カルナローリ米を使った贅沢なリゾット
- テレビベスト=NHK日曜美術館「アニマルアイズ 写真家・宮崎学」
- 待望するものベスト=石田民三生誕120年レトロスペクティヴの開催
例年は美術展ベスト5を選出していたが、さすがにステイホームの2020年にそれは無理がある。代わりに読書三昧の年だっただけに2020年新刊本ベスト5とした。1位の『生の館』においてイタリアの碩学マリオ・プラーツは、蔵書と美術品に彩られた自宅という記憶の森を600ページ以上にわたって語り尽くす。まさにステイホームの金字塔的な、狂気の大著である。著者はわが偏愛のルキーノ・ヴィスコンティ監督『家族の肖像』(1974)のバート・ランカスター演じる老教授のモデルとも言われる。そして4位『〈敵〉と呼ばれても』は、『スター・トレック』のMr.カトー(米国ではMr.スールー)として有名なジョージ・タケイが太平洋戦争時の自身の日系人収容所体験を綴ったもの。
草野なつか (映画作家)
映画ベスト
- 『れいこいるか』いまおかしんじ
- 『Lost, Lost, Lost』ジョナス・メカス
2020年は情けないくらいになにも観に行かない年だった。映画も演劇も展示も。 殊に上半期に関しては記憶自体ほぼ皆無なのだけど、自分にとって出身地でもなければ縁もゆかりもない土地である仙台の「あたらしい自宅」で深夜に鑑賞したジョナス・メカス『Lost, Lost, Lost』は、貨物列車の音がちょうど良い音量で聴こえる自宅の環境(夜は特に音が通る)と、深夜に観始めたために観終わったとき外が薄ぼんやり明るくなっていた状況とが、それまで家での映画鑑賞が苦手だった自分にとっての「あたらしい映画体験」で、この年の特筆すべき出来事だったと思います。 映画館での鑑賞体験に関しては出町座で観た『れいこいるか』に勝るものはなく、それは、旅先の京都で時間が余ったから観た、という、場所・タイミングも手伝ってのことかもしれない。 めちゃくちゃをやっているように見えるけれどどこか一つでもバランスが崩れたらあり得なかったような、奇跡のような映画。高い湿度とカラッとした語り口、この上なく優しく一定の距離を保ち続ける視線。人生を続けていくことにくじけそうな時はこの映画のことをいつでも思い出したいです。
その他ベスト
東北新幹線・東京–仙台間の車窓から見える好きな景色
夫が仙台に単身赴任をしているためここ2年、東京「仮住まいの自宅」と仙台「あたらしい自宅」二つの場所で生活を送っています。大体ひと月に2往復はしています。 2020年は本当に新幹線が空いていて車両に私ひとり、ということも何度かあったのだけど9月の連休中にいきなり混んだ時はそれはそれでびっくりした。人の流れを掴むという側面からも定期的に新幹線に乗ることは楽しい。いつも2人席の窓側に座り移動時間はたいてい日が落ちるころなので、見ている風景にはかなり偏りがあります。
- 田端–東十条間の坂道と高低差
この辺りはひたすらに坂。高低差が魅力的で車窓から目が離せない。いつか散歩を、と思いながら結局まだ実現できていない。王子駅出てすぐ、飛鳥山公園のモノレールにも乗ってみたい。大晦日の狐の行列にも参加してみたい。おかしな場所に建っているトーキョーシティービューホテルにも泊まってみたい(ちなみに公式サイトによると、現在「14日間自主隔離プラン」実施中とのこと)。これまで全く縁がなかった北区に興味を持つようになったのは東北新幹線に乗る回数が増えたからだと思う。
- 大宮そごう最上階の回転レストラン
現在レストランは閉店。かたちだけは残っていて、このフロアには美容院などが入っているらしい。回転レストランといえば、東京交通会館の回転レストランも昨年末で回転を止めてしまったので首都圏においては絶滅アミューズメント(?)なのでは。乗り物酔いがひどいのでなかなか勇気が出ないけれど、一度くらいは体験してみたい。
- ニューシャトルとの並走
大宮から第3セクター「ニューシャトル」のレールとしばらく並走する。高崎方面(上越・北陸新幹線)と分岐するところであちらのレールについて行ってしまうのでお別れ。ホームも車両もおもちゃみたいでかなり可愛いのだけど、実際走っている車両を見たことはない(新幹線からは見えない角度なのかしら?タイミングが悪いだけ?)
- 白石蔵王駅「温麺の館」
白石蔵王駅構内にある、白石名物「温麺」について知ることができる施設。温麺とかいて「うーめん」と読む。行ってみたいと思いつつ白石蔵王で降りる用事がまず、ない。温麺はそうめんによく似た麺類だが長さは短く食感もコシがない。製造工程で油が使われていないらしい。仙台のスーパーには100%売っている。夜食に最適。個人的には麺類のなかで一番好き。ちなみに白石蔵王駅は在来線は乗り入れていない。(これに関しては車窓の風景ではないです。すみません。)
- 大年寺山3本の電波塔
仙台駅に到着する直前に「街の中にある山です」という雰囲気を醸し出しながら突如現れる大年寺山には電波(テレビ)塔が3本立っていて、ライトアップなんかもされている。3本の電波塔があまり距離を開けずに建っていることって全国見渡しても結構珍しいのでは?塔マニアの人、教えてください。
隈元博樹 (NOBODY/BOTA)
映画ベスト
- 『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』ジョナサン・レヴィン
- 『コロンバス』コゴナダ
- 『慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ』チャン・リュル
- 『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ
- 『空に住む』青山真治
すべてが2020年の公開作ではないものの、映画館で出会った忘れられない5本を観た順に選びました。正月早々から男女の愛、友情、あるいは正しさの所在を描く『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』にカウンターパンチを食らい、『コロンバス』は瑞々しいロケーションから紡がれる静寂なドラマと、ナッシュビル出身のバンド「Hammock」が奏でるサントラとの絶妙なコンビネーションによって、非常に洗練された心地を覚えました。『コロンバス』で覚えた質感は、その後キネカ大森で観た『慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ』に近いものを感じ、ファンタジーともラブストーリーとも似つかない男女の禁忌な世界に引き込まれました。チャン・リュルは自分にとって一番最も興味のある作家で、昨年のアジアフォーカスで観逃した『福岡』(「日韓コラボ映画特集」にて公開中)やこれから公開されるであろう最新作『柳川(仮)』に期待しています。『シチリアーノ 裏切りの美学』は単なるマフィアの抗争に注視するだけでなく、そこに漂う色気や滑稽さ、加えて法廷劇(コロッセオ化)の更新に挑んだ快作。御年81歳のベロッキオによるパワフルな演出に酔いしれました。そして『空に住む』は、「NOBODY ISSUE48」の監督インタヴューにも触れてあるように、たとえ過去を背負うことになろうとも、この先何かが降りかかろうとも、「地に足を付けること」の意味を教えてくれた1本でした。
その他の公開作としては、『フォードvsフェラーリ』(ジェームズ・マンゴールド)、『音楽』(岩井澤健治)、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ)、『行き止まりの世界に生まれて』(ビン・リュー)、『ペイン・アンド・グローリー』(ペドロ・アルモドバル)、『その手に触れるまで』(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ)も忘れがたいです。また各映画祭や特集上映ではジャン・モンチー『自画像:47KMの窓』(第11回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル)、ギヨーム・ブラック『宝島』(映画批評月間 フランス映画の現在)、藤川史人『Supa Layme(スーパ・ライメ)』(よこはま若葉町多文化映画祭2020)、フレデリック・ワイズマン『インディアナ州モンロヴィア』(ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2020)、森崎東『田舎刑事第3話 まぼろしの特攻隊』(追悼特集 森崎東党宣言!)、加えて上條葉月さんが主催するPigeon Filmsの配信で観た『The Green Fog』(ガイ・マディン)の素晴らしさにようやく出会えた年になったかと。
その他ベスト
- ケリー・ライカート(特集)
かねてから評判だった彼女のフィルムが、ようやく日本の劇場でも上映されることになり、私もイメージフォーラム・フェスティバル、キノコヤ、そして年末の下高井戸シネマと足繁く通わせていただきました。Gucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)さんをはじめ、実現に関わった関係者のみなさんの熱い尽力に敬服するとともに、製作・現場・上映・批評・アーカイブといったそれぞれの場が、言わば有機的につながるための方法を今後も模索しなければと確信した次第です。
- 赤い公園(音楽)
「ジャンキー」のポップなメロディと「傷つけてくれてサンキュー、くるしくて息を吸った」という哀しいフレーズに引き込まれ、春先からこのバンドの虜になっています。佐藤千明がヴォーカルを務めていた時代から、最近リリースされた「オレンジ」や「pray」、元℃-uteの鈴木愛理とコラボした「光の方へ」などをヘビロテする毎日。ギタリストであり、バンドリーダーだった津野米咲の早逝にはかなり胸を痛めましたが、彼女の音楽はこれからも残っていくし、彼女たち(石野理子、歌川菜穂、藤本ひかり)がつくる音楽はこれからも続いていくのだと信じています。
- 『小さな泊まれる出版社』真鶴出版(書籍)
編集をお手伝いした某広報誌の取材記事で真鶴出版の存在を知り、同出版の川口瞬さん、來住友美さん、そしてトミトアーキテクチャ(伊藤孝仁さん、冨永美保さん)のインタヴューに惹かれてポチった1冊。スモールスタート、暮らし中心主義、モノづくりとコトづくりなど、どのトピックも今の自分に突き刺さる内容でした。前職退職後は自分へのご褒美+会社設立の景気付けと称し、真鶴へ1泊旅行。町の人々もすこぶる温かく、干物屋の店主からは「どのあたりに移住するの?」と言われてしまいました。
- 『映画ポスターの革命 ATG[アート・シアター・ギルド]の挑戦』鎌倉市川喜多映画記念館(企画展)
ATGポスターを手がけたデザイナーの歴史と変遷を通じ、その職人的側面にフォーカスした企画展。数年前から映画ポスターやチラシのデザイナーさんとお会いする機会が増えたこともあり、数多ある当時のATGポスターから、現役デザイナーの方々がキャプションを付け、それぞれに批評するといったディレクションも刺激的でした。その日は鎌倉で終電を逃した挙げ句、由比ヶ浜の浜辺で一夜を過ごしてしまう羽目に。今となっては良き思い出です。
- 小田急相模原「山ノ食堂」(グルメ)
近所の商店街から少し脇に入ったところにある定食屋です。しばらくその存在を知りませんでしたが、インスタを見つけてすぐにお弁当をテイクアウト。手羽元梅山椒煮、ごぼうつくねバーグなど、手の込んだおかずはどれも絶品で、その後もしばらく通っています。店内に飾ってある小物たちにも癒され、ガラスケースの向こうからは、フィルム用の4連シンクロとビクター犬(ニッパーくん)がお出迎えしてくれます。
黒川幸則 (映画監督/キノコヤやってます)
映画ベスト
- 『ヴィタリナ』ペドロ・コスタ
- 『空に住む』青山真治
- 『ロストベイベーロスト』柘植勇人
- 『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』ジョン・ルーカス&スコット・ムーア
- 『がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!!の巻』石田秀範
1/リリアン・ギッシュのクロース・アップを反転させて、21世紀に映画を継承・更新していると思った。「必殺!」シリーズみたいな暗さとも思った。ヴィタリナに起こる喜劇的な出来事は反転すると笑い事じゃない。2/見たあとでシナリオを読んだらラブコメみたいなノリだと思った。多部未華子さんはどこか若い山田五十鈴を思わせた。「必殺!」の暗さを反転したらこの光になるかしら。3/この感情は僕には分からないと思ったが幼稚園に置き去りにされて(入園して)母の背中に泣き叫んだ事が思い出された。日本にA24があったらこんな映画じゃないかな。4と5/マック・セネットのアナーキーでメカニカルなスラップスティックコメディが2020年に突如蘇った。4/サンフランシスコの夜の坂道を光るスケボーで滑走するのは夢のようで、ほんと憧れる。5/セクハラロボコンにロビンちゃん怒りのデスロード、もうやけくそ!
以上、劇場公開作品に絞りました。配信で見た作品や、手前キノコヤで上映したものも省きましたが、ちょっとひとつだけ、ジャン・ヴィゴ監督の『ニースについてー資料にもとづく視点』(1930)を映写して繰り返し見て、1や2と同様、ここにはまだまだ映画の可能性があると、改めて驚きました。
その他ベスト
- 『New Years Listening Room』古池寿浩ほか(特殊音楽バー スキヴィアス)
- 『はたらきびと』福永大介(小山登美夫ギャラリー)
- 『インプレッション』小林耕平(LAVENDER OPENER CHAIR・灯明)
- 『WEEKEND』core of bells(藤沢市アートスペース)
- 『MOOD HALL』カワイオカムラ(恵比寿映像祭2021で上映予定)
あちこち歩き回った記録として…。年始に三重県立美術館~一目連神社~スキヴィアス~豊田市美術館と移動した時、音楽家に包囲されるようにして聴いたこれ。久々に六本木のギャラリー巡りした時は視覚芸術でいまだに一番刺激的なのは絵画じゃないかと思った。尾久の灯明ではそれを否定するようなオブジェとなったキャンバス(と美味しいご飯)ブレない面白さ。藤沢では6hの上映=パフォーマンス。&、数年前、京都に行って以来、気になっていた映像作品が恵比寿に来るので一足先に見せていただく。この2作品におけるフィクションの扱いと今後どう付き合えるだろう。
佐藤友則 (映画保存/映画祭スタッフ)
映画ベスト5(順不同)
- 『眠る虫』金子由里奈(2019)
- 『セノーテ』小田香(2019)
- 『マダム・ハイド』セルジュ・ボゾン(2017)
- 『国葬』セルゲイ・ロズニツァ(2019)
- 『ようこそ映画音響の世界へ』ミッジ・コスティン(2019)
ベストというよりは印象に残った5本に近いかもしれない。『珈琲時光』(2014、侯孝賢)のように日常の微かな音と光の揺らめきを捉え、ウィーラセタクン作品のように生と死が緩やかに浸透し合う夢心地な映画体験を味わった『眠る虫』は忘れがたい。『セノーテ』もまた固有のジャンルに囚われず、ドキュメンタリーと実験映画の境界を監督自らの身体によって打ち破ってしまったかのような力強い作品であった。アンスティチュ・フランセの特集で鑑賞した『マダム・ハイド』の捉えどころのなさにも恐るべき衝撃を受けた。怪奇映画なのかギャグなのか、冗談とも本気とも付かない、だがそれゆえにこそ真に胸を打つ作品であった。
スターリンの国葬を捉えた当時の記録映像が一編の曲のように鮮やかに紡がれて、その場に立ち会ったかのような驚くべき臨場感を味わった『国葬』。映画音響に関わる様々な職人たちの創意工夫と気高さに感心させられた『ようこそ映画音響の世界へ』も素晴らしかった。
その他ベスト5(順不同)
- 『cursed172212211/too old to camp』只石博紀(space dike/映像展示、パフォーマンス)
とある休日の午後、ボール遊びに興じる親子などが集まる公園で黙々と続けられるパフォーマンス(歩いたり佇んだりを何度も繰り返す)を眺めている時間がこの上なく至福であった。
- 『岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ』(豊田市美術館/展示)
物量に圧倒されつつもその強度にひたすら目が離せない圧巻の展示。
- 『梅津庸一キュレーション展 フル・フロンタル 裸のサーキュレイター』(日本橋三越本店/展示)
あらゆる現代アートと近代の作品を結びつける自在なキュレーション力に脱帽。
- 『罪と罰』地点(演劇)
多くの人物が去来する原作小説の混沌が地点の世界に立ち現れていた。
- 『米つぶサイズの地球』ミズタニー(演劇)
反復の内に予想も付かぬ着地を決める不条理&ナンセンスぶりが最高。
杉原永純 (映画キュレーター)
映画ベスト5
- 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド(T・ジョイ PRINCE 品川/2020.1.13)
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグ(TOHOシネマズ六本木ヒルズ/2020.6.20)
- 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』オリヴィア・ワイルド(Netflix/2020.12.30)
- 『セノーテ』小田香(恵比寿映像祭/2020.2.16)
- 『Shari』吉開菜央(未完成版)
コロナ禍の直前に、安定のソーシャルディスタンスが保たれた品川のIMAXで『フォードvsフェラーリ』。至極贅沢。
『ミッドサマー』での印象も新しかったうちに、フローレンス・ピューを『ストーリー・オブ・マイライフ』で。シアーシャ・ローナン筆頭に俳優陣の異様なまでの生き生きさが、碁盤目状に間隔を開けた六本木のTOHOで、沁みた。ゴダール作品の意味わかんないぐらいイキイキした被写体に匹敵していたように感じた。
見逃していた『ブックスマート』を年末に家で。とっても良い。いろいろな正義が即断されるこの世の中で、全方位的な目配せも保ちつつ、真正面からエンターテイメントとして昇華した技量に感服。この素晴らしい脚本に4人がクレジットされてたことをメモ。
『セノーテ』の地域に住む人による伝承の朗誦が個人的に強く印象に残っている。古代マヤから現代まで、空間も時間も垂直にダイブする強靭な想像力。
吉開菜央による珠玉の映像エッセイ『Wheel Music』をユーロ上映中にやっとスクリーンで見て口ずさまれる「省エネで生きてる」にはっとした。仕上げ前に見せてもらった『Shari』には、「Dancing Films」として特集した吉開菜央のエッセンスが詰まっていて、かつ新たな一歩を踏んでいた。どこか水平的で、余所者としての軸も保持された楕円的な想像力が心地よい。完成が待ち遠しい。
その他5選
- 『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』エリック・グッド、レベッカ・チャイクリン
依存症には快と不快が交互に起きると何かで読んだ。まさにそれなんだろうが、この程度の不快を、映画もテレビももはやできず、YouTubeには長すぎるのだろう。映画祭にも無視される煽りの作りだし、「タイガーキング」も必要としてない。興隆する配信プラットフォームと、規格外のドキュメンタリーが運よく接地した好例として見た。大統領選直前のアメリカの縮図にも見えた。
- 絶景社(宜野湾市)
10月沖縄に初めて行った。もともとはバーだったらしい空間を改造した写真家・石川竜一さんの秘密基地的な作業場兼お店。石川さんに勧められるがままに食べたヤギ刺しは、凄い。
- A&W 牧港店(浦添市)
お店で揚げているポテトチップスが絶品。ここの第二駐車場=P2にまつわるさまざまな逸話。もはや伝承といって良いか。あらゆる都市に、ただ何もないこうしたDMZ的な隙間の空間がほとんどない。
- そばよし 日本橋店
2020年いちばん通った。立ち食いそばの有名店なので説明は省く。京橋店にも神谷町店にも行って制覇した。
- 某焼肉店(神田)
2020年いちばん通った昼飯。とにかく美味い。この肉質、この量で、ランチは千円切る。いつも混み合うとお母さんが困ってしまうので店名は伏せる。
田中竜輔 (NOBODY)
映画ベスト
- 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド
- 『ルーベ、嘆きの光』アルノー・デプレシャン
- 『オールド・ジョイ』ケリー・ライカート
- 『空に住む』青山真治
- 『ヴィタリナ』ペドロ・コスタ
見た順番に。この場でベストを書くことを続ける中で、いつも意識しているのは梅本洋一の次の言葉だ。「ベスト○○というのはあくまでその年に生きた個人の軌跡であって、絶対評価ではない。上記の5本は、私を感動させた5本であって、私を感心させた5本ではない」。この2020年という年を振り返る中で、この言葉の意味を改めて考えながら上の5本を選んだ。
その他ベスト
- 『黒沢清、21世紀の映画を語る』黒沢清(boid)
書籍版の刊行は2010年の秋、本書はそれから10年越しで電子書籍化がなされることとなった。これまでも何度も読み返していた一冊だったが、今年はほんとうに折に触れてこの本を開いた。いつも何か明確な目的があってというわけではなく、ふと思いついたら適当にページを開き、目についたある程度の文章を読み終えたら本を閉じる、というような読み方をすることで、様々な混乱の中で鈍ってしまった頭を何度も立ち直らせてもらった。
- 『レッド』山本直樹(講談社)
緊急事態宣言が発令される直前に未入手だった後半の巻をすべて入手できたため、その期間で一気に読んだ。闘争とは何か、何が敗北なのか、あらかじめ死を定められた登場人物たちの終止符のない物語に何を見出すべきなのか。さらなる精読が必要だ。
- 『潮が舞い子が舞い』阿部共実(秋田書店)
阿部共実はこのあまりにも美しい作品を通して、これまでの自作で地獄に貶めてきたあらゆるキャラクターを一人残らず救済しようとしているのではないか、と勝手に考えている(そうでなくとももちろん構わない)。今年も続刊を待ち続けたい。
- 『ドゥームズデイ・クロック』ジェフ・ジョンズ、ゲーリー・フランク(小学館集英社プロダクション)
ディテールは20%も理解できていないと思うが、「スーパーマン」とはいかなる存在であるかをめぐる終盤の圧倒的な展開にはただただ感動した。
- 「ele-king vol.26 オウテカ──その果てしない音の世界を調査する」ele-king編集部
2020年最後に買った雑誌。2枚の新譜をきっかけに今年の後半はオウテカをよく聴き直していたが、この素晴らしい特集号とともに改めて彼らの足跡を辿り直したいと思う。
千浦僚 (映画文筆)
映画ベスト
- 『VIDEOPHOBIA』宮崎大祐
- 『パラダイス・ロスト』福間健二
- 『れいこいるか』いまおかしんじ
- 『すずしい木陰』守屋文雄
- 『たわわなときめき』古澤健
- 『キラー・テナント(怪談 回春荘/こんな私に入居して)』古澤健
- 『糸』瀬々敬久
- 『空に住む』青山真治
- 『無頼』井筒和幸
- 『はめ堕ち淫行 猥褻な絆(おっさんとわたし)』山内大輔
1から5は同じものを「映画芸術」に出しましたので、さらに追加で計10本。 結構、話題作、重要作見逃してますが、邦画新作からは一応こちらを。
その他ベスト
- 『ザ・ホーネット』平井庸一(音楽/CDアルバム)
- 『コックファイター』チャールズ・ウィルフォード(小説)
- 新人男優賞 自分(千浦僚『たわわなときめき』三浦役)
※古澤健監督にお声がけいただき、ピンク映画『たわわなときめき』 に出演した(2020年3月に撮影。10月以降イベント的な公開があった)。話が来たときに、自分はパフォーマーのほうじゃないんで、と断るのはダサいな、これを避けたら偉そうにものを書いてることが無意味に偉そうなだけになるな、と思ってやらせていただいたが、その感覚、発想の根元がわからなかった。
4月、チャールズ・ウィルフォードの『コックファイター』邦訳刊行。買って、読んで、モンテ・ヘルマンの映画を見直して、そこそこ大事な役で出てるウィルフォードを見て気づく。あ、あの"やったろーやんけ!"みたい感じは映画『コックファイター』への参加(脚本も書いてる)ウィルフォードの「コックファイター撮影日記」をかつて読んだせいだわ…(1999年刊「Sagi times02」のなかの遠山純生氏の編・訳「『コックファイター』から『ボーン・トゥ・キル』へ」)。吐いたツバ飲まんとけよ、なのか、ツバの飛んだ場所の先にまで飛ぶのか、ものを書くならある程度てめえもやってみせろ、というのははるか昔にチャールズ・ウィルフォードに刷り込まれてました私。
あと、商業公開される映画に出たため、私は今年と来年は某「キネマ旬報」のベストテン参加資格を失いました。もともとそういう規定があることは知ってましたが、今年、依頼された後に「出演した映画があって客観視できないし思い入れあるので、新人男優賞は自分にして、当然主演女優助演女優、監督、脚本、個人賞も全部その作品にして投票したいのですが」とメールしたらきっちり今年はご遠慮ください、となりました。
もろもろ、また機会あればnobodymagに書かせていただきたいもの。曖昧で不快で不安なこと多い2020年でしたが、愉快なこと、すばらしいこともあったと。
常川拓也 (映画批評)
映画ベスト
- 『Dating Amber』デヴィッド・フレイン
- 『Unpregnant』レイチェル・リー・ゴールデンバーグ+『Saint Frances』アレックス・トンプソン
- 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ
- 『甘いお酒でうがい』+『私をくいとめて』大九明子
- 『The House Of Us』ユン・ガウン
ウィルスに封じ込められた時代、あるいはチョン・イヒョンが形容したような「優しい暴力の時代」に、困難の中でもその純粋さや明るさ、力強さに胸を打たれた映画たち。
2020年は、中絶手術の手順を詳述した『Never Rarely Sometimes Always』(エリザ・ヒットマン)をはじめ、『イノセンス』(ルシア・アラマニュ)や『燃ゆる女の肖像』含め、「望まない妊娠と中絶」を扱ったプロチョイス映画が印象的だったが、その中でもそれを「中絶コメディ」として描いた『Unpregnant』と『Saint Frances』は特筆したい。望まない妊娠をした高校生のヘイリー・ルー・リチャードソンとゲイのバービー・フェレイラが「WE ARE GAY AND PREGNANT!」と叫ぶ前者と、中絶後の出血に対処する34歳のケリー・オサリヴァンと彼女が子守をするミックスの6歳児が「I’M SMART!」と鼓舞し合う後者が、『ブックスマート』の翌年に現れたことは何か象徴的なようにも感じる。『JUNO/ジュノ』以降のリベラルな現代映画。
『フロリダ・プロジェクト』を彷彿とさせるようなユン・ガウンの新作からは前作『わたしたち』と地続きの世界を描き続ける責任に、大九明子の映画からは現代の物語にもはや障壁も悪役も必要ないのだというある種同時代的なまなざしに感銘を受けた。クィア映画では『Beanpole』(カンテミール・バラゴフ)、『ハーフ・オブ・イット』(アリス・ウー)、『少女ジュリエット』(アンヌ・エモン)も忘れがたく素晴らしかったが、何より『Dating Amber』の友情と優しさに胸がいっぱいになった。
『パーム・スプリングス』(マックス・バーバコウ)も『恋はデジャ・ブ』以降の方程式を更新するタイムループ映画で最高でした。
その他ベスト
- 『セックス・エデュケーション』シーズン2(ドラマ)
多様性を反映した学園ものの最前線。『Dating Amber』のフィオン・オシェイが出演する『ふつうの人々』も大変よかったが、性を大きく取り上げた両作で同じインティマシー・コーディネーター=イタ・オブライエンが関わっていることも記憶したい。
- 『Future Nostalgia』デュア・リパ(音楽)
ライブに全く行けなかった年のダンス・アルバム。「幼い頃からから喫煙家みたいな声だった」と語る彼女のひび割れた高音も好き。2020年は、舐逹麻で改めてサンプリング・ミュージックに引き込まれ、遂にPUNPEEやZORNと共演したKREVAの活躍に歓喜し、いま日本で一番コンシャスなMoment Joonの鋭い言葉に背筋を正された。最近の発見的な喜びはBen Kessler with Lizzy McAlpine「False Art」。
- 『the author』Luz(MV)
『Dating Amber』のローラ・ペティクルーが出演するこのMVもまた海岸線で成就するレズビアン・ロマンス。
- 探偵ナイトスクープ「オナラが出る瞬間の肛門」回(テレビ)
『初恋』の宣伝に来ていた三池崇史に「テレビの革命に立ち会えた」「神になった」と言わしめた間寛平。ラジオでは、高校生漫才コンビの誕生から東ブクロのセフレ登場まで入り乱れる『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』が最高でした。
- サム・フリークス(イベント)
コロナ禍でも第10回まで(前身イベントから数えるとおよそ4年に渡って)二本立て1500円の料金で、児童支援も兼ねてひとりで継続させた岡俊彦さんの身銭を切った活動に改めて敬意を表します。資本主義に疑問を呈す上映イベント。
中村修七 (映画批評)
映画ベスト
- 『ようこそ、革命シネマへ』スハイブ・ガスメルバリ
- 『イサドラの子どもたち』ダミアン・マニヴェル
- 『ヴィタリナ』ペドロ・コスタ
- 『スパイの妻』黒沢清
- 『ジオラマボーイ・パノラマガール』瀬田なつき
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにともなう緊急事態宣言が解除されてから最初に見た映画が『ようこそ、革命シネマへ』だった。映画館での上映を実現させるべくスーダンの老映画人たちが時に戯れながらも奮闘する姿を見て、意識的に倒錯を演じることが意志的な楽観主義につながるのかと思った。
『イサドラの子どもたち』は、ダンスが生まれるまでの時間を静かに見つめる。ダミアン・マニヴェルにおける夜は、昼とは異なる時間であり、特異な出来事が生じる時間なのだが、夜のみを描く第3部の最終盤になり、ダンスが生まれる瞬間を捉える。
『ヴィタリナ』は、初めて足を踏み入れた異国の地で喪に服す女性の姿を描きながら、愛と力と勇気と希望も感じさせる稀有な作品だ。
陰惨な雰囲気を漂わせていた憲兵隊の取調室が、どこからともなく現れた人々によって椅子が並べられ、スクリーンが運び込まれ、あれよあれよという間に映写室へと変貌を遂げる。このようなシーンを含む『スパイの妻』に、爽快な驚きを感じた。
『ジオラマボーイ・パノラマガール』を見て、僕の知らない東京が映っていると思った。建設工事中の建物が並ぶ渋谷や豊洲の風景は、出来上がった建物が並ぶ風景よりもずっと楽しそうに見える。変わりつつある風景の中で陽気にはしゃいでいるかと思えば不意に切なげな表情を浮かべる少年少女たちが魅力的だ。
美術展ベスト
- 『人、神、自然-ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界-』(東京国立博物館東洋館)
- 『祈りの造形 沖縄の厨子甕を中心に』(日本民藝館)
- 『岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ』(豊田市美術館)
- 『生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市』(東京都写真美術館)
- 『生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代』(東京オペラシティ・アートギャラリー)
- 『ベゾアール(結石)シャルロット・デュマ展』(銀座メゾンエルメス フォーラム)
カタールの王族が蒐集した古代の美術工芸品コレクションから展示されていた「人、神、自然」だが、現代から約4000年以上(!)も昔に作られたという、怪しげな王女像や山羊のような角を生やした精霊像やブランクーシを想起させる女性像が印象に残る。
「祈りの造形」展で、元来は墓の中で遺骨を納める厨子甕が大展示室でずらりと並ぶ風景に戸惑いを覚えたのも確かだが、死後に安らかに眠るための家型の厨子が美しい。
岡﨑乾二郎の絵画には色彩と筆触の美しさがあり、造形には面白さと巧みさがあって、見ていると気分が高揚するような楽しさがある。
アメリカで完璧な造形感覚を身につけた写真家が、西洋的な造形とは馴染まない日本あるいは東洋において、いかにして写真制作をおこなうか。石元泰博(1921-2012)が広範な作品群において取り組んだのは、そのような問題ではなかったかと思う。
人間との関わりに関心を持ちながら動物を被写体とする写真を撮影してきたシャルロット・デュマだが、近年は、神話学・民俗学的な領域へと関心を広げているようだ。写真のほかに、馬の体内で作られた大きな結石や愛らしい馬の埴輪が展示されており、関心の広がりが窺える。
新谷和輝 (映画研究)
映画ベスト
- 『空に住む』青山真治
- 『空に聞く』小森はるか
- 『乙姫二万年』にいやなおゆき
- 『国葬』セルゲイ・ロズニツァ
- 『El año del descubrimiento』ルイス・ロペス・カラスコ
時間の感覚がつかみづらかった一年で、誰かが生きた記憶をたしかめるように映画を見ていた気がする。自宅で見た映画も多い。『空に住む』で主人公が地獄のような世界で自らの拠点を築いていく過程には深く感銘を受けた。『空に聞く』で記録された数々の語りには、どこか遠くの人へ語りかけるような、祈りのような時間性を感じた。『乙姫二万年』はどこからなにが出てくるかわからない楽しさと沖島勲『一万年、後….。』にあった孤独がいっしょに押し寄せてきた。『国葬』は東京国際映画祭で見たアンドレイ・コンチャロフスキー『親愛なる同志たちへ』とあわせて、スターリン時代あたりのソ連を生きた個々人の経験とそれらを象徴化してしまう異形の力について考えた。1992年のセビーリャ万博とバルセロナ五輪の影で、カルタヘナでおこった労働運動を想起する人々の証言を二画面分割で記録した『El año del descubrimiento』。作中で口にされる「憶えていないこともあるが私はたしかにあの時を生きた」というセリフが伝えようとすることを理解するために、映像と言葉が尽くされていた。
あとはアテネ・フランセで『繻子の靴』を見て、演技と演出によってどんどん作品世界が深化していくのにただただ圧倒された。
その他ベスト
- 仮設の映画館
映画の文化・経済システムを考えなおすことができる取り組みだったと思う。ここで見た『精神0』と『春を告げる町』もすばらしかった。映画館や映画のあり方について様々な意見や出来事があったが、それらを忘れることも、誰かに責任を押し付けたままで終えることもしたくない。そこに関わる人々を尊重しながら、映画を共有する体系をいかにして維持するか、ちゃんと向き合っていきたい。
- 『チッソは私であった』緒方正人(河出書房新社)
新しく文庫で出て読んでみたのだが、すさまじい文章だった。「責任」というものをどう引き受けるかについて考え抜いた人の記録だった。
- 『WEEKEND』core of bells
今年はなんとなく身が入らない退屈な時間が多かったが(とくにzoomの会議とか)、そういったありきたりな「退屈」を引き剥がして、そのときどこかにあるはずの時間や事物の堆積を、観客が映像やインスタレーションと協働して見つけ出すのが面白かった。
- 「Estaciones」Rosario Bléfari
今年亡くなったアルゼンチンのシンガー・ソングライター、役者の歌。彼女の声がとても好きで何度も聴いた。
Patch ADAMS (DJ)
映画ベスト
- 『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ@ヒューマントラストシネマ有楽町
- 『クラビ、2562』アノーチャ・スウィーチャーゴーンポン、 ベン・リヴァース@恵比寿映像祭
- 『バクラウ 地図から消された村』クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルネレス@シアター・イメージフォーラム
- 『Bildnis einer Trinkerin』『Freak Orlando』『Dorian Gray im Spiegel der Boulevardpresse』ウルリケ・オッティンガー@Arsenal 3
- 『繻子の靴』マノエル・ド・オリヴェイラ@東京FILMEX 有楽町朝日ホール
他に印象深かったのは、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』(ディーン・パリソット)、『FAMILY ROMANCE,LLC』(ヴェルナー・ヘルツォーク)、『アンカット・ダイヤモンド』(サフディ兄弟)、『ブルータル・ジャスティス』(S・クレイグ・ザラー)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ)、『ルディ・レイ・ムーア』(クレイグ・ブリュワー)、『呪怨 呪いの家』(三宅唱)、『事故物件 恐い間取り』(中田秀夫)、『すべてが許される』(ミア・ハンセン=ラブ)、『The Green Fog』(ガイ・マディン)、ヴェルナー・シュレイター特集@Filmmuseum München(vimeo)、ジャン=ピエール・モッキー特集@アンスティチュ・フランセ東京、中原昌也への白紙委任状@アテネ・フランセ 文化センターなど。また、『Surfin'L.S.D』 の脳BRAINによるinstagramアカウント「dj_acid_a_manner」のストーリー投稿に驚いた。SNS時代に産み落とされたダーク・ヨドチョーによる作品解説とでも言うか……見てくれ!
なお、『繻子の靴』のアンヌ・コンシニ演じるマリー・ド・セテペが侍女と共に海を泳ぐシーンで得た感動が、2020年のあらゆる出来事においてベストだった、気がする。
書物ベスト5
- 『地下 ある逃亡』トーマス・ベルンハルト/今井敦訳(松籟社)
- 『贖罪 ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争』吉田喜重(文藝春秋)
- 『吐き気』オラシオ・カステジャーノス・モヤ/浜田和範訳(水声社)
- 『映画を見る歴史の天使 あるいはベンヤミンのメディアと神学』山口裕之(岩波書店)
- 『愚行の賦』四方田犬彦(講談社)
「コロナ自粛」の直前に病気になって半年くらい断酒。すっきりした頭で本が読めた。古井由吉が亡くなったことをきっかけに、積読だった『仮往生伝試文』(講談社文芸文庫)を春先に読んだ。読む間から僻地に一人で暮らす祖父や街の施設にいる祖母のことをぼんやりと思っていたら、秋になって祖父が死去。97歳。亡くなる前夜、祖父が夢に出て来た。明くる朝、実家から報された際に悲しくも得心。葬儀と四十九日の法要に参加した。小学校の卒業まで暮らした土地。菩提寺は曹洞宗。法要の終わり、住職の説法、ではなく、雑談めいた話の中に画家の丸木位里・俊夫妻が毎年寺に泊まりに来ていた逸話があり、感心した。初夏に岡村幸宣『未来へ 原爆の図丸木美術館学芸員作業日誌2011-2016』を読み、秋口に丸木美術館を訪れたばかりだったので。なお、2度の帰省にはいずれも「GO TO」を使用。宿で貰ったなんとかキャンペーンの応募ハガキを出したら1万円相当の牛肉500gが当たった。安く故郷に帰れて、喪中で迎えた丑年の元日にすき焼きが食べれた。じいちゃんに合掌。
馬場祐輔 (鎌倉市川喜多映画記念館)
映画ベスト
- 『天国にちがいない』エリア・スレイマン
- 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド
- 『コロンバス』コゴナダ
- 『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ
- 『鵞鳥湖の夜』ディアオ・イーナン
新型コロナウイルスの影響で、全国の映画館、美術館・博物館が休館し、各種イベントが中止となった。私の職場は臨時休館中、スタッフ1名が代わる代わる出勤し、期間延長のたびに上映中止のアナウンスや配給会社への連絡、今後の再開館に向けた対策などに追われた。『月に囚われた男』のサム・ロックウェルのように独り言をつぶやき、誰もいない観光地の片隅で業務を続けた。こうした断絶と再開を経験した2020年、楽しみにしていた作品が公開中止・延期となり、鑑賞記録も例年通りにはいかなかったが、次々と映画館が閉まる最中に先行上映で見た『デッド・ドント・ダイ』の荒涼とした風景はしっかりと脳裏に焼きついた。世界が混迷を極めるとき、エリア・スレイマンのような視点と想像力で物事の見方・関係の在り方を変えていく方法は、映画を見続ける私にいつも何らかの示唆を与えてくれる。「事実は小説よりも奇なり」という言葉が昔から嫌いだ。その事実を《奇想》と思える視野は、まず何よりもフィクションによって培われるのだから。スレイマンの10年ぶりの新作『天国にちがいない』の公開(2021年1月29日~)が決まり、『時の彼方へ』(2009年)が東京フィルメックスのスレイマン特集で再び上映されたことをとても嬉しく思う。選出のベスト5とは別のベクトルで深く印象に残り、人と会って話をしたくなった作品は、ソフィア・コッポラの『オン・ザ・ロック』、サフディ兄弟の『アンカット・ダイヤモンド』、キム・ボラの『はちどり』、オリヴィア・ワイルドの『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』、クリント・イーストウッドの『リチャード・ジュエル』の5作。
2020年ベストな《上映会》
- ケリー・ライカート監督特集@シアター・イメージフォーラム/出町座/下高井戸シネマ
- のんきな〈七里〉圭さん特集@下高井戸シネマ
- サム・フリークス@渋谷ユーロライブ
- 『Supa Layme(スーパ・ライメ)』藤川史人@横浜シネマ・ジャック&ベティ
- 『小さな声で囁いて』山本英@熱海シネマ
下高井戸シネマのファンで、ずっと応援している。10年ほど前、「白夜映画祭」(杉浦かおりさんによる作品選定と解説)というロシア映画の特集があって、ボリス・バルネットの『青い青い海』や『帽子箱を持った少女』、ギオルギ・シェンゲラヤの『ピロスマニ』などを上映していた。このとき見た作品や上映後のトークは、私にとって生涯忘れられないものとなっている。上映環境もサイズも丁度良く、イベント主催者と観客との距離が何より心地良かった。2020年、参加が叶わなかったものも含むが、上記の5つの上映会が有志によって開催されたことを祝福したい。念願のケリー・ライカートと七里圭の監督作品を、下高井戸シネマのスクリーン&音響で体験できたことはとても幸運だった。『いさなとり』の藤川史人がペルーで撮影した『Supa Layme(スーパ・ライメ)』、東京フィルメックスの「New Director Award」に選ばれた山本英の次回作『熱のあとに』が2021年どのように展開していくのか、とても楽しみだ。「サム・フリークス」(岡俊彦さん主催の"はみ出し者映画"特集上映会)では、今は亡き映画・文化史家の田中眞澄さんに教わったジョージ・ロイ・ヒルの幻の傑作『マリアンの友だち』を見ることができた(それもジョージ・ロイ・ヒルの誕生日に!!)。ゾーイ・カザン主演の『エクスプローディング・ガール』も「サム・フリークス」のおかげで鑑賞できた。またオンライン上映での開催となったが、「肌蹴る光線 ーあたらしい映画ー」でミア・ハンセン=ラヴの『すべてが許される』を、今このタイミングでもう一度見ることができて良かった。
その他のベスト
- 『ピーター・ドイグ展』東京国立近代美術館(展覧会)
東京国立近代美術館が臨時休館となる直前に駆け込んだピーター・ドイグ展。油彩画32点と、ドイグがトリニダード・トバゴの自分のスタジオで主催する映画上映会のために描いた直筆ポスター「スタジオフィルムクラブ」40点が展示されていた。リンボーダンスとスティールパンで有名なカリブ海の島国で、ドイグが友人と始めたシネクラブについて考える。ペドロ・コスタがリスボン郊外のフォンタイーニャス地区の住民たちと一緒にジャック・タチの『プレイタイム』を野外上映する光景と、どのように違って、どのように似るのだろう。近隣住民との交流手段のひとつでもあったことは間違いない。直筆ポスターは、建物を共有している人々や近隣に上映会を周知するために掲出されたという。最初の上映作品は『ハーダー・ゼイ・カム』。『お熱いのがお好き』や『気狂いピエロ』、『東京物語』、『羅生門』、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』なども上映している。スタジオは、ドイグが真夜中に制作に没頭するための場所であるとともに、日中は人々が集まり、卓球やライブ、上映会をする交流の場所でもあった。喧騒のあとの静寂、そのコントラストを彼は欲していたのだろう。油彩画はどれも素晴らしく圧倒されたが、映画ポスターはどれも可愛らしく、思わず笑みがこぼれてしまうものばかりだった。
- 『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ(小説)
夏の終わりを粛々と受け入れることにした8月末、待望の書の新訳が出た。自粛中、家の近隣をさまようしかなかった私たちは、誰にも見つかることなく様々な思索の翼を広げて歩いていたと思う。本書はこうした日々に光をあてる。ミックという少女が、ラジオから流れるベートーヴェンの交響曲第3番に夢中になるところ。「それは彼女、ミック・ケリーだった。昼間に歩いている彼女であり、夜に一人ぼっちで歩いている彼女だった。あらゆる計画と感性で頭をいっぱいにして、暑い太陽の下を、そして暗闇の中を歩く。その音楽は彼女そのものだった。」
- eimeku (ギフトショップ)
2020年は人に会えない分、たくさんの贈り物をした。横浜・白楽にある"GIFT"がテーマの素敵なお店eimeku(エイメク)は、大切な人たちに日頃の感謝をこめてちょっとしたプレゼントを贈るためのあらゆるものが揃っている。店員さんもお茶目でいい人ばかり。
- モイラ・シアラー、シド・チャリシー、ジジ・ジャンメールの妙技(ダンス)
2020年下半期はバレエ映画に明け暮れた。下記の3つのダンスシーンをYouTubeで検索してみてほしい。息を飲むほど美しいから。
1. 『ホフマン物語』プロローグでモイラ・シアラーが踊るバレエ〈魅せられたトンボ〉
2. 『絹の靴下』シド・チャリシーが踊りながらドレスに着替え、絹の靴下を身につける場面
3. 『ブラック・タイツ』ジジ・ジャンメールとローラン・プティのパ・ド・ドゥ
気に入ったら3作品とも本編を見てほしい。そして願わくは、鎌倉市川喜多映画記念館で開催中の企画展《バレエ映画の世界 ~日本バレエ発祥の地・鎌倉~》(2020年12月18日~2021年3月14日)に足を運んでほしい。今回は展示資料が充実している。『ホフマン物語』の特大オリジナルポスターは息を飲むほど美しい。『赤い靴』のフィルム上映(国立映画アーカイブ所蔵)もあるし、『イサドラの子どもたち』も上映します。 - NBAプレーオフ決勝、満身創痍のジミー・バトラー(スポーツ)
2020年1月26日、コービー・ブライアントがヘリコプターの墜落事故で亡くなった。あまりにもショックで、しばらく何のことか判らずにニュースを調べ続けた。長らくNBA観戦から遠のいていた私は、この十数年のNBAの変遷を追いかけ、2003年のスキャンダル以降コービーがどのように再起を果たし、ファンや選手たちの信頼を得たのか、考え続けた。また8月には「ジェイコブ・ブレイクへの銃殺事件」が発生し、NBAやWNBAは抗議のため試合をボイコットした。選手たちは意見を交わし、熟考を重ね、リーグとしても様々なアクションを行うことに繋がった。BLMのことを追いかけながら、同時に私はまたNBA観戦に夢中になった。
2020年はレイカーズ優勝&レブロン・ジェームズのファイナルMVPで幕を閉じた。あちこちで優勝してしまうレブロンよりも、同年代のカーメロ・アンソニーやクリス・ポールのほうがずっと魅力的だ。フィットしないチームで苦しんだ過去がありつつも、ようやく居場所を見つけてプレーオフに挑み、ひとつひとつ勝利をつかみながらも最後は散っていく、彼らの活躍する姿のほうがよっぽどグッとくる。それから、プレーオフ決勝で第6戦までヒートを牽引したジミー・バトラーは、この年一番格好良い男だった。バトラーも過去に在籍したチームではうまくいかなかった。今のヒートのチームワークは見ていて気持ちが良い。パスやシュートからも信頼関係が伝わってくる。来季もバトラーが主将を務め、チームはさらに強くなるだろう。コービー在籍時も今も、レイカーズは相変わらず憎い宿敵でしかないが、こうして私は再びバスケットの世界に戻ってくることができた。
深田隆之 (映像作家/海に浮かぶ映画館 館長)
映画ベスト
- 『ライト・オブ・マイ・ライフ』ケイシー・アフレック
- 『コールヒストリー』佐々木友輔
- 『ミークス・カットオフ』ケリー・ライカート
- 『田舎刑事第3話 まぼろしの特攻隊』森崎東
- 『イサドラの子どもたち』ダミアン・マニヴェル
素晴らしい作品は今年もたくさん上映されたが、個人的に心を動かされた作品から観た順に選んだ。今まで、いわゆる「今年のベスト」を選んだことがなかったので楽しい作業だった。抽象的な言葉になるが今年は「画面に映る身体への信頼」という視点を持って観ることが多かったように思う。なんとなく映画を観る中で最近よく考えている。言葉の意味ではなく発話そのもの、個々人だけが持つ所作とその魅力。
『田舎刑事第3話 まぼろしの特攻隊』は元々テレビドラマで映画ではないのだが、渥美清と西村晃の存在感、そして特異かつ切実なシナリオに圧倒される形で選んでしまった。『ライト・オブ・マイ・ライフ』はkino cinemaでひっそりと上映されていたので色々な場所で上映してほしかった。この映画について多くのことを書けないのが残念だが、ラストシーンの娘の顔には感動してしまう。
映画を観ていると、海に浮かぶ映画館で上映したら面白そうか?ということもまた頭をよぎる。船の中で観たいのは『Terra』(鈴木仁篤、ロサーナ・トレス)、『自画像:47KMの窓』(ジャン・モンチー)などもあるが、『コールヒストリー』が見つめる"創ることそのものへの強い問い"もまた船で観たらとても良いだろう。
『ミークス・カットオフ』はかつてアメリカ映画で描かれたネイティブアメリカンの身体性を更新し、『イサドラの子どもたち』は言語化できない救いと感動をもたらしてくれた。
悩んだのは『フォードvsフェラーリ』(ジェームズ・マンゴールド)、『ヴィタリナ』(ペドロ・コスタ)、『風の電話』(諏訪敦彦)、『すべてが許される』(ミア・ハンセン=ラヴ)、『喜劇 女は男のふるさとヨ』(森崎東)、などなど。こう見ると日本のインディーズ映画を多く観られていないので、来年はもっとチェックしたい。
その他ベスト
- 『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』Kaede&Lamp(2020)
ご存知、新潟発のアイドルグループNegiccoのメンバーKaedeによるソロプロジェクト。ひとつの物語のように流れる構成と、車窓からの夜景を思わせる音色、そしてKaedeの歌声が心地良く響く。ベースがアルバム全体を通してかなりかっこいい。Negiccoとしての最新EP『午前0時のシンパシー』もとても良かったが、グループ名義とは違う大人っぽい曲を聴けるソロアルバムは面白い。同じく今年発売の『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』もおすすめ。ついにメンバー全員が結婚したNegiccoがそれぞれどう活躍するのか、とても期待している。
- 『北北西に飛んでいった』マーライオン(2020)
僕の実の弟、マーライオンの最新アルバム。あまり公に文字にしたことはなかったのだが、彼の音楽は過ぎ去ってしまった世界への哀愁で貫かれている。選び取る歌詞のワードが昔から特殊で、その独特な歌詞世界につい嫉妬してしまう。中学生からギターを弾き始め、神聖かまってちゃんに強く影響されていた彼も曽我部恵一さんの最新アルバムに参加するなど、活動の幅を広げている。弟とは実家で同じ部屋を分けていたのでお互い窮屈な思いもしたのだが、最新の音楽に関しては彼から情報をもらったり、逆に好きそうな映画を薦めたりしていた。"北北西"というワードを出すあたり、素敵なめんどくささなのかもしれない。
- 『SOURCE』Nubya Garcia
新進気鋭のUKジャズサックス奏者、Nubya Garcia(ヌバイア・ガルシア)のニューアルバム。近年注目が集まっているShabaka Hutchings、KOKOROKOを始めとしたUKジャズシーンの中でも、モダン・ジャズ的なクラシックさも匂わせるミュージシャン。熱量のあるサウンドながら激しいプレイよりは流麗さの方に寄っている。いちプレイヤーとしての力強さはもちろん、コンポーザーとしてのバランス感覚の中で音楽を作っているのかもしれない。ロバート・グラスパー以降(あるいは以前から)のミュージシャンはとにかく「個人としても良いけどアルバムとして、グループとして良いよね」っていうものが多い。気がする。スピリチュアル、ゴスペル、アフロをふわりと横断しながら流れていくヌバイアの音の熱に、いつまでも浮かされていたい気分になる。
- 碁会所に初めて行く
自粛期間中にダウンロードした囲碁のアプリにハマり、YouTubeで解説動画を見るようになった。飽きるかと思っていたら継続してゲームをしてしまい、ついに碁会所という場所に行きたくなってしまった。碁会所へ行くと1時間くらいの講座の後、先生ひとりに対して参加者4名ほどで打つことに。初心者なのでハンデで9子置き、内心これで負けるはずがないと思っていたら驚くほどあっさりと負けてしまった。先読みをするため頭の中が煮えそうになるのだが、疲れ切った頭でこの部分はどう打ったら良かったんですか…?と聞いたら「あんまり"正解がどれか"って考えで打たない方がいい。打ってみたいところに打って、何回も失敗と成功を繰り返すけど、失敗しても何かしらの蓄積になるから、そういう考え方でいた方が楽しいよ」と言われたのが今年のハイライト。
- 四万温泉
話題のgo to トラベルを使って足を運んだ温泉旅行。"四万の病を癒す霊泉"という伝説から名付けられた古くからの名泉だ。コロナのこともあるので個別のロッジのような場所に宿泊したのだが、冬の露天風呂で1年のじわじわと溜まった疲れを洗い流しつつ美味しい群馬の野菜や肉を堪能した。近くには青く輝く四万湖や、街の人も利用する共同浴場などがあり、古くから街と温泉が密接に根付いていた跡が至るところに残っている。旅の途中、「積善館」という古い宿に出会いどこかで見たことがあると思っていたのだが、帰ってから調べると『スパイの妻』のロケ地となっていた場所だった。
二井梓緒 (映像制作会社勤務)
映画ベスト
- 『大佛さまと子供たち』清水宏(1952)
- 『青春がいっぱい』アイダ・ルピノ(1965)
- 『行き止まりの世界に生まれて』ビン・リュー(2018)
- 『風が吹けば』ノラ・マーティロスヤン (2020)
- 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』ディーン・パリソット(2020)
上位2作は間違いなく人生ベストに入る。ルピノの『青春がいっぱい』はまさに自分の中高時代の生活のようで胸がギュッとなったし(そしてこんなに可愛いOPを私は他に知らない!)、何より清水宏作品に出会えたことは私の人生にとってかけがえのない体験となった。ラピュタ阿佐ヶ谷での『大佛さまと子供たち』の上映後、外で煙草をすっていた時に観た冬晴れのなかを近所の子どもたちが走る姿は今でもはっきりと思い出せる。また年末に観た『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』はこんな最低な年にこんな最高な映画を作っちゃうなんて本当にエクセレント!と心からの拍手を送りたいほど、今年の映画館納めにぴったりの作品だった。
とにかく私はやさしい映画が好きなのだと思う。こういってしまうと胡散臭いが、やさしさにも色々ある。これら5本の共通点はやさしさであるが、全て違った形、眼差しのやさしさを感じ、これらを観たあとの帰り道はもう少し外の世界に興味を持とうと思えたのである。
その他ベスト
- AUATC/Bon Iver(音楽)
2020年、この曲に何度も救われた(年始に行ったライブも素晴らしかった)。仕事を理由に選挙に行かない大人になんか私は絶対ならないとも強く思った1年だった。他によく聴いたのはHaim、Taylor Swiftの新譜、604『猫盤』の「すんまそんぐ」。
- Modern Loneliness / Lauv (MV)
映像的に美しかったり優れているMVは数多くあったが、このMVはまさに2020年をダイレクトにあらわしているので。他に良かったMVは(LA)HORDEによるChristian and the Queen『La vita nuova』、折坂悠太『春』、 Haim『I know Alone』 、あとはやっぱり天才Oscar Hudsonによる Loyle Carner『Ottolenghi』。
- 「甘壺」の梅干しキムチ(ごはん)
メニュー全て美味しいが、これを食べた時の感動が忘れられない。しょっぱいものと辛いものの融合に感謝。
- 『サルなりに思い出すことなど 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々』ロバート・M・サポルスキー(本)
幼い頃からゴリラに憧れていた霊長類研究者がヒヒたちと過ごした日々を綴ったもの。父から借りたらとにかく面白かった(し、こんなものを読んでいる父親のことをもっと好きになった)。同じくみすず書房から出ている『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観 』(ダニエル・L・エヴェレット)も何度読んでも面白い。自分の知らない世界は常に魅惑的。他に良かったのはラングロワについての『映画愛―アンリ・ラングロワとシネマテーク・フランセーズ 』(リチャード・ラウド著)。
- 九州旅行中の山火事(旅行)
3月、友人に会いにロンドンへ行くはずだったが、状況を見て九州横断に切り替え、由布院から別府へバスで移動中、山が盛大に燃えていた。間違いなく今年のベストモーメント。自分より大きすぎる何かが起きる時は必ず変なアドレナリンが出る。そういう観点で考えれば『佐久間ダム』(1959)も序盤ひたすら爆破するので、素晴らしい映画だった。
降矢聡 (グッチーズ・フリースクール主宰)
映画ベスト
以下順不同
- 『1917 命をかけた伝令』サム・メンデス
- 『サンダーロード』ジム・カミングス
- 『ブルータル・ジャスティス』S・クレイグ・ザラー
- 『mid90s ミッドナインティーズ』ジョナ・ヒル(YCAM爆音映画祭2020バージョン)
配信スルーであったことが悔やまれつつも、でも配信で出会えたからこそ特別の一本になった『ヴァスト・オブ・ナイト』が、映画視聴環境の急激な変化を被り、映画館とは、配信とは、を考えさせられた2020年のベスト1だ。今年は配信で見るが故に心を打つ映画、配信だからこそ可能な視聴の仕方を模索していきたいと思っている。また一方で、YCAM爆音映画祭2020で見た『mid90s ミッドナインティーズ』が放っていた、絶対に配信では味わえない物理的な音の凄まじさに心底打ちのめされた。そして去年は干支通りに家にたくさんのネズミが現れトラウマになってしまったが、あのネズミという生物のおぞましさをこれ以上ないほど的確に捉えた『1917 命をかけた伝令』も忘れがたい。本当は忘れたい。ネズミは怖い。
書籍ベスト
- 『ユリイカ2020年7月号 特集=クイズの世界』(青土社)
多くの答えの出ない問題に見舞われ、適切に問いを立てることの重要性をまざまざと見せつけられた2020年。収録された論考のタイトルにもあるようにまさに「問題がモンダイ」なのだ。
- 『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』森本あんり(新潮社)
寛容論者は、不寛容論者に対してもどこまでも寛容でいられるのか。稀代の変な人ロジャー・ウィリアムズを通して描く不寛容の歴史!「スーザンおばさん原理」や「誤れる良心」論の系譜など知らなかった原理や系譜も知ることができました。
- 『人類と病 国際政治から見る感染症と健康格差』詫摩佳代(中央公論新社)
「健康 Health」とはなにかご存知だろうか? WHO憲章の序文では「健康」の定義として「単に疾病又は病弱の存在しないことではなく、身体的、精神的、社会的に完全に健康な状態」と明記されている。健康の定義の文中に「健康」を入れていいのかよ、と思ったが本書は健康を考えるよい本です。
- 『砂漠が街に入りこんだ日』グカ・ハン著/原正人訳(リトル・モア)
新型コロナウイルスは人々に「健康」とはなにかを考えさせたが、普段とは違う見慣れぬ街も作り出した(そのうえ僕は個人的には引っ越しもして、ネズミに悩まされた東京を離れた)。そのもう一つの街をさすがに砂漠が入りこんだとは言わないけれど、妙なよそよそしさと喧騒がある架空の街、ルオエス"LUOES"("SEOUL"ソウルの綴りを逆さにした言葉)を描いたグカ・ハンのデビュー作を今年の一冊としたい。
- 『競艇と暴力団 「八百長レーサー」の告白』西川昌希(宝島社)
とんでもない面白さ! 舟券を買ったこともなければ暴力団との繋がりもないですが、今後も買わないし、繋がらないようにしようと思わせた。2020年の純粋な面白本ベストでいえば『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』(東浩紀、中央公論新社)と双璧をなしたが、僅差で本書をベストにした。
村松道代 (デザイナー)
映画ベスト
- 『オールド・ジョイ』ケリー・ライカート
- 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ
- 『空に聞く』小森はるか
- 『Supa Layme(スーパ・ライメ)』藤川史人
『オールド・ジョイ』のふたりに次の約束はもう無いんだろうなと思うと寂しい。気分が落ち込んで鬱々とした時に繰り返し見たら、元気にはなれなくても、彼らとともになんとか生き延びられそうだと思い、映画を見たあとすぐにDVDを購入しました。
その他ベスト
- 映画館:下高井戸シネマ
ケリー・ライカート特集/『アボカドの固さ』ロケ地/七里圭特集/オリジナルグッズの普段づかい感
- 本と文字:『SF映画のタイポグラフィとデザイン』デイヴ・アディ著/篠儀直子訳(フィルムアート社)
SF映画とデザインを行き来する膨大なヒントが楽しくてありがたい。書体に詳しい人がどんどん増えて、みんなでサンセリフ系書体の細かい違いや、各書体の歴史、字ごとのカーブの滑らかさになどについて語り合う世界を想像してみる。なかなか恐ろしい。 そういえば、映画『スパイの妻』には、魅力的な文字がたくさん登場していた。時代考証のうえに新鮮味を加えながら文字を作る作業は楽しそう。そして大変そう。『映画広告図案士 檜垣紀六 洋画デザインの軌跡』(スティングレイ)の到着を待ちわびています。
- デザインソフトで2020年にキーボードショートカットでものすごく利用した機能(新機能ではない)
①「元の位置にペースト」(InDesign)
まず、元の場所に置いてから進める。
②「色の置き換え」と「レベル補正」(Photoshop)
どこまでが色調補正でどこからが創作か、デザイナーはどこまで触れてよいか。
森本光一郎 (大学院生)
映画ベスト
- 『Point and Line to Plane』ソフィア・ボーダノヴィッチ
- 『サマーフィルムにのって』松本壮史
- 『Bait』マーク・ジェンキン
- 『Fourteen』ダン・サリット
- 『Mank/マンク』デヴィッド・フィンチャー
- 『Uppercase Print』ラドゥ・ジュデ
今年最大の収穫はソフィア・ボーダノヴィッチという監督に出会えたことだと断言できる。『Point and Line to Plane』は、物質を起点とする普段の抑制された作品とは異なり、行き場を失った途方もない悲しみを起点に、彼らの記憶を絵画に紐づけていくことで、映画の中に失った友人たちを生かし続けるという希望的な作品だった。TIFFで鑑賞した『サマーフィルムにのって』も同時代の横の分断と過去と未来という時間の分断を現在という一点に集め、それら全てを映画史の参加者にしてしまうパワフルさは希望的だった。それとは打って変わって、『Bait』における遅延と分解による分断に窒息する人々、『Mank/マンク』における反骨の宮廷道化師自身すら飲み込む真実性と信条の迷宮、『Uppercase Print』における共産主義の甘言と現実の精巧な再構築は全く以て希望的でないが、人間の底知れぬ内面と現代へと続く社会の腐敗を描いた点で共通している。また、決定的な別れがないまま、いつしか疎遠になった人を思い出させてくれた『Fourteen』にも感謝したい。
山野恵太郎 (HOLYWHEELIN’ THEATER &RADIO)
映画ベスト
- 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』ディーン・パリソット
- 『空に住む』青山真治
- 『行き止まりの世界に生まれて』ビン・リュー
- 『WAVES/ウェイブス』トレイ・エドワード・シュルツ
- 『AKIRA 4Kリマスター版』大友克洋
(1)なんとなくわかる気がするけど、全然腑には落ちていなかった「君の名前で僕を呼んで♡」のナチュラルでラディカルでオルタナティヴな実践を目撃した。つっこみのない世界のユートピア感に心底憧れた。映画館を出た後、登場人物のモノマネをせずにいられない衝動も初めて味わった。
(2)(3)(4)もうそんな時代じゃないし、なによりカッコつけられる要素をひとつも持っていないのに、しぶとくずっと心にすみ続けていた言葉「反省する男ほどつまらないものはない」(by村上龍)とようやくグッバイすることができた、感謝の3作品。違うか。でも本当にひとごとじゃなかった。
(5)脳みそどうなってるの?!!
その他ベスト
- ベスト小説:『マジックミラー』千葉雅也(「ことばと」vol.1 )
リチャード・パワーズが『舞踏会へ向かう三人の農夫』で40年も前に、何かを見ることは、その見られる対象にも決定的な変容を及ぼしてしまうものなんだ、というような一見オカルティックなテーゼを、科学的・哲学的・歴史的あらゆる角度から完璧に証明したことに深く納得していた(つもり)にもかかわらず、昨日観た『燃ゆる女の肖像』が全然わからなかった(反省)。彼女たちに、どんな感情が生起していて、それが相手にどんなリアクションを引き起こしているのか、彼女たちの瞳は一体何を見つめているのか、絶望的なまでに感じることができなかった。どんだけ甘やかれされてきたんだ。開始数十分で、ただの映像の羅列が次々に展開される仮死状態になってから思ったのは、「オレはやっぱり映画に愛されてないんだな…」というヒロイズムもなくはなかったが、それよりも『マジックミラー』と「アンチ・エビデンス」をちゃんと、本当にちゃんと読み返そうということだった。初めて読んだとき死ぬほど切なくて、切なさだけで胸がいっぱいになって、ラスト9行の世界中の切なさを全部集めたくらいのえげつない文章を10年後も絶対覚えておくことを決めただけだった。
決して見返してはくれないこの小説を読み直して、「僕は僕の姿の向こう側から一方的に監視され、何者であるかを計算されている。僕には僕の姿しか見えない。僕の不安しか見えない」この健気な、最高の体を持つ主人公を、オレは絶対に計算しないことを誓った。 - ベストラジオ:「King Gnu井口理のオールナイトニッポン0」(ニッポン放送、4月終了(泣))
福山雅治と星野源が下ネタに固執しているのは、リスナーから「呼び捨て」で名前を呼ばれるためだ、そんな涙ぐましい努力を続けていても叶わぬ願い。童貞リスナーにナメられるという、深夜ラジオのゴールにいとも簡単に到達した逸材の喪失を嘆きつづけている。
- ベストMV:『Dynamyte』BTS
自分でもなぜ、暇さえあれば昼夜問わずライブ動画を探し、気づいたらこの踊りを教えてくれるというダンススクールの予約をしてしまっており、知り合いのひとりひとりをBTSメンバーに例えたら誰かと妄想(ちなみに結城さんはジミン)してしまっているのかわからない。BTSを見ていると、自分は果たしてBTSになりたいボーイなのか、BTSに狂わされてるガールなのかわからなくなってくる。たぶん両方だろう。まじか。
- ベストソング:「ヤング アメリカンズ」フレディマーズ(Shut Up Kiss Me Records)
andymori友だちの井戸沼さんに教えてもらった、もう最高…とため息しか出ない超いい曲。ミラン・クンデラ的な意味で万人がアイドルになってしまった時代の途上で半地下に無言でうごめく"Young Americans"予備軍の生態を、鮮やかすぎるほどに顕現したという点で、(他にもめっちゃあるけど!)マジで神がかっていた2014→15年のシャムキャッツ(『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』)に、たった一曲ずつ(去年の「スロー」とあわせて)だけで応答しようとする気高い試みのようにも聞こえたし、ラナ・デル・レイが仄かした、かつての面影は全くないほど変わり果てたノスタルジアとしての"Life On Mars"の現地から、史上初めて鳴らされた音楽のようにも聞こえた。でもこんな的外れな妄想をすればするほど、この曲の美しさからどんどん遠くなっていく。
- ベストイベント:12/20(日)「ポストコロナと脱成長:シェアリングエコノミー、気候変動、社会運動の視点から」(出演:井手英策、廣瀬純、斎藤幸平)
脱成長コミュニズムも消費アクティヴィズムも、Z世代に希望を託さざるを得ない風に見えるのがつらい。去年のグラミーが、ポップの名のもとに無邪気に繰り返されてきた最も卑劣な殺人に血塗られた歴史をビリー・アイリッシュひとりに背負わせようとしたように。ポップ・スターは欲望の敗者たちの不幸の集積なのか。いまだに。やだなあ。 ひとり、「見まくったあとに跳ぶ」ための、最も誇大妄想的であるが、あるいはむしろ、それゆえにこそいっそう、最もロマンティックな、つまり最も現実的な戦略をマジックミラー越しに、舌足らずに扇動する男がいた。廣瀬純に間に合ったことがうれしい。
結城秀勇 (NOBODY)
映画ベスト
- 『ヴィタリナ』ペドロ・コスタ
- 『ルディ・レイ・ムーア』クレイグ・ブリュワー
- 『ブルータル・ジャスティス』S・クレイグ・ザラー
- 『空に住む』青山真治
- 『いま、ついに!』ベン・リヴァース
『ヴィタリナ』については、特に2020年に見たこととは関係ない。どんな年、どんな社会情勢、どんな環境で見たとしてもベストに選ぶだろう。もちろんそれは2001年の山形で『ヴァンダの部屋』と出会ってからの20年があるからこそなのだが。
他の4本は、2020年のこんな状況だからこそ、の気もする。映画館にいくこともできない期間に見た『ルディ・レイ・ムーア』の、行列に並ぶ人たちに「映画が見れないなら代わりにオレを見てもらおう」と言うルディの倒錯っぷりに心底感動した。
『ブルータル・ジャスティス』は、最初からなんかやばいとは思ってたけど、メル・ギブソンの言うようにまだ6:4とか7:3くらいでなんとかなる気もしていて、でも気づけば100%ノーリターンな状況に置かれている、それがなんか今年ぽかった。6:4とか7:3とかの世界に留まりうる分岐点は存在したのか。
『空に住む』は、作品がそうつくられているという以上に、青山真治の映画はいつもいま見るための映画に見える。まるで2011年に見た『東京公園』がそうだったみたいに。
最後に、恵比寿映像祭で見た『いま、ついに!』は上記3本とは逆に、これほんとに2020年だったのかという思いから。あんな時間、あんな空間が、同じ年に存在していたなんて。
その他ベスト
自粛期間中に「お持ち帰りグルメベスト5」を考えていたが、マジで全部家の近所過ぎてやめた。ただめっちゃ近所なのになんか普段入りづらい「仙ノ孫」のよだれ鶏が¥500で食べれたのはすばらしかった。
だからどっかいってなにか食うのは特に超絶うまくなくても楽しかったとしみじみ思った。しいてあげれば年末に行った二宮「Kai's Kitchen」の下魚の南蛮漬けはやたらうまかった。なんか浅草によく行った。今度は「ペタンク」に行ってみたい。
免疫を高めるために銭湯によく行った。出町座さんが「映画館と銭湯は似たような施設」と言っていた。2018年の銭湯ベストに入れた大黒湯にやっと行った。ほんとに素晴らしい。銭湯は特別素晴らしくある必要なんかなくて、それでも銭湯なだけで素晴らしい。あとNetflixの「ミッドナイト・ゴスペル」もやばかった。
李潤秀 (助監督)
映画ベスト
- 『ジョジョ・ラビット』タイカ・ワイティティ
- 『ハスラーズ』ローリーン・スカファリア
- 『アンカット・ダイヤモンド』ベニー&ジョシュ・サフディ
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』グレタ・ガーウィグ
- 『はちどり』キム・ボラ
並びは時系列順。『ジョジョ・ラビット』満席の劇場で見たのは1月。劇中で鳴るロックがどれも異常なほど優しくて良かった。人は優しくなるために闘わなくちゃいけない。自粛前最後に劇場で見たのが、ムーブオーバーで見た『ハスラーズ』。2008年の異常なアメリカも、何だか楽しそうな時代だなと思ってしまう異常さよ。毛皮のコートを着ても化学繊維のパーカーを着ても、ジェニファー・ロペスの目は気高くてかっこいい。自粛中に家で見て最高だった『アンカット・ダイヤモンド』。サフディ兄弟の映画は、苦しいのだが不思議と心地よい。あの宝石店の匂い、バスケコートの熱気、口の中に滲む血の味、全て思い出せるのは何故だろうか。そしてアダム・サンドラーは何故あんなに異常な役が似合うのだろうか。自粛明け最初に見た『ストーリー・オブ・マイライフ』。久しぶりに劇場の椅子に身を沈めた時の幸せと、冒頭、窮屈な服装でNYを駆け抜けるジョーが今年の最高の瞬間。グレタ・ガーウィグの映画は、嘘がないというか、嘘みたいなシーンが一番生々しく、美しいし、これこそ映画だ!と言いたくなる凄みがある。そしてシアーシャ・ローナンの目もやはり気高くてかっこいい。夏に見た『はちどり』(キム・ボラ)と『mid90s ミッドナインティーズ』(ジョナ・ヒル)(2年も待ったので何となく選外)。思えばどちらも90年代半ばが舞台で、主人公の兄は暴力を振るう。どちらも感情が高まるシーンの引き画が素晴らしかった。泣きじゃくる登場人物をヨリで見せることが、必ずしもエモーショナルではないし、引き画で見せる優しさというものが映画にはある。今思い付いたけど、ウニとスティーヴィーが友達になる映画を撮りたい。
今年読んだ本ベスト5
- 『熱源』川越宗一(文藝春秋)
- 『太平洋にかける橋ー渋沢栄一の生涯ー』渋沢雅英(読売新聞社)
- 『忘れられた日本人』宮本常一(岩波書店)
- 『日本の百年〈1〉御一新の嵐』鶴見俊輔(筑摩書房)
- 『宮本常一と渋沢敬三 旅する巨人』佐野眞一(文藝春秋)
『熱源』以外は、全て関わっている仕事の都合で読んで面白かったもの。年末に『Meek’s cutoff』を見て、思い出したのは三宅唱の『密使と番人』だった。どちらも時代物だが、個人的には脱ジャンルどうこうより、広大な自然の中に、ドラマを背負った人間が立っているということにロマンを感じた。ということでNHKは巨額な予算を投じて「熱源」を大河ドラマにするべきだと思う(何故そうなる)。
渡辺進也 (NOBODY)
映画ベスト
- 『足跡はかき消して』デブラ・グラニック
- 『幸せへのまわり道』マリエル・ヘラー
- 『仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)』C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム
- 『繻子の靴』マノエル・ド・オリヴェイラ
- 『ディック・ジョンソンの死』キルステン・ジョンソン
前年からしていた仕事がやっと3月に終わったと思ったら、そのまま休業補償生活に入る。よい機会と家に引き籠もってアメリカ映画の勉強をしていたら、お金がなくなってしまったので、後半は仕事ばかりしていた、そんな一年でした。
その他ベスト
家にいる時間が長く、配信ばかり見ていたので。並べてみると、どれも続きものになりました。
- 神田伯山ティービィ「松之丞が六代目神田伯山になった日」(YouTube、2/11~3/10)
寄席の楽屋風景30日。伯山の芸談好きが好き。
- 第3回AbemaTVトーナメント(AbemaTV、4/11~8/22)
この時期、毎週土曜日のこの放送だけが楽しみでした。森内九段の強さに笑う。5/16の山崎八段―近藤七段戦が印象に残る。
- 春風亭一之輔チャンネル(YouTube、4/21~4/30、5/21~5/30)
毎日20:10~からライブ放送。前半のトリネタ10本も良かったけど、色物さん+短いネタで10本をやってくれた後半が嬉しかった。
- ツールドフランス2020(JSPORTSオンデマンド、8/29~9/20)
初めて全ステージをみるツールが最終ステージ前日に大逆転が起こった今回で幸運だった。ポガチャルの名を夜中に叫ぶ。翌日の午後にアップされる、サイクルジャーナリスト宮本あさかさんのレポートが良くて、それを楽しむためにも毎日みた。