2021年ベスト
- 赤坂太輔(映画批評家)
- フィリップ・アズーリ(映画批評家、パリ在住)
- 井戸沼紀美(肌蹴る光線)
- 梅本健司(NOBODY)
- ニコラ・エリオット(映画批評、作家)
- 岡田秀則 (映画研究者/フィルムアーキビスト)
- 荻野洋一(番組等映像演出/映画評論家)
- 草野なつか(映画作家)
- 隈元博樹(NOBODY/BOTA)
- 黒川幸則(映画監督)
- 坂本安美(アンスティチュ・フランセ日本 映画主任)
- 杉原永純(プロデュース/キュレーション)
- 千浦僚(映画文筆)
- 常川拓也(映画批評)
- アルノー・デプレシャン(映画監督)
- 中村修七(映画批評)
- 新谷和輝(映画研究/字幕翻訳)
- PatchADAMS(DJ)
- 馬場祐輔(鎌倉市川喜多映画記念館)
- 深田隆之(映像作家/海に浮かぶ映画館 館長)
- 二井梓緒(映像制作会社勤務)
- 村松道代(デザイナー)
- 結城秀勇(NOBODY)
- 李潤秀(助監督)
赤坂太輔 (映画批評家)
2021年映画ベスト
- 『Picasso in Vallauris』ペーター・ネストラー(2021)
- 『Harley Queen』カロリーナ・アドリアゾラ、ホセ・ルイス・セプルベダ (2019)
- 『Vendrá la muerte y tendrá tus ojos』ホセ・ルイス・トレス・レイバ(2019)
- 『Blanco en Blanco』テオ・コールト (2019)
- 『Concierto para la batalla de El Tala』マリアノ・ジナス(2021)
- 『El piso del viento』グスタボ・フォンタン、グロリア・ペイラノ(2021)
- 『Isabella』マティアス・ピニェイロ(2020)
- 『Luz nos tropicos』パウラ・ガイタン(2020)
- 『Lúa Vermella』ロイス・パティーニョ (2019)
- 『Gavagai』ロブ・トレジェンザ (2017)
- 『Fourteen』 ダン・サリット(2019)
- 『発見の年』ルイス・ロペス・カラスコ(2020)
- 『偶然と想像』濱口竜介(2021)
- 『愛のまなざしを』万田邦敏(2021)
- 『Danses macabres, Squelettes et autres fantaises』リタ・アゼヴェード・ゴメス、 ピエール・レオン、 ジャン=ルイ・シェフェール(2019)
2021年は昨年に引き続きコロナウィルスに妨げられ個人的には半年以上映画館に行かなかったし影響も被ったが、振り返る暇もないほどに映画の奔流は止まらない。最も衝撃的だったのは故フランス・ファン・デ・スタークの未上映の映画群だったがこれは置いて、『First Cow』 (ケリー・ライカールト)『アネット』(レオス・カラックス)『クライ・マッチョ』(クリント・イーストウッド)は来年公開決定で入れず、『La Nature』(アルタヴァスト・ペレシャン)『あなたの顔の前に』(ホン・サンス)も公開を期待して入れなかった。他には『ホイッスラーズ 誓いの口笛』(コルネリウ・ポルンボユ)『彼女の名前はエウローぺーだった』(アニア・ドルニーデン&フアン・ダビド・ゴンサレス・モンロイ)『核家族』(トラヴィス&エリン・ウィルカーソン)らの映画祭組(日本上映『ラ・フロール』のジナスは新作を入れた)、それにオンラインだが『Capitu e o capitulo』 (ジュリオ・ブレッサーニ、2021)、未見だったラファエル・フィリペッリ『Secuestro y muerte』2010)、ヴェルナー・シュレーター『黒い天使』(1975)、アイザイア・メディナ『88:88』(2015)もあった。今年はモンテ・ヘルマンの逝去という痛みもあったが、それに代わる新しい人々が登場して彼の作品を再発見してくれるだろう。
フィリップ・アズーリ (映画批評家、パリ在住)
映画ベスト6
- 『メモリア』アピチャポン・ウィーラセタクン
- 『Unclenching the Fists』キラ・コヴァレンコ
- 『Tromperie』アルノー・デプレシャン
- 『918 Nights』アランツァ・サンテステバン
- 『アンラッキー・セックス またはいかれたポルノ(仮題)』ラドゥ・ジュデ
- 『Serre moi fort』マチュー・アマルリック
その他ベスト5
- エレナ・ロペス・リエラ監督作『Espagne, d’El Agua』の撮影
- ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスのコンサート、 パリのサル・プレイエルにて
- ジュリアン・ゴセラン演出(レオニド・アンドレーエフ原作)による『Le passé』、パリ・オデオン劇場での上演
- マリア・サマービルのラジオ番組『The Early Birds Show』(毎週月曜日と火曜日、NTSにて放送中)
- 7月に開催されたカンヌ国際映画祭での『メモリア』のプレス上映
井戸沼紀美 (肌蹴る光線)
映画ベスト
- 『地上のクリスマス』バーバラ・ルービン
- 『偶然と想像』濱口竜介
- 『17歳の瞳に映る世界』エリザ・ヒットマン
- 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
- 『カム・ヒア』アノーチャ・スウィチャーゴーンポン
バーバラ・ルービン『地上のクリスマス』(1964)との出会いは近年で一番の衝撃だった。併映された『ニューヨーク・アンダーグラウンドのビッグバン』で女たちの口からヴェルヴェッツの初ライブやファクトリーの時代、そして同時期たしかに存在していたルービンの人生について聞いた時、私がこれまで得ていた1960年代NYについての知識の多くは、男性の視点で語られたものだったことに気がついた。それに例え男性中心主義的な背景があったとしても、自力でルービンに出会うチャンスはいくらでもあったはずなのに、ぼうっとしていた自分のことも情けなかった。『地上のクリスマス』が上映され始めた。もう全部がぶっとばされた!美しさ、残酷さ、アホらしさ、優しさ、寂しさ、人間?人生?のコアのコアのコアがスクリーンで大爆発していて、29分ずっと泣いていた。石原海ちゃんが今回の上映用にあてた音楽も脳に直接気持ちよかった。意味とかを超えて「(作品を)受け取った」と思えて、ズタズタに嬉しくて切なかった。ありがとうバーバラ・ルービン、ありがとう「イメージフォーラム・フェスティバル」。 『17歳の瞳に映る世界』は小田急事件でバッド入った夏に手を差し伸べられた。『カム・ヒア』は土地の歴史や個人の記憶を取り扱う際の思慮深さと、厳しい検閲や映画の常識に臆することない大胆さが同居したブラボーな1作。福岡の「Asian Film Joint」で観させてもらったことや、観た後の散歩の時間(大濠公園最高!)も併せて記憶に残っている。『ドライブ・マイ・カー』と『偶然と想像』は、同じ1年のうちに公開されたことが未だに信じられない2本。我言語化要修行、押忍。
その他ベスト
- V6(存在)
11月に解散してしまったV6。とある夜中にAmazon Primeで観たライブ映像にまんまと撃ち抜かれてしまった。V6の25周年によせてKREVAが作詞作曲した"クリア"は〈自分は見えない/だけど君の目の中に/写る輝きが鏡〉というフレーズで始まるのだけど、この歌詞は一人ひとりの個性が関係性のなかでこそ煌めきあうV6というグループの魅力をぎゅっと表現していると思う。「自分は見えない」という否定から曲がスタートするのも、上手くいかなかった時間を無かったことにしないメンバーの誠実さと響きあっているんだよな……。あと3000字くらい書きたい、日記でやります。
- KEN NAKAHASHI『one’s signal』前、後期(展示)
新宿三丁目のギャラリー・KEN NAKAHASHIで開催された『one’s signal』展。会場に持ち込んだラジオで秘密の電波(展示作品の一つ)を拾ったり、かつて流れていた小川に想いを馳せたり、小さな星(雪かもしれない)に目を凝らしたりした時間は、薄い膜を張っていつも心を守ってくれた。自分の知覚の外にある豊かさを知ること、自分の知覚を信じてあげること。
- 『オーバーストーリー』リチャード・パワーズ(書籍)
andymori友達の山野くんがおすすめしてくれたブ厚い小説。木と人間を巡る物語。この本に出会ってから、植物をちゃんと映している映画にますます好感を抱くようになった。ベストに入れるか最後まで悩んだルカ・グァダニーノのドラマ『WE ARE WHO WE ARE』にも何気ない、しかし焼きつくような木のシーンがあり、そのことを夏のテラスで友人Aさんに話したら「海外って、日本よりも木が大きく揺れてませんか?旅行したとき、そう思ったんです」と返答があり、Aさんが揺れる木を眺めている様子を想像したら良い意味でボーッとした。交信。
- 眉毛サロン(施設)
中学の時に抜きまくって以来、絶望しか感じてこなかった自分の眉毛が復活の道を歩み始めた革命。
- 『現代アートハウス入門』(連続講座)
東京以外の場所ではまだまだ映画が観づらいとか、ミニシアターの客層は高齢化が進んでとか、現状を嘆くのは簡単だけど、実際に改善のための行動を起こすのは結構難しい。だからこそ、配給会社さんが全国同時開催&30歳以下割引ありの上映&レクチャー企画を始めてくれたことをとても有難く受け取った。1月~2月に開催されたvol.1と12月に開催されたvol.2、自分は併せて4回参加させてもらったのですが、上映&講義の内容はもちろん、聞くことは恥ずかしいことじゃないと思える質疑応答コーナーのひらかれた雰囲気が素晴らしく……(司会の方が質問を代読してくださるシステム良い)。大感謝&続いて欲しい!
梅本健司 (NOBODY)
映画ベスト(新作見た順)
- 『涙の塩』フィリップ・ガレル
- 『オールド』M・ナイト・シャマラン
- 『クライム・ゲーム』スティーブン・ソダーバーグ
- 『東洋の魔女』ジュリアン・ファロ
- 『偶然と想像』濱口竜介
若い男の愚かさにある種素朴なまでに付き添うことによってこそ、三人の若い女やひとりの老いた男の生(あるいは死)の豊かさと残酷さが描かれる『涙の塩』がまず素晴らしかった。シャマランの上品さも捨てがたいし、ソダーバーグの最近のキャリアもどこかで振り返ってみたい。傑作『完璧さの帝国』を撮ったジュリアン・ファロの新作は、他人であれば忌むべきかもしれない物語を生きた人々が映し出されるが、「生きてしまった」と描かないことに好感が持てる。フッテージや音楽の使い方も相変わらず冴えている。『偶然と想像』は一見重要には思えないただ通り過ぎるような人々が皆忘れがたかった。 タイトルだけに留めるが『水を抱く女』『ビーチ・バム まじめに不真面目』『ドライブ・マイ・カー』『ONODA 一万夜を越えて』『ドント・ルック・アップ』『ホイッスラーズ 誓いの口笛』などもよかった。ちなみに映画祭や試写で見た作品は2022年の楽しみとして選外とした。
その他ベスト(欧州サッカー注目中堅クラブ)
- シャフタール 監督:ロベルト・デ・ゼルビ
- ブライトン 監督:グレアム・ポッター
- アストンヴィラ 監督:スティーブン・ジェラード
- ラツィオ 監督:マウリツィオ・サッリ
- リーズ・ユナイテッド 監督:マルセロ・ビエルサ
いまや固定されたフォーメーションによってサッカーを語るのは古いとされ、いかに攻守においてスムーズに配置を変えられるのかということが良いチームの条件として問われている。不器用な選手が多い中堅クラブでは、そうした可変のシステムを落とし込むことは難しいのだが、そうしたなかポッターのブライトンはそれを練度高くやっている。デ・ゼルビのチームも今後そうなるだろう。ジェラードのアストンヴィラは、攻撃は選手任せだが、不自然に中を閉じる守備が以外に機能していて面白い。決して若くない監督であるサッリ、ビエルサは理想を追い求めるばかりで現実が見えていないのだけれど、そこがまた愛らしい。
ニコラ・エリオット (映画批評、作家)
映画ベスト
- 『France』ブリュノ・デュモン
- 『メモリア』アピチャッポン・ウィーラセタクン
- 『日子』ツァイ・ミンリャン
- 『Licorice Pizza』ポール・トーマス・アンダーソン
- 『Benedetta』ポール・ヴァーホーヴェン
2021年の冬、ニューヨークの非凡なレコード・書籍店「Two Bridges Music Arts」が閉店した。 経営者のサイモンは、マンハッタン橋の真下にあるチャイナタウンの小さな中国系ショッピングセンターで意図せずとも、この店によって流行を生み出してきたのだが、そこを通り過ぎる観光客のインスタグラムの背景としての役割を果たすことに辟易していたようだ。サイモンがラトビアや韓国、そしてもちろん日本から取り寄せた無名のディスコグラフィを愛したハードコアの変人や好奇心の強い人々にとって、このことは取り返しのつかない損失だ。彼がいなければ、私は伊藤高志の映画に使われていた稲垣貴士の音楽を発見することはなかっただろう。
秋には、マンハッタンにエルゴット・レコードとパラダイス・オブ・レプリカという2つの新しいレコード店がオープンした。ニューヨークはそれでもこうして続いていく。
6月上旬には、 Incoming Theater Division/New York City Playersの「The Vessel」というライブパフォーマンスに参加した。ニューヨーク湾を渡る船のデッキで、自由の女神を背景に、亡くなった人たちへの弔辞を述べる。三公演、それぞれまったく異なる雰囲気で行われた。初日の緋色の夕焼けと轟音の遊覧船、最終日の雨と波に揺れるブイの鐘の音、喪の悲しみを語りながら、再会の喜びを味わう。街の中は突然、野外の公演で満ちる。ある晩、木漏れ日がゆっくりと差し込むセントラルパークを歩いていて、シェイクスピア(『マクベス』だったか)の公演に遭遇し、役者と観客は芝生の上にいた。舞台裏の茂みの中で、素晴らしい演技をする俳優と、衣装替えを見守るアシスタントに目を奪われ、ついつい長居をしてしまった。
6月27日、暑い日の午後、ブルックリン区ベッドフォード=スタイブサントの公園で、ブラック・フォームズがエンジェル・バット・ダヴィッドとアダム・ザノリー二による無料コンサートを開催した。エンジェル・バット・ダヴィッドは停電にもめげず、逆に増幅器がないことを利用して、観客をステージに近づけて一緒に歌うように誘った。臨機応変さと寛大さを教えてくれる、素晴らしいシェアリングの瞬間であった。。
9月にはパリに行き、36時間のあいだにブリュノ・デュモンの『France』、パトリシア・マズィの『走り来る男』、レオス・カラックスの『アネット』を見た。この破壊的で、刺激的で、ラディカルに独創的な同時代の映画(マズィの映画は1989年製作であるが)とともに劇場に戻ることは、私に大きな平手打ちを与えた。卑劣さの中に優美さを見出すために最もクレイジーなアイデアを追い続けるデュモン、自分の映画に失敗しながらも、壮大であると同時に詩的な、錯乱した厭世的作品でNetflixのモンスターを取り込むという奇跡を成功させたカラックス、そして30年以上も待ち続けた作品で、ワンショットごとにこちらを驚かせ、一つ一つの映像が発見である時、映画とは何か、という問題を問うことを思い出させてくれるマズィ。
12月初旬、ブルックリンのグリーンポイントにある実験映画館Light Industryの創設者2人のうちの一人、トーマス・ビアードが、Monday Night Booksをオープンすると発表した。その名の通り、毎週月曜日の夜、売り切れるまでLight Industryの小さなバックルームで古本を売るというのが、ビアードの企画だ。12月13日に開催された第1回Monday Night Booksほど楽しいものはない。怖いくらい楽しい。ニューヨークの知識人たちが、稀に見るセレクションの本を手に入れるために集まってきたのだ。パレスチナの詩の本やアリス・ニールの絵のカタログにたどり着くには曲芸的動きをしなければならないほど、ごった返していた。この買い物がもたらす経済的損失を嘆きながらも、誰もが本の山を抱えて移動していた。2年もの間会うことがなかった人々と鼻を突き合わせて再会しながらも、語り合う暇ははない、まだ見るべき本が詰まった4つの棚が残っているのだ。そして20平方メートルほどのスペースに30人以上の人間が棚の間にぎゅうぎゅう詰めになっていたため、熱気は最高潮に高まっていた。数日後、オミクロンがニューヨークに上陸、私が、Monday Night Booksでの沸き立つようなみんなの興奮を再び味わうのは、しばらく先のことだろうなと思った。
岡田秀則 (映画研究者/フィルムアーキビスト)
2021年映画ベスト
- 『ミークス・カットオフ』ケリー・ライカート
- 『ビーチ・バム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン
- 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
- 『モルエラニの霧の中』坪川拓史
- 『アメリカン・ユートピア』スパイク・リー
「道に迷っている、行き先が分からない」というだけで映画の空間が立ち上がってくることへの驚きとともにケリー・ライカートの映画を4本観た。『ミークス・カットオフ』よりも小さな迷い方に拘泥していた『オールド・ジョイ』でもよかったのだが。『ビーチ・バム』の崇高ならぬ「崇低」極まるエピキュリアンぶり、そして『スプリング・ブレイカーズ』に続くブノワ・デビエ撮影の「蛍光映画」ぶりも爽快だった。
資料アーカイブがそのまま一本の映画となり、歴史記述の向こう側に廃墟としての「現在」を示した『ハイゼ家 百年』、いまなお作家像を更新し続ける原一男の『水俣曼荼羅』にも言及しておきたい。また『モルエラニの霧の中』は、そこに現れる人々以上に室蘭という町が呼吸しているような触感が忘れられない。 『クルエラ』と『春江水暖〜しゅんこうすいだん』にも目を見張った。
2021年その他ベスト
- Cavalcade / black midi(音楽)
息せき切った曲調にぶつぶつ投げ出されたヴォーカル、複雑な構成を高い演奏能力でカバーした衝撃の1曲目"John L"と、その直後に甘く歌い上げられる"Marlene Dietrich"の組み合わせが絶品。インタビューを読むと、相当な映画ファンのようで、このアルバムでは『赤い靴』のような大げさでドラマティックな古典映画を意識したという。まだ色々やらかしてくれそうなブラック・ミディに期待。
- Another Flower / Robin Guthrie & Harold Budd(音楽)
2020年の話だが、コロナウイルスでハロルド・バッドが亡くなってしまった。ロビン・ガスリーの協働のおかげで年老いても精力的だったのに、これが遺作になった。遠くから響いてくるバッドのピアノ音は、アンビエントの一語で片付けるにはあまりに甘美だった。二人の共作はガスリーがコクトー・ツインズにいた35年前からだが、これはその時代から衰えていない。魂を浄化できる音を、またひとつ失った。
- ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」(文学)
数年前に出た時に話題になっていながら、ずっと読み逃していた。農民の息子が親の望みをよそに文学を志し、地道に教員になる。結婚をしても家庭は安らぎとはならず、勤務先の大学にも権謀術数の連中がいて、人生のささやかな望みも断ち切られる。叙述は淡々と透明だが、ページをめくるごとに充実感が押し寄せてくる。結果としてはリアルだが、リアリズムが目指されたわけではない。これを映画に移植することは困難だろう。
- 「アニメーター 中村和子展」島薗家住宅(展覧会)
初期の東映動画、手塚治虫に招かれての多忙極まる虫プロ時代、作画監督を務めた『火の鳥2772』と、名アニメーターの仕事をたどった小展示。ご遺族が企画したと思しく、千駄木にある学者の旧邸宅という環境もあって心温まる空間になっていた。中村さんという方はどの写真を見ても女優にしか見えないのだが、なんと東宝のニューフェースに合格しながらそれを断って東映動画で働くことにしたという。アニメーションという仕事に麗しい未来を見た時代を想った。
- 魚住酒店(飲食店)
門司港という地は、対岸の下関から小さな船で上陸しても、鉄路から文字通りの「終点」として来ても、到着すること自体によろこびのある場所である。魚住酒店は、門司港にある角打ちの老舗で、一目では気づかない細い坂の途中にある。常連さんのご指導を受けつつ冷蔵庫を開いて缶を出し、紙の上に出された乾き物をつまみながら、短い時間を過ごす。ここのお母さんによると、大昔には猫を飼っていたが、やめたという。「入江たか子の映画を見てから、なんだか怖くなって」。
荻野洋一 (番組等映像演出/映画評論家)
映画ベスト
- 『女神』 呉永剛[ウー・ヨンガン]
- 『新女性』 蔡楚生[ツァイ・チューション]
- 『木石』 五所平之助
- 『防寒帽』 ジャン=フランソワ・ステヴナン
- 『からゆきさん』 木村荘十二
2021年公開の新作ベストテンについては「リアルサウンド」で既発表、日本映画&外国映画それぞれのベストテンおよび個人賞各賞については「キネマ旬報」で発表予定なので、「NOBODY」のゆるいレギュレーションに甘えて、荻野にとっての純粋な初見ベスト5本を選んだ。1位『女神』、3位『木石』、5位『からゆきさん』はいずれも国立映画アーカイブの上映。『新女性』はジェンダーギャップ映画祭。4位『防寒帽』はアンスティチュ・フランセ東京の映画批評月間。総じて国立映画アーカイブの充実ぶりが光った1年だったのと、1位と2位は共に上海映画の名女優、阮玲玉[ロアン・リンユィ]の主演作である。阮玲玉の類まれな演技力と1930年代におけるフェミニズムの先駆としての存在感に瞠目した。それ以外ではシネマヴェーラ渋谷におけるジョゼフ・H・ルイス、リチャード・フライシャー、アンソニー・マンという3者の初期フィルムノワール特集はほぼ皆勤できたし、アテネフランセ文化センターでの「中原昌也への白紙委任状」も面白いイベントだった。
その他ベスト(本)
- 『感覚のエデン』岡崎乾二郎(亜紀書房)
- 『オルフェウス変幻』沓掛良彦(京都大学学術出版会)
- 『大島渚 全映画秘蔵資料集成』樋口尚文[編著](国書刊行会)
- 『旅と酒とコリアシネマ』鄭銀淑[チョン・ウンスク](A PEOPLE新書)
- 『光学のエスノグラフィ』金子遊(森話社)
その他の諸ジャンルについてもベストを。
- 美術展ベスト=複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~(日比谷図書文化館)
- 批評(非単行本)ベスト=「霧のなかのルイーズ・グリュック」今福龍太(新潮2月号)
- テレビベスト=『ヨウジヤマモト/ドレスメーカー』WOWOWドキュメンタリー
- 音楽ベスト=『Inner Symphonies』ハニャ・ラニ&ドブラヴァ・チョヘル(ドイチェ・グラモフォン)
- 舞台ベスト=舞踏『春の祭典』イスラエル・ガルバン(KAAT 神奈川芸術劇場)
- スポーツベスト=アンドニ・イラオラ(ラージョ・バジェカーノ監督)
- 飲食ベスト=家寶跳龍門(広東料理/東京・銀座)
- 待望するものベスト=石田民三 没後50年レトロスペクティヴの開催
2021年も在宅ベースだったため美術展ベスト5を再び断念し、本のベスト5に。うち4冊を男性著者で占めたのが不本意であるが。1位『感覚のエデン』を読み始めると、最初の文章「ふたたび、うまれる」、2番目の文章「墓は語るか(墓とは何か)。」、3番目は句読点なしで「墓は語るか」と来る。読書と生が直裁的に連結されていく感覚に冒頭から酔いしれていった。3位13200円の大著『大島渚 全映画秘蔵資料集成』は暮れに出たばかりで、もちろんまだ読了していない。しかし映画書籍史上に残る偉大な業績であることはまちがいない。ベスト5以外では、マリオ・プラーツは前年の『生の館』に続いて『官能の庭』再邦訳が今後も続刊があるから当分はプラーツを堪能できる。さらにヴィヴィエン・ゴールドマン『女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史』、北村紗衣『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』、ロラン・バルト『恋愛のディスクール セミナーと未完テクスト』、ジェームス・モンタギュー『ULTRAS ウルトラス 世界最強のゴール裏ジャーニー』、チェ・スンボム『私は男でフェミニストです』etc.と出たばかりの未読本たちが、我が本棚で待機してくれている。読みたい本がたくさんあるというだけで、生きていくモチベーションが高まる。
「家寶跳龍門」はGINZA SIX内に2021年9月にオープンしたばかり。かつて広東料理の名門「福臨門酒家」「家全七福酒家」で腕を振るった袁家寶シェフがとうとう銀座に戻り、独立を果たした。「福臨門酒家」の香港本家のお家騒動による瓦解後、近年はOBによる新規独立が東京中華の大きなうねりとなっているが、そんな中で「家寶跳龍門」は格が違うように思える。良客が次々と訪れて蹊を踏みしめ、豊穣なる味覚の王国を再建してもらいたいものだ。
草野なつか (映画作家)
映画ベスト
- 『理大囲城』香港ドキュメンタリー映画工作者
- 『Night Train』小田香
- 『ヘカテ』ダニエル・シュミット
『理大囲城』は初のオンライン開催となった山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下YIDFF)の配信にて鑑賞。警察に包囲された「理大」に立て籠もるデモ隊の学生たちを、渦中に居ながらも地に足の着いたカメラワークで冷静に捉えた良作だった。時代の大きな変化を映した貴重な記録映像でありながら紛れもなく<映画>であり、状況からも主張からも距離を保ち続けるまなざしが印象的だった。同様にYIDFF配信で鑑賞した『語る建築家』(チョン・ジェウン)もまた、広く大きな視座と<まなざし>が存在しており、いずれの作品にも勇気づけられた。
『Night Train』は神戸・元町映画館の10周年オムニバス「きょう、映画館に行かない?」内の一作。まるで、時代を遥か遡り、初めてフイルムに触れた人が「こんなことができるかもしれない・こんなことをしたらどうだろうか」と実験をしながら出来たような、好奇心と聡明さとが同居した胸が躍る作品だった。
6月に体調を崩し、4カ月ものあいだ外出が殆どできない状態であったが、それでも『ベレジーナ』(ダニエル・シュミット)『子猫をお願い』(チョン・ジェウン)『阿賀に生きる』(佐藤真)など、自分にとって大切な作品を劇場で再見することができ、振り返ってみれば「またやり直せる気がする」と背中を押された年だったように思える。
その他ベスト
- 荒木優光(アーティスト、サウンドデザイナー)
今現在の私にとって全世界で一番好きなアーティストかもしれない。 2021年は、『わたしとゾンビ』(展示、京セラ美術館)『一聴永楽』(展示、「200年をたがやす」秋田市文化創造館ほか)『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』(パフォーマンス、比叡山ドライブウェイ山頂駐車場)という3つの作品を観ることができた。爆笑と郷愁、多くの人にとって既視感があるであろうドメスティックな地方文化とSF、生きもの化するスピーカーたち、伸縮自在な時間と同空間に存在する過去未来。どんな頭の構造でどんな顔をしてこんなものを作れるのかと作品を観るたびに不思議になる。うますぎる梯子の外し方に反してあざとさのない気持ち(ヌケの)よさ。説明不可能な世界観。これからも夢中でい続けさせてください。
- 岩浪れんじ『コーポ・ア・コーポ』(漫画)
心身がどんな状態の時も読める漫画でありそれは「何も考えなくていいから」ではなく、読後はいつも、どぶ臭いやわらかい風が吹いてくる。この「どぶ臭さ」が非常に大切である。どぶ臭いのに美しく優しくてキリキリする。皆、諦めながらも闘っている。 電子で読むときと紙で読むときで時間の流れの感触が全く異なる化け物漫画でもある。
- 『こころの時代~宗教・人生~ 対話の旅に導かれて』(テレビ番組)
精神科医・森川すいめいさんへのインタビューによって構成された番組。とにかく安定しなかった今年の心身の状況にぴったりと寄り添ってくれた番組。来年は森川さんの著書『感じるオープンダイアローグ』の実践を自分なりに行いながらその手法を制作に反映出来れば、とも考えている。
隈元博樹 (NOBODY/BOTA)
映画ベスト
- 『ウェンディ&ルーシー』ケリー・ライカート
- 『福岡』チャン・リュル
- 『水を抱く女』クリスティアン・ペッツォルト
- 『逃げた女』ホン・サンス
- 『偶然と想像』濱口竜介
各劇場での特集を中心に、出会い直す機会に恵まれた作家のフィルムを見た順に選びました。まずは昨年暮れからの勢いそのままに、全国巡回上映へと拡がっていったケリー・ライカート。NOBODYでも特集を組んだことはもちろん、最新作『First Cow』の劇場公開を今か、今かと待ちわびています。チャン・リュルは横浜シネマ・ジャック&ベティの「日韓コラボ映画特集」で『福岡』を拝見したのち、早稲田松竹にて特別レイトショーされた『春の夢』を見たことで描かれる街とそこに起こるべきフィクション、とりわけファンタジーの可能性を押し広げてくれる作家であることを再確認。それはペッツォルトも同じく、『水を抱く女』で導かれるフィクションの強度はこれまた早稲田松竹での『東ベルリンから来た女』(2012)、『あの日のように抱きしめて』(2014)、『未来を乗り換えた男』(2018)によってたしかな演出の元に突き進められていったものだったのかと。ホン・サンスは未見だった『それから』(2017)『クレアのカメラ』(2017)を見たことで、近作から続く彷徨の煌めきが『逃げた女』の画面の中で結実していることをまざまざと感じ、濱口竜介は新文芸坐にて『親密さ』(2012)を久しぶりに見直し、『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』に続く「俳優と生きること」の重要性を改めて決定付ける出来事となりました。
その他に『あのこは貴族』(岨手由貴子)、『内子こども狂言記』(後閑広)、『まともじゃないのは君も一緒』(前田弘二)、『ビーチ・バム まじめに不真面目』(ハーモニー・コリン)、『なんのちゃんの第二次世界大戦』(河合健)。また各映画祭や特集上映では栗原みえ『ウェルカム・トゥ・ナーン!』(イメージフォーラム・フェスティバル)、安川有果『よだかの片想い』(東京国際映画祭)なども印象深く、2021年は日本映画と併走した年でした。ちなみに年末は「Merry Xmas! トム・ハンクス映画祭」でペニー・マーシャル『プリティ・リーグ』(1992)とロン・ハワードの『スプラッシュ』(1984)を再見し、いずれも忘れがたいクリスマスプレゼントになったことを付記しておきたいと思います。
その他ベスト
- 雑誌『日常』一般社団法人 日本まちやど協会(書籍)
そもそも日常とは使い勝手の良い言葉だなと思ってはいて、人に何かを説明する時や、文章を書く際にも思わず使ってしまいそうになる。ただ冷静に考えてみると、日常は人によってそれぞれであり、こちら側の意思で規定されるものではないはず。その提起でもあるようなこの雑誌は、「まちやどとは何か」「雑誌とは何か」という問いに始まり、「あなたにとっての日常とは何か」を問い直してくれる。そんな自分だけの日常を求めて、椎名町の「シーナと一平」や谷中の「hanare」にもいずれ足を運んでみたいと思います。
- PEDRO(音楽)
昨年ベストに挙げた「赤い公園」は5月に解散してしまったものの、同バンドの「canvas」をカヴァーするアイナ・ジ・エンドのハスキーな声に引き込まれ、気付けば「BiSH」の虜に。ただ、そこを経由してハマったのがアユニ・Dによる「PEDRO」でした。とにかく田渕ひさ子のギターがたまりません。そこに追随するベースのアユニ、ドラムスの毛利匠太が生み出す師弟関係も見応えあり。12月22日の横浜アリーナ公演「さすらひ」を以て無期限活動休止となりましたが、「雪の街」の残響はきっとまたPEDROが戻ってくることを予感させます。
- 小山田壮平(ライブ)
音と声、言葉を求めて最もライブを追いかけたミュージシャン。一昨年の8月にリリースされたアルバム『THE TRAVELING LIFE』と『Sunrise&Sunset 小山田壮平詩集』(シンコーミュージック)を皮切りに、2021年は多くのライブや「風CAMP」といった新たな試みなど、まさに2年を通じた「小山田壮平イヤー」な年だったのではないかと思います。andymori、ALを経た新たなステージをこれからも追い続けたいです。
- 熱海(スポット)
友人が経営するゲストハウスや教えてもらったお店、温泉施設などに訪れ、ある時は季節外れの花火をふらっと見に行くだけの時もありました。7月に起こった伊豆山の土石流の被害には胸を痛めましたが、その後も商売を再開し、新たなアクションを生み出そうとする人々に元気をいただくこともしばしば。リゾートとしての特別な場ではなく、私にとっての日常としての場となりつつあります。
- 座間「ヨイチドリ」(居酒屋)
佐賀の「ふもと赤鶏」という珍しいブランドを使用した焼鳥はもちろん、お刺身から、揚げ物、煮物、おでんまで何を食べても外れがなく、いつも食べ過ぎてしまいます。緊急事態宣言中はなかなか伺えなかったものの、解除後は金宮ボトルをキープして週1、2くらいは通っていたかもしれません。お近くの際はぜひ。約3年のオダサガ生活も今年1月までとなりましたが、またふらっとご挨拶に伺いたいと思います。
黒川幸則 (映画監督)
映画ベスト5
- 『天国にちがいない』エリア・スレイマン監督・主演
- 『愛のまなざしを』万田邦敏監督
- 『いつか忘れさられる』(『短篇集さりゆくもの』より)ほたる監督・主演
- 『ビーチ・バム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン監督
- 『プロミシング・ヤング・ウーマン』エメラルド・フェネル監督
劇場公開した新作だけで選ぼうと調べたらこれしか見てないのでした。加えてカワシママリノさん主演の『ふゆうするさかいめ』(住本尚子監督)が劇場公開されたのがトピックでした。2は仲村トオルさんが見たくて行ったのですが斎藤工さんと2人して色っぽくこの2人で2次創作などするといいのでは。仲村トオルさんの『ラブ・ストーリーを君に』(澤井信一郎監督)という映画が好きで時々見返すのですがのっぴきならない状況に苦悩するけどどうすることもできない木偶の坊役がよく似合いかつ深化していると思いました。3は芦澤明子さんの撮影でああ食卓囲んでるなと。ほたるさん主演だからかもしれないですがこんな風に家族が食卓を囲んでいる映画がいくつもあったなと。大木裕之監督だったか今泉浩一監督だったか。どれも戯画だったように思います。そういえば1月7日~9日に北千住「BUoY」で今泉浩一監督の特集上映があるのですがこの文章が掲載された頃には終わってるでしょうか?滅多にない機会なので是非。今泉監督とは『妻たちの性体験夫の目の前で、今…』(小沼勝監督)を見に行ってたまたまお会いしたのですが4は「夫の目の前で、今…」って感じだな。どちらも一筋縄ではいかない映画です。同じ風祭ゆきさん主演の『襲われる女教師』(斎藤信幸監督)もDVDで見ましたがこのプログラムピクチャーの薄暗い暴力性を5のマーゴット・ロビー製作らしいプロットワークと比べてみたくなります。
その他
- 『〈アメリカ映画史〉再構築 社会的ドキュメンタリーからブロックバスターまで』遠山純生著
- 『映画にとって編集とは何か』(CINEMA893掲載)鵜飼邦彦著
- マルジナリア書店(@分倍河原)
- sol@sスペイン語圏映画研究会(@キノコヤ)
- ju sei『Electric & Acoustic』(@SCOOL)
*遠山さんの著書は英語表記が少ないのに驚かされた。リーダブルで見たことがない映画が大半でも見た気にさせる映画本。見なくても映画に夢中になるような。かつてはそんな本が沢山あった気がする。技術と表現の進化史でもありこれを読むと20世紀のそれがデジタル時代にトレースされてる気がします。*遠山さんの著書から言葉を借りれば編集の鵜飼さんは「密輸業者」だと思う。「日活」が「にっかつ」に社名変更した時期に早期退職されて以来今に至るまで町場に飄々と技術を運んでいる。同誌連載の「わが青春の日活撮影所」と共に書籍化希望です。*近所にできたマルジナリア書店は社会思想とかフェミニズムとか個人出版の本とか子供の絵本とかよはく舎主人による棚作りが良くやはり密輸を思わせる。おかげで背表紙を撫でるだけの本が増えた。先日買った篠田翔平さんの「おくりもの」はqpさんの表紙絵でした。*sol@sでは映画研究者の新谷和輝さん三宅隆司さん藤井健太朗さんらがスペイン語圏の未公開映画をせっせと運んでくれる。キューバの不思議の国のアリスとかメキシコのパンチョ・ビラものの古典とかグラナダのバル・デル・オマール。キノコヤで不定期開催の開かれた秘密倶楽部です。*juseiが本気出した。襟を正した。2022年は2ndアルバムが出るはず。*追記:年末に「鈴木史特集上映/順応」(企画・中山洋孝)。鈴木史監督にとってもしかしたらシネマは窮屈なのかもしれないけど避ける事はできないのだろう。今回は順応から柔軟に広がっていくいい機会・好企画だったと思います。2022年塩釜での個展に期待です。*個人的には森一生監督が伊丹万作監督作について語った言葉が灯台でした。
坂本安美 (アンスティチュ・フランセ日本 映画主任)
2021年映画ベスト5
- 『逃げた女』ホン・サンス
- 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
- 『春江水暖~しゅんこうすいだん』グー・シャオガン
- 『奥様は妊娠中』ソフィー・ルトゥルヌール
- 『ONODA 一万夜を越えて』アルチュール・アラリ
- 『防寒帽』ジャン=フランソワ・ステヴナン
公開、未公開問わず、国内、国外問わず、とにかくスクリーンで観た順に。世界との、他者との出会い、共にある可能性を悦び、恐れ、驚きと共に見せてくれた作品たちであり、次回作が楽しみな監督たちだ。ステヴナンforever、これからも彼の監督作品、そして出演作を紹介していきたい。
『アネット』(レオス・カラックス)、『メモリア』(アピチャッポン・ウィーラセタクン)、『Tromprie』(アルノー・デプレシャン)、『クライ・マッチョ』(クリント・イーストウッド)、そして何より『ケイコ目を澄ませて』(三宅唱)を早々と発見することができ、心震わされているが、これらの作品は2022年、今年一年を通してじっくりと共に過ごし、語っていきたい。
6人の俳優たちのベスト作品5
2021年夏より毎月一回「映画のアトリエ」と称し、女優、男優、監督を通して映画史を語るレクチャーを行っている。まずは女優たち3人、男優たち3人の軌跡を辿り、そこから見えてくる映画史、社会、世界の変化を語ることに挑戦させてもらった。それぞれの出演作を辿っていくと、最も重要と思われる作品ほど日本で公開されていない、あるいはあまり紹介されておらず、まだまだやるべき、やれることがあることを確認。これらの俳優たちにアンドレ・テシネが重要であることも再発見。今年は生誕90周年を迎えるフランソワ・トリュフォー、自分と映画を結びつけてくれた最も大切な存在について様々な角度から語っていく。よろしければご参加ください。
- カトリーヌ・ドヌーヴ『海辺のホテルにて』アンドレ・テシネ(1981年)
- イザベル・ユペール『レースを編む女』クロード・ゴロッタ(1977年)
- ジュリエット・ビノシュ『ランデブー』アンドレ・テシネ(1985年)
- アラン・ドロン『高校教師』ヴァレリオ・ズルリーニ(1972年)
- ミシェル・ピコリ『家路』マノエル・ド・オリヴェイラ(2002年)
- ジェラール・ドパルデュー『移り行く時間』アンドレ・テシネ(2004年)
杉原永純 (プロデュース/キュレーション)
映画ベスト5
- 『かげを拾う』小森はるか(ポレポレ東中野/2021.3.13)
- 『オールド』M・ナイト・シャマラン(TOHOシネマズ六本木ヒルズ/2021.8.29)
- 『ビーチ・バム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン(kino cinéma 横浜みなとみらい/2021.5.1)
- 『わが望みのすべて』ダグラス・サーク(シネマヴェーラ/2021.12.24)
- 『君も出世ができる』須川栄三(目黒シネマ/2021.1.3)
やたらな上映尺で時間を体感させてくるのではなく、『かげを拾う』は1時間ちょっとで、青野文昭さんと過ごした時間を感じさせてくれる。そのことが贅沢だと思う。
今の時代は映画に(限らずだが)何かを求めすぎでは、とか思ったりしていたタイミングで見た『オールド』。簡潔さ、程よさに加え、何も残らなさにとても好感がもてる。こういう映画をスクリーンで見たい、ポップコーン食いながら、という共通点で『ビーチ・バム』も。同時期に見た『トラッシュ・ハンパーズ』も絶対素晴らしいとはいわせまい、わざわざ見たやつ全員後悔しろみたいな目潰しみたいな一本で最高だった。
『わが望みのすべて』は、すべての登場人物とストーリーとがこれ以上ない手捌きで、脳に直接映画が書き込まれるようでバキバキにキマる。79分というのに驚きしかない。
サラリーマン・ミュージカルシーンの抜粋を何かで見ていて、ずっとスクリーンで見たかった『君も出世ができる』は、現代的な、全方位的な配慮のピースが揃っていつつ全く嫌じゃない。そして多幸感がものすごい。毎年正月に見たい。
その他5選
- 走り高跳び/棒高跳び
スポーツは、競技をスタートして終わって記録が出たとかわかる。それは同じだけど、競技を始める前に自分が挑戦するその棒の高さが勝ちにいくものかどうか、記録かどうか、自分で決めてから挑戦する、もしくは戦略的にスキップするという走り高跳び/棒高跳びの性質に惹かれた。
集中力の闘い、自分との闘いなのだとよくわかった。同じ陸上競技でも、花形のトラック走が始まると、隣接する位置で同時刻にやっている高跳び系は競技を強制的に中断させられて待たされる。おそらくオリンピックに限らずそうなのだろう、たまたま見ていた女子走り高跳びの決勝の選手のルーティンはそんなストレスフルな環境でも集中を保てるように完璧に出来上がっていた。
オーストラリアのニコラ・マクーダモットは、待っている間はノートやユニフォームに二桁の数字を延々と書き続け、至近距離でテレビカメラが向けられても一顧だにせず、スタート位置に入るとまず悲しい顔、次じんわりと笑顔、手拍子からのC’mon!という叫びまで一式のストーリーが出来上がっていて、競技が終わった後もすぐにペンを手に取って数字を書き始めていた。イケイケの短距離走の選手たちに比べて内向的といってよい高跳び系の選手にはとても興味が湧く。 - 映画のバリアフリー版制作
パラブラさんとの『偶然と想像』バリアフリー版の制作に全工程立ち会わせてもらった。これは、全映画作家が体験した方がいいのではないか。
特に音声ガイド版。音声しかないということとは少し異なることもわかった。視覚に障がいのある方が、劇場内の本編の音を聴き、人によってはうっすらスクリーンの光を感じて、もしくは人によっては全く光を感じずに、鑑賞する。必然、映画とは何かを問われる。
カットバックやクロースアップなど、カメラワークを説明することは音声ガイドの場合は、時にとてもむずかしい。「カメラ」とガイド音声がいうと、「この部屋に監視カメラがあったんですか?」というモニター会のリアクションがあったり。翻って映画はサイレントの時代に一度完成したのだと思い知らされた。 - 炭鉱ホルモン
「ヤノマミ」「イゾラド」の国分拓氏と、札幌での富田克也監督との面会にご一緒することに。場所はとにかく「炭鉱ホルモン」だと。実に炭鉱ホルモンに合う話ばかりだった。またお話ししたい。
- 雨水菅(札幌)
ご縁があってマンホールの下に入った。雨水のみが流れる下水道。地下は生ぬるく、水があり、まったく光がなく、時間の流れが違う。
- めんよう亭 六条店(札幌)
五条の店舗はお母さんたちがチャキチャキと、六条のお店はお父さんたちがまったりと営業している。入ったらゴミ袋に服を入れて、ラム2人前ずつ出されるがままに食す。
千浦僚 (映画文筆)
2021年邦画ベスト
- 『護られなかった者たちへ』瀬々敬久
- 『COME & GO カム・アンド・ゴー』リム・カーワイ
- 『カウンセラー』酒井善三
- 『短編集 さりゆくもの』ほたる、小野さやか、山内大輔、小口容子、サトウトシキ
- 『JOINT』小島央大
常川拓也 (映画批評)
映画ベスト
- 『Titane』ジュリア・デュクルノー
- 『My Salinger Year』フィリップ・ファラルドー(『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の邦題で2022年5月6日公開予定)
- 『Plan B』ナタリー・モラレス
- 『子供はわかってあげない』沖田修一
- 『リベルタード』クララ・ロケ
メカノフィリアでクィアな連続殺人鬼の物語から始まり、全く予想だにしない異形な世界へ連れて行かれる『Titane』に最も唖然とさせられ、恐るべき衝撃を受けた。車との融合から男女二元論も超越していく、まさに怪物性を宿した特異なこの映画のことがしばらく頭から離れなかった。
『本当に僕じゃない!』のフィリップ・ファラルドーの新作『My Salinger Year』は、原作『サリンジャーと過ごした日々』の重要な要素であるファンレター(ファンの声)をマジカル・リアリズム的に描写し、爽やかな余韻を残す青春映画として仕上げたのが秀逸。見事な映画化だと思った。2021年は『アリサカ』『Limbo』『ブルー・バイユー』『GAGARINE/ガガーリン』(2/25公開)などでもマジカル・リアリズムが印象的だった。
ナタリー・モラレスの長編デビュー作『Plan B』は、2019年の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』、2020年の『Unpregnant』枠。キネマ旬報7月下旬号で触れましたが、現代のプロチョイス映画の潮流としても注目すべき一本。モラレスは主演も兼任したコロナ禍/Zoom時代のスクリーンライフ映画である長編二作目『Language Lessons』も誠実で素晴らしく、2021年を代表する映画作家として特筆したい。
また、『プロミシング・ヤング・ウーマン』には大いに不満が残ったが、『Violation』や『Rose Plays Julie』にこそ、現代のレイプ・リベンジ映画のあり方として進化と可能性を感じたことも付記しておきたい。とりわけ『Violation』のこのジャンルに対する苛烈で革新的なアプローチは忘れがたい。
『こんにちは、私のお母さん』の涙腺破壊力も衝撃的だった。してやられた。
その他ベスト
- 『メイドの手帖』
今年は『ユニークライフ』がシーズン4で遂に終了して寂しかったが、ドラマでは『メイドの手帖』が素晴らしかった。『My Salinger Year』と合わせて、作家の夢に向かう女性を体現した2本でマーガレット・クアリーは今年最も印象深い役者となった。『セックス・エデュケーション』S2E7、『ハーフ・オブ・イット』に続き、シャロン・ヴァン・エッテン「Seventeen」をフィーチャー(シャロン・ヴァン・エッテン出演&主題歌の『17歳の瞳に映る世界』のテオドール・ペルランも『メイドの手帖』『My Salinger Year』に出演)。『プロミシング・ヤング・ウーマン』と同じ製作陣だが、こちらの方が成功していると思う。『サンドラの小さな家』×『アンビリーバブル たった1つの真実』な時代性。
- 『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』
デュア・リパやデヴィッド・フレイン(昨年のベスト映画『Dating Amber』が『恋人はアンバー』としてレインボー・リール東京で上映されてよかった)も絶賛の英国ドラマ。80~90年代のエイズ危機に焦点を当てている以上、「同性愛者よ安らかに」の図式はある種避けらないものの、キャラクターを使い捨てることなく愛情深く扱い、謎の新病の発生に対する政府の無策含め、その迫害の歴史を社会的なレベルで描いていて意義深い。ラ!
- 『グッド・プレイス』
厳密には2021年のドラマではないですが…一気見して、似たコンセプトの『ソウルフル・ワールド』を上回る深い感動に襲われ、ぼろぼろ泣いてしまった。「これからはもっと親切で優しいいい人間になる努力をしようと思う」(S2E12)
- 『オール女子フットボールチーム』
ルイス・ノーダンの1986年の短編に見られるジェンダー・フルイディティ的な観点に感銘を受けた。
- Navy Blue「Moment Hung」
穏やかな鍵盤が流れるサンプリングの瞑想的なビートがえらく心地よかった。雪に覆われたニューヨークで犬と散歩する休息を映した丹澤遼介によるMVもいい。2021年はBAD HOP、KREVA、Awich、JJJ、Ralph、Avalanche11と色々な音楽ライブも行くことができた(床に引かれたマス目の中で楽しむこともいくらかある種ジェンダー平等的で悪くないと思えてきた)。大変で報われないことも多いですが、自分の魂の聖域はなんとか守って生きていきたいです。
- 『メイドの手帖』
今年は『ユニークライフ』がシーズン4で遂に終了して寂しかったが、ドラマでは『メイドの手帖』が素晴らしかった。『My Salinger Year』と合わせて、作家の夢に向かう女性を体現した2本でマーガレット・クアリーは今年最も印象深い役者となった。『セックス・エデュケーション』S2E7、『ハーフ・オブ・イット』に続き、シャロン・ヴァン・エッテン「Seventeen」をフィーチャー(シャロン・ヴァン・エッテン出演&主題歌の『17歳の瞳に映る世界』のテオドール・ペルランも『メイドの手帖』『My Salinger Year』に出演)。『プロミシング・ヤング・ウーマン』と同じ製作陣だが、こちらの方が成功していると思う。『サンドラの小さな家』×『アンビリーバブル たった1つの真実』な時代性。
- 『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』
デュア・リパやデヴィッド・フレイン(昨年のベスト映画『Dating Amber』が『恋人はアンバー』としてレインボー・リール東京で上映されてよかった)も絶賛の英国ドラマ。80~90年代のエイズ危機に焦点を当てている以上、「同性愛者よ安らかに」の図式はある種避けらないものの、キャラクターを使い捨てることなく愛情深く扱い、謎の新病の発生に対する政府の無策含め、その迫害の歴史を社会的なレベルで描いていて意義深い。ラ!
- 『グッド・プレイス』
厳密には2021年のドラマではないですが…一気見して、似たコンセプトの『ソウルフル・ワールド』を上回る深い感動に襲われ、ぼろぼろ泣いてしまった。「これからはもっと親切で優しいいい人間になる努力をしようと思う」(S2E12)
- 『オール女子フットボールチーム』
ルイス・ノーダンの1986年の短編に見られるジェンダー・フルイディティ的な観点に感銘を受けた。
- Navy Blue「Moment Hung」
穏やかな鍵盤が流れるサンプリングの瞑想的なビートがえらく心地よかった。雪に覆われたニューヨークで犬と散歩する休息を映した丹澤遼介によるMVもいい。2021年はBAD HOP、KREVA、Awich、JJJ、Ralph、Avalanche11と色々な音楽ライブも行くことができた(床に引かれたマス目の中で楽しむこともいくらかある種ジェンダー平等的で悪くないと思えてきた)。大変で報われないことも多いですが、自分の魂の聖域はなんとか守って生きていきたいです。
アルノー・デプレシャン (映画監督)
映画ベスト
- 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
- 『アネット』レオス・カラックス
- 『Titane』ジュリア・デュクルノー
- 『The worst person in the world』ヨアキム・トリアー
- 『三人の仲間』フランク・ボーゼージ(1938)
- 『ウエスト・サイド・ストーリー』スティーヴン・スピルバーグ
『ドライブ・マイ・カー』は2021年に見た最も美しい作品のひとつだ。妻との前半部分は穏やでかつ残酷だ。作品は徐々にリズムを得て進んでいくのだが、とくに心奪われたのは舞台の出演者たちとのやり取り、さらに言えば韓国人の通訳と耳の聞こえない妻のもとを訪れる夕食のシーンだ。そこからすべてが熱気を帯びてゆき、それぞれの出演者たちが存在に厚みを得てゆき、若い男優はあの驚くべきモノローグを行い、そして最後の『ワーニャ伯父さん』の舞台へと至る。その間に崩壊した家を訪れるあの雪の中のシーンがあり、「君は母親を殺し、僕は妻を殺した」という台詞は、知っての通り『キングス&クイーン』(2004年)で同じような台詞をエマニュエル・ドゥヴォスに言わせていたので、はっとさせられた。とにかく主人公を演じる西島秀俊は本当に素晴らしい。感情を出さず、内に秘めていて、アメリカの50年代の映画の俳優、ロバート・ライアンを思い起こさせられた。
中村修七 (映画批評)
映画ベスト
- エリア・スレイマン『天国にちがいない』
- 小森はるか+瀬尾夏美『二重のまち/交代地のうたを編む』
- 濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』
- 万田邦敏『愛のまなざしを』
- フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』
「ユーモアの人」であるエリア・スレイマンは、様々な事件に巻き込まれる「見る人」でもある。なるべくなら言いたくはないのだけれども已むを得ず言わなければならないからとでもいうかのように、「私はパレスチナ人だ」と発声する時、彼は珍しく驚きを誘発することになる。
79分の上映時間をもつ『二重のまち/交代地のうたを編む』は、もっと見ていたい、もっと聴いていたい、という気持ちを起こさせたまま、鮮やかに幕を閉じる。また、この作品は、作品に触れる者に戸惑いと驚きをもたらし、「継承」の困難な取り組みへの参加を促す。
『ドライブ・マイ・カー』では、恋人でも夫婦でも親類縁者でもない、親子ほど歳の離れた男と女が身体を寄せ合う。そのような姿をかつて映画で見たことはあっただろうか、かつて映画が描いたことのないような人間関係がここには描かれているのではないか、と思った。
『愛のまなざしを』の仲村トオルと杉野希妃を思い起こす時、何か具体的な作品が念頭にあるわけではないのだが、増村保造映画の船越英二と若尾文子をかすかに思い浮かべてしまう。映画でしかありえない、日常を剥ぎ取られた硬質な時間と空間において、登場人物たちに狂気が宿っている。
人が話をする様々な姿を捉えることによって、『ボストン市庁舎』は、移民としてアメリカにやって来た人たちが「アメリカ人」となった姿を描き出している。
美術展ベスト
- 堀江栞個展「声よりも近い位置」@√K Contemporary
- 「ミュージアム コレクションⅠ 驚異の三人!! 高松次郎・若林奮・李禹煥―版という場所で」@世田谷美術館
- 「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」@SOMPO美術館
- 「宇佐美圭司 よみがえる画家」展@東京大学駒場博物館
- 「イサム・ノグチ 発見の道」@東京都美術館
人物像を描くようになった堀江栞の近作には、現実には存在しない鳥や獣を描いていた過去作の魅力的な触感を残しながら、拡散しがちだった画面を具象的な像へと凝縮しようとする緊張感がある。
そろって1936年(!)に生まれた高松次郎・若林奮・李禹煥の版画作品からは、絵画と彫刻を主に手掛ける彼らが版画というやや不自由な媒体において実験を行っていたことがわかる。
モンドリアンの実物を見ることで、色面と線によって構成される「コンポジション」作品が額縁を持たないことを知った。カンバスが前面に迫り出すことで、描かれた色面が前方に浮き上がる効果が強調され、カンバスに描かれた空間が額縁によって閉じられることなく遥かに広がっていくかのようだ。
10数点と小規模ながら、初期から最晩期までの作品を展示する宇佐美圭司展は充実していた。また、マルセル・デュシャンの≪大ガラス≫と宇佐美の絵画作品が対峙する稀有な空間が実現されていたことが忘れがたい。
仕切りを設けることなく各フロアに作品を散らばせて展示するイサム・ノグチ展の会場で、鑑賞者は回遊しながら作品を見ることになる。それは、香川県の牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館の彫刻庭園におけるのと同じように、単に作品を見るのではなく、作品を経験するかのような体験だ。
新谷和輝 (映画研究/字幕翻訳)
映画ベスト
- 『ONODA 一万夜を越えて』アルチュール・アラリ
- 『いまはむかし 父・ジャワ・幻のフィルム』伊勢真一
- 『ふゆうするさかいめ』住本尚子
- 『Blanco en blanco』テオ・クール
- 『A media voz』ヘイディ・ハッサン&パトリシア・ペレス・フェルナンデス
人のあり方を決定的に変えてしまう出来事のあと、各々はその記憶といっしょにどう生き延びられるか、みたいなことをよく考えていた。『ONODA 一万夜を越えて』は、よくある反戦映画とはちがうやり方で狂気や信仰を引き受けて「戦後」を映そうとしていた。『いまはむかし~』の伊勢監督のナイーブさを恐れないアプローチは誠実だったと思う。植民地の歴史を撮ることでいうと、パタゴニア先住民セルクナムの虐殺を記録したカメラマンを主役に据えた『Blanco en blanco』の映像、音響処理は圧倒的で、カメラと現実の極限的な関係があらわれていた。『A media voz』では、母国を抜け出しヨーロッパに移り住んだ2人のキューバ人女性映像作家が映像往復書簡を交わす。二人称の映画としてすばらしく、捉えようのない親密さと孤独が宿っている。とくに大切だった映画は『ふゆうするさかいめ』。体にねむる記憶とともにマイペースに生きる登場人物たちには、少なからず助けられた。
ほかに心に残った映画は、『Vendrá la muerte y tendrá tus ojos』、『見上げた空に何が見える?』、『狼をさがして』、『緑の牢獄』、『理大囲城』、『偶然と想像』、『ドライブ・マイ・カー』、『17歳の瞳に映る世界』、『花束みたいな恋をした』。早稲田松竹で見た『ベレジーナ』も忘れがたい。
その他ベスト
- 「A case of you」ジョニ・ミッチェル
教えてもらってくりかえし聴いた。魂に触れる歌詞と歌。
♪I drew a map of Canada~♪ - トロワ・シャンブル
下北沢の喫茶店。コーヒーが美味しく居心地がよく、毎週行っていた。落ち着く。喫煙できます。
- しぇりークラブ
東京と京都にあるシェリー酒専門のスペイン料理店。シェリーの種類がすごく多くて楽しいし、パエリアなど料理もとびぬけて美味しい。
- 『〈アメリカ映画史〉再構築 社会的ドキュメンタリーからブロックバスターまで』遠山純生
繰り返し読んで学んでいる。遠山さんのほかには書けない、斬新な視点と堅実な論述の組み合わせがすばらしい。目標としたい本。
- ラテンアメリカ文学の翻訳
今年はとくにアルゼンチンから貴重な翻訳がたくさん。シルビナ・オカンポ『蛇口 オカンポ短篇選』(東宣出版)、『復讐の女/招かれた女たち』(ルリユール叢書)、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『英雄たちの夢』(水声社)、エドガルド・コサリンスキイ『オデッサの花嫁』(インスクリプト)。あとはメキシコのグアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』(現代書館)や、チリのパウリーナ・フローレス『恥さらし』(エクス・リブリス)なども。バルガス=リョサの新作『ケルト人の夢』(岩波書店)はいま読んでるけど、とてもおもしろい。翻訳者のみなさんのお仕事に驚嘆。
PatchADAMS (DJ)
2021年 映画5選
- 『防寒帽』ジャン=フランソワ・ステヴナン@アンスティチュ・フランセ東京
- 『LA CANTA DELLE MARANE』Cecilia Mangini@another screen
- 『オールド』M ・ナイト・シャマラン@吉祥寺プラザ
- 『理大囲城』香港ドキュメンタリー映画工作者@山形国際ドキュメンタリー映画祭
- 『恐怖の二重人間』イ・ヨンミン@アテネ・フランセ 文化センター
2021年 読書5選
馬場祐輔 (鎌倉市川喜多映画記念館)
映画ベスト
- 『ボストン市庁舎』フレデリック・ワイズマン
- 『ドント・ルック・アップ』アダム・マッケイ
- 『アメリカン・ユートピア』スパイク・リー
- 『水を抱く女』クリスティアン・ペッツォルト
- 『燃ゆる女の肖像』『トムボーイ』セリーヌ・シアマ
"Watch the Sky"(=『未知との遭遇』)の時代から幾星霜、地球人は"Don’t look up"と言い出した。"We are not alone"などともはや誰が信じるのか…。風刺コメディの傑作『ドント・ルック・アップ』が描いているのは、ベトナム戦争やウォーターゲート事件のあった70年代のアメリカの政治"不信の時代"ではなく、現在、"妄信の時代"の出来事だ。ディカプリオとジェニファー・ローレンスに訪れる事態がこれほど切実に感じられるのは、私たちも今やすっかり茶番に追い込まれているからだろう。一方、トランプ政権(がもたらした混迷)の対極にあるようなボストン市政の真摯な取り組みを、ワイズマンの『ボストン市庁舎』はとらえている。同性婚の合法化、高齢者支援、若者のホームレス問題に関する議論、看護師の過剰労働への対策を求めるデモにおける市長のスピーチ、帰還兵の集い、就業支援、フードバンク、ラテン女性たちの賃金格差を解決するためのセミナー、害虫駆除、地域住民の意見交換会…行政がまっとうに機能しているのは、ボストン市長と各セクションの職員が日々まじめに仕事に向き合っているからで、いつの時代でもこうした地道な取り組みは──騒がれず、注目を浴びるわけでなくとも成果を上げてきた。崩壊の最中にあっても、再建を。市長のマーティン・ウォルシュの演説と、『アメリカン・ユートピア』のデヴィッド・バーンの身近な人々への語りかけに鼓舞された年だった。セリーヌ・シアマの『燃ゆる女の肖像』『トムボーイ』は両方とも2021年に映画館でみた。次回作『Petite maman』も楽しみだ。
その他ベスト
- 『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌(レクイエム)』東京ステーションギャラリー(展覧会)
小早川秋聲は1920年代の旅でゴビ砂漠のキャラバン隊を、香港の海と夜景を、インドのタージ・マハルを、ナポリ湾岸のベスビオ火山を、ヴェニスのカナル・グランデを、ニースの曇り空とグリーンランドの氷山を、エジプトのミイラが回想(!?)する姿を、その時々の月夜とともに描いている。行く先々で絵を学び、見聞を広め、あらゆる描画手法を自在に習得した男は、あまりにも器用過ぎてきっと再評価までに時間を要したのだろう。1930年の《愷陣》、31年の《長崎へ航く》など素晴らしかった。
- 『限界から始まる』上野千鶴子×鈴木涼美(往復書簡)
手厳しくも親身な叱咤激励の数々、ウィークネス・フォビアの指摘、母親との関係について、新しい文体に挑戦することについて…家族でも直接このような会話をするのは簡単ではないだろう。手紙のやりとりの中で上野さんの人柄と性分──輪郭が少しずつみえてくる。鈴木さんと同年代の私には身にしみる内容も多く、何度も読み返した。
- コール・アンソニー、タイラー・ヒーロー、ゲイリー・ペイトンⅡ世の躍進(NBA)
今シーズン、目覚ましい成長を遂げた3人。とくにタイラー・ヒーローはマイアミ・ヒートの主力として毎試合申し分ない活躍。コール・アンソニーはクラッチショットで試合を決めた後のインタビューに自信満々で答える姿が好き。
- 『70年代アメリカ映画100』渡部幻(書籍)
企画展《崩壊と覚醒の70sアメリカ映画》を準備するにあたり、この本を何度も読み返した。渡部幻さんから直接教えていただいたことも多く、多大なるご協力を賜った。
- フォー カットゥン"Pho Cat Tuong"(食べ物)
鎌倉にあるベトナム料理、フォーのお店。絶品です。牛肉のフォーとブンチャーがオススメ。
深田隆之 (映像作家/海に浮かぶ映画館 館長)
映画ベスト
- 『オールドジョイ』ケリー・ライカート@イメージフォーラム
- 『水を抱く女』クリスティアン・ぺッツォルト@新宿武蔵野館
- 『ビーチバム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン@Kino cinema
- 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介@Kino cinema
- 『見上げた空に何が見える?』アレクサンドレ・コベリゼ@東京FILMeX
今年のベストを観た順に。
映画の中で登場人物たちは往々にして少なくない変化を迫られる。映画内の状況が要請し(あるいは観客が物語を要請し)、かれらは変化せざるを得ない。"ベスト"としてあげたこれらの映画の中には、今こそ語りを、変化を描くのだという明確な態度を示すものもあれば、物語ることと見つめることを切り離すようにして対峙する映画もあった。あるいは変化そのものを緩慢にしながら停滞を見つめるものも。
変化すること、しないこと、停滞すること、待機することをこの2年でよく考える。2020年から続くコロナ禍で、漏れなく全員がなんらかの変化を求められた。映画の作り手としての私は、上映者としての私は、観客としての私は、世界と接地する映画の中で何を眼差せるだろう。
次点として。こども映画教室で行った「冒険映画作り」の一環で、中学生男子と観た『トラベラー』、快快で活動しイタリア在住の俳優・パフォーマーである大道寺梨乃さんの日記映画『La mia quarantena/わたしの隔離期間』@SCOOL、大好きな映画のBlu-ray化『東京上空いらっしゃいませ』。そして『ONODA 一万夜を越えて』や『いとみち』。スタッフとして参加した『偶然と想像』(完全な観客として観られないのでベストからは外した)など、今年もまた映画と初めて出会い、様々な形で出会い直した。
その他ベスト
ベストライブ
- ベストライブ:「YeYe Homecomings 2マンライブ@WWW」
10月13日に行われたライブ。YeYeは関西を拠点に活動しているシンガーソングライター。バンドの演奏ももちろんだが、とにかくYeYeの声が素晴らしい。"声"に評価をつけること自体愚かなことなのだけど、初めて生の声を聞いて震えるものがあった。テンポを落とした「暮らし」という曲で思わず泣いてしまった。
Homecomingsはくるりの「天才の愛」というアルバムでヴォーカル参加していた畳野彩加さんが気になり出会ったバンド。YeYeと同じく"声"に魅かれて聴いていた。今泉力哉監督『愛がなんだ』の主題歌を歌っていたことを知ったのはだいぶ後になってから。音楽という表現に救われたライブだった。 - ベスト本:『失踪の社会学』中森弘樹(2017年出版)
著者は「失踪」という現象をめぐって膨大な資料、膨大な取材を基に様々な角度から分析を行っていく。時代によって変化する「失踪」という言葉の変遷、失踪者の家族や近親者、そして失踪した本人への取材など、様々な資料だけでもとても興味深い。この本に"ネタバレ"など関係ないのだが、かつての失踪者本人による偶然のような、奇跡のようなある出来事が語られるとき、何故だか静かに感動してしまう。あまり物語のように読むのは良くないと思いつつ、停滞や待機とも異なる逃避の可能性を感じた。
- ベスト演劇:『心の声など聞こえるか』範宙遊泳 @東京芸術劇場
"ベスト"を選ぶほどたくさんの演劇を観ていないのだが、範宙遊泳のファンとして書いておこうと思う。普段は演出も兼ねることが多い山本卓卓さんが劇作を、演出を川口智子さんが担当したコラボレーション企画。テキストの多くが歌化されており全体を通してコミカルさがあるのだが、登場人物を通して社会的な状況を書き綴る山本さんのテキストに対して、絶妙な距離感を持ちながら俳優たちが発声し、動き回る。一歩間違えば攻撃的に聞こえすぎたり、悪ふざけのように見えてしまうものをギリギリの淵に立ちながら大胆に泳いでいるように見えた。演劇と映画に共通する"語り"の只中で、演劇にしかできない表現をしている作品に出会うととても嬉しくなる。
- ベスト飲食店1:Pizzeria TAKATA BOKUSYA
今年の下半期は早稲田大学演劇博物館との仕事で早稲田近辺に行くことが増えた。学生に優しい定食屋もたくさんがあるが、私にとっては早稲田大学南門のすぐ前にあるこの店がベストピザになった。店の前には薪が積まれてあり、入り口すぐのところには立派な窯を構えている。"高田牧舎"という名前で1905年からこの場所にあり、老舗洋食店として営業をしていたという。現在の店舗は落ち着いた雰囲気で、ランチのポパイというピザを食べた。チーズも生地も、とにかく美味い。これでランチ1,200円は良い。これは全部のメニューが美味い店だと確信して、デザートのティラミスまで頼んでしまった。予想通りの美味。疲れているとデザートセットに手が伸びてしまう。
- ベスト飲食店2:兆徳
本駒込駅からすぐの交差点に兆徳がある。この店の目玉でもある卵とご飯だけの"黄金炒飯"を目当てに行ってみた。隣の客は炒飯に加えて揚げワンタンを頼んでいた。よく見ると他の客も頼んでいる。なるほど、これが"常連のメニュー"というわけか。一歩遅れたと思いつつ初めての来店なのだからしょうがない。みんなやはり炒飯を頼むのだが、厨房にいる親父さんはあまり動かず他の店員に任せている。あとから隣に座った客は、「テレビ見て来たんだよー。親父さんにやってほしいなぁ!」と言っていた。こういうことをパッと言えるのって良いなと思っていたら、親父さんが立ち上がり鍋を振り始めた。あっという間に白米と卵がマリアージュ。チャーハン。
二井梓緒 (映像制作会社勤務)
映画ベスト
- 『緑のアリが夢見るところ』(1984)
- 『バーニング・ゴースト』(2019)
- 『スウィート・シング』(2020)
- 『にがい米』(1948)
- 『草の響き』(2021)
こうしてベストをあげてみると新作をほとんど見ていないことに気づく。昨年よりも仕事が忙しく映画館へ行くことも減り、テレビデオ購入とともに渋谷のツタヤでVHSを借りて見ることが多かった。初めて映画に興味を持ってツタヤに行って、知らない映画がありすぎる!と驚愕し、言葉にできないほど興奮したあの時と同じような感覚を再び味わえたことをうれしく思う。ベストにはあげなかったが、Netflixのドキュメンタリー『ジョーン・ディディオン:ザ・センター・ウィル・ノット・ホールド』(2017)も大変素晴らしかった。ディディオンの『悲しみの中にある者』は間違いなく今年よんだ本の中でベスト。劇中で彼女は「書くことで救われる」と話すが、それがまさに体現されたような一冊だった(とここまで書いた数日後、ディディオンの訃報を知る)。生活のなかで鬱々とすることが多く、そこからの反動か『バーニング・ゴースト』の幽霊になった男の纏うジャケットの煌めきや、『スウィート・シング』のビリー・ホリディとの夢のカット、『草の響き』のラストの東出昌大の疾走感、そういった眩しい瞬間的な運動に心が動かされた。もしくは『にがい米』の群衆だったり、女の脚がどんどこ映し出されたりといった力強さに圧倒されたり。なかでも三鷹にまだ映画館があった頃に父が見たという『緑のアリが夢見るところ』をVHSで見ることができたのはとてもうれしい体験だった。
その他ベスト&2021年良かったmv
- KHAITE by Sean Baker
ミュージックビデオではないがショーン・ベイカーによるKHAITEの21AWコレクションムービー。大好きなモデルのSara Hiromiも出演してる、なんでこんな再生回数が少ないのか謎。そういえば2016のKENZOコレクションムービーもとても良かった(iphoneによる撮影)。私も車の窓割りたい。しんどくなったらとりあえずこれを見てた。
- Nick Murphy & The Program 「Old Dog」
おそらく彼ら自身で撮影して編集はマーフィーがやってる。なんとなく『ノマドランド』を想起してしまう。YoutubeにあげてるLIFE CUTシリーズ(特にNovacine and Coca Cola)もめちゃくちゃいい。スマホでなんでも / 誰でも撮れる時代になり、さらにコロナ渦からこういった親近感が湧くような映像がより人気になった気がする。それこそ去年のLauv「Modern loneliness」も。ともあれ今年一番聴いたアーティストは間違いなくニック・マーフィーです。
- haruka nakamura 「君のうた」
Huluドラマの主題歌だったらしい。出演していた女の子も出てるけど多摩川周辺の街に実際に住む人々が映し出される。カメラに映し出されるやさしい表情、きらめく川、夏の音、その気持ちよさ。
- femme fatale「鼓動」
アイドルは詳しくないけど大好きな姉妹。現代だからこそつくれるものって本当に刺激を受ける。同じ監督の「ピューピル」もいい。
- Patrick Watson 「Can't Stop Staring At The Sun」
踊ってるmvは大体好きで(例えばChristian and the QueensやJungle)とりわけ裸の男が踊っているとグッとくる。それはやっぱり自分にはないものというか、肉体の美しさに惹かれるのだと思う。ファーストカットのひたすら回転するカメラワークがすごくいい。終盤にかけての意味分からなさもググッとひきこまれる。踊ってる系でいうと今年リリースじゃないがMichael Kiwanuka 「You Ain't The Problem」もよく見た。
村松道代 (デザイナー)
映画ベスト
- 『いとみち』横浜聡子
- 『グッド・ストライプス』 『あのこは貴族』岨手由貴子
- 『ボストン市庁舎』フレデリック・ワイズマン
- 『偶然と想像』 濱口竜介
「山形は世界一」というワイズマンの言葉を、みんなと一緒に聞いた記憶とともに。2021年は『理大囲城』の年だったと言って終わりにしたい気もしますが、とにかく新作をたくさん見逃しているので声は小さめにしておきます。
その他ベスト
- 書体:「A1ゴシック」(モリサワ)
リリースは数年前。懐かしさ、新鮮さ、主張の加減がちょうどいいゴシック体です。使いすぎて自分が飽きてしまわないように注意していましたが、2021年はたくさん使う機会に恵まれたのでその記念に(「MONDO 映画ポスターアートの最前線」のデザイン物でも使いました)。
- 本:『戦前尖端語辞典』(平山亜佐子:編著(本文デザインも)、山田参助:絵・漫画)
編著者がデザイナーでもある場合、組み版と原稿量の調整の連続だったのか、迷いなくサクサク編まれ&組まれていったのか想像しながら読むのがスリリングでした。
- 展覧会図録:「ART-BOOK: 絵画性と複製性―MAU M&L貴重書コレクション × Lubokの試み」展(武蔵野美術大学 美術館・図書館)
書物に残すことについての展示を書物に残すことについて、見て触って読んで受けとる書物。表紙が5種類あり、購入時どれにするか15秒ほど悩みました。この文章を書くにあたりムサビ美サイトを見たのですが、自分が買わなかった表紙のことはさっぱり忘れていたことに気づきました。
結城秀勇 (NOBODY)
映画ベスト
ほんとに映画を見てない。
3に関しては普通にタイトルを書けばいいのはわかってるが、しかしこう書きたくなる第三話。
珍しい食い物ベスト
-
フェジョアーダ@フィンガーインザスープ(吉祥寺)
毎週木曜日、映像作家・斎藤玲児が作るブラジルの豆料理フェジョアーダが食べられる。こんなに手軽に大量の豆を摂取できる高タンパク高食物繊維の料理、もっと気軽に食えるように日本でメジャーになってほしい。しかし2月一杯で閉店予定。
李潤秀 (助監督)
映画ベスト5(以下順不同)
- 『アメリカン・ユートピア』スパイク・リー
- 『ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結』ジェームズ・ガン
- 『エターナルズ』クロエ・ジャオ
- 『あの子は貴族』岨手由貴子
- 『ライトハウス』ロバート・エガース
『アメリカン・ユートピア』、変わらないかっこよさと、もっと尊いアップデートするかっこよさと正しさ、ずっと好きなトーキングヘッズの歌が新たな意味をもって迫って来る感動。芸術に政治を持ち込むなとか言う馬鹿に見せても意味はないのだろうか。デヴィッド・バーンの目はいつだって未来を見ている。We’re on a road to nowhere!
『ザ・スーサイド・スクワッド』、分かっているのにどうしてもおいおいと泣いてしまうクライマックス。彼女にしか分からない動機と、彼女にしかできないやり方で、彼女(とドブネズミ)が世界を救う瞬間。あの瞬間、父の幻影が見えるのは、彼女とわれわれ観客だけだ。観客にしか見えない景色が見える映画の幸福。そして流れるPixies風の劇伴のストレートな最高さ。ありがとうラットキャッチャー、ありがとうポルカドットマン(君のことは忘れない)。
『ノマドランド』も素晴らしかったけど、クロエ・ジャオが『エターナルズ』で見せた気合いの入った優しさ。役者がとにかく全員かっこよくて美しくて、見終わる頃には人間は何てかっこよくて(醜くて)美しい生き物だと、人間じゃない彼らを通してマジで思ったり。演出は気合いと優しさだ。凄いよクロエ・ジャオ。優れたファンタジーは現実の解像度を上げる。
『あの子は貴族』、地方と東京の可視化されない分断(に見えるどうしようもない無理解)や家父長制の暴力を、街に根差して描いている感じが素晴らしかった。街が描けているから人が嘘臭くないというか。あと日本の絶妙な嫌な感じを嶺豪一がワンシーンで体現していて凄かった。
『ライトハウス』、とにかく凄いものを見てしまった、という感じで、やばい人がやばい人を撮ったやばい映画だった。映画の白と黒がそのまま生と死を表しているような映画だった。アレクセイ・ゲルマンの映画を見て思考回路がショートした夏を思い出した。
2021年たくさん聞いたアルバム5
- 『The Suicide Squad:Official Playlist』
しつこいようだけど、クライマックスで流れる「Ratism」という劇伴が最高。ネタ元だろうPixiesはHeyが入ってます。あと予告に使われていた初期スティーリー・ダンにハマりました。
- 『Blush』マヤ・ホーク
とても良い。ストレンジャーシングスS4楽しみ。
- 『たむけ』折坂悠太
友達に薦められて他のアルバムも良かったのだけど、何故かずっとこのアルバムばかり聞いている。先に進めない。
- 「死んだらどうなる」stillichimiya
祝?サブスク解禁。いつ聞いても最高。
- 『Butter / Permission to Dance』BTS
BTS全然知らないんですが、Permission to Danceが本当に素晴らしくて聞くたびに少し泣く