「アメーバみたいに、こう(ノベノベノベっと)ね」。括弧内「ノベノベノベ」はあくまで空耳だが、5時を過ぎて灯りが落とされた店内で森山大道氏の両手(つまりここでは空眼と言った方がよい)が蠢いた。
PM3:00、四谷三丁目消防博物館前でカメラ担当鈴木淳哉と落ち合う/3:20、二人で近くの喫茶店へ/3:45、志賀謙太ようやく到着、四谷駅待ち合わせと勘違いしていたとのこと。軽く最後の打ち合わせ/3:55、ホテル「JAL
city」前到着。森山氏を待つ/4:00、森山氏到着。手ぶら、黒地に細いストライプのジャケット。今日は少し肌寒い。
例えば中平卓馬は「私、今、ショートホープ吸ってます」と言い、「ロング」ではない「ホープ」を語った。そして「悲しそうな顔をした猫の図鑑はない」と比喩を語り、自らの写真に写ってしまうポエジーとその終わりなき消去への志向との間で引き裂かれた。そして写真を撮れなくなった。いま、森山大道氏は「ピース」を吸う。数年前出た雑誌では「キャスターを吸います」と言っていた。推測するに何度もタバコを替えているはずだ、しかし「ハイライト」を「キャスター」を「ピース」を「ホープ」を語りはしない。平気でころころタバコを替える。タバコが変わる、「ハイライト」が咽に辛くなる、悲しそうな顔をしたタバコの図鑑はない。<にもかかわらず>吸う。吸い続けるがタバコを語ることはしない。
<にもかかわらず>あるいは<がしかし>。懐疑主義者のアメーバ、これが森山大道である。既に暗くなった歩道をゴールデン街へ向かった森山氏。自分達だけが半袖姿でいることに気がつき3人で急いでトイレへ行く。6:00インタヴュー終了、「じゃ、今度はゴールデン街で」。
松井宏