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December 31, 2004

2004年12月31日

12月に入ってから、母親から何度も電話をもらっていた。内容はいつも帰郷の日程に関するもので、その最後にこぼれた「はよ帰ってきてや」という珍しく寂しげな彼女の言葉に、例年なら2、3日の小旅行ですませていた帰郷を、今年は思い切って2週間に引き延ばした。風俗の仕事を始めてから、お金にも時間にも余裕ができた、というのも理由のひとつだろう。
実家に帰ると、初日の大晦日から、地元の友人との忘年会に参加した。お盆と年末、慣習的にとり行われるこの飲み会での不変のテーマは、思い出話と、同級生のうわさ話と、仕事の愚痴だ。今年は元野球部の友人が比較的たくさんやってきたこともあって、厳しかった練習の話や、当時顧問だった先生の物まねなどが、話題の主な中心となった。そしてその懐かしさからくる切ない興奮がひと通り冷めて、飲み会がしんみりと落ち着いた雰囲気をまといだすと、8人ほど集まった友人たちそれぞれが、ゆっくりと現在の自分について語りだした。営業で業務用の製氷機を販売している友人は、冬場冷え込む山裾では必然的に落ち込む売り上げ成績について嘆き、近所のスーパーのお総菜コーナーでもう4年もバイトを続ける友人は、バイト中頭につけるバンダナの為に、慢性的にぺったりとした髪型になってしまうことを独りごちた。一昨年から思い立って、大学に入り直すために受験勉強を続ける友人は、センター試験が近いからと、ひとり早めに席を立った。土地柄もあってか一連の話は大方おもしろおかしくて、みんなの笑いを誘うものだったが、それらの内容は明らかに中学・高校の時とは違うものだ。友人の従兄弟が経営するお店で酒を飲みながら、自活を始めた友人たちのリアルな日常にふれた気がした。制服を着て、与えられたものをそれぞれ闇雲に享受していたあの頃とは違うのだ。現実に晒されておのおの全く異なった方向を歩みながら、途中様々なしがらみを積み上げて、誰もが見事に大人へと変化していた。ここに根を張る彼らは皆、とても逞しい。そして、ひとりが私に向かってこう尋ねた。「あんたはまだ東京におるんやろ? 今何してんの?」「あ、なんか事務してる」。私は用意していた言葉をそのまま言うしかなかった。地元でのうわさ話は尾ひれ背びれをくっつけて、あっという間に狭い田舎を駆け巡る。いつ両親に知れるともわからない可能性を帯びた土地で、本当のことなんて絶対に言えない。「……あれやったらこっち帰ってきいや。みんなおるし。東京は恐いでぇ」。さりげない気遣いに胸が痛い。「……うーん、でも、まだいいや。うん」。私は曖昧にお茶を濁し、話題は何となくそれていく。結局全部で4時間ほど飲み続け、私はかつてないほどべろべろに酔っぱらって終電に乗り込んだ。駅に着くと、そこから国道に向けて、家までは歩いて6分だ。途中、高校のときいつも帰りによって1本タバコすっていた公園があって、そこで凍えて縮こまりながら、昔と同じように私はタバコを取り出し火をつけた。煙を肺まで深く吸い込むと、お酒でぐちゃぐちゃにかき回された頭の中が、すっきりとすんでゆくような感じがした。遠くで除夜の鐘が聞こえる。この土地の1年を締めくくるお坊さんも、集団登校で毎朝一緒に小学校へと通った、2歳年上の友人なのだ。

投稿者 nobodymag : 4:23 PM

December 20, 2004

2004年12月20日

本指名(1回以上接客したお客さんによる指名)で、M性感が入る。ルームに入ると、しかしいすに腰掛ける太った男に見覚えはない。緊張しながら彼に近づき、目を合わせないようにして問診表を受け取る。「女の子にどう呼ばれたいですか?……えー……ユウ君ですね?」笑顔で彼を見ると、彼が恥ずかしそうにうなづく。「いらっしゃい、ユウ君。久しぶりね」。おぼろげな記憶をたどりながら、私はとりあえず適当に口裏を合わせる。彼をシャワー室に案内し、終了時間を確認し、今回のプレイの方針を立てる。どうも思い出せない。以前私はいったいどう彼を責めていったのだろうか。彼は何を期待して私を指名してくれたのだろう。彼のシャワーの水音が止まる。これから彼は体を拭いて小さな紙パンツをはく。でてこない記憶の歯がゆさにイライラする。とりあえず指定された大人のおもちゃを用意しよう。私は再び問診表に目を落とす。すると、さっきはルームが暗くて分からなかったけれど、「ユウ君」と書かれた名前の欄に、先にボールペンで何かを消したあとが見える。目を凝らすと何本も引かれたその斜線の下に、「ユウコ」という小さな文字も見えてくる。ユウコ?……なんだか聞き覚えがある。ガチャリと扉の開く音。問診表から顔を上げると、中からバスタオルでおっぱいを隠したユウ君が、おびえた少女のように顔をのぞかせる。その大きな体にはバスタオルが少し小さすぎて、ピンクの紙パンツがタオルの縁からはみだす。「あらあら、はしたないわねぇ。」私はタオルをとり上げ、大きめのタオルを彼の体に巻き付ける。思わずにやける表情を読み取られないように、後ろ手に彼を引く。
薄暗いルームの中で、所在なく彼がたたずむ。「ねぇ、ちゃんときれいに洗った?」私はこくんとうなづくその彼を、少し離れたところから、頭の先から足の先までゆっくりと見下ろしていく。下がった眉、私を見上げる黒い瞳、尖った唇、胸元に寄せられた両手、柔らかそうな白い太ももが、内股にエックスの弧を描いている。……いじらしい。「よく見せて。ユウコ」。私はその両手を胸元から引き離し、バスタオルに手をかける。「……はい、お姉ぇさま」。小さなかわいい彼女の声。私は自分の胸の辺りがぞくっと疼くのがわかった。

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

December 9, 2004

2004年12月9日

M性感のお客さんが、3本連続ではいる。ルームに入ると、3人とも申し合わせたように、「初めてなんで、……お任せで……」と気弱そうにつぶやく。上目遣いで、おずおずと私を見つめる。「怖がらなくても大丈夫。じゃあ、様子をみながら、ゆっくり攻めていきましょうね」。私は笑顔で彼らを迎える。お客さんの緊張を解きほぐし、「この人だったら任せても大丈夫かな……」という、信頼感を得るところから、プレイはすでに始まっている。お客さんが私に怖じ気づくのもいけないけれど、それ以上に絶対になめられてはいけない。そのまさに期待と不安の入り交じった危うい均衡状態でシャワー室へと彼らを送らなければいけないのだ。
初めてのお客さんは多くの場合、パウダーマッサージも言葉攻めも、アヌス攻めも、ほとんどすべて未体験で、でもいろいろとそれらについての情報は持っている。頭でっかちに妄想を膨らませる彼らを気持ちよくいかせてあげるためには、ただその頭にたまったエネルギーを、体全体にまんべんなく巡らせるお手伝いをして、最後にそれをおチンチンへと集中させて、そしてカリを最後に軽く刺激してあげることなんじゃないかと思う。私は彼らの背中に白いパウダーを振りかけ、ゆっくりと彼らの手足の指の先からだんだんとおへそのあたりに向かってつめを立てる。「気持ちいいんでしょ?」「もっと腰ふって、嫌らしく欲情してるとこ見せてみて」。「どこが感じるのかあたしにわかりやすく説明してくれる? そうしないと、やめちゃうわよ」。……いくつかの言葉で追い込んで、彼らの神経を私の指先に集中させ、そしてそれが凄く気持ちいいものだという考えへと彼らを誘導するのだ。未経験者である彼らは異様に素直ににそれに従い、私の言葉通りに感覚をどんどんと鋭化させていく。実際にそこで私がお客さんに何をするか、よりも、お客さんが私に何をされている、と感じるか、が大切なのである。
前提条件としてある「ヌク」というしばり以外、実際には何もしなくてもいいのかもしれない。どんどんとやることを制限していって、背中に息を吹きかけただけでおチンチンから粘液があふれる、みたいなこともあり得るのかもしれない。M性感はソフトSMとも呼ばれ、本来のハードなSMプレイに踏み込めない軟弱な人々に用意された、いわばSMのイメクラという風によくいわれるけれど、行為をどんどんとエスカレートさせていき、「死」に生々しく近づこうとする本来のSMクラブと比べると、M性感というのはもしかたらまったく逆の方向性をたどるものなのか。感受性をどんどんと高めて、見るもの聞くもの触れるものをすべてイヤらしい欲望のヴェールを通して感じられるようになるにつれ、人はこれまで生きてきて、積み上げてきた死というエンディングへのおのおのの道のりを、再びここでリセットし、性的欲望に満ち満ちた、エロスマシーンとして生き直すことができるようになるのか。

投稿者 nobodymag : 1:19 PM