アルノー・デプレシャン Skypeトークショー@アンスティチュ・フランセ 
『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』をめぐって

©2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio

アルノー・デプレシャン最新作『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』がついに公開される。これまでもさまざまなかたちでアメリカ映画への愛を告白し続けてきたデプレシャンは、戦争において傷ついたひとりのアメリカ・インディアンと、ハンガリー系ユダヤ人である精神分析医との対話において、直接的に「アメリカ」という「夢」に対峙する。

デプレシャンによるこの新たな冒険をめぐっての貴重なトークショーをここに採録・掲載いたします。

<本トーク採録の全長版は「NOBODY ISSUE42」にて掲載予定、乞うご期待!>

——アルノー・デプレシャン監督の作品は、これまでもアメリカ映画への愛に満ちたものばかりだったと思いますが、今作『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』(以下、『ジミーとジョルジュ』)では冒頭のショットからまさしくアメリカ映画的な、西部劇的な風景が広がっています。アメリカで映画を撮るということに対し、強い意気込みがあったのでしょうか?

アルノー・デプレシャン(以下、AD) :すでに私は英語の映画を1本撮っていて、それは『エスター・カーン めざめの時』(2000)という作品です。他の私の作品が人々の集団を描いていたのに対し、『エスター・カーン』と『ジミーとジョルジュ』は両作品とも強迫観念のようなものに憑かれた個人の--『ジミーとジョルジュ』では、ふたりの人物が映画の中心になるわけですが--肖像を描いた作品であると言えるでしょう。

アメリカで撮影をしたのは今回が初めてですが、『ジミーとジョルジュ』は私がこれまで撮ってきた作品のなかで最もヨーロッパ的、最もフランス的な作品です。ジョルジュ・ドゥヴルーという医師がヨーロッパからアメリカにやってきて、アメリカ・インディアン[編註:『ジミーとジョルジュ』は1940年代のアメリカを舞台にしているため、劇中では「ネイティヴ・アメリカン」の呼称は用いられない。本採録ではそれに倣い、文意上必要だと思われた箇所を除いて「ネイティヴ・アメリカン」の呼称を「アメリカ・インディアン」に統一した]のジミーに出会う。かけ離れた世界にあるふたり、一方には古いヨーロッパ的な文化・伝統を持ったジョルジュ・ドゥヴルーがいて、そしてもう一方には絶対的なアメリカ人、アメリカ・インディアンのジミーがいる。彼らがアメリカという場所で出会うわけです。

本作ではアメリカ映画をつくろうというよりも、ヨーロッパの一部をアメリカに持ちこみたいと考えました。私が面白く感じていたのは、精神分析というふつうであれば観客が怯えてしまいそうな題材を用いたことです。精神分析には、たとえば狭い小さな部屋に閉じこもって長椅子に横たわって受けるものだというイメージがありますね。心の内部という小さな問題を西部劇のようなアメリカの巨大な風景の中に移しかえるということに興味があったのです。シネマスコープでの撮影を選択したことも関係がそれにあります。

冒頭ばかりでなく、フラッシュバックで現れるジミーのアメリカ・インディアン居留地での過去のシーンは、本当の居留地でそこに住んでいる人々とともに撮影をしました。フランスでも日本でも子どもにはふたつの種類があると思います。インディアンの存在を知ったときに、カウボーイになりたいと思う子どもと、インディアンになりたいと思う子どもです。私はインディアンになりたいと思った子どもでした。インディアンに関する本を読み、インディアンが使う手話のような動作を学んだりもしました。

続き・・・

アルノー・デプレシャン Arnaud Desplechin

1960年フランス・ルーベ生まれ、映画監督。
1984年、IDHEC(パリ高等映画学院、現La Fémis)を卒業、91年に監督デビュー作となる中編『二十歳の死』でジャン・ヴィゴ賞を受賞。92年に初の長編『魂を救え!』をカンヌ国際映画祭に正式出品。その後の監督作に『そして僕は恋をする』(1996)、『エスター・カーン めざめの時』(2000)、ルイ・デリュック賞を受賞した『キングス&クイーン』(2004)、主演のカトリーヌ・ドヌーヴがカンヌ国際映画祭特別賞を受賞した『クリスマス・ストーリー』がある。


『ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して』

©2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio

2013年/117分/シネマスコープ/カラー
監督・脚本:アルノー・デプレシャン
共同脚本:ジュリー・ペール、ケント・ジョーンズ
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
編集:ローランス・ブリオー
音楽:ハワード・ショア
出演:ベニチオ・デル・トロ、マチュー・アマルリック、
ジーナ・マッキー、ミスティ・アプハム
2015年1月より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
www.kokoronokakera.com