特集『彼女のいない部屋』
「家出をした女性の物語、のようだ」というごく簡素な物語の中に、いくつものボイスオーバー、モンタージュ、音の調べが重なり合っていく。一見「家出をした」とされる主人公・クラリスの振る舞いや囁きは、見る者を戸惑わせ、置かれた現実と妄想とも言える理想(イメージ)との彷徨を通じて、ある種の不確かな状況さえ浮き彫りにさせてしまうのかもしれない。だが、そのような不確かなものであるからこそ、映画がもたらす新たな発見と希望は生まれ、あらゆる状況に囚われるのではなく、ともに生きていくことの源泉として目の前に立ち現れてくるのではないだろうか。
この映画(もしくはクラリス)に寄り添ってみたい。原題の”Serre moi fort” に呼応するように、NOBODYでは本作をめぐる3つの論考を通じて、その声に耳を傾けてみたいと思う。
*近日、マチュー・アマルリック監督インタビューを本特集内にて掲載予定です