特集 ゆっきゅん『生まれ変わらないあなたを』

 DIVAゆっきゅんのセカンドアルバム『生まれ変わらないあなたを』が9月11日(水)にリリースされた。今作では、「ログアウト・ボーナス」を中心にバンドサウンドを積極的に採用し、制作陣には友人である同世代のアーティストたちを多く迎えている。まさに出会いが巡り合わせた、ゆっきゅんが「今」だからこそ作れた一枚になっているだろう。今回は楽曲やMVを制作するにあたって、自身が見てきた映画からの影響があったと語るゆっきゅんのインタビューを敢行。曲に込めた思いや、映画や本など、下敷きにある作品についての話をたっぷり聞くことができた。作詞や歌唱だけにとどまらない、ゆっきゅんのエッセンスがつまったアルバムの魅力を紐解いていく。
 さらに井戸沼紀美、patchadamsを迎えて、アルバムのクロスレビューも!

ゆっきゅんインタビュー「邦画として書かれたかけがえないものたち」

主人公が別でいる感じ

ゆっきゅん ファーストアルバムまでにつくった曲と今回のアルバムの曲の違いとしては、作詞をしている時に自分が全面に出る感じじゃなくなった、ということですかね。歌っている人が前に出るのではなくて、主人公が別にいるというか、「映画をつくる」ような感じ。そんなイメージで作詞するように変わってきた感じがあったのが「ログアウト・ボーナス」です。「年一」の方が先にシングルリリースしているんですけど、「ログアウト・ボーナス」の方が作詞をしたのは早くて。
 2022年に公開された『WANDA』(バーバラ・ローデン、1970)がすごく好きで。ああいうひとりで歩いている、歩いてるだけでさまよっている感じになっちゃう孤独な大人の女性が出てくるロードムービーが自分の中に残っていたんですよね。特に2022〜23年にかけて、そういった映画が続けて公開されるような状況があったと思うんですが、ひとりでさまよう女性の姿を歌で歌えたらいいなという思いがぼんやりまずありました。『冬の旅』(アニエス・ヴァルダ、1985)とかは私が歌うにはちょっと悲しすぎるんですけど、歩いてる情景を歌にしたいという思いがあったんです。いろんな映画のとぼとぼ歩いてるシーンが好きなんですよね。『リコリス・ピザ』(ポール・トーマス・アンダーソン、2021)でも、好きだったかもって思い出すのは、歩いてたシーンで。別に名場面じゃないと思うんだけど(笑)。観たのは作詞の後ですが、『アル中女の肖像』(ウルリケ・オッティンガー、1979)もすごく好きですね。

——『リコリス・ピザ』は主人公ふたりが走るシーンが印象的ですけど、そうじゃなくて歩いているところなんですね。

 退屈なパーティーを抜け出して楽しいところに行くんじゃなくて、退屈なパーティーが本当に退屈で、出てきて歩いてるみたいなシーンを覚えてるんですね。『ブリジット・ジョーンズの日記』(シャロン・マグワイア、2001)でも、変なバニーガールの格好して、すごく惨めな気持ちになっても着替えることもなく歩いてるみたいな、そういうところにおかしみがあるというか。それでのたうち回ることもなく、もうただひとりで自分の家に帰る。そういう場面の哀愁というか、ブルースみたいなのが自分の中にあって、それを歌いたいなっていう気持ちがあったんです。

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ゆっきゅん

1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバー。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を本格始動。WEST.やでんぱ組.inc、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIへの作詞提供、コラム執筆や映画批評、TBS Podcast『Y2K新書』出演など、溢れるJ-POP歌姫愛と自由な審美眼で活躍の幅を広げている。2024年9月には2ndアルバム『生まれ変わらないあなたを』を発表した。

ゆっきゅん『生まれ変わらないあなたを』
(9 月 11 日発売&配信) ¥3000(税込)

  1. ログアウト・ボーナス(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:奥中康一郎)
  2. 幼なじみになりそう!(作詞:ゆっきゅん、作曲:しずくだうみ、編曲:鯵野滑郎)
  3. プライベート・スーパースター(作詞:ゆっきゅん、君島大空、作曲・編曲:君島大空)
  4. かけがえながり(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:幕須介人)
  5. 年一(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:yellowsuburb)
  6. Re: 日帰りで – lovely summer mix (作詞:ゆっきゅん、作曲:yellowsuburb、Remix:ラブリーサマーちゃん)
  7. 遅刻(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:野有玄佑)
  8. だってシンデレラ(作詞:児玉雨子、ゆっきゅん、作曲:児玉雨子、編曲:幕須介人)
  9. lucky cat(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:壱タカシ)
  10. シャトルバス(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:梅井美咲)
  11. 次行かない次(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:奥中康一郎)
  12. いつでも会えるよ(作詞:ゆっきゅん、作曲・編曲:鯵野滑郎)

特設サイト https://uma-tao.jp/

「ノンアルDIVAの肖像」井戸沼紀美

 ゆっきゅんと初めて出会ったのは下高井戸シネマのロビーでした。自販機の前で「ゆっきゅんさんですか……?」と声をかけると、「今、飲み物を飲むので少し待っていてください♡」と律儀に一言はさんでからミニサイズのペットボトル(アセロラドリンク的なもの)を6割くらい飲んで「そうです😌」と答えてくれたのです。

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「爆走するユニゾン」浅井美咲

 声について。はじめてアルバムを通しで聞かせてもらって、「プライベート・スーパースター」が流れてきた時、なにか新しいものが生まれていると思った。好きなアーティスト同士のコラボ曲を聞いた時、お互いの声の良さが相乗効果を生んでいるな、とかは思ったことがあるけれど、ゆっきゅんも君島さんもこの曲のために選んだ、というか調合したオーダーメイドの声を使っているような感じで、ふたりのソロ仕事ではあまり聞き馴染みがない声だった気がする。そして、サビで始まるふたりのユニゾンでは、あろうことかふたりの声がひとつの塊になっていた。

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「失恋は生に関わるひとつの技芸」結城秀勇

「恋愛を好き勝手にやるように、失恋も好き勝手にやる、失恋をやり切るって大事ですよね」。
 2023年12月8日東京日仏学院、ジャック・ドワイヨン『放蕩娘』上映後、学生時代の師である三浦哲哉とのトークで、突如発せられたゆっきゅんの一言がブッ刺さった。映画とはあまり関係ない(ように思えるが、下記の文脈では、ジェーン・バーキンという女優のありようとしてどこかでつながる)この発言、すげーと思った。

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「ゆっきゅんのCD『生まれ変わらないあなたを』を聴く」patchadams

 9月下旬のある日の早朝、父親が運転する車の助手席に乗り込む。後部座席には母親と妻。およそ2時間半の移動。街中から自動車専用道路に入る。海沿いを経て、山間部へと進んでいく。歪曲した路面。石、岩。瓦礫。地面がなくなって宙に浮いたガードレール。土嚢。ブルーシート。地名、数字や記号が消された標識。水たまり。ショベルカー。クレーン車。ダンプカー。崩落した道に落ちたまま放置された車両。砂、赤土。路面に入った亀裂から伸びる植物。寸断され、使われなくなった車線一帯に生い茂る植物。

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