ゆっきゅんのCD『生まれ変わらないあなたを』を聴く

patchadams

 9月下旬のある日の早朝、父親が運転する車の助手席に乗り込む。後部座席には母親と妻。およそ2時間半の移動。街中から自動車専用道路に入る。海沿いを経て、山間部へと進んでいく。歪曲した路面。石、岩。瓦礫。地面がなくなって宙に浮いたガードレール。土嚢。ブルーシート。地名、数字や記号が消された標識。水たまり。ショベルカー。クレーン車。ダンプカー。崩落した道に落ちたまま放置された車両。砂、赤土。路面に入った亀裂から伸びる植物。寸断され、使われなくなった車線一帯に生い茂る植物。時折、悪路がもたらす大きな縦揺れに母親がワッ!と驚く。父親が舌を噛むから口を開くな、と強めた語気で言う。
 年の頭に大きな地震があって、この日の6日前には豪雨があった。この半島の地で生まれて、小学校を卒業するまで過ごした。暮らしていた家は祖父母が亡くなって2年ほど前から空家になっている。敷地内には祖母が漬物や味噌を作っていた小屋など小さなものを入れて5つの建物がある。母屋を含めた3つが役場による罹災状況の調査によって「半壊」と認定され、来年1月か2月に公費解体の実施が決まった。家屋を潰す前に家の中を片付ける必要がある。8月の間にボランティアの人たちに二度来てもらって、大きな家電などは粗方搬出が出来たが、まだまだ色々と物が残っており、廃棄物集積場が10月いっぱいで閉じてしまうと言うので、整理を急がねばならない状況にあった。
 高速回転する車のタイヤと路面を切削して作られた溝の摩擦によって音楽が鳴る「おとのみち」ゾーン。本来なら当地ゆかりのテレビドラマの主題歌を奏でるはずだが、道はガタガタで、ところどころでアスファルトの舗装がなされており、車が走ると不協和音めいた音塊になる。ボワンとしたその音は、エンジン音と車内の会話とカーオーディオとレーダー探知機の音声の合間やそれらを覆うように聞こえてきて、集中して聞いているとまるでミュージック・コンクレートのようで、妙に耳に残る。音の密度が高いまま、ゾーンを走り抜ける車。車体がガタンっとバウンスする度にワッと驚く母親。それをきっかけに父親があれこれと小言を言う。
 カーオーディオでは、はじめはラジオがかかっていて自民党総裁選の行方などを伝えていたが、山深い地点に差し掛かるとラジオの電波を拾えなくなり、運転する父親の操作によってゴンチチのベスト盤、それに続いてフランク・シナトラのベスト盤が再生されていた。父親は母親を何かにつけてなじっている。母親はそれに言い返したり、受け流したり。妻は黙っていて車の天井を見つめている。シナトラ親子が歌う「Something Stupid」を途中で止めて、ゆっきゅんのCDをディスク挿入口に入れる。

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