『パリ・ルーヴル美術館の秘密』ニコラ・フィリベール
[ book , cinema ]
青い服を着た男たちの集団が絵画や彫刻を運び込んでいく。遠目には制服のように見える青い作業着も、近づいて見ればそれらが様々なヴァリエーションをとっていることがわかる。三つ釦ジャケット風、ワーキングジャケット型、ガウンめいたベルト付きの服、オーヴァオール、デニムシャツ。丈も様々。彼らが巨大な絵を運ぶ。画布の巨大さに木枠が軋む、黒板を爪で引っ掻くような音。磨き上げられた床にゴムの靴底が音を立てる。1歩ごとに「ギィ」と「キュッ」が重なる。彼ら異なる細部を持つ青い単一体によって淡々と搬入・設営はこなされていく。もちろん貴重な芸術作品が相手のこと、扱いはぞんざいであってはならない。ロール状になった巨大な画布が壁にすれないよう気を使う。だが対象の価値ゆえに恐れを抱くこともない。何本もの手によって広げられていく絵の、その作業にためらいはない。敬意と手と材質との親和がある。
この仕事の質は彼らだけのものではない。展示品の修繕補修を行う者や収蔵品の管理をする者はいうまでもなく、ルーヴルの所蔵品には直接手を触れることのない者、調理人や清掃夫にも、その質は行き渡っている。レンジのダイヤルを回し、鍋の底をかき混ぜる。窓に浮いた汚れた泡をワイパーで掻き取る。
極めてメガロマニアックなルーヴルという舞台では、内部の活動が表に出ることがない。と同時に全体に影響しないような細部など何ひとつない。冒頭で展開されるローラースケートの猛スピードの交通網によって、ルーヴルは、青の、黄色の、紺色の、白亜の、マーブル状の単一体になる。