『あなたの隠された微笑はどこにあるの?』ペドロ・コスタ
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この映画の主要な登場人物は3人である。ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレ、そして『シチリア!』に等価な視線が注がれているからだ。
この映画は、ストローブ=ユイレについてのドキュメンタリーであり、彼らと同じ時間と空間をともにすることで得られた貴重な映像資料と言ってもいいかもしれない。研究者にとってもおいしい映画かもしれない。
ストロ-ブ=ユイレの姿をペドロ・コスタの撮ったこのドキュメンタリーで初めて目にした。実はいままでその声すら聞いたこともなかった。『シチリア!』の編集に関する意見の交錯。ユイレが黙々と作業台に向かい、そのわきでぶつぶつとストローブがつぶやき続ける。「黙って!」とユイレ。ストローブが歌い始める。そして、部屋を出るストローブ。そのまま黙って作業を続けているユイレ。ストローブの声、ユイレの後姿、すべてが忠実に記録されている。
たったひとコマの違いを巡って双方の意見が食い違い、言い争いが始まる。彼らの会話はまるでどこにでも見られる夫婦喧嘩のようでもあり、映画がコメディで描き続けてきた男女の口喧嘩のようでもある。映画のラスト近くになって、ストローブが学生時代の思い出を話し始めることで、口喧嘩はとりあえずの終息を迎える。初めて出会ったときの思い出。「はじめ、ぼくは彼女を遠くから眺めていた」。「彼女のことを理解できるのはぼくだけだった」。まるで映画の台詞のようなそんな言葉が聞こえた気がした。
『シチリア!』はこの映画の3人目の登場人物である。ハリウッドのコメディの多くは、主要となる男女のほかにもうひとりの人物を配していたが、その役柄をこの映画では『シチリア!』が演じている。『シチリア!』の編集をきっかけに口論が始まり、『シチリア!』を巡るやりとりが次第にふたりの和解へと向かう。この映画は、撮られた素材が映画になるまでの過程を撮影しているように、1組の男女のやりとりがそのまま映画になるように、また1本の映画が映画の登場人物になるように、さまざまな変容を見せているのだ。