『もっと知りたい建築家──淵上正幸のアーキテクト訪問記』淵上正幸
[ book , cinema ]
TOTOのサイトに連載されていた建築ライター 淵上正幸が9組のアトリエ系建築家にインタヴューしたものの集成。みかんぐみ、難波和彦、ADH、坂本一成、ベルナール・チュミ、北山恒、古谷誠章、ドミニク・ペロー、大江匡がその9組。
それぞれのインタヴューはそれほどディープなものではない。建築家になった動機、趣味、着ているもの、アトリエの場所など、かなり私的なものから、建築のプロセスまでかなり幅広く質問され、各建築家は、それなりに「営業」している。寝転がって読んでも、電車の中で読んでもよい。あっという間に読めてしまう。しかし、だからといって、この本が表層的で浅薄だということではない。ディープではないけれども面白い。それぞれの人柄がわかって楽しめるのだ。みかんぐみの面々は、それぞれ性格が違うけれども、けっこう「カッコ付けている」し、難波和彦は朴訥だし、ADHの渡辺真理・木下庸子組は誠実で知的だ。坂本一成は温厚だけれども頑固そうだし、ベルナール・チュミは幸運の星の下に生まれているようだし、北山恒はどんな発言も「政治性」を帯びている。古谷誠章は(僕の高校の2年後輩であることが解ったが──谷内田章夫は僕の2年先輩みたいだ)結局何がやりたいのかよく解らないし、ドミニク・ペローは野心満々だし、大江匡は「えばりんぼう」だ。もちろん、それほど単純化できるわけはないが、それでも、これらのインタヴューを読み進めると、作品と建築家の融合性は分かる。「文は人なり」。
一貫して言えることは、皆、ワーカホリックだということだ。設計料というのは、全体の工費の10パーセント程度だが、どの人も建築が好きだから、それぞれの設計に時間をかけてしまう。努力と時間が、収入に直結しない。だから、よほど大きなプロジェクトでない限り大して儲からないのだ。でも、それでも彼らは、一生懸命努力して、新たな空間の創出に向けて努力を惜しまず、日曜も祝日も深夜まで働き続けている。経営学者だった渡辺真理の父は、彼の事務所の経営に呆れ、銀行で貸し付けを担当していた木下庸子の父は、「おまえの事務所に金は貸せない」と言ったそうだ。プロフェッサー・アーキテクトが多いのも後進の指導という押さえがたい欲望と共に、大学とは別の働き場を維持する必要性もあるからだとも思える。自分の空間を持つためには長い時間がかかるし、その間に建築家と過ごす時間もかなり長い。とりあえずこの本を読めば、もし施主になったら誰と合うのかはぜったいに分かるはずだ。その意味で、この書物は、建築家が携えるポルトフォリオと同じくらい役に立つはずだ。