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May 23, 2004

「二十騎町の集合住宅」北山恒

[ architecture , sports ]

フレンチのビストロと担々麺の看板を掲げた中華料理店が隣り合い、いくつもの路地が交差する牛込北町の裏側に美しい集合住宅が完成した。「二十騎町の集合住宅」がそれだ。設計は北山恒+architecture Workshop。デザイナーズマンションをプロデュースするタカギ・プラニング・オフィスのコンペに勝ったのがこの作品だ。北側と南側に2棟あり、渡り廊下で接続されている。北側は2階〜5階にワンルーム2部屋ずつ並び(アネックスとして連続して借りることもできる)、中庭を隔てた南棟は、1階と3階にそれぞれ吹き抜けのある2層式の住居が並んでいる。3階には2層式の住居をアネックスにしたいわゆる3LDKの住居もある。
北山恒の仕事らしく、この集合住宅も極めて合理的で論理的に建てられている。同じ面積のワンルームが並ぶ北棟、同じ面積でロフトを持つ住居が並置された南棟。それぞれをアネックスにすることで空間は2倍に拡大する。多様なニーズに表面的に応えたように見える多様な間取りは存在せず、すがすがしいまでの並置。
従来の北山の仕事なら、上記の文章でピリオドが打たれるはずだ。だが、可動式の家具、裸電球による照明、ワンルームタイプに仕掛けられた縁側のような回廊、作りつけのシューズラック等々、従来の北山の仕事には見られないディテイルの豊かさがここにある。放りだし、住み手の創意に任せる空間の提供よりも、細部にまでテイストを備えたエステティックがこの空間には横溢しているように感じられる。それは確かに美しいし、これまで洗練という言葉とは、あえて距離を取っていたか見えた北山作品が、大幅にエステティックを取り入れて新たな展開を見せているとも言えるだろう。考えてみれば「下馬の4軒長屋」や「飯田橋の集合住宅」に見え始めた北山的なエステティックが、この二十騎町で集大成を見たのかもしれない。南棟1階へのアプローチには1メートル半くらいの白い溝があり、雨水をたたえたその水は各室と中庭のライトを美しく反射するだろう。
しかし作家と呼ばれる種類の人間は、ある方向に作品を振ってみると、次回作はそれとは逆方向に作品を向かわせたくなるものだ。エステティックには上限があるが、空間構成に際限がないことは他の誰よりも北山自身が知っているはずだ。

梅本洋一