『あなたにも書ける恋愛小説』ロブ・ライナー
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どの時点で“The End”にするか。ケイト・ハドソンの忠告を聞いても、男はストーリーを変えたりはしない。“The End”という言葉をだらだらと引き延ばしていくだけだ。一方では時間の制約と戦い、もう一方で時間を引き延ばすことに躍起になる。
恋愛小説はどのように作られていくのか。まずは誰と誰が最終的に結ばれるか、という問題がある。結末を予想させないために、複雑なドラマを作り出さなければいけない。登場人物が限られている場合、結ばれるだろう組み合わせが簡単にわかってしまう場合、その二人がどのようにして心を通わせていくか、どのようなプロセスでセックスまで持ち込むのか、がストーリーの中心となる。恋愛小説は、現実の恋愛のようにはいかない。分量の問題があるからだ。現実ならば、うまいことセックスに持ち込めば取りあえずは成功と言えるけれど、ページ数の決まった恋愛小説では、簡単に結ばれてしまってはいけないのだ。ペース配分が必要となる。未亡人と作家の男が簡単に結ばれないように、男は何とか障害を作り出そうとする。ページ数を稼ぐために、ケイト・ハドソン演じるメイドが利用される。無意味に変わる彼女の国籍は、ただケイト・ハドソンのコスプレ姿を見せるため、そして(映画の)時間を稼ぐために利用される。
彼女が腹をたてるのは、男が昔の恋人と会っていたからではない。場所が問題なのだ。狭いアパートの一室と小さな島。現実でも物語の中でも閉じ込められてきた自分と、再会した途端、オープンカフェで談笑する彼女。風景も何もない限られた空間の中で、どうやって恋愛関係を発展させるのか。初めての散歩が二人の関係を進展させたように、彼を外に連れ出すことが、この恋愛ゲームの最終目標だったはずだ。それなのに、たった一本の電話で彼は簡単に外へ飛び出していく。部屋の外へは出られないと信じていたからこそ、驚くほどに凡庸な物語に延々と付き合ってきたというのに。外に出られるとわかっていたら、もっとましな物語を作れたはずなのに。
男は再び彼女を閉じ込める。窓の外など見向きもせず、二人はしっかりと抱き合う。現実と小説の間を行き来しながら、空間はますます狭くなっていく。風景なんて必要ない。最後まで物語の内に閉じ込められていたケイト・ハドソンが、満面の笑みを浮かべているのだから。