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August 3, 2004

『CODE46』マイケル・ウィンターボトム

[ cinema , sports ]

舞台は近未来。上海に派遣された中年のスパイがそこでひとりの女と出会う。「CODE46」と呼ばれる法規に管理された世界ではふたりの間に芽生える感情は禁じられたものである。そんなプロットから『アルファヴィル』の系譜を考えたのかと想像していたが、見てみれば『ロスト・イン・トランスレーション』の気分なのだとわかる。
上海の雑多な町並みを通り、まるで無菌の無国籍な建物の中に入る。世界設定の時点で、ここには内と外の二分法しかない。というか外なんてないといいきっているかのようである。サマンサ・モートンに民俗衣裳を着せるというラストは、ウィンターボトムの倒錯的な悦び以外の何ものでもないように思える。
はじめから最後まで記憶を保っているジャンヌ・バリバールではなく、記憶の修正を受けたサマンサ・モートンの声によって物語が語られる。彼女の演ずるマリアはとても音痴で、だからこそとてつもなく魅力的であるという設定なのだが、始まりの時点でラストを全て見通している彼女の声には不安定な周波数の揺らぎは微塵も感じられない。『マイノリティ・リポート』の中で彼女をマイノリティにしていたのは、予知の映像に紛れ込むノイズだった。彼女が現実に地下鉄の混雑の中でティム・ロビンスを見つけるときに助けになる彼の身体の過剰な巨大さは、予知夢の中では比較する対象を排除することできれいに消し去られている。アジアのインテリアのことごとくにスケールのあわないティム・ロビンスの巨大さが終始画面に張り付いていたなら、彼らの観光客めいた非日常はもっと異なるものになったのではないか。どうしようもなく居心地の悪い状況の中で、その「内か外か」ではなく、「いくか留まるか」こそが問題なことは冒頭のカラオケバーで示されていたのではないか。

結城秀勇