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August 9, 2004

『スパイダ−マン2』サム・ライミ

[ cinema , sports ]

その男は才能だけで勝負をする男だ。ずば抜けた頭脳によってピーター・パーカーは認められ、身体的な能力によってスパイダーマンは認められる。その才能を活用する方法を、彼はまだ極めていない。手首から生える蜘蛛の糸や人間離れした跳躍力だって、もっと多様な使い道のありそうなのに、とにかく素早く街を疾走することだけが彼の得意技となっている。いつの時代も、天才は努力家よりも受けがいい。才能ゆえに彼は周りの大人たちから息子同然の扱いを受ける。しかしどうやっても本当の父を持つことはできない。才能が枯渇すればすぐに見捨てられる、そんな擬似的な親子関係が、血縁関係を乗り越えることができるのか。そして仮想の父を倒すことができるのか。2作を通して、『スパイダーマン』は父と息子の、そして家族の物語だ。
電車の暴走を食い止めた彼が、電車から転げ落ちそうになった瞬間、幾本もの手が彼の身体をそっと支える。彼らの手が身体に柔らかく食い込み、スパイダーマンは人々の身体の上を静かに運ばれていく。列車は直線的な舞台だ。スパイダーマンは、直線的なビルの合間を曲線的に駆け抜けようとするが、意識を失った彼は、されるがままに車両の前から後ろへとまっすぐに移動する。それはまるで遺体を運ぶ儀式のようだ。マスクを取った彼の顔を見て、男が「俺の息子と同じくらいじゃないか。」とつぶやくように、彼はそのあどけない表情によって人々に受け入れられる。彼は子供たちのヒーローという地位から、彼らの息子という地位へ移行されたのだ。人々は、スパイダーマンの葬儀を終え、生まれたばかりの息子ピーター・パーカーを、許し守ろうと決意する。
ピーター・パーカーとして許されるか否か、という問題に、MJや街の人々によって答えが出される。親友ハリーの答えは次回まで持ち越されるとして、問題はピーターの叔母の態度だ。叔父が死んだのは自分の責任だと告白したピーターが叔母の手を握るとき、張り詰めた緊張感の中、彼女は彼の手をすり抜けていってしまう。縋るように叔母の姿を見つめるピーターを、彼女は振り返りもしない。たったワンショットによって、彼女は彼を絶対に許さないという決定的な答えを与えたのだ。後日、もういいのよ、と彼を許す言葉は聞かれるが、再びその手を握ることはない。スパイダーマンには賛辞を送りながら、彼女はピーターを受け入れようとはしない。身体的コミュニケーションによって彼のアイデンティティは確立される。言葉など何の意味もない。ただ手を触れるだけで、唇に触れるだけで十分なのに、血のつながった家族からそれを得ることはできないのだった。
技術によっていかなる敵を作り出そうと、スパイダーマンは身体だけを資本に戦い続けるだろう。次回はついに息子同士の戦いとなりそうだ。今度こそ、ピーター・パーカーは家族を手に入れることができるのか。窓に寄り添うMJの姿だけが、残された最後の希望だ。

月永理絵