『バッドサンタ』テリー・ツワイゴフ
[ cinema , sports ]
犯罪者が子供との交流を経て更正に向かう話。つまり法律に抵触するような行為を繰り返す人間の前に純粋な心をもった子供が押しかけ女房的に現れ、最初はいやいやだった犯罪者も次第に子供の純粋さに触れ、人間性を獲得していく。法律に違反するような行為は人間的ではないのです。子供の純粋さを見なさい。あれこそがマッサラな人間の本当の姿なんですよ。というエンディングに向けて、その間子供のいじめっ子への復讐劇に荷担する犯罪者と子供の心と心の交流などといったエピソードをはさみながら笑いあり涙ありでテンポ良くあっという間の2時間弱。後に残るのはさわやかな感動。要はそういう物語。ではない。
この映画冒頭から明かされるのは主人公は一度更正に失敗しているということだ。盗みはまんまと成功する。しかしその後のカタギな生活でどうしても失敗してしまう男。つまりこの男は成功/失敗の反転をうまくできないでいるのだ。2度目の更正への挑戦は当然盗みから始まるのだがここで詳細に語られるのは盗みに向かうミッションがどうもうまくいっていないということだ。ここから物語りは成功/失敗の反転に向けてゆっくり動き始める。
主人公は盗みに至る前の過程であっさり自殺を試みるのだが、そのことが子供の復讐劇へ主人公を荷担させることになる。当然特訓が施されるわけだが、ツワイゴフは子供と犯罪者の交流を丹念に描くというよりはそれを素材として笑いを演出してみせる。心の交流を描くために笑いをはさむのではなく、心の交流を得るであろう場面をすべて笑いに収斂させるという反転。結果復讐は成功するがそれは明らかに特訓の成果ではなく子供がいじめっ子をなめきっていたというだけだ。
クリスマスは冬ではなく、妖精は邪悪で、サンタは贈り物などするつもりなど毛頭無いが、犯罪者は命がけで贈り物を届ける。反転に継ぐ反転で紡いだ物語は教訓は教訓ではないという教訓話からも遠く離れ、すがすがしい。