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October 28, 2004

『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』ラス・メイヤー

[ cinema , cinema ]

p_cat.jpg モノラルのサウンドトラックが声に合わせて振動し、まったく同型の平行に並んだ2本の跡をつける。その偶数本のギザギザの線は次第に増殖していき、画面を埋める。性能のほとんど同じマシンのデッドヒートの結果、地面に残されたタイヤのトラックのように。
車は金や権力や社会的背景を示す小道具などではなく、もっと単純な力とスピードの象徴だ。その馬力と速度が最大限に発揮されるのに両輪のバランスが必要であるように、登場人物たちは極めてシンメトリックな形で登場し、もつれ合い、退場していく。まず3人の女と車。次にひと組のカップルと1台の車。男が死に、4人の女と3台の車が残る。そこに現れる3人の男と1台の車。緊張下の束の間の均衡状態の後、ひとりまたひとりと登場人物たちは欠けていく。最終的には、予定調和とも思えるひと組のカップルの成立に向けて事態は収束していくのだが、まあそれはどうでもいい。最終的なひと組の両輪の安全走行に至るまでの、自分の失われた相方を捜す無軌道な片輪走行と、その軌道の唐突な交差と衝突こそが見物なのだ。それは優しげな求愛行動のような形をとることなく、文字通り力と力、スピードとスピードとのぶつかり合いと化す。
車で男を轢き殺そうとする女と、それを押し返そうとする男。回転数を上げていく車輪が砂を巻き上げる様と、張りつめた筋肉の束がモンタージュされていく。そこではタイヤの回転の速度が生む力と筋肉という細やかな繊維の結合が生む力が完全に拮抗し、つまり完全に調和して、同時に活動を停止する。
モノラルはやがてステレオになって、『パンドラ・ピークス』に至っては右の乳房と左の乳房の均衡を失ったモンタージュを前に二者択一を迫られる。どっちが好きか?という問いの答えはもちろん決まっていて、どっちも好きだ!ってことになるのだということを最後に付け加えておく。

結城秀勇