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November 3, 2004

「パンク・ピカソ展」ラリー・クラーク

[ cinema , photo, theater, etc... ]

ロジャー・マリス(1934〜1985)……ベーブ・ルースが持つ1シーズンのホームラン記録を、1961年に更新したアメリカメジャーリーグのベースボールプレイヤー。彼の年間61ホーマーという記録は、1998年のマーク・マグワイヤ、サミー・ソーサ両選手まで破られることがなかった。
1961年、マリスはチームメイトであるミッキー・マントルとともにルースの記録に挑戦することとなるが、のちのマグワイヤとソーサの場合とは違い、マリスはまったく歓迎されなかった。シーズン半ばにコミッショナーであるフォード・フリックは、「ルースの記録が当時と同じ154試合で破られなければ、その記録は*(アスタリスク)付きのものとなるだろう」と語った。シーズン最終日の10月1日に、マリスは61本目のホームランを放った。そこに付されたアスタリスクはのちにはずされることになるものの、それにはマリスの死後、1991年まで待たなければならない。1980年のオールスターゲームにおいて彼は当時のことについて次のように語った。「やつらはまるで俺が何か間違ったことをしているとでもいうかのようだった──レコードブックを汚してるとかそういう類のことをしていると。61本のホームランのために、俺はなにをして見せなきゃいけないっていうんだ?なにもない。そんなものはなにもないんだ」。
ワタリウム美術館で開催中の「パンク・ピカソ展」はラリー・クラークの写真展ではない。写真、新聞や雑誌の切り抜き、スケッチやメモ、手紙やファックスといったものが壁に配置されている中で、彼が撮影した写真はおそらく全体の半数にも満たないだろう。彼がしていることとは、それらの素材を探し出し編集し配置する、彼の言葉を用いればすなわち「ストーリーテリング」なのだ。ではいかなるストーリーを語っているのか。一言でいえば、ロジャー・マリスの物語だ、ということになる。ベーブ・ルースでもなく、ミッキー・マントルでもなくロジャー・マリスの物語を。その系譜には、チェロキー・インディアンである母方の祖母の写真や、ライフルを抱えるマルコムXを盗み撮りした写真、ブルース・リーの言葉を書き写したメモ、リバー・フェニックスが載った雑誌の膨大な切り抜き、ジャスティン・ピアースが写ったポラロイドなど、ここにある全てのものが含まれる。アスタリスク付きのヒーロー・ヒロインたち。
彼がマリスについて答えたインタヴューの切り抜きも展示してあり、そこで彼は、マリスが記録を更新した61年当時はベーブ・ルースの伝説がまだ生きており、旧世代と新世代の対立の中で、マリスは「なにもせずただそこにいた」のだと語っていた。オールスタンディングの観客の中で新記録を達成した(多少は例の試合数の問題もあったらしいが)イチローを見るまでもなく、伝説は神話として博物館行きになり、新たな伝説を消費しようと観客が舌なめずりして待ち望んでいるような世界の中で、アスタリスク付きのヒーローとはいったいどんな存在なのか?そんなことを考えさせられる。

結城秀勇


ワタリウム美術館にて開催中