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November 19, 2004

『キャットウーマン』ピトフ

[ cinema ]

自ら勤める会社の陰謀に巻き込まれ、キャットウーマンとして生まれ変わったペイティエンス・フィリプッスス(ハル・ベリー)は、生まれ変わった翌日、自分の力を知らないままに彼女が恋する刑事(ベンジャミン・ブラット)のところに会いに行き、彼とバスケットボールをする。そこで、彼女は超人的な動きを見せることになるのだが、そのことに彼女はまだ気づいていない。画面ではバスケットボールをする姿が様々なアングルで写し出され、背後に音楽が鳴り続けるその場面で、かすかに「ふふふふふ」という笑い声が聞こえる。その笑い声は、彼女の口から発せられているものに違いないのだが、どこから聞こえてきているのかわからない遠近感のないものとして聞こえる。彼女もまた、自分がそうした笑い声を発していることには無自覚だろう。その「ふふふふふ」という笑い声はスクリーン上に浮遊しているようである。
『バットマン・リターンズ』でミッシェル・ファイファー演じるキャットウーマンは善とも悪とも判断のつかない存在であり、最後、その判断もつけないままバットマンのもとから消えていったのだと記憶している。今回のハル・ベリー演じるキャットウーマンも「私はヒーローでもないし、殺人者でもない」という言葉を残し、立ち去っていく。この曖昧さがキャットウーマンであるといってもよいと思う。映画の前半は、ペィティエンス・フィリップスとキャットウーマン、二つの人格のズレが強調されていく。例えば、ペイシェンス・フィリップスの知らないうちにキャットウーマンが盗みを働き、それをペイシェンス・フィリップスが返しにいくエピソードなどがそうである。そして、物語が進むにつれて、徐々に自分の中に二つの側面を持つ彼女がひとつの人格として統制されていく。しかし、ペイシェンス・フィリップス=キャットウーマンとなったとき、彼女は恋人の刑事から追われる存在となるだろう。ヒーローの宿命としては、二つの人格を別のものとして扱わなければいけないことになるのだろうが、彼女は二つの人格を使い分けることを選ぶのではなく、曖昧な存在として社会から、恋人のもとから消えていくことになる。
 曖昧な存在となったとき、彼女は何ものにも規定されないつかみ所のない存在となっている。人格が一つであるとか、二つであるとかはもはや関係ない。そのとき彼女は、きっと「ふふふふふ」という笑い声のようなものとしてあるだろう。

渡辺進也