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March 11, 2005

『フェスティバル・エクスプレス』ボブ・スミ−トン
藤井陽子

[ cinema , music ]

3月9日水曜日、渋谷シネセゾンのレイトショーは盛況だった。スクリーンの中でジャニス・ジョプリンが、ザ・バンドが、バディ・ガイが、グレイトフル・デッドが曲をやるたびに、映画館のあちこちから拍手がこぼれてきた。感動的な夜だった。
1970年、当時最高のロック・ミュージシャンたちを乗せた列車がカナダのトロントを出発し、西へ西へと旅をしながら各地でフェスティバルを繰りひろげた。『フェスティバル・エクスプレス』、その貴重な記録は、当時のツアー・プロモーターと映画プロデューサーの諍いによって映画化がかなわず、カナダ国内外に散り散りになっていた(報酬のもらえなかったカメラマンやプロモーターらが部分的に持っていってしまった)のだという。その幻のフィルムの46時間分(全長は75時間)が、95年にカナダ国立図書館で奇跡的に無傷の状態で見つかったのだそうだ。興行権問題の処理やインタヴューの撮影などでその後10年の歳月を経て、このフィルムはわれわれの前についに姿を現した。

青空の下で太陽の光を浴びて、あるいは赤と青のまじったえもいわれぬ夕空のしたで、あるいは夜の暗闇のなかにすっぽりと包まれて、まさにその場所その瞬間に生みだされた音楽に身を委ねて、人々は思い思いに踊る。死の3ヵ月前のジャニス・ジョプリンが全身全霊で歌い、叫ぶ。ザ・バンドも最高だ。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアはジャニスに思わずこう言う、「ジャニス、初めて見た時から愛してる、本当だ」。
音楽が「単なる娯楽でも暇つぶしでもない」こと、そして音楽は本当に人の魂を解放するのだということを、ミュージシャンたちが、聴衆が、教えてくれる。そこには魂の自由がある。彼らの夢見たユートピアがある。これを感動的と言わずに何と言おう。彼らは本当に素晴らしい。

マイケル・ウォドレ−の『ウッドストック』でもスコセッシの『ラスト・ワルツ』でも音楽の力には圧倒された。それは曲がいいということに加え、バンドを成す複数の人間がそれぞれの音・声——それは自分の魂の一部だ——を吐き出し、それを絶妙に重ね合い、響かせ合い、反撥させ合い、掛け合いあって、ひとつのエモーションを生み出すという行為にひとえに胸を打たれるからなのだ。複数の人間の魂を少しずつより合わせてひとつの音楽・エモーションを生み出すなんて、人の行為の中で最も崇高なもののひとつと言っていいのではないだろうか。

35年前、最高のロック・ミュージシャンたちを乗せてトロントを出発した音楽列車は海を越えて東京・渋谷にやってきた。こんなに熱くなるとは思いもよらなかった。しかし、彼らと彼らの音楽に出会えばどんな人もきっと、「ロックンロールは永遠だ……」とつぶやいてしまうに違いない。