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March 27, 2005

『サイドウェイ』アレクサンダー・ペイン
衣笠真二郎

[ book , cinema ]

親友同士のふたりの中年男性が1週間だけの小旅行に出発する。彼らが車で向かうのは自宅からそれほど遠くはないカルフォルニアの農園である。広大なブドウ畑の中にあるシャトーをいくつも訪れ、旨いワインを求めてテイスティングをくりかえす。その香りやら厚みやらを中年男性のひとりが言葉に翻訳してウンチクをたれる。作家志望の彼にとっては、ワインめぐりこそがこの旅行の目的なのだ。そしてもうひとりの中年男性は1週間後に結婚式を控えており、その独身時代の最後を存分に楽しむべく、女をナンパしてヤリまくる計画が彼の頭を満たしている。彼の目的は「女めぐり」だ。
ひとりの男に与えられた結婚までの猶予期間を酒と女で遊びまくろうとする旅行には違いないのだけれども、彼らにあっては結婚という重荷がいつでも身にのしかかっていることが次第に明らかになる。作家志望の彼はいまだに離婚したときの心の傷を引きずっていて、前妻が再婚したことを知ってひどく荒れて大酒を飲んでしまう。彼らが女めぐりで出会うことになる女性たちにも結婚・離婚歴があり、その経歴を聞き出すことが「テイスティング」の重要な一部となっている。彼らは結婚そのものを忘れることができないでいて、しかも結婚が(再)執行されることに漠たる不安をかかえているかのような中年たちなのだ。結婚の苦さはなんとはなしに経験で知っている、だからその「味」をできるかぎりの言葉で表現してそれによって執行猶予を遅延させようとする。この映画が長尺に感じられるのもそのためだろう。ワインめぐりと女めぐりのこの旅が、飲み食いとそれに対する言い分によって遠回しにしようとしているのは、偶然なる出逢い、運命的な結婚であるように見える。
だが結局、作家志望の彼は再婚相手になるような女性とめぐりあうことになる。あまりにも遠回りをした末に、である。同じくブドウ畑を舞台にして中年の結婚を描いた映画で『恋の秋』があったことをどうしても思い出してしまう。こちらはふたりの中年女性をヒロインにし、しかもそのひとりはブドウ畑の農主であった。ブドウが大地に根を張り、太陽の光を浴びて生長するように、着実な恋を中年女性に実らせたこの映画は、偶然なる出会いを描くことにためらいをみせなかった。
カリフォルニア・ワインも品種的にはヨーロッパのワインと同じブドウ種からつくられているように、『サイドウェイ』と『恋の秋』の間にはとてつもない距離があるように見えながら、だが、どこかに遠い類縁関係があるような気もしてくる。結婚という要素がどれだけフィクションの時間を熟成させることができるのか、この2本の映画がそのそれぞれの土壌をそれなりに明らかにしているのではないだろうか。

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