『星屑たち──それからのアトランタ組物語』川端康生梅本洋一
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今から9年前のCMなんて覚えている人はいないだろうな。それもカップラーメンのCMだ。若くて田舎っぽい男がふたり、「ゾノ」とか「ヒデ」とか呼んでいたやつを覚えているかい? ちょうどアトランタ五輪が終わって、あの世代のフットボーラーが大注目を集めた時代だ。もちろん、前園真聖と中田英寿がそのふたりだ。その後のふたりがどうなったかは、みんなも知っているとおりだ。でも白井博幸、松原良香、廣長雄志、路木龍次、秋葉忠宏……彼らはどうしているのだろう。「マイアミの奇跡」を起こし、「28年目のハーフタイム」を過ごした張本人たちの「その後」。川端康生の『星屑たち──それからのアトランタ組物語』の主役は彼らだ。もちろん横浜FCで淡々とプレーする城彰二や、「奇跡」の張本人、伊東輝悦も主要な登場人物だ。輝くような「星たち」のその後、それは、「ゾノ」と「ヒデ」の間に存在する深くて底なしの川のようだ。この書物は、「アトランタ組」がアジア予選を突破したクアラルンプールのシャラムスタジアムからドイツW杯の予選が始まる直前までの9年間の「星たち」のその後を、ユース世代の指導者──山本昌邦、加藤久、田中孝司、そして西野朗──の証言を交えて、本人たちの取材をもとに構成したものだ。
途中でフットボールを諦め、料理人への道を歩もうとしてフットボールにまた復帰した白井博幸は今、ベルマーレのキャプテン、松原良香は、南米やヨーロッパを放浪した後、加藤久が立ち上げた沖縄の「かりゆしFC」にいる。秋葉も多くのクラブを転々とした後、アルビレックス新潟に入り、廣長は今、セレッソ大阪、路木は今、プレーしていない。そして前園真聖の「その後」は中田英寿のそれの正反対だ。それに対して、伊東輝悦は今もエスパルスで燻し銀のプレーを見せているし、右サイドの遠藤彰弘は今でもマリノスにいる(弟の保仁は現代表だ)。不動の3バックだった田中誠、鈴木秀人、松田直樹は移籍することなく今でもレギュラーを張り、田中と松田は代表だ。こう書くと、この書物がアトランタ組が時代の波に流されて、その後のシドニー組に追い越され、一瞬しか輝かない「星屑」のようだと示しているにも関わらず、今でもかなり頑張っていることが分かる。アトランタ組の打率は低くない。初めてアジアを勝ち抜き、「世界」へと羽ばたいた世代の執念が「なかなか負けない代表」を作っているのかもしれない。アトランタ組から明日のピッチに立つのは、田中誠、そして中田英寿、そしてベンチには松田直樹もいる。田中誠はトゥルシエには代表に招集されなかった。3バックの右を渋く、そしてしぶとくこなす田中誠が本書で語る「ぼくも大人になりました」という言葉が重い。外されても腐らずにフットボーラーとしての自らを磨くこと。「フットボーラー」という部分に、他の職種を当てはめれば、誰にでも通用する言葉だ。日本のフットボールが真に世界にデビューすることになったのは、ドーハの悲劇でも、98年のトゥールーズでもない。96年の3月24日の蒸し暑いマレーシアの夜に収めた堂々たる勝利の瞬間だった。明日のバーレーン戦を前園真聖もどこかでテレビ観戦し、俺だったらこうパスを出すと舌打ちしながら見ることになるだろう。だが、私の目には、今の代表も田中誠の言うように、当時よりも数段「大人」になっているように見える。