『アビエイター』マーティン・スコセッシ渡辺進也
[ cinema , sports ]
“the way to the future”
映画も後半、自らの夢をある程度成し遂げたハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)はこの言葉を何度も何度も繰り返す。それは、まるで故障した機械のようだ。この言葉を呟いているとき、ヒューズはこれまで歩んできた道のりを遠くのほうで意識しつつも、同時にその道のりが自分から本当に遠くにあるように感じながら呟いているように見える。ヒューズは自分の成し遂げてきたことと現在の自分とのその遠さに困惑する。そして、その言葉が持つ最も大きな意味は文字通り、この先も歩みを止めてしまってはいけない、先を目指さなくてはいけない、ということだろう。そうしたオブセッションの表われとしてこの言葉があるように思われる。
飛行機乗りのハワード・ヒューズは大空を速いスピードで駆けていく飛行機のように自らの目標に向かっていく。そこには妥協などないし、目的の為には手段を選ばない。判断を瞬時に下していき、迷いをほとんどみせない。きれいな女性をみつければその場で口説こうとするし、必要なものがあれば部下に命じて即座に準備をさせる。また、ジョージ・キューカーが撮影中の現場に飛行機でやってきて、キャサリン・ヘップバーン(ケイト・ブランシェット)をゴルフに誘いに来る気障なシーンもまたそのようなものとしてみることができるだろう。シンプルにただ自分の欲望に向かい、そして実際に成し遂げる。それが、ハワード・ヒューズだ。その行動力、スピード感には感心させられるし、ハワード・ヒューズが成功する姿、華やかな世界にいる姿は見ていて嫌な気はしない。しかし、後半ヒューズが何もかも上手く行かなくなり、転落して行くと寂しさを誘う。それは個人的な感情なのかもしれないが、その後彼の口から“the way to the future”という言葉が出るようになると僕は違和を強く感じてしまう。なぜなら、ヒューズは未来なんて考えている男ではなく、ただ現在の瞬間で最善を尽くすような男だと思えるからだ。
ただの言葉だったものが繰り返すうちに意味を持ったものとして現れてくる。それまで意識する必要がなかったことを突然意識しなくてはいけなくなる。そうした過程が何度も繰り返される呟きの中で行われている。過去を思い出し、未来を考えるハワード・ヒューズはやはりちょっと寂しい。映画では扱われていないが、晩年ヒューズは人前から姿を消す。そうなってからのヒューズについてのことはほとんど謎に包まれているのではないかと思われるが、“the way to the future”という言葉がその晩年を強く意識させることとなるだろう。