『フォーガットン』ジョゼフ・ルーベン結城秀勇
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息子を事故で失った母親。しかし、周りの人間はその記憶を忘れていき、彼女の記憶が単なる思いこみにすぎないのだと説得する。はじめから子供などいなかった。君は流産のショックで妄想を抱いている。彼女はそんな言葉に耳を貸すことなく、自分がなんらかの陰謀に巻き込まれているのだと確信するに至る。
そこでジュリアン・ムーアの記憶が本当の記憶なのかということは、一切問われない。冒頭の一見ゆらゆらとして不安定そうながら、ある一点目指して飛行、降下する空撮にも似た、確固たる視点が存在する。それが何かは多分どうでもいい。神だろうが悪魔だろうが宇宙人だろうが。ジュリアン・ムーアのなんの論理性もない感覚を、証明するだけの超越性。
だからそこで何を見ようと、彼女の存在は決して揺らぐことはない。彼女に同一化できなければこの物語はまるで理解できないし、彼女に同一化すればこの映画に映されたいかなるものからも、見る者が危害を受けることは決してない。「自分の子供は存在しなかったのかもしれない」という可能性を認めるどうしようもない恐怖は姿を消して、目の前の人物が空の彼方に消えていく驚きだけが残る。
その一過性の驚き以外の感覚が、この映画では忘れ去られている。