『ションベン・ライダー』相米慎二藤井陽子
[ cinema ]
「この夏、落魄れてしまった諸君!」デブナガの掛け声が響く。プールで悪ガキに囲まれたジョジョ(永瀬正敏)と辞書(坂上忍)のもとへ、ブルース(河合美智子)がヤーッと飛び込む。水しぶきが飛び散る。
登場人物はプールへ、海へ、川へ、銭湯へ、身を投げ出していく。
高さ20メートルはありそうに見える吊り橋からブルースは何気なく川へ飛び込む。ほとんど意味など分からない。「あ!」と、彼女の後につづきアラレ(原日出子)も飛び込む。そして何事もなかったかのように言う。「大丈夫ぅ?」
初潮をむかえたブルースは、手についた血を砂浜の砂でゴシゴシこすり落とし、海へ歩いていく。血のついた不恰好な吊りズボンの後姿が海に含まれていく。彼女は全身を海につけて大きなうねりに身を任せている。そして言う。「おはよー!」
黒沢清の『よろこびの渦巻』を連想させる貯木場のシーン、滑らかに横移動していくカメラのその画面の中や外から聞こえる銃声、「やめなさい!」「やめて!」という声、そして人の飛び込む音、激しい水しぶきの音……。
登場人物は水の中に落とされるのではなく、自ら水の中に飛び込むことを求めている。何か必然的に、特別な合図のように、彼らは飛び込み続けている。不安定な形のないものに取り囲まれてゆらゆらしている感覚は、『台風クラブ』でもフィルムを覆いつくしていたように思うが、それとはまた別の感覚、どちらかというと水しぶきが立つこと、バシャンと大きな水しぶきの立つ音がすることが、このフィルムの肝になっているような気がする。その水しぶきは、厳兵(藤竜也)が「私は名無しのごんべえ」と言い残して大雨の中で死んでいくその雨音と水しぶきにも、突如部屋の内外で炸裂する花火にも連なっていく。
ブルースとジョジョと辞書と厳兵とアラレと……彼らが纏っている海のうねりのような空気を、彼らは自らの体を投げ出すことで大きな水しぶきを立て、何かを炸裂させ、破ろうとしている。
5時、映画が終わってアテネ・フランセを後にすると、雨が降り始めて、すぐにバケツの水をひっくり返したようなドシャ降りになった。示し合わせたような雨だ。何かを炸裂させるべく、傘をかなぐり捨て、そのまま走り出すべきだったかもしれない。