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October 24, 2005

アーセナル対マンチェスター・シティ 1-0
梅本洋一

[ sports , sports ]

 チャンピオンズリーグの対スパルタ・プラハ戦でティエリー・アンリが復帰し、その復帰戦で2得点。そして、プレミア。マンC4位、アーセナル7位。いつものシーズンとは立場が違う。挑戦するのはアーセナルだ。この日は怪我人を除いてベストメンバー。中盤には右からセスク、フラミニ、ジウベルト、ピレス、そしてアンリとベルカンプ。
 だが、ゲーム開始から例年のリヴェンジに燃えるマンCが徹底してアーセナルの中盤にプレッシャーをかけ続ける。ほとんど肉弾戦、あるいはラグビーのフォワード戦のような様相を呈した。もちろんアーセナルの「華麗な」(?)中盤を消せば、このチームの力は数段低下するという例年のスカウティングをマンCも実行している。ピレスとダニー・ミルズは一触即発。互いにボールへの絡みがいつもより数段激しい。だが、この激しさが、アーセナルの闘争心に久しぶりに火を点けることになる。
 スペースがあれば、球離れがよく正確にパスが繋がってベルカンプ=アンリにまで渡るのだが、まったくスペースを消されたこのゲームで中盤の4人は正確なグラウンダーのパスを繋ぐことができない。深いタックルに常に晒されていると、ルック・アップする暇を与えられず、ほとんど反作用としてパスを出す。そしてワンタッチ、トゥータッチでボールが繋がらなければ、いきなりピンチになる。だからスペースもへったくれもなく、常に近い味方へ、そして前にパスが送られ、その結果──意図とは無関係に──ベルカンプ=アンリにボールが渡り、ヴァイタルエリアでの勝負が増える。すると個人技対個人技という局面が増え、それにベルカンプが、アンリが勝利を収める。マンCの中盤のプレスが、アーセナルの中盤を潰すのとは逆に、そのプレスによって、読めないパスが出ることになり、そこにベルカンプが走り込み、チャンスが広がる。プレッシャーに晒されたアーセナルの選手たちから「美しさ」への欲望が消え、「勝利」への欲望が芽生えた。適切な距離を保ちながらクリーンなボクシングで勝利を収め続けたボクサーが、そのクリーンさへの郷愁ゆえに簡単に勝利を収めることができなくなった。だが、久しぶりに懐に飛び込まれラッシュしてくる相手と打ち合っていると、打ち合うことの快感を思い出し始める。このゲームはそういうゲームだった。
 だからクリーン・ヒットも一発のノックアウトパンチもなく、ひたすら短距離での撃ち合いが続く。だが、アンリとベルカンプは、そんな中で他の選手たちは異なるパンチを出すことができる。結果、彼らのプレイでふたつのPKを得ることができた。そのうち1本はピレスの不可解な失敗で点にはならなかったが、それでも1-0で勝てた。ロングボールばかりのロングショットのフットボールでも、(いつものアーセナルのように)中距離のパスがディアゴナルに繋がる魅惑的なフットボールでもなく、局地的な1対1が連続するクロースアップのフットボール。やられたらやりかえすフットボール。マンCは大いにアーセナルを苦しめたが、アーセナルはその苦しみによって、勝利への欲望に目覚めた。