『サーク・オン・サーク』ダグラス・サーク+ジョン・ハリデイ須藤健太郎
[ book , cinema ]
激しく嫉妬するということがたびたびあれば、人生は過酷でつらいものとなるだろうから、そうたびたび起こるものではない。しかし、シネマテーク・フランセーズでのダグラス・サーク回顧特集には激しい嫉妬を覚えたものだった。うらやましかった。たまたまファスビンダーの『自由の代償』などをDVDで見たりしていて、ダグラス・サークが見たいと思っていたからだ。ファスビンダーも前に見たときよりもその世界にすっかり没入できたので、きっとサークの映画も前よりも面白く見れるに違いないと思ったからだ。フィルメックスで『アコード・ファイナル』を見て、すごく感動したからだ。
そんなわけで、映画美学校で行われた「ダグラス・サーク講義」にも迷わず応募した。サークの映画が参考上映されるということだったが、全4回でユニヴァーサル時代の4本を見ることができた。『翼に賭ける命』『愛する時と死する時』『悲しみは空の彼方に』『風と共に散る』の4本だ。どれもすごい映画だった。夢中になって見てしまった。
そして、ダグラス・サークのインタヴュー本がついに邦訳されて刊行となった。本書の詳細に立ち入る前に、少し個人的に驚いたことがあったので書きたい。「序」において、ジョン・ハリデイは本書の完成にあたって力を貸してくれたたくさんの人たちへのお礼を述べている。「40年ほど前、オックスフォード大学でわたしをサークの世界に導いてくれた熱烈なシネフィル(にしてのちの俳優)のパトリック・ボショーにまず感謝したい」。パトリック・ボーショーの名前にこんなところで出会うとはまったく思っていなかった。衝撃だった。なぜなら、ちょっと前に、彼が『パリところどころ』の製作補佐だったことを知って衝撃を受けていたからだ。またか、と思ったわけだ。
周知のように、パトリック・ボーショーは『ザ・セル』や『パニック・ルーム』に出演する現在ハリウッドで活躍する俳優であり、ヴェンダースの『ことの次第』で映画監督を演じていた俳優である。だが、私は彼が『パリところどころ』の製作に関わるような環境に身を置いていたことをつい最近まで知らなかった。彼は、ロメールの『コレクションする女』に出演し、「カイエ・デュ・シネマ」にも寄稿していたヌーヴェルヴァーグの渦中にいた人物であった。その後、彼はいったん映画界から離れ、大工をしていた。そんな彼をヴェンダースが再び映画の世界へと引き入れたのであった。思わぬところで思わぬ人に出会うとやはりびっくりする。私と同じように驚いた人もいるに違いない。サークとはまったく関係ないことを書いてしまったが、紙面が尽きた。本書の内容に関してはまた後日書くかもしれない。