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March 9, 2006

チャンピオンズ・リーグ バルセロナ対チェルシー 1-1 (3-2)
梅本洋一

[ sports ]

 モウリーニョの顔が後半30分過ぎから穏やかなものに変化していった。「負け」を確信したからだろう。それまで審判の判定に両手を上げ、懸命に強気を装っていたのだが、どう見てもそれから15分で2点取る力はチェルシーにない。
 ゲームはいつもように右サイドのメッシの崩しから始まり、縦横に動き回るメッシに翻弄されるようにチェルシーが後手に回る。だがメッシが足を悪くしてラーションに代わる。しばらくはイーヴンの展開だが、ラーションが燻し銀のプレーでボールを拾いまくり、バルサのポゼッションが急勾配で上がっていく。もちろんチェルシーは、ポゼッションされるのは仕方がないと考えているだろうから、コール、ロッベンの両サイドに今日はダフまで入れてサイド攻撃を重視しているのが分かる。だがマケレレ、ランパードにボールが収まると、モッタ、エジミウソンが囲い込み、ボールがサイドに散らされることがない。たまたまロッベンがボールを持っても、オレゲル、マルケスに潰される。解説のセルジオは「ディフェンスラインが2列あるようだ」とバルサを評していたが、その通りだ。
 いったんポゼッションできてしまうと、デコ、ロナウジーニョを中心にボールが回されていく。エトオ、ラーションばかりがアタッカーではない。マケレレが振り回され、ランパードが消えてしまう。チェルシーはノーチャンス! バルサはポゼッションを続ければ、スタンフォード・ブリッジで得たアウェイゴールの2点が大きなサラ金の利子のようにチェルシーにのし掛かるだろう。ゴールが決まれば、それはそれでいいが、別に引き分けでも十分。
 この2チームの今年の差異は何か。バルサの中盤から前の選手たちが全員足下の微妙な位置にトラップしてボールが止まるのに対して、チェルシーの前線と両サイドの選手のトラップがやや大きいことだろう。チェルシーの両サイド──コールとロッベン──のワンタッチ目にバルサのディフェンダーが体を寄せると、サイドに抜けるべきスペースが見つからない。チェルシーのアタックは停滞する。
 それに対してバルサの前線は、ロナウジーニョに代表されるようにドゥリブルしたボールを失うことはほとんどない。狭いサイドを抜け、ボールが上がってくる。あるいはドゥリブル突破を図る。このゲームの唯一のゴールシーンを思い浮かべれば十分だ。中央でボールを持ったロナウジーニョがドゥリブルで突破するとき、ジョン・テリーを吹っ飛ばしてシュート。正確に書くと「吹っ飛ばした」のではなく、ロナウジーニョのフェイントにテリーがバランスを崩して転んだ。つまり、スピードが速かったのでロナウジーニョがテリーを「吹っ飛ばした」ように見えただけだ。技術、作戦──すべての面でバルサの勝ち。
 ロスタイムのPKは単なるおまけ。カンプナウのバルサはすごい。