「表参道ヒルズ」安藤忠雄梅本洋一
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原宿駅前にもキディランド前にもまだ歩道橋がなかったころ、ぼくは原宿に住んでいた。東京オリンピック直後のことで、コープオリンピアに並ぶ国土計画(?)のビルの向こうには富士山が見えていた。振り返るとなだらかに明治通りに下っていく表参道がふたたび青山通りに向かって上っていく姿が眺められた。表参道の両サイドにはまだ民家もあって、鈴木くんや青柳くんなど同級生の家もあった。雪の朝は原宿駅前から車の通らない表参道を直滑降したこともあった。同潤会アパートもまだブティックではなくて、本当にアパートだった。
時代は変わる。キディランドができ、鈴木くんのお蕎麦屋さんがピアッツァビルになり、一番大きなビルだったセントラルアパートもなくなった。
建築ラッシュになったのはそれからだ。Luis Vuiton、Dior、Prada、Todz……殿が表参道ヒルズだ。建築万博のアンカーが安藤忠雄というわけだ。ミーハーなぼくは早速行ってみた。Dolce & Gabbana、Yves Saint-Laurent……いっぱい店が入っている。安藤忠雄のアイディアは低層にすることに地下を掘って、多様なストリートを表参道と並行に走らせることだった。緩やかな上り坂の立地は、そのまま内部にも引用されているが、外部と内部はきっぱり分離されている。さすが森ビルのプロデュースだけあって、それまでの街の生業はまったく無視され、自らの存在感が街──ストリート──に向かって誇示されている。長いショッピングセンターが街の形状を無視して突然出現したようだ。安藤忠雄の建築はそれなりに立派だけれども、街を何も呼吸していない空間は息苦しい。東京にして幅の広い歩道を持つ表参道のミニチュアが閉鎖された空間の中に詰まっている。
ぼくの表参道はもう消えてしまったのだろう。緩やかさが空に向かい、抜けのある風景がぼくらを包むように存在した表参道のイメージは表参道ヒルズにはまったくなく、どこの地方都市にでもあるショッピングセンターと同種のものを絶好の風景の中に作ってしまった。
チェ・ゲバラのTシャツを着た高校生が紙くずと化した段ボール箱を蹴飛ばしながら、この場所を歩いていたフィルムがあったが、ぼくもその高校生の気持ちを共有している。