シックスネイションズ06 ウェールズ対フランス 16-21梅本洋一
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W杯開催を来年に控えたフランスが、ホームのミレニアム・スタジアムで久しぶりに頑張るウェールズを振り切って今年のシックスネイションズに優勝した。
もっともゲームは面白いものではなく、今期不調のウェールズをフランスが舐めてかかったのか、イングランド戦で見せたディフェンスが見られない。少しずつゲインラインを許し、何とかトライラインを越えさせないが、ここでもファンタスティックなアタックは見せないまま。かろうじて1トライ差で逃げ切ったが、好ゲームとは言えない。同日開催されたイングランド対アイルランドで見せたアイルランドの誠実なプレイの1割でもフランスにあれば、もっと楽に勝てたゲームだったと思う。
だが、今年のシックスネイションズを見ると、ラックからフェーズを繰り返すというブランビーズ流のラグビーが完全に影を潜めたことが分かる。どのチームも重視するのはキックだ。このゲームでもフランスは、ミシャラクからフリッツへの渾身のキックパスが成功しウェールズを振り切った。もはやラック、ボールのリサイクルというリズムで少しずつ前進していくラグビーのスタイルは完全に過去のものになった。もちろんディフェンスが詰まったときに意識的にラックが作られることはあるが、アタック側が簡単にボールのリサイクルはできない。上と下から必ずふたりがタックルに入り、ブレイクダウンの瞬間、ディフェンスサイドは絶対にターンオーヴァーを狙ってくるからだ。従ってスムーズにボールが出ることはなく、ボールが出たときにはもう相手のディフェンスラインが完全にできている。つまり、そこからはなるべくボールを遠くに展開するワイドラインか、あるいはキックが選択される。そしてワイドラインが確実性を増すためには何よりもコンビネーションの練習が求められるから、いくらワイドに振っても、どこかでパスミスの可能性が生まれる。そこでボールがこぼれるか、ノックオンになるか、スローフォワードになってしまう可能性が大きい。だからキックが多用されることになる。キッカーの選択肢には5つあるだろう。タッチキック、タッチラインぎりぎりに落とすキック、ハイパント、チップキック、そしてキックパス。最初のふたつはどのチームも使うようになり早稲田でも曽我部のキックはタッチラインぎりぎりに落ちる。チップキックは、技量のあるバックスの選手なら誰でも使えるが、ときに相手の胸にすっぽり収まってカウンターを喰らう危険がある。今年のフランスを見る限り、もとから「ここぞ」という瞬間に使っていたキックパスの他に、ハイパントの有効性が再びクロースアップされているようだ。
何十年も前からラグビーを見ていると、往年の慶應大学なら、FWからSHにボールが供給されると必ずハイパントという光景を何度も見たが、フランスが使うハイパントは、そういうアルカイックなものではない。現代ラグビーのディフェンスは一列に並ぶことになっているが、その背後に短めのハイパントを落とすと、ディフェンスは背走するので、まっすぐに走るアタック側はボールをとる確率が上がる。つまり、パンとは必ずしもボールを放して相手に渡すものではなくなってきている。アタックの継続の方法のひとつとしてのハイパント。「接点」を避け、より素早いアタックを継続するためのハイパント。今年のシックスネイションズを見ていると、そうしたハイパントの新たな有効性を見つけることができた。