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March 29, 2006

チャンピオンズリーグ アーセナル対ユヴェントス2-0
梅本洋一

[ sports ]

 奇妙な1戦だった。前半を見る限り、ユヴェントスの巧妙かつ手堅いフットボールがアーセナルのパスフットボールを完全に消していたが、前半残り5分でセスクのシュートがテュラムの股間を抜けてユーヴェ・ゴールに吸い込まれていった辺りから次第に形勢が変化を始めた。
 アーセナルのアタッキング・フットボールの長所は、中盤のパス交換から両サイドに展開され、サイドを崩しきった形でシュートというものだが、ゲーム開始早々からユーヴェはアーセナルのボールが両サイドに散らされた瞬間、ピンポイントで蓋をしにかかる。レジェスもフレブも突破どころか空しくバックパス。ファビオ・カペッロの老練な戦術とセリエAのディフェンスの強さ──特にテュラム、カンナヴァッロの両センター──ばかりが目立ち、セスク、ジウベルトの中盤も元アーセナル・キャプテンのヴィーラ、そしてセレッソンのエメルソンに見下されている有様。ボールは遅延し、停滞する。カモラネージ、ザンブロッタの労を惜しまぬフリーランニングによって、アーセナルが自陣からプレッシャーをかけられ続けた。だが、もちろんアレックスとネドヴェドを欠いたユーヴェも決定期を作れない。ズラタンが巧みにターゲットになっても、トレゼゲの位置が悪すぎるし、カモラネージもシュートの意識が低い。カペッロはアウェイならドローでもいいのだろうし、あわよくば1点取れれば御の字というゲーム運び。
 だがセスクの1点が、スモールフィールドでプレッシャーをかけ続けるというユーヴェの戦術に穴を開けた。アウェイ・ゴールが必要になったからだ。来週のデッレ・アルピでゲームを有利に運ぶためにはどうしてもハイバリーで1点欲しい。0-1で良いという自信がカペッロになかったのではないか。
 後半になると、カモラネージ、ザンブロッタの攻め上がりが目立つようになる。すると当然のことに、両サイドのスペースが空く。ピレス、レジェス、フラミニ、フレブ、エブエがどんどん前方に飛び出し始める。いくら強靱といえども、テュラムもカンナヴァッロも1対1の局面が増えればファールで逃げるしかなくなる。ヴィーラ、エメルソンとセンターバックの距離が空き始める。フレブ、ピレスがボールを持てるようになる。中央にセスクが構える。セスク、アンリのコンビネーションで2点目。勝負はアーセナルのものになった。ここからのユーヴェは醜悪だった。アウェイ・ゴール欲しさにアーセナルの中盤にアタックし、カモラネージもゼビナもイエロー2枚で退場。ヴィーラもイエローをもらいデッレ・アルピにはいない。前半のカペッロの戦術が嘘のようにバラバラになった選手たち。奇妙さの原因はここにある。それに対してエブエもフラミニもすっかり自信を持ったはずだ。エブエはムトゥーを完封し、フラミニの運動量も最後まで落ちなかった。そして何より、去年までヴィーラの脇で修行したセスクは、その面構えまで負けん気が滲み出ている。もし2nd Legも勝利に終われば、今年のアーセナルは期待できるかもしれない。