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April 30, 2006

「日本サッカー戦記2002〜2006ドイツへの道」後藤健生
渡辺進也

[ book , sports ]

現在書店に行けばサッカー関連の方が数多く並んでいる。新たにサッカー雑誌が創刊され、ワールドカップを前にして日本代表の展望、またはその軌跡を振り返る本も数多く刊行されている。そんななかで、ここ数年の日本代表を振り返ろうと思う人にうってつけの本がこの本である。本書はサッカーの観戦試合数が3000試合を超えるという日本で最も著名なサッカーライターによって書かれた、「2002~2006ドイツへの道」という題名のとおりジーコが就任して以降の日本代表について書かれた本である。この本は、全体の3分の2ほどが2004年から2005年までの週刊漫画誌で連載されていた2ページほどの短い文章で、残りの3分の1にその連載部分をはさみこむように置かれた新たな書き下ろしの文章(トルシエからジーコへの流れ、ワールドカップの展望も含めたその後の日本代表について)から構成されている。
この本の中でも特に興味深い部分は、今回新たに書かれた部分ではなく、むしろ2年余りの日本代表が随時アクチュアルに書かれている部分であろう。漫画誌での連載ということもあってか、ここではひとつひとつの試合の詳細な分析が書かれているわけではない。試合内容そのものというよりは、その多くはジーコのやり方について皮肉めいて書かれている。WC予選のアウェー・インド戦の暑さ対策にサウナに入ればいいと言って案の定ひどい試合をやったことであるとか、突然思いついたかのように選手を総入れ替えしてみたりなど、今思うとそんなこともあったなと懐かしいことばかり。当時は(というよりも今もなおというのが実際だろうが)著者に限らず誰もがジーコのやり方に半信半疑で、そうするとたまに突然結果を出すということで驚くという、だれしもこの代表にどう評価をあたえればいいのか困惑するばかりなのであったことがこの本を見ると思い出される。
こうした皮肉めいた言説にもかかわらずついついページをめくってしまうのは、この連載部分が随時その時に書かれた文章であるからであろう。サッカーの流れはとても速い。ずっと同じクラブチームを見続けているとわかるのだが、ほぼ同じメンバーで戦っていても2,3ヶ月もすればそのチームは以前のチームとは全然別のチームと変わってしまう場合がある。どこが変わったかといえば出足が早くなったとかフォーメーションが微妙に変わったといった本当に些細な事でしかなく、俯瞰してみればそこには大きな違いがないように見える。だからこそ、それが正しいものであろうともあのときはああだったと振り返ったものより、間違っていてもその時に書かれたものの方が概して面白い。サッカーの言説には正確さよりもむしろスピードこそが要求されるのだ。
この本を読んでもドイツで日本代表が活躍するかどうかなんてわからない。何せ予選リーグを突破する確率というのも35%(本命のブラジルを抜いて、他の3チームで100%を割った数字)というまっとうすぎる数字が書いてある。この3年余りでジーコがどういうチームを作ろうとして、どのようにチームが成熟してきたかについてもわからない。この本はひとりのサッカーライターがひとつのチームに不審を抱いたり、また驚かされたりするドキュメントとしての本なのである。