『女たち 女たち』ポール・ヴェキアリ梅本洋一
[ cinema ]
モンパルナス墓地に面したアパルトマンに中年に達したふたりの女性が住んでいる。壁には30年代の映画スターたちのポートレートや当時の映画雑誌「Cinemanie」「Cinevie」の表紙が無数にところ狭しと飾られ、年上の女性はまるで少女のような衣装を身にまとい、年少の方はどうも女優らしい。ふたりの関係は分からないし、冒頭の長いワンシーン・ワンショットでの対話の内容も、実に内容がなく、彼女たちの正体が知りたい私たちには、ほぼ何の情報も与えられない。その上、カメラがふたりのどちらかか、あるいは訪問者の誰かにクロースアップになると、その登場人物が歌を唄いだす。ミュージカル・コメディなのだ。
60年代から自作を撮り始めたポール・ヴェキアリの代表作がこのフィルムと言われているが、残念ながら彼のフィルムはこのフィルムが3本目だ。ふたりの女性は年長の方が、ヴェキアリ映画のフェティッシュともいえるエレーヌ・シュルジェール、年少の方をソニア・サヴィアンジュ──なんとヴェキアリの妹だそうだ!──が演じている。他に出演しているのは、エレーヌ・シュルジェールが家政婦に通う芸能プロの社長を批評家ノエル・シムソロが、ふたりの家を訪れる医者の役を往年のカイエの批評家ミシェル・ドラーエが演じている。仲間内の映画なのだ。売れない女優の年少の女性と近所の小仕事をこなしながら少女の衣裳を醜く着飾った年長の女性──当時エレーヌ・シュルジェールは46歳だ──。注意深くふたりの対話を聞いていると、ふたりの関係性は少しずつ理解されてくるようだ。かつてふたりは同じ男と結婚していて、今その男が別の女と結婚していること。そして最後に現在のその男の妻が現れる。ふたりはしょっちゅう酒──年長はシャンパーニュ、年少はワイン──を呑んでいて、ほとんどアル中であること。なぜだか分からないがイグアナを飼っていること……どうでもいいような細部が並列されている。年長の方は、今でも恋人が欲しいらしく、恋人募集欄に投稿していて、候補者のひとりが突然アパルトマンを訪問し、「ぼくはお母さんみたいな女性が好きなんだ」と告げられる。ヴェキアリは、どこかのインタヴューで「わたしは異郷的な互いに無関係なふたつの要素を一緒に並列する映画を撮っている」と発言していたのを思い出した。
そして、私たちは、このフィルムを見ていると、ヴェキアリの濃厚なシネフィルぶりが手に取るように分かる。このふたりから思い出すのは、『何がジェーンに起こったか』、『老嬢と毒薬』、『サンセット大通り』、『ケリー女王』……。そして壁のポートレートからは特権的にダニエル・ダリュー……。ふたりは現在を過去で生き直そうとしている。でも、そんなことは不可能に決まっている。エレーヌ・シュルジェールは、ディアゴナルのフィルムでいつもそんな役ばかりを演じているような気がする。