ラグビー パシフィック・ファイヴネイションズ ジャパン対トンガ 16-57梅本洋一
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対マルタ戦に辛勝したフットボールの中田が怒っているようだが、大黒のシュートが決まっていれば3-0のゲームだった。マルタの体を張ったディフェンスとカウンター狙いにうまく引っかかった。でも勝てた。そんなゲームもある。重要な瞬間はまだ先だ。
それに対して同日開幕したラグビーの公式戦パシフィック・ファイヴネイションズ(トンガ、フィジー、サモア、オールブラックス・ジュニア、ジャパン)のジャパンは重傷だ。傷口を繕うだけで問題は解決しない。冒頭の点差を見てほしい。それにトライ数の差は1-8。みんな心配していたエリサルドのやり方がまったく通用しないことが明瞭になった。フランスでは監督のことをセレクショヌールという。つまり、セレクションを担当する。選手の配パイを担当するのが監督だ。この日のゲームを見れば、誰でもこのチームが代表チームではないことが瞬時に分かる。大柄な選手だけを選び、タックルしないフォワード、ラインブレイクできないバックス。判断ミスを繰り返すスタンドオフ、ボールさばきが決定的に遅いスクラムハーフ。どのパーツを見ても、もっと良い選手がいるし、もっと良い選手の名前を挙げることなどラグビー・ファンには誰でも可能だ。若手に経験を積ませるという言い訳がときには用意されているが、このチームに、若手はいない。どの選手もトップリーグに所属する中堅クラス。セレクションは完全に間違っている。
エリサルドは、ヘッドコーチ就任に当たって、キャッチフレーズを用意し、それはアダプタビリテ(適応性)だったことを覚えている人もいるだろう。だが、このチームの選手たちは力ずくで迫るトンガの選手たちに誰も適応できなかった。スタンドからは、ときどき決まる低いタックルに拍手が湧いていた。タックルは常に決めるものであり、とりおり決めるものではない。エリサルドの描いたゲームプランは、素早いボール出しから大外勝負だったと思うが、パスの速度が遅く、ボールが大外に回るころには、トンガの選手たちが大外にたくさんいた。このヘッドコーチは、自らのチームの能力と相手チームの能力を読めない。ヘッドコーチその人にアダプタビリテがない。
勝敗の趨勢が決まった後半20分には、ラグビー好きの多い北九州の観客は、我勝ちにスタンドを後にしていった。このチームを見放したからだ。実況を担当するふたりの解説者──村上晃一と藤島大──も言葉を失っていた。ナショナルチーム同士のゲームで30点差つくことは許されず、そういうゲームをミスマッチという。ではトンガは強いのか? 強いが、モール、ラックサイドをしっかりタックルし、接点に素早く飛び込めばそのアタックの威力は半減するだろう。そんなことはこのゲームを見た者なら誰にでも分かる。つまり、このチームは重傷を通り越して、瀕死だ。大手術をするしかない。何を摘出するかは誰にでも分かる。ヘッドコーチだ。ラグビー協会は、代表を辞退した矢富にクレームをつける前にエリサルドの解任を発表すべきだ。それも来週のイタリア戦以前に。97年の秋のカザフスタンで加茂を解任して岡田で臨んだサッカー協会を見習うといい。