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July 25, 2006

『2番目のキス』ファレリー兄弟
須藤健太郎

[ architecture , cinema ]

 ロブ・ライナーの新作がつい1ヶ月ほど前に封切られていたことを何人ぐらいの人が覚えているだろう。かく言う私も気付いたときはすでに公開は終わっており、あっさりそれを見逃したのだから、偉そうなことは言えない。主演のケイト・ハドソンがめちゃめちゃ可愛かったとはいえ、前作『あなたにも書ける恋愛小説』にはやはりいまいち乗れなかったので、秘かに新作を期待していたのだったが……。いまはどこかの二番館に回ってくるのを待つほかはない。
 そう言えば、と言うほどのことでもないかもしないが、ファレリー兄弟の新作がこっそりと公開されていた。W杯で盛り上がる世相をよそに、原作にあったサッカーの熱狂的なファンを大リーグのファンに置き換えたことの重要性は、「SPA!」誌上で中原昌也が指摘していたが、アメリカという国でリアリティを獲得するにはやはり大リーグのほうが都合がいいということだろう。なんのことはない、ただのラブコメである。しかし、ただのラブコメであるからこそ、心躍らせるそんな映画に仕上がっている。ドリュー・バリモアが擦れたキャリアウーマンを演じている。
 ニック・ホーンビー原作と聞いて、ヒュー・グラントの顔が思い浮かぶ向きには、あまり好意的に迎えられないのかもしれない。しかし、ロブ・ライナーとノーラ・エフロンによって意識的に使用されてきた、同性の友人との他愛もない会話の場面を随所に配し、中心となるふたりの恋愛を展開させていく物語の構成は、ラブコメの王道を突き進んでいる。冒頭から各所に配される伏線が、クライマックスとなるふたりの仲直りの場面に収斂していくのである。
 いつものような障害者ネタをファレリー兄弟に期待する向きにもあまり好意的に迎えられないのかもしれない。障害者をネタにすることで、彼らは甘ったるく綺麗な美意識に支えられたラブコメと距離をとっていたはずだというわけである。今回、『2番目のキス』においては、それらが影を潜めることで、それこそただのラブコメになってしまっている。しかし、笑えてかつグッとくる幸福感に満ちた映画に出会えることもそれほどないのだから、私はそれをむしろ好意的に迎えたいと思った。レッドソックスファンであることを告白する場面や、あるいはキャンプ地に見学に行ったジミー・ファロンをドリュー・バリモアが親と一緒にテレビで見てしまう場面などの面白さや、ラストでほろっとさせる演出は、こう言葉で書いていくとかなりバカバカしいけれど、人をストレートに幸せな気分にさせてくれるはずだ。


7月8日より、渋谷アミューズCQNにて公開
http://www.theatres.co.jp/nibanmenokiss/