『レオパルドマンーー豹男』ジャック・ターナー結城秀勇
[ DVD , sports ]
冒頭から鳴り響くカスタネットの音がひとりのラテン女性のダンスに接続され、それは次いで隣人が苦情を言いながら壁をたたく音に引き継がれる。そこで起こるドラマの視点もまた隣人へと引き継がれる事になるのだが、はじめから最後まで鳴り響くカスタネットの音だけは、被害者、加害者、探偵役という物語上の役割を飛び越えた地点で鳴り響いている。
インパクトを持ったアクセサリーとして登場する黒豹が死の隠喩に変わるのは、それが闇の中に姿を消してからである。だからそれが死と結びついている証拠になるはずの爪痕は画面に映し出されることがない。その傷跡は生きている者たちを脅かすのだが、それは次なる被害者になるかもしれないという恐怖だけではなく、もしかしたら自分が加害者だったのかもしれないという恐怖でもある。被害者である女性のカスタネットの音は、潜在的な被害者である生きた女性たちを脅かし、同時に真の加害者である男をも脅かす。そして見えない爪痕は、潜在的な加害者である男性たちを苛む。
死んだ女性から生きた女性たちへと手渡されるカスタネットの音と、死んだ獣から男性たちへ手渡される凶暴な爪という連鎖のイメージは、ラストの過去を悼む行列によって明確に可視化される。その行列は、ひとつ間違えれば順番は簡単に入れ替わってしまうようなものである。被害者、加害者、探偵役などの役割は、そのタイミングによって誰に割り振られてもおかしくないのであり、だが誰も決してその行列自体からは逃れられない歴史の連なりである。