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November 21, 2006

「コワイ女」『鋼ーはがねー』鈴木卓爾
結城秀勇

[ cinema , cinema ]

雨宮慶太、鈴木卓爾、豊島圭介という3人がそれぞれ監督したホラー・オムニバス映画「コワイ女」。そもそも「怖い女性」というクリシェのもとに企画されたものであるものの、その怖さのありかを母親の情念といった部分に結びつけてしまう雨宮慶太『カタカタ』、豊島圭介『うけつぐもの』が、造形的にも非常に陳腐なかたちしか見せてくれないのに対して、鈴木卓爾の『鋼ーはがねー』はそれら2作品とは一線を画している様相がある。
正直なところ、この作品に興味を持ったのは、原案・脚本としてスタッフに名を連ねている山本直輝が映画美学校時代に提出して、黒沢 清、高橋 洋、万田邦敏といった講師陣の注目を集めたというこの作品の原型の噂をどこかで小耳にはさんだことがあったからだ。冒頭いきなり登場する袋をかぶった人間には確かに度肝を抜かれる。
しかしながら、本当にこの作品に引き込まれそうになるのは、香川照之がスポーツカーでやってくる自動車の整備工場のシーンだ。奇妙に抜けのいい、工場内から見渡す限りの田園を撮ったショットがとてもいい。そしてその後に続く、袋をかぶった女が公園や公道を走り回るシーン。まったく無軌道な動きで、走り、泳ぐ(浮かぶ?)。
残念なのは、そういった画面はこの作品のわずかな部分しか占めておらず、結局その袋の中身はなんなのかという問題に終始してしまうことだ。袋の中身が肉塊だろうと、鉄塊だろうとかまわないではないか? 袋をかぶることで知覚も運動も大きく制限された人物が、彼(彼女)の能力では把握しきれない広大な世界を文字通り体当たりで探索し、触知し、ついでに破壊する。そんなサーチ&デストロイなホラーというのもまたあり得るのではないか。
女の人がコワイのは、その内面=情念ではなく、その外面=造形ですらなく、その運動でないかと思うのだ。


11/25より、東京シネマート六本木、大阪シネマート心斎橋他にてロードショー
http://www.kowai-onna.jp/