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January 7, 2007

『Songs in the Key of Z』アーウィン・チュシド
結城秀勇

[ book , cinema ]

ひとことでいえばトンデモアーティスト本である。ジャンルも年代もばらばらな20組以上のミュージシャンがこの本の中に納められている。いや、むしろこの本の中にはあるひとつのジャンルの音楽についての記述しかないというべきなのか。“アウトサイダー・ミュージック”という名前のもとに、著者は一連の「in the Key of Z」(ピッチの外れた)の歌たちをまとめている。
イントロダクションを読めばわかるとおり、この“アウトサイダー・ミュージック”という区分けには音楽的な特徴以外の要素も多分に含まれている。だからこの本の記述には、レコードやCDをかけたときにそこからどんな音が聞こえてくるのか、という部分よりも、彼らアーティストがどんな人なのか、どんな人生を送ったのかという部分のほうがだいぶ多い。その結果、この本を読み終えても、なんかわざわざ探して聞く気がしないなあというアーティストもいるし(正直、ヤンデックについては読者に聞く気を起こさせようとして書いているのだろうかという疑問がおこる。……と書いてしまうと、逆に聞いてみなければならない気がしてくるのだが)、実際のサウンドは想像するしかないとはいえ「なんか絶対好きな気がする」という気持ちがおこるアーティストもいるから不思議だ。
プロローグには、著者がこのような音楽に一生を捧げるきっかけとなったひとつのエピソードが記されている。とある日の深夜、“空間波現象”によってはるか遠くの町から聞いたこともない音楽が届けられて、それに病み付きになってしまう。自分の町では誰もそんな音楽なんか聞いたことがない。それはラジオで音楽を聞くことが「スタイリッシュ」だった黄金時代のエピソードで、そんな体験をいまも同じように享受することは不可能だろう。でもまったく不可能なわけじゃない。
既知感の海に溺れそうになる時代において、『Songs in the Key of Z』という本は自家製“空間波現象”のための格好のガジェットだ。


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