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January 17, 2007

『ヘンダーソン夫人の贈り物』スティーブン・フリアーズ
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 ここ2〜3作フリアーズ作品を見ていなかったぼくの怠惰をまず反省したい。『ヘンダーソン夫人の贈り物』を見ていると、この人の巧みさが理解されるからだ。もちろん希代の傑作というわけではない。第2次大戦中のロンドンで爆撃に晒される中でも扉を閉じようとしなかったウィンドミル劇場のオーナー、ヘンダーソン夫人と支配人のヴァンダム氏の顛末を追うこのフィルムが、かつて同じような物語を扱ったトリュフォーの『終電車』に比べれば、大したことはないと言ってしまえばそれで終わりだ。
 だが、70 歳を越えた老未亡人と老年に達するだろうユダヤ人の支配人の奇妙な友情の物語は人を飽きさせることはない。躊躇と奥ゆかしさから極めて遠い老夫人をロンドンの舞台に欠くことのできない女優ジュディ・デンチが見事に演じている。マーケティングによって青少年ばかりが主演するフィルムばかりを見ていると、老人と中年男の上質な演技を見るだけで満足してしまうぼくは歳を取ったということだけだろうか。上質なエンタテインメントとしての映画がまだ残っていて、決して若くない観客を集めている事実を、日本のプロデューサーたちももっと認識するべきではないだろうか。
 中途はやや鈍重で長く感じられ、繰り返しが多いとも感じられるが、ラストの見事なワンシーンを見せられるとつい涙ぐんでしまう。かつてジョージ・キューカーがいた。かつてビリー・ワイルダーがいた。そうした上質なコメディを撮れるのは、ペドロ・アルモドバルくらいだと思っていたが、どっこい地元のロンドンで、自らがその世界を知り尽くした演劇界──フリアーズはかつてロイヤル・コート・シアターの演出助手だった──を背景に芳醇なワインのようなコメディをフリアーズが撮ってしまった。だから見ていなかった最近の数作をフォローするためにぼくはTSUTAYAに赴くべきだろう。


渋谷Bunnkamuraル・シネマ他にてロードショウ中