東京工業大学緑が丘1号館 レトロフィット梅本洋一
[ architecture , cinema ]
職場の建物が耐震改修工事に入るので、その工法のワーキンググループの主査を言い渡され、その一環として、大学の建物の耐震改修工事としては話題の東工大緑が丘1号館を見学に行った。同行者は、北山恒さん、下吹越武人さん、田井幹夫さん、耐震の専門家である田才晃さん、そして勤務先の学部長、そしてぼく。
東急大井町線の中からすでにレトロフィットと命名されたファッサードが個性的なその全貌を見せていた。なんだかポンピドゥー・センターみたいだね、と北山さん。確かにガラスと鉄骨で被われたそのファッサードはレンツォ・ピアノの傑作に似ていなくもない。もちろんレトロフィットはファッサードだけだが。このファッサードが耐震の構造を持っている。普通は耐震工事というと窓枠の外側か内側に×印のブレードがつけられ、醜悪な外観になるのだが、ファッサードのデザインを変えることで耐震工事を行っているというアイディアはとても素晴らしいと思う。銀座通りを歩くと建物の全容は不変でも、そのファッサードの変化で、多くの建物が斬新なものに生まれ変わっている。ヴィトンやシャネルがそれに当たる。そうしたケースを耐震に、しかも大学の建物に応用する想像力は素晴らしい。
設計にあたった安田氏と竹内氏の話を伺う。一番の苦労は、大学の施設部との折衝だったとのこと。これからのぼくらの苦労が想像できる。国立大学の施設に斬新なものが少ないのは、改修や新築といったもののノウハウがすでに存在して、それを覆すのにエネルギーがいるからだし、大学にいる人たち──教師や事務の人──は、醜悪な建築に慣れきっているし、何よりも変化を好まない。大学が新たな研究を生み出す工場ならば、それにふさわしい空間がぜったいに必要だと思う。東工大の学生諸君は、こうした変化の現場に立ち会えてとても幸福なのではないか。現代的な大学とは何なのだろう? そして学校とはどんな空間がふさわしいのか? ぼくらは常にそうした思考を繰り返して続行することで、その解としてある種の空間が思い当たるはずだ。それまでねばり強く思考(そして折衝)を重ねなくてはならない。東工大、羨ましいぜ!