伊東豊雄 建築|新しいリアル@神奈川県立美術館葉山梅本洋一
[ architecture , cinema ]
東京オペラシティ・ギャラリーでの展覧会を見逃してしまったので、たまたまヴァケーション先の葉山で開催されていたこの巡回展を見た。
まず佐藤総合計画による設計のこの美術館について。ずいぶん話題になっていたので、楽しみにしていたが、いざ訪れてみると、立地の素晴らしさを建物が十分に活かしていないように思えた。御用邸を過ぎ、一色海岸の上に建つという立地は、もちろん、ここにどんな建物が建とうとも、そこからの絶景は約束されている。確かに展示が行われている本館とミュージアムショップやカフェがある別館の間に広がるパブリックスペースからは一色海岸と相模湾がのぞまれ、これ以上ない環境を提供してくれるが、本館の内部に入ると、ほとんどこの「絶景」は感じられない。美術館=展示=閉鎖的空間という常数から考えれば仕方のないことかもしれないが、坂倉準三設計の鎌倉の方は、鶴岡八幡宮の庭からの自然光が室内に入り込み、内部にいながら外部の気配を存分に感じることができる。バリアフリーや展示室から展示室への移動の簡単さといったプラティックなレヴェルから、もう一段上の立地と内部空間の関係性についてのスタディが足りない。別館にあるカフェからは海岸が一望されるから、そちらに行けばいいのかもしれないが、スペースが狭く、風景に開かれている割には、圧迫感がある。ミュージアムショップは狭く、ゆっくりと品物を選ぶことができない。
さて、肝心の伊東豊男の方である。彼の建築は、一言で言ってとても楽しい。もちろん直線よりも曲線が選ばれることからコンピュータ時代の建築などと述べても良いのだが、それよりもこの空間は、日常から離れて楽しい。そこに周到な計算がされているのだろうし、この展示の後半にあるかつての所員たち──妹島和世、曽我部昌史など──の発言から、かなり厳しい仕事がされていることは分かるが、結果的に生まれた空間からはそうしたネガティヴな苦労とか、必ず後付けにしかならない、もっともらしい建築理由などはどうでもよくなる。使用価値は使う人が決めればいい。ユニークで面白く楽しい空間が提示されている。そんな感じだ。
展示の中にはまだ竣工していない杉並文化センターがある。三軒茶屋の世田谷パブリックシアターのような機能を持つ建物で、ディレクターは世田谷開館当時のディレクターだった佐藤信らしい。機能は計算されているが、キャロットタワーという「再開発」風の建物の中にある世田谷と杉並はどのように異なるのか。模型やドキュメントから一応は納得できるが、この展示からも感じられる通り、伊東豊男の建物は触ったり、感じたりすることになってようやく触知できる何かがあるように感じられる。ぜひ訪れてみたい。
「伊東豊雄 建築|新しいリアル」展