『ROCK DREAM』Boris with Merzbow田中竜輔
[ book , music ]
昨年11月、新大久保EARTHDOMで行なわれたBorisとMerzbowの共演がまるまる収録された2枚組ライヴアルバム。偶然その場に居合わせただけとはいえ、こういったメモリアルな作品がリリースされることは単純に嬉しい。しかしそんな個人的な感覚はともあれ、この作品の真価は、ライヴとライヴ・アルバムというものがまったく別の領域に属したものなのだという事実を、改めて認識させてくれるということにこそある。
Disc1、オープニングを飾っているのは名曲「feedbacker」。BorisとMerzbowというミュージシャンの相性のよさを再認識させてくれるという意味では、静と動をドラマティックに編みこんだこの楽曲がダントツだろう。かつてリリースされたスタジオ録音によるコラボレーションのスタイルを匂わせる前半部では双方の音の領域の差異が印象的だが、後半部ではその差異の崩壊におけるドキュメントが刻み込まれている。バンド・アンサンブルだけのドライヴ感とはまったく異なった、『Absolutego -Special Low Frequency Version』をも思い起こさせられるような、圧倒的な音の塊が生成されている。
しかしその一方で、ある種の安定感、安心感とは異なった、コラボレーションスタイルゆえのスリルそのものを聴かせてくれるのは、主にDisc2に収録された比較的短い楽曲での音源のほうかもしれない。Borisというバンドのもうひとつの側面であるキャッチーでポップなスタイル、あるいは記号化されたロックの姿の反復とでも言うべき大味さが濃縮された個々の楽曲に対して、容赦なく刺し込まれるMerzbowの轟音にはどこか不気味さがある。コラボレーションという作業にありながらも、ある種、その空間を離脱するかのような無関心さのようなものが、この後半部では明瞭に顔を覗かせている。ほとんど曲順以外の打ち合わせのされていなかったというこのライヴそのものの試みが、必然的に導くものはそこにあったはずであり、そのことこそがライヴそのものに対するライヴ・アルバムとしての本作によって掘り起こしたものにほかならない。
以前「ユリイカ」誌上において掲載された秋田昌美とBorisのAtsuoとの対談(05年3月号)での企画の中で、秋田昌美はスプーキー・トゥース+ピエール・アンリの「迷」盤『Ceremony』を取り上げ、「ハード・ロックと電子音楽/ミュージック・コンクレートの融合、というより併置」と記している。『ROCK DREAM』というアルバムにおいて重要なのは、この「併置」という概念であるように思う。このアルバムの参照軸になりうる作品があるとすれば、それはたとえば『SOB階段』のような同じ傾向の「ライヴ作」よりも、まさにこの「スタジオ作」である『Ceremony』こそが妥当なのではないか。ピエール・アンリの要請によって作られた音源、だがその後に電子音響がバンド・サウンドを蹂躙した完成品を聴いたときの、スプーキー・トゥースのメンバーや、ファンの困惑にも似た実感の現在形がここにはあるのではないか。ある種の「お約束」とそれに対するあっけらかんとしたまでの「裏切り」との交錯は、必ずしも耳に馴染みやすいものに留まりはしない。巷に溢れる「安全」なロックバンドでは踏み込めないだろう、崩壊過程にも似た危うさの持つ魅力と凄みこそが、この作品の核を成している。
最後に、今年の初来日好演で圧倒的なステージを披露し、この両者との共演も果たしたSUNN O)))の『ORACLE』(Atsuo参加、ほぼ来日時と同じメンツによって制作された限定音源、傑作!)もまた、『ROCK DREAM』に対するひとつの参照軸になるだろうことを付け加えておく。
2007年10月26日リリース!