第20回東京国際映画祭レポート『誰かを待ちながら』ジェローム・ボネル宮一紀
[ cinema , sports ]
渋谷に向かう東横線の車内で中学時代の同級生を見かけたような気がした。電車を降りてから声を掛けようと思ったら、雑踏にまぎれて見失ってしまった。ふと、それほど親しかったわけでもない同級生に声を掛けようとした自分が滑稽に思えた。
気鋭の若手作家と呼び声の高いジェローム・ボネルの新作『誰かを待ちながら』はフランス郊外の日常を生きる匿名的な人々のすれ違いを描いた群像劇である。もっとも、偶然を装ったすれ違いが、実は周到に準備された出会いだったということに私たちはすぐさま気付く。上映後のティーチインで、ボネル監督が「偶然」という言葉を繰り返し口にしていたのが印象的だった。「シナリオはかなり書き込みますが、現場での偶然を私は大切にしたい」。偶然というのはそのように半ば必然的に迎え入れられるようだ。ところで、誰かを待っていたのはどうやらボネル監督自身でもあったようで、2005年に横浜で開催されていたフランス映画祭の会場でこの作品の完成稿を手渡した相手がエマニュエル・ドゥヴォスだったらしい。「会うべき人は会う」という言葉が思い出される。