第20回東京国際映画祭レポート『タイペイ・ストーリー』エドワード・ヤン宮一紀
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エドワード・ヤン監督の長編第2作『タイペイ・ストーリー』が本国では公開2日目で早くも打ち切りになったという上映後のホン・ホン監督(今年の東京国際映画祭に出品されている『壁を抜ける少年』を監督)の言葉が重くのしかかる。つねに制作や配給の実際的な困難に悩み、憤っていたと伝えられるエドワード・ヤンだが、そのような当時の台湾の閉塞感はそのまま画面に映り込んでいる。台北を舞台としながら僕たちの眼にも既視のものとして映るどこか匿名的なその景観は、その後「10年後には世界の中心になる」とイギリス人の男によって希望的に観測された都市のものであり、また「世界は決して変わらない」と少女が呟いたときの世界そのものでもある。僕たちはその偏在的な世界の断片を現在の映画作家たちが紡ぐ作品にも見ることができる(このことは本誌26号の「エドワード・ヤン特集」で取り上げたのでそちらを参照していただきたい)。つまり、このフィルムは現在においても何ら変わらない喫緊の課題として提起されうる作品なのだ。だからこそ「他のどのフィルムとも似ていない」という彼の孤高を称えるよりは、「あらゆるフィルムに似ている」という彼の寛大さこそを見出すべきだと僕は思う。エドワード・ヤンはそのように映画と映画を縦横に繋いでいくことができる稀有な作家性を持っていた。
関係者によるトークイベントということで90年代にエドワード・ヤンの助監督および脚本を担当していたホン監督が上映後の壇上に上ったわけだが、彼が「アジアの風」部門プログラム・ディレクター石坂氏の質問を待たずにヤンとの思い出を延々と語る様子は微笑ましくもあった。ちなみに石坂氏によれば、今回の特集での上映が実現しなかった『クーリンチェ少年殺人事件』(漢字表記がJIS対応ではないためカタカナで表記)の上映をいつか実現させようという(仰天)計画があるとのこと。ぜひ頑張っていただきたいと切に願う。