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November 15, 2007

下吹越武人 恵比寿の集合住宅
梅本洋一

[ architecture , music ]

 日曜日の曇天の下、恵比寿に出かけた。キムカツの前を通り、Osteria La Gemma──もと学芸大学にあったイタリア料理店だ──の前を過ぎ、右に曲がって坂を上がっていくと、メタリックに光っている五角形の9階建で銀色の建物が見えてくる。下吹越武人の恵比寿の集合住宅だ。その6階と7階を見せてくれた。
 五角形の中央にエレヴェーターと小さなロビーがあって、五角形のそれぞれの辺に沿って、ワンルームタイプの部屋がロビーを囲んでいる。キッチンやバスルームの位置に差異はあるが、その繰り返しが6階まで続いている。そして7階には、8階まで吹き抜けになり、上部に形状の異なるロフトの付いた部屋が用意されている。都心の単身者向けの賃貸マンションだ。
 そう書くと、五角形という形状を除いて、ここが同一の広さが淡々と繰り返された単純な構成の建物だと思われるかもしれない。だが、決してそうではない。極めて繊細な工夫が、この五角形という形状を決定し、それぞれの居室に3つ設えられた窓から、東京のランドスケープを切り取っているのだ。たとえばある窓の大きさは、その窓の中央に見える東京タワーのまるで額縁が縁取るように決定されているし、別の窓は、近接する恵比寿ガーデンプレースの全貌を見渡せるように切り取られている。つまり、それぞれの居室からは、東京を構成するランドマークが見える。換言すれば、居室に東京のランドマークが導入され、それぞれの階に5つずつある居室に3つずつ別の東京が導入されていることになる。東京を見ること、そして、街を見渡すこと──それについての綿密な思考がそれぞれの居室の方向を決めていることになる。
 恵比寿の集合住宅は、単体としてももちろん美しい外観と形状を発見することができるが、それ以上に、街を見ること、街の風景を居室に取り入れることについての大いなる実験が施されていると言えるだろう。建物は、それが依って立つ「場」から切り離されて存在することはできない。東京というメガロポリスの場合、その「場」と密接に結びつくのは、その「場」の内部で生きられるべき生活であると同時に、その外部を包むランドスケープとともにどのように生きるのか、ということでもある。