MICHELIN GUIDE東京 2008梅本洋一
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すぐ売り切れになった『ミシュラン東京2008』を英語版だけれども、ようやく購入した。内容を一読(一見?)して、とても驚いた。ぼくは、ミシュランのすべてのヴァージョンを見ているわけではないが、とりあえず手元にあるMichelin Franceなどと、この『ミシュラン東京』が大きく異なっているからだ。まずレストラン部門では、『東京』では、掲載されているすべてに☆が付いていることだ。第2にそれぞれのレストランについて記述されていることだ。フランス版では、それぞれについての記述はなく、さっぱりとマークが付いているだけだ。掲載されているレストランの多くには☆などなく、ナイフとフォークの交叉したマークの数で内装の豪華さが示されているだけだ。つまり、フランス版には、たとえばパリなら、☆がなくて安いレストランまで掲載されている。ときどき価格と味の関係性がいい──つまりお値打ち──のレストランまで載っていた。次にホテル部門に移ると、最初に載っているANAホテルからほとんどすべてが、いわゆる大きなシティホテルだ。フランス版には街角の小ホテルも載っていた。つまり、これはまったく別のものなのだ。
そして第3の驚きについて書こう。レストラン部門に掲載されているものの平均単価がざっと見た感じで夕食で2万円近いことだ! 日本料理店だと、今、話題になっている守屋元防衛事務次官が接待された人形町の料亭や上智大学の隣にあって長い黒塀が続いている福田屋なんかも平気な顔で載っていることだ。確かに旨いのかも知れないが、ここに掲載されているレストランのほとんどに一生行くことはないだろう。ぼくの生活にはまったく関係ない世界が『ミシュラン東京』には横溢している。かつてフランスに住んでいる頃は、Michelinを大いに活用した。旅行に出たとき、安くて旨いものをさがしていたからだ。☆がなくてもいいから、ちょっと落ち着いた感じのレストランで地元のものが食べたかったからだ。ホテルにしても、一番安いところから予約の電話をかけていったものだ。
フランスでは、Michelinが主流ではあったがもっと別のガイドも出ていた。ゴー・ミヨーがライヴァルだった。詳細な記述と批評精神が記号だけしかないMichekinと好対照をなしていた。そして、かつて『料理生活』という本にも書いたが、ビストロ中心のルベーというガイドも出ていた。フランスのミシュランと同じことをやれば、おそらく東京版一冊でフランスの全国版くらいの厚さになるだろう。それでいいんじゃないか。よくこんな話を友人たちとした。「○○はミシュランには載ってないけど安くてうまいよ。今度行ってみよう」。東京のほとんどのレストランはミシュランには載っていない。そして載っているレストランには、おそらく誰かからの接待でもない限り行かない(ちなみに、『ミシュラン東京2008』に載っているレストランでは4件ほど行ったことがあるところがあったが、恥ずかしながら、ぼくは代金を払っていない。お金を払ってくれた人は、親や本当に親切な人に限られていて、「取引先」では断じてない!)。1500軒取材したらしいが、その全部を掲載したらどうか。それにホテル部門で言えば、東京にもまだいい旅館はある。それに、東京には、この種のガイドがもうたくさん出ている。B級グルメやZ級グルメのサイトまである。ぼくはもう『ミシュラン東京』を買うことはないだろう。