『東京 五つ星の肉料理』岸朝子梅本洋一
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かつてnobody本誌にも登場した岸朝子の新刊。もちろん「五つ星」シリーズの続刊である。だが、この本は、成功したシリーズの「続刊」という意味合いもあるだろうが、かのMichelin東京版の直後に出版された「レストラン・ガイド」である。どうしても、選択されている店や文章、そして写真の比較をしてしまう。
こうしたガイドブックには好みがあるから、当然、読者の趣味が反映されてしまうが、ぼくは、岸朝子のこの本は、ミシュランを大きく凌駕していると思う。もちろん、ミシュランのすべて網羅方式とは異なり、この本は「肉料理」に限られている。だから単純な比較はできない。だが、添えられた、おいしそうな料理の写真を見ているだけでも、ミシュランのそれを大きく越えているし、料理人たちもとても「いい顔」で写っている。だが、何と言っても良いのは、岸本人の手になると思える文章だ。熟読してみると、岸朝子さんがどんな料理が好きで、どんな料理を食べてきたかが明瞭に分かる。だから、まったく網羅的ではなく、おそらく岸さんが本当に訪ねて美味しかった店だけを載せているのだろう。だから、なんであの店が載っていないのかと思うことも多い。でも、食いしん坊は、みんな「自分の店」という贔屓筋を持っているだろうから、これは、岸さんの贔屓筋だと思えばいい。
「肉」がキーワードになっているが、岸さんの守備範囲はすごく広い。人形町今半のすき焼きから、武蔵小山の洋食屋・いし井に至るまで、ジャンルが多様なのはもちろんだが、単価の面でも1000円以下から2万円くらいまで広がっている。ローブリューやヴァン・ドゥ・レーヴといったフランス料理店から、合鴨の鳥安といった東京の名店まで載っている。そう言えば、ミシュランには鳥安も人形町・今半も載っていなかった。焼鳥屋も一軒も掲載されていない。それに対して、岸さんのこの本は、料亭もあるけれど、焼鳥屋も洋食屋もある。「肉」を出す店で、岸さんが好きな店が載っている。
ぼくも冬休み中の息子を誘って武蔵小山のいし井に行ってみた。街の洋食屋だ。カウンターばかりで12席しかない。奥の厨房で主人が料理をし、カウンターの向こう側で若い女性がきびきびサーヴしてくれる。カウンターの片隅にふたりで座り、息子は鳥のソテー、ぼくはハンバーグとカキフライの盛り合わせを注文した。AランチとCランチだ。どちらにも小皿に盛り合わされた新鮮なサラダとみそ汁かスープが付いてくる。息子はスープ。ぼくはみそ汁。サラダには自家製のドレッシングがかかっていた。「まいうー」と息子。ドレッシングもうまい。鳥のソテーは、和風のバターソース、そしてカキフライには大量のタルタル! そして皿に盛られたご飯がおいしい。驚くべきは値段だ。Aランチは780円。Cランチは980円だった。ふたりで2000円におつりがきた。そしてうまい。